ド・レイン小説『召喚術士大戦 』



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[1]召喚術士K


@白き衣の術士

”暗がりの森”聖王国パルナの王都ガーヴィの南東方面に位置するこの森は、濃密な魔素が吹き出すためか、普通ではない木々や草花が群生している。昼間でも暗いから暗がりの森なのであるが、真に恐ろしいのは常識が通用しない事であろう。旅慣れた者でも迷い惑わされる、まさに魔性の森なのだ。
 そんな”暗がりの森”の中に、非常識なほど大きな館が建っている。かつて召喚術に長けるDという伯爵が建てた召喚のための館。今は魔族との異文化交流を目的としたSALONとして活用されているこの館はド・レインと呼ばれていた。

「ふん、ここが第一級危険指定区域か?全然、なんてことないじゃあないか!」
 白き魔法衣を纏った少年が館を見上げて笑みをこぼす。
「召喚術士K!俺から逃げようとしてもそうはいかない!」
 ジト目で見つめている玄関担当黒服(シタツパ&モブリー)など眼中にない白き術士風の少年は、いったん身なりを整え直すとSALONへの扉を勢いよく開いた。

「すーーーーーーーっ」吸って、
「たのもおぉぉーーーーーーーーーーーっっっっ!!」
 もしこの世界の今が令和なら「昭和かっ!」と突っ込みたくなるくらい古風な道場破り風の挨拶をする少年。呆気にとられるシタツパ&モブリー。

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[2]召喚術士K


A宣戦布告!

《ガガガ、いらっしゃいませ!》
 慌てて文字通り飛んで来て応対するのは我らのガーゴイル君。
「せん… 召喚術士Kはいるか?」
《ガガガ(識別確認…)はい、おります。今はSALONの方で…》
「よし!SALONだな?」
 ガーゴイル君が話し終えるより早く少年は歩き出す。慌てて追いかけ《こっちですよ》と方向修正をし、ホールへの扉を開けると、
「召喚術士Kーーーーーーーっ どこにいるーーーーーーーっ」
 大声。
「な… なに?なに?おばけ?おばけなの??」
”ガタガタガターーン!”
「むにゃ…」
「何事です?」
 カウンターで居眠りをしているルリカに悪戯を仕掛けていたリオが大声に驚いて飛び退いた先にはワイングラスを並べているティアがおり、ティアが体勢を崩して転んだ先には杖を構えるアウルムがいた。
「むっ 契約魔物共か。俺が用があるのは召喚術士Kだ。どこにいる?」
 偉そう。そして詰問。
「…マスターならそちらに。マスター♪お客様のようですよ〜」
 無礼な客にムスッとするアウルムだが、どうやら暗殺者の類いではないようだと見抜き、とりあえずKに引き合わせる事にした。
「ん… よいしょっと。あ!よいしょって言っちゃった…」
 尋ねられ人であるKはSALONのステージのライトアップに用いる魔晶石の調整をしていた。しゃがみ仕事だったため、大きく背筋を伸ばして来客者に向き直る。
「あ… あれ? もしかして… 君は… ジャスティかい? いやあ〜なつか」
「Jだ!じぇぇぇい!俺の事を呼ぶなら!召喚術士Jと呼べ!!」
 なつかしいと言い切る前に大声で消されるKの声。五月蠅い!という顔を、主にリオとティアがしており、アウルムは笑顔で固定、そしてルリカはいまだに夢の中であった。

「え ええっと… はい、J。久しぶり…なのは別に良いですよね?」
 恐る恐る聞くK。そして力強く頷くJ。
「なんの…御用でしょうか?」
「なんの…御用ぉ?」
 Kの問いかけを怒気が籠もった声で反芻するJ。
「決まっているだろう!お前が大会から逃げるようだから、わざわざ決着を付けに来てやったんだ!」
「大会? ああ…例の?」怒り心頭のJに笑顔で返すK。
「あれは仕方ありません。あまり興味がないものですから、…」
「興味がないで済むかーーーーーっ」
 再び消されるKの声。耳を覆うリオ&ティア、軽く真空を張って音を消すアウルム、「えへへ〜、ダネッちゃん〜〜」夢の中でいちゃつくルリカ。
「まぁ良い。大会の方は俺が出れば問題ない!だが…大会でお前と決着をつけようと思ってたんだ!どうしてくれる!」
「マスター、この人と何かあったです?」
 どう聞いても因縁の敵の台詞である。気になったリオが通常の声量でKに尋ねる。
「いえ… それは無いかと」苦笑するK。
「貴様になくても俺にはあるんだ!」あ、面倒くさい奴だ。納得のリオ。
「ええっと… どうすれば…良いですかね?ジャス…いやJ?」
「決まってるだろう?始めようぜ!今!ここで!」

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[3]召喚術士K


B召喚魔法陣

”キィィィィィィィン”
 現在絶賛掃除中!で空いているホールのスペースに召喚陣が描かれていく。
「おお!これはこれは♪」
 嬉しそうにそれを見つめているのは決闘を申し込まれたK本人である。
 大型の召喚陣、かなりの魔素コントロール力がなければ成し得ない高度な術式であった。目の前の少年はこれを無詠唱で行っていたのである。
「笑っていられるのも今のうちだ!見てろよ?」
 ぬんっ!と気合いを入れるJ。すると召喚陣から恐ろしいほどの魔素が放出し始められる。
「な… これは!?」起き上がるルリカ。
「…おめざだね?ルリカ。そして恐らく減俸ものだよね」
「ダネッちゃんはどこに?」リオのツッコミも把握できないほどの寝ぼけ状態であった。
”がっっ!”
「…目ぇ覚めたか?」寝ぼけるルリカの頭を、どこかで見たように片手でキメたティアはそのままルリカをJの魔法陣の方へ向ける。
「ああ、大丈夫ですよ」警戒しているティア達に笑顔を向け「それにしても驚きました。成長しましたねぇ…」
 まるで親が我が子の成長を喜ぶが如く、大型魔法陣をKはしみじみと見つめている。
「フッ これを見ても笑っていられるかな?」
「な… こいつは!?…なんですかね?」驚愕するルリカ、それでもボケは忘れない。
「あのね…これは… …アウルムさんが詳しいはずだよ」ボケを被せる事になったリオ。
 ただこれは致し方なかった。それくらい魔法陣から発生する魔素が凶悪で。そしてそれを発している魔物が姿を現したのだから。
「あ これは… ラゴーア!?」その顔は動物で言えばライオンであった。しかしその巨大さは…
「ラゴーアって… アルソッ君みたいなライオンヘッドの亜種かなにか?」
「いえ、亜種じゃなくて…」
「上位種だ!」リオの問いにアウルムが答え終わるより早くJがドヤ顔で宣言を始めた。
「俺はお前の友達とやらより上位種の魔物と契約をしている!わかるだろう?お前に勝ち目はなーーーーーい!」
 ビシッとKに指を指すJは楽しそうに確信した勝利の笑みをこぼした。
「いやあ〜 驚きました。こんな小さな魔法陣しか描けなかった君が…」
 うんうんと頷きながら、KはJの描いた召喚陣へと歩いて行く。
「あ、マスター!近づいたら危ないんじゃ…」
「んー 大丈夫…かな」心配するリオに笑顔で返すと、Kは魔法陣から顔を出すラゴーアのところまで行って中腰になると、ラゴーアに一言二言話しかける。
”ひゅん”顔を引っ込めるラゴーア。
「あ!なんで顔を引っ込めるんだ!?出てきてこいつのライオンヘッドを… あれ?」
Jが話し終える頃には召喚陣そのものが無くなっていた。

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[4]召喚術士K


C仲裁者

「あのまま顔を出していたら…ねぇ?」
”ちょい”と首を切る所作をするK。
「せ 正々堂々と戦え! Kぇ!!」
「ちょっとすみませんが!」召喚陣を消されてもなおKに勝負を挑むJの前に立ち塞がったのはプンプン顔のアウルムだった。
「召喚陣を消すというのはとても高尚な術式なのです!この時点でマスターは貴方の上をいっています!それにマスターは貴方の魔物の命まで取らずに…」
「…黙れ…お前には関係ない事だ。これは…俺とこいつの因縁なんだよ…」
「ぐっ…」
 普通なら、これくらいの反論にアウルムが窮する事はないだろう。弁舌だったらアウルムの方がJより遙かにレベルが高い。だがこの時アウルムは言葉が紡げなかった。大声ではない、腹の底から訴えかけられたような、文字通りの因縁を感じさせられてしまったからである。
「仕切り直すぜ。良いな?」正面に立つアウルムを避け、Kの前に進むJ。
「…仕方ありません。受けましょう」Kが勝負を受けた時だった。
「早速で悪いが、その勝負はワシが預かっていいかな」優しげな声が割って入る。
「な… なんでアンタが…」
「おや、もう宜しかったですか?」驚愕の表情のJに対し、Kは笑顔で声の主に向き直る。「せ…先生」
 魔術師ギルド長、L・D・ロロスは館二階へ繋がる階段から、案内役のマリエルと共に降りてきた。

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[5]召喚術士K


D魔術師ギルド長 L・D・ロロス

「ジャスティ、お前には学院の会場の方で大会に向けての準備を頼んでおいたはずだが?」
「そ… それは… ガイ達に頼んできた…来ましたから」敬語になるJ。
「全くお前は… まだ学ぶことが多いのだ。逸ってK殿に挑むのは感心せんぞ」
「それは!こいつ…いやK…先生が大会に出ないって聞いたので… その…」Kせんせい?あまりの変わり身に目が点のリオ。
「はい!」良い姿勢で手を上げるルリカ。
「はい、そこの可愛いお嬢さん」順応するギルド長。
「えへへ、えっとー そこのJ…ジャスティ君はますにーのなんだったんですかー?」可愛いもお嬢さんも肯定する前向きルリカが問う。
「あ 先生、こんなやつ…いえ関係ない人達にあまり情報を仰らない方が…」慌てるJ。
「こんなところで大型の魔物を召喚したら、お前の言う関係ない方々にも迷惑がかかる。それに気づけなかった程熱くなっていたのだろう?お前は」静かだが的確に叱責をするギルド長。
「この子は… ジャスティはK殿が非常勤で学院に教えに来てくれていた時の生徒なのです」やめろよー、恐らく心の中で絶叫してるなぁ…これは。気づいてニヤニヤするリオ。
「ええ、可愛いイイコでしたよ」笑顔で説明するKをJが血走った目で見つめている。こいつコロスーとか思ってるんだろうなぁ。察してやるティア。
「さて、大会の事はワシからもK殿に話そうと思って来たのだ。先にこの館にある古い蔵書を見せて貰っていたのだがの。今から話すから、ジャスティ。お前は先に帰って大会の準備を選抜メンバーとしっかりやりなさい」
「わ… わかったよ。先生…」叱られて肩を落とすJ。こうなるとなんか可愛いよね〜と母性をくすぐられるリオ。
「気を落とすなって。ほら、水筒に甘い果実ジュース入れておいてやったから」既に母性全開モードのティア。
 こうして嵐のようにやって来た召喚術士Jことジャスティは、恐らく尊敬しまくっているのであろうギルド長に諭されて大会準備室に帰っていったのだった。

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[6]召喚術士K


E召喚術士技量競技大会

「さてと… どこまで話したかの?」
 嵐の如くやって来たJことジャスティが、そよ風のように意気消沈して帰って行った後、ロロスとKは応接室へと移動した。
「いえ、まだ全然」ロロスのボケをお約束で突っ込むK。
「だが、用件はわかっておるのだろう?マスターK」
 微笑みながら訊ね返すロロスにお茶を出しているのはアウルムである。
 ここ聖王国パルナに止まらず、東の大国や北の大国、リフォール国もある西の聖教連合国家群、南の連邦国郡にも支局を持つ魔術師ギルド、その本部ギルド長が来ているのである。アウルムの好奇心は絶賛全開中であった。
「ええ、例の大会への出欠についてかとは思っています。先程ジャスティにも話されていましたから」困り顔のK。
 どうやらその大会にKは出たくないらしい。アウルムは察しつつハーブティをKに差し出した。
「K殿のお気持ちはわかるつもりだ。ワシとしても遺憾に思っておるのだよ。このような大会はな」
「その上でギルド長は自ら僕に会いにいらっしゃった。何かありましたか?」 俯きがちなロロスに優しく声をかけるK。
「うむ。かなり由々しき事態になってきておる」
 顔を上げたロロスの視線はKを射貫くようであった。その気迫を感じたアウルムは二人の会話…いや対談を邪魔しないようにと部屋から出ようとした。
「ああ、お嬢さん。大丈夫ですよ。居て頂いても。これから話す事は近い将来、それぞれの国家から正式に発表されるだろうから」真面目顔が一転、笑顔でアウルムに話しかけるロロス。「ただかなり物騒な話ではあるが」と断りを付けた。
「ありがとうございます。マスターに関わる何かしらの大会と聞こえたので、気になっていたのです」
 それに好奇心も刺激されたアウルムは、Kを悩ます大会について知りたくなっていた。
「宜しいかな?K殿。貴殿の契約魔物にも関係する話題ではあるからの」尋ねるロロスにKは「ええ」と頷いた。

「K殿に参加要請させて貰ったのはな。召喚術士による… いや正式名称の方が良いな。ええっと…『召喚術士技量競技大会』というものについてなのです」
「競技大会?それは魔術師ギルドや魔術学院のレベル審査会のようなものなのでしょうか?」
 聞き慣れない大会名だったため、アウルムは比較対象になりそうなイベントを引き合いに出した。
「いや、規模が全然違うのですよ」
「?」はてな顔のアウルムに今度はKが答えた。
「この大会はね、アウルム。西は聖教国家群から、北は北の大国が、そして東は東の大国まで… 大陸間で国交があるほぼ全ての国に参加要請の親書が送られているんですよ」
「え? そんな大規模な…」
 そうなると、ただのレベル審査会程度の内容であるはずがなく、アウルムの可愛い頭の中には物騒な協議内容が過る。
「そう、協議内容は闘技。召喚術士が契約した魔物を戦わせて優劣を決める大会というわけです」
 Kの手がギュッと握られるのを見たアウルムは、Kの辞退理由を察した。
「それは!…マスターが固辞するのは当然なのです!魔物は…魔族も…戦いの道具なんかじゃないのです!」
 その感情は怒り、その視線はそんな大会にKを出場しろと言いに来たロロスに向けられた。
「当然の反応だ。お嬢さん。だがワシもギルドと学院を預かる身だ。安易な勧誘をしに来たのでは無いと考えて欲しい」
 情熱サキュバスの鋭く真っ直ぐな瞳を真正面から受け止めたロロスは懐からスクロールを一つ取り出した。
「見てくれ」広げたスクロールには主に大会の参加要項が書いてあった。
「いや…これは…」「そんな…」Kとアウルムがほぼ同時に唸った。
「わかって貰えたかの。由々しき事態というのが」ロロスの声も震えていた。
 以下にスクロールに書かれていた要項と問題点を記す。

☆正式名:召喚術士技量競技大会
☆参加資格:単独召喚可能、国家戦力登録
☆対決法:コロシアム方式による勝ち抜き戦(ポイント制、ポイントは可変式)一試合召喚数は五体まで。
☆罰則:大会期間中の大会外戦闘の禁止。他は外交規約に従う。
☆開催本部:魔術士ギルド、魔術学院
☆判定委員会:参加国の外相・宰相クラス
☆国賓予定:パルナ国王
☆警備担当:パルナ四大公
☆開催会場:ウツロイシティ(パルナ王国)

★北の大国、東の大国、西の聖教諸国、聖王国パルナ、黒の大陸からそれぞれ一名
★魔術師ギルド:四名
★開催国枠:一名
★予選突破者:二名
本戦は一二名によるトーナメント

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[7]召喚術士K


F変貌した大会


「ほぉー これはこれは」「く…黒の大陸って」「ん…」「これって剣闘士の殺し合いと同じじゃねぇか!」突然湧き上がる黄色いどよめき。
「うおっ なんか増えとる」まだド・レインに慣れていないロロスの正常な反応。
「はい、皆さん。下がって下さい〜」慣れているKの慣れた対応。
「マスター… これは…」
 ショックで言葉が出ないアウルムの頭を優しく撫で、どこからともなく現れたルリカ・リオ・アイシャ・ティアの四名を席に着かせてから、Kが感想を述べた。
「なるほど… 僕のところに来た親書には判定委員会のメンバーや国賓、警備については記載がありませんでした。参加要請のみの新書ですからね。そこまで書く必要はないわけですが…」少し冷めたハーブティを一口。
「それでも水面下で偵察というか諜報的な動きがあるかと思っていましたが… かなり露骨に外交が盛り込まれていたんですねぇ」苦笑するK。

「どういう事です?」黒の大陸というワードで混乱していたリオがKに問う。
「災厄戦… いや魔族戦争の頃から、召喚魔物の軍事利用が密やかに進められているんですよ」
 強力な魔物が編入された部隊のレベルはかなり上がる。その有用性が示されたのが魔族戦争だった。
「かなり端折りますが… それぞれが国家安全対策のために諜報活動の対象になる警戒レベルなわけです」
 それは前述のギルド運営レベルであっても…である。
「はい!」良い姿勢で垂直に挙手をするルリカ。
「はい、ルリカ」先生モードで応じるK。
「ここからは黒服団最高統括責任者である私に説明させて下さい!」
 チャキっと眼鏡を着用して説明モードになっているルリカに、Kは苦笑しながらも手でどうぞと応える。
「そこに加わったのが、判定委員会!国賓!警備!の三点ですー」
 どこからか取り出した指揮棒でビシバシとスクロールの要点を指す。
「元々は判定委員会はギルド幹部だったかもですが、それが国家の大臣クラスに!」
「大会が格上げされたようにもみえるけど?」
 素朴な疑問を呈するリオにルリカはガッカリ顔を突きつけた。
「リオリオ〜 もっとしっかり考えてくれないと、わたしもお手上げですよ〜」
「な なんだよ!そんな風に言わなくったって!」ムッとするリオの胸にルリカは突然顔を埋めてスリスリすると、
「これで許しましょう!今度ガッカリさせたらヤリますからね!」
 何を?と突っ込むのは身の安全のために我慢したリオは、手で続きをどうぞと話を進めるように促した。
「大臣クラスが来るんですよ?一緒に軍事関係者も来るとみるべきでしょう?そうなったら?秘密裏に諜報活動なんてしなくても大会で他国の魔物の実力を見放題じゃないですか!」えへんとAAAの胸を張るルリカ。
「そんなの実力隠して無難にやればいいんじゃ… あ」反論している最中にルリカがにやけ顔で突貫してくる気配を察してリオはお口をチャックした。
「ちっ」ルリカはスリスリ出来ない事に悪態をつき、説明モードに戻る。
「リオリオ〜? 負けたら恥ですよー?なんせ…大陸中が注目する大会にされてしまってるんですから」
「…という事は…」
「そうですー 国家機密は隠しつつ!でも負けてはならないという超難関ミッションに選抜された召喚術士は胃がいくつあっても足りないストレス下に置かれるんですよ〜」
 何故か「うっ」と胃を押さえているKを横目にルリカは楽しそうに天を仰いだ。
「それだけ?」
 悪戯っぽい表情でリオがルリカに続きを催促する。こうなると調子に乗るのがルリカであるので…。
「…のぉ、K殿。なんかわかりやすいのぉ」小声でKに話しかけるロロス。
「恐縮です…」苦笑…でも満更でもない表情のK。そんな二人を見下ろす形で椅子の上に立ち上がったルリカは更なる問題点を声高に説明していく。
「リオリオ?判定委員会のメンバーが各国の大臣クラスなのは良いですよね?それに加えてー、国賓にここパルナの国王陛下がいらっしゃるわけです。何かあったら怖いですよねー?」
「だから四大公が警備担当なんじゃ無いの?」まるで台本があるような駆け引き。
 スリスリ〜〜 ガバッ ドガアアアアアアアアアアアアアッ
 抱きつきからの、服を脱がそうとして… リオの魔導弾がルリカに炸裂!!
「ル ルリカ?台本に無い事しないでくれる?」
「え あったの?台本」
 荒い息で床に転がるルリカの生死を確かめるリオに、代わりにロロスが突っ込んでしまっていた。
「ないですよーそんなもの。人生は日々台本の無い何かしらですからねー」
 飛び上がり三回転半で椅子に舞い戻る頃にはルリカは元の状態に戻っていた。
「はい。そういうわけで!要人がいっぱいいっぱいいっぱいなー大会なわけですよー むぐーーーーーーーっ」
 いっぱいというワードをいっぱい言いながらアイシャの胸に埋もれにいったルリカは、キャッチされた挙げ句に締め付けられて…。
チーン。 安らかな顔で落ちてしまっていた。
「要人暗殺なんてあったら、起こってしまうかもしれませんね」
 ルリカを堕としたアイシャが髪をかき上げながら呟く。
「何が…です?」怖々と尋ねるリオ。
「戦争」
 端的に応えたアイシャは唇をきつく噛んでいた。
「そうなのです!いったい誰なのですか!こんな非常識な大会を企てた不埒者は。それぞれの国が平和のために外交努力をしているというのに… なんて事を」
 ルリカの勢いに押されて沈黙をしていたアウルムだったが、魔族戦争以前から人間族の戦争が起こらないでいる国家努力を無駄にしかねない、それこそ謀略とも取れる大会に怒りを隠せないでいた。
「お嬢さんは… もしかしてリフォールの出身かい?」
 真っ直ぐなアウルムの論を聞いてロロスは、アウルムの出自が全てにおいて一流を目指す、聖教国家群の中枢ともいえる国家であるリフォールはないかと推察した。
「え? ええ、そうなのです。私はリフォール出身です。あ…ジンクムという名をご存じありませんか?魔術師の第三席が父なのです!」
 いきなり出身国について尋ねられた事には驚いたが、祖国を家族を誇りに思うアウルムは胸を張って尋ね返した。
「おお、あのジンクム殿のご息女か!」どうやら旧知らしく、ロロスの顔も綻ぶ。だが「そうか… では心して聞かねばならないぞ」一瞬にしてロロスの顔は引き締まった。
「え… な なんです?」
「今回の大会はな。魔術師ギルドと魔術学院が主催する事になってはおるが、その出自は違うのです」
 皆の視線がロロスに注がれていた。
「大会の発案、そして大会要項の原型を提案してきて」先程の賑やかさが嘘のように静けさが舞い降りる。「そしてこの大会が大陸中で注目を浴びる事になった時に中心にいたのは」一人、Kだけが目をギュッと閉じた。これからロロスが発する言葉に抵抗するように。
「リフォール王国なのです…」
 真実を告げるロロスの声にも悲痛が込められていた。

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[8]召喚術士K


G大会の経緯

「嘘…です。リフォールがそんな事…」生じた沈黙の中、やっとの思いで絞り出されたアウルムの消えそうな声。
「ふむ…ワシも信じられない。それもあってのマスターKへの訪問だったのです」
 そう答えながらロロスはアウルムの蒼白になった顔を心配そうに見つめた。祖国を愛する純真な娘にはかなり酷な真実である。
「アウルム、ここからは僕が先生とこの件について少しお話をしますね」
 Kは席を立つとアウルムの手を取り、自身の横に座らせた。「きっと大丈夫ですから」優しく囁くと視線をロロスへと戻す。

「まずは今までの流れと、そして先生の見解を聞きたいですね」
 この大会がリフォール発信となっていた事は、いつかは知られる事だから黙認をしたKだったが、想像よりも傷ついたアウルムを想って少し口調が固くなっていた。
「すまなかった。君は誇りにしているのだな。父親を…祖国を」
 ロロスはまずアウルムに謝罪をした。その言葉にアウルムは深く頷く。
「君の祖国が今回のような大会を企てるはずはない。ワシはそう思っておる」
 老練な魔術師は鋭い目でKに語りかける。
「では、別の誰かが?」
「わからん。まずは大会開催までの経緯を話しておこう」
 ここでロロスは魔術師ギルドの本部を預かる者として自分が知っている経緯を話した。
 まず、魔術師ギルドの西方聖教合同支部がリフォール支部の発案として大会を企画した。この時は合同支部レベルの大会規模だったという。
 ところがこれを知った他の合同支部も興味を示した。災厄戦以降、召喚術が注目され研究が進んだが、大きな成果が出ていなかったからだ。大きな大会を開いて、その研究成果を競い合う。魔術師ギルドの目的はそこにあった。
「ここまではギルド主催の競技大会であったのです。ところが大会規模の拡大の流れの中で、各支部が所属している諸国もこの大会に興味を示し始めました」
 魔術師ギルドは各国に最低一つは作られている。そして交流の大きなエリア毎に合同支部が作られ、所属している魔術師の研究や冒険をサポートしているのだ。その地に根ざしているわけだが、それ故に各国とのコネクションもしっかりと作られている。
 そのため大会の基礎要項とリフォール発案による事が広まった。厳密にはリフォール支部の発案であるが、リフォール王国が積極的に関わっていると誤解された可能性もあるとロロスは語った。
「もしかするとリフォール王国が中心となって、西方の聖教国家群が魔物による軍事強化を目論んでいるかもと勘ぐったのかもしれません。思惑は様々あったでしょうが、結果として大陸中の諸国が国家推薦者も参加させて欲しいと魔術師ギルドの各支部を通して要望してきたのです」
 そして大会は合同支部をとりまとめた大陸規模で開催する事となった。
 ここで大きな変更になったのは大会参加者の条件である。当初は低レベルでも参加出来たが、各国の推薦者及び軍事にも対応出来る魔物が出るとなると実力差から危険が生じると考えられたからだ。
 もっとも明らかな強者は北と東の二大大国とリフォール、そして支配体系が変わったとされる黒の大陸、そして魔術師ギルドで把握している数人の精鋭などに限られる。そこでこれらの強者を本戦シードとし、それ以外は予選によって篩い分けをする事になった。
「ここまでは支部レベルの競技会が、全大陸規模に順当に拡大したという解釈でも良いのかもしれません。それでも諸国の軍事関係者が参加するのは懸念されるべき事ですが」
 ここからロロスがもっとも不安視する流れが生じてくる。会場場所と判定委員会、会場警備などの案件である。
「課題となっていた大会会場ですが、これはパルナからウツロイシティはどうかと打診があったのです。こちらからしたら渡りに船でしたが、諸外国の要人も来るかもしれない流れでよく提供してくれたと驚きました。実はこれがリフォール王国からの相談によるものだったのですよ」
 更にパルナが誇る四大公に会場警備と周辺に対する保安対策を受け持たせ、大会をパルナ国王自ら見守るという破格の提案があり、それに呼応するようにリフォール王国からは判定委員会を参加国の大臣クラス以上にしようと発案された。
「下手な諜報活動をされるよりは安全かもしれませんが、要人暗殺などの危険もある諸刃の剣でもあるように思う。先程お嬢さん方が考察されたようにな」

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[9]召喚術士K


H魔族戦争の再来

 普通なら− 軍事関係の話が出た時点で大会企画は白紙に戻っただろう。完全に通常の競技会の範疇ではないからだ。ところが企画は止まらなかった。むしろパルナやリフォール、そして北と東の大国も巻き込んでの拡大を見せたのである。
 普通なら通らんだろう企画が通り、パルナやリフォールからも積極的な提案が出される。まるでタチの悪い流行病のように大陸中に蔓延していったのだ。
「今回の流れでワシが最も懸念しておるのはな」
 ロロスはK殿もわかっておるだろう?と訴えかける。
「魔族戦争の再来…ですか?」
 Kの回答に、ロロスは何度も頷いた。
「あの時は天妖の魔王の策略で、主に西の聖教国家群と東の大国が信仰心や忠誠心を操られてしまし、人間は混乱の中で破滅への道を突き進んだ」
 その時はまだKは生まれていない。祖父であるカミナが活躍したと曾祖母マナから聞かされたくらいである。
「今回の大会に、そしてパルナやリフォールその動きを感じると?」Kの問いかけに今までで一番強く頷いて応えるロロス。
「そうなると厄介だ。ジャスティが熱くなっているような技量比べでは終わらん。何しろ国家戦力になる魔物がたくさんやってくるのだ。いかに四大公の警備といえど、間違えが起こらない保証は何処にも無い」
「しかし僕が出たところで事態が変わるとも思えませんが?」
 緊迫した社会情勢になる可能性についてはKも充分に理解している。
「いやいや、K殿は…」ロロスはブンブンと首を振った。
「災厄戦での活躍をワシも間近で拝見させて貰っておる。倒した魔物の悉くが配下となっていったのは我が目を疑ったよ」あり得ない光景。敵地である魔界での戦力差が気がつけば逆転していた。
「いや、配下にしたわけでは無いんですが」
 Kが災厄戦で倒した魔物にした事は、ここド・レインでキャスト募集をした事とあまり変わりなかった。相手の要求と自分達の要求のすり合わせ。よって戦後、仲間となってくれた魔物達の保護のためにKは奔走している。
「そうでしたな。弱き種族達には生活する場を与え、強き者とは友情関係を結ぶ…。いやはや、我々の常識の遙かに上をいっておるよ。K殿は」一般的な契約術とは、それを結んだ魔物を隷属させるのに近しい。ところがこの黒き衣の術士は、まるで人間同士の友好条約のような契約で魔物達を統率して見せたのだ。
「災厄の魔王の片腕とされた魔爵…大公位のハートレスを盟友としたのにも驚かされたよ。国王から”聖王騎将”を授与されるのも納得の活躍でした」
「ヴェナ…ですね。彼女はハートレスと呼ばれるのを嫌いますから、ご注意ください」
 戦後、ヴェナは召喚部屋にやってきた。災厄戦中はハートレスと呼称していたので、そのつもりで対応したKだったが、ヴェナはその二つ名を嫌っているらしくご機嫌な斜めになってしまったのだ。
 災厄の魔王にして御しにくかった大公ヴェナは、その心臓を地獄へと封印された。それをKが取り戻した事により、ヴェナはKと契約を結んでギルド軍へと与したのだった。
「ふむ、気をつけよう。それでワシが言いたいのはな、K殿。貴方には魔物を見る目があるという事なのです」ロロスの真剣な眼差しがKを射貫く。
「この度の大会で懸念される事のうち、警備に関しては四大公を中心とした警備局に任せするしかありますまい。ただ!魔物による何らかの企てがあるとするならば、それを防ぐにはK殿の協力が不可欠とワシは考えておるのだ!」
「うーん、そうですねぇ…」ロロスの視線を躱すように天を仰いだKは、ゆっくりと数を数えるように懸念事項を復唱する。「大会はリフォール発案で… 大陸の国家も参加… パルナ国王が国賓で、四大公が警備担当と… ふむ」
「どうだろうか?K殿」不安げに覗き込むロロス。
 Kは傍らで不安げに見つめているアウルムの頭を優しく撫でると、
「うん。わかりました。参加する事にしましょう」と快諾した。

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[10]召喚術士K


Iまさかの予選

「そうか!それは良かった」Kの返答にロロスの表情が綻ぶ。
「マスター、あの…宜しいのですか?」
 アウルムが不安げに尋ねる。
「ええ、リフォールの事もそうですが、参加して間近で見た方がわかる事もあると思いますからね」
 そう微笑むKをアウルムは感謝の気持ちと同じくらい心配していた。
「そうなると… ひとつだけK殿に伝えなくてはならない事がある」
 ロロスが笑顔から真顔に戻ってすまなさそうにしていた。
「? なにかありましたか?先生」Kもまた神妙な面持ちとなって尋ねた。
「いや… K殿は今大会を辞退すると返答されたので、執行部を兼ねている判定委員会がギルド枠や国家枠の参加者を確定してしまってのう」すまなさそうにロロスが頭を下げる。
「予選枠から出て貰うしかないのです…」
「えー、出てくれって言いに来て予選枠ですかー」と抗議したげなルリカ達はKの反応を伺っている。大人だから。
「ああ、それくらいでしたらお気にせずに」Kもまた大人の対応。
「そう言って貰えると助かります。予選案内はこちらです」大人の対応をしつつも「これはないよねー」といった抗議の視線を送ってくるKの背後にいるお嬢様方。その視線に貫かれて辛くなったのか、おずおずと更に申し訳なさそうに予選要項のスクロールを差し出すロロス。
「ふむ… ウツロイシティの広場に集合…くらいですか。まぁ現時点では詳報は期待できませんね。承知しました。エントリーいたしましょう」
「ではエントリーはワシの方で… ここにサインだけお願いします…」
 お嬢様方の視線に威圧されたロロスは敬語で事務処理を請け負った。

「あ、先生。ジャスティの事なんですけど」
「うん!ジャスティな!なにか…あるかの?」Kの話題転換に救いを求めてオクターブ高めの声で応えるロロス。
「いえ、成長しているのは喜ばしいのですが。でも…ラゴーアについてはまだ早いというか」Kの友達であるライオンヘッドのアルソッ君の上位種にあたるラゴーア。これを召喚するとしたら、一般的な召喚術の手続きだと数人がかりである。更に契約となれば…。
「ふむ、それについてはワシにも謎なのだ。ジャスティは他にもグレーターデーモンの上位種であるアークデーモンとローパーの最上位種であるローパーロードと契約をしておるようでな。この他二体の魔族の計五体で大会にエントリーしておる」
「アークにロードですか。素質的にはいつかは可能でしょうが…やはり早いですかねぇ」
「ふむ、ワシも心配しておる。実は今大会にK殿に出て貰いたい理由の一つは、あやつの壁になって欲しいというのもあったのです」ジャスティの事を話すロロスの声色は優しさに溢れていた。
「そうですねぇ」Kもまたあたたかい目になる。
「ジャスティ君愛されてますねー」「まぁ、根っこは良い奴だと思うな」何故かルリカとティアが同じくあたたかい目になって語る。
(残り二体の契約魔物が誰なのか…ですかね)あたたかい目のまま、Kはジャスティの急成長の謎について思案していた。
「さて… 夜も更けてきました。他になければ、これでお開きにしましょう」
 Kの提案にロロスも頷き、ルリカ達もまた自らの部屋に引き上げていった。
「あの… マスター」部屋を出る前、アウルムが伏し目がちにKに声をかけた。
「どうしましたか?アウルム」優しく返すK。
「リフォールで何か良からぬ事が起こっているのでしょうか?」漠然とした問い、しかし今は分からない事が多いのだ。
「それはわかりませんが…」不安に震えるアウルムをKは優しく抱きしめた。「大会でそれを見極めるしかないと思います。もし魔族戦争を模倣するのだとしたら、やや手が込みすぎてますからね」
 魔族戦争の要点は、人間の心の拠り所について揺さぶりがかけられた事にあった。
 それは自然な日々の営みの中から浸食していき、気がつけば人同士で、村や町同士で、国同士で不信が募っていって…。
 その混乱に乗じて人間界に攻め入ったのが天妖の魔王を中心とした五人の魔王達である。
 これに比べたら大陸規模の大会での不祥事を発端とした大陸間戦争、それに乗じて…といった筋書きは手間がかかるわりに失敗の確率が高い。
 人知れずに浸食していく洗脳が魔族特有のやり方である。大きな外交にしてしまったら、そこに人の理性が大きく働いてしまい、必ずしも戦争が起こるとは限らないのだ。
「さぁ、今日はもう寝ましょう。明日からは色々と準備をしなくては」
”ボンッ”と現れたアルソッ君に乗り物モードになって貰い、そこにアウルムを腰掛けさせる。
「大丈夫。きっと上手くいきますよ」
「はい!」不安が全てなくなったわけではない。でもマスターが、Kが語ってくれる希望をアウルムは信じたいと思った。

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