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=67.ルーム そこは真っ暗だった― ヘルダンが自らの肉体と魂をしまう場所、Kが”ルーム”と呼ぶ魔族特有の空間。そこは彼の特性そのものであり、全てのものを腐蝕する場所であった。結界があっても、その結界自体もいつかは腐蝕されてしまうだろう。無重力…いや水中のような重さと触感、引き込まれたKはそこを漂っていた。 「ふむ… ここが貴方の”ルーム”ですか… イメージ通りではあります」 その生き物を…いや無機物であったも存在出来ない場所で、黒き術士はお上りさん的に周囲を見渡しながら、飛行の魔法の応用で姿勢を制御した。 「やはりお前は無事か。前の戦の時、地獄界へと封じたヴェナの心臓を取り戻したと聞いたが… 真実であったのだな」 「ええ、僕はあらゆる空間に適性を持ちますので」 ”災厄戦”のターニングポイントは二つあった。一つは人間界での王都での反攻作戦の成功。そしてもう一つは災厄の右腕とされたヴェナの人間への加担。ヴェナを無慈悲な戦闘参謀”ハートレス”として縛っていたのは、文字通り彼女の心臓の封印であったのだが、その封印場所とされた地獄界に行き奪還した人間の術士がいた。それがKであったのだ。そしてKがそれを成し得たのは正確には纏っている”常闇の衣”の特性であるが、敵に正直に話す事ではない。 「しかし…あちらの二人はどうなる?」 「え?」 Kの前で先程よりは小振りではあるが魔素の集積で実体化したヘルダンが指を指した方向を見てみると、 「これ…魔力の消費量が半端ないんだけど… 溶ける?ボク溶けちゃう?」 「フフフー わたしは平気っぽいですよー? 天才?わたしって天才?」 Kの視界に入ったのは、聖結界を張っているリオと、何故か溶けないルリカだった。 「なんでルリカは溶けないの?」 「よく見て下さいよー (くいくい)」 ルリカは”気”による結界(のようなもの)を張っていたのだ。よく見てみると… 「ドレイン・ナイフ!?」 エナジーを吸い取る黒のナイフによってルーム内の魔素を吸収し、白のナイフから放出する時に自らの気のバリアを形成する。これによって持続的に防御結界が張れていたのだ。 「溶けなくても息が続かないでしょうに…」 やれやれと、しかし嬉しそうな表情を浮かべたKが両の手を前に振り下げると、”常闇の衣”から二本の触手が伸び、浮遊しているリオとルリカを彼女達が張っている防御結界ごと掴み取り、Kの元へと引き寄せた。 「ぬおっ なんて便利なっ」 「マスター… いくつビックリアイテムを持ってるです?」 引き寄せられ、今度は二倍程度に広がった”常闇の衣”に包み込まれるリオとルリカ。 「この衣はある程度の形態変化が可能です。そてにしても…、二人ともあの一瞬で飛び込んだんですか?」 ”常闇の衣”は神族の巫女たるマナの一族が儀式の際に纏っていたものであるが、マナが結婚するタイミングで巫女の仕事を休業する事となり、その後は召喚術の継承者の証としてカミナ・カシムと受け継がれてきた。 そしてKが嬉しくも驚いていたのは、レーヴァやアッシュでさえ間に合わなかった自身の救出にこの二人がより早い判断を行ってくれていた事だった。 「いや、体が勝手に動いてですねー ははは」 「丁度マスターの背中のあたりにいたから…」 照れ笑い。実際ルリカの判断は早かった。出だしはアッシュと同じであったのだが、魔弾を使い切っていたアッシュがKを捕らえた触手の属性を推理しつつ得物を出そうとするタイムラグの間にルリカは沈み込むKに飛びついていた。そしてリオは言葉通りKの背中のあたりにおり、触手がKに巻き付いた瞬間こそ一歩下がったが、Kの体が沈み込んだ時、反射的に体が動いたのだった。聖石切れなのにも関わらずに― (だって…今度マスターを見失ったら、もう二度と会えなくなると思ったから…) 俯きながら小さな声で呟いたリオの声はKに届いたのだろうか?代わりに答えたのはヘルダンだった。 「麗しき主従愛か。せっかく来たところでこの場所で”この私の領域”では何の役にも立てぬがな」 フンと鼻で笑いながらヘルダンが大きく手を上げると、その六本の腕の描く軌跡が強い魔力を発し始める。 「お前達に体の大部分を持って行かれたが、この空間から得られる魔素量を込める事で先程に匹敵する術式を発揮する事が可能だ。そして四散し腐蝕したお前達のエナジーを奪えば回復も早かろう」 「ぬぅー」 ブンブンとナイフを振ってみたものの姿勢が安定しないルリカ、そしてK同様にフライト魔法の応用で姿勢こそ維持できるようになっていたが、聖石切れで決定打を持たないリオ、せっかく駆け付けたところで無力の烙印を突きつけられるが、Kは和やかにヘルダンへ返した。 「いやこの子達の援護はとても有りがたい。大切なのは相手のために動く事、即ち”心”です。わかるでしょう?ヘルダン。貴方もまたその身を捨てる覚悟で災厄の魔王のために戦ったのだから」 「知ったような事を!お前に何がわかるのか!?いや…今ので確信した。お前…災厄様の”消失”に関わっているな?」 上位魔族は簡単には死なない。魂や肉体が僅かに残るだけでも復活の可能性があるからである。勿論弱体化するため再び強力な個体になるまでに他の魔族に滅せられる事も多いため、一度死ねば同じ地位まで戻る事は容易ではないが。しかし災厄の魔王が討たれた後、新派の魔族がその欠片を探したが何処にも見当たらなかったのだ。 「その件については、何も申せません。が、その攻撃は止した方が良い。貴方は既に敗北していますので」 自身の真価を100%出せる空間で、更には魔王化した事で扱える魔力量が格段に増えている事から放たれる術の破壊力はとんでもないものになると誰にでも予測がつく。なのにKはあろう事かその相手に敗北しているなどと宣言したのだ。 「既に敗北か?確かに再び肉体を失った。ただ一度クラスアップをした私は”魔王”のキャパシティを手に入れている。再度肉体を手に入れ時間を掛ければ復活も容易いだろう」 ”ギュウウン!” ヘルダンの言葉を裏付けるように、彼の放とうとしている破壊の術式は禍々しく膨れ上がり、先程の凶華片や腐蝕の暴風を凌駕する破壊球となっていた。 「お考えは変わらないと?」 「くどいな。お前達を滅し、レイエンの子らも始末した上で…私は当初の計画通りに歩むとしよう。さらばだ、黒き術士とその魔物達よ!”腐蝕暴球弾!”」 「誰が魔物だー」 魔物扱いされた事に抗議を始めたルリカの声は、先程の腐蝕の大暴風を凝縮したようなヘルダンの術式が発する悲鳴のような音にかき消されていった。そして破滅への魔弾がK達に向かって放たれた―
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