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=72.再生のための浄雷 「黒き術士よ、仕合って貰おうか?」 ヘルダンの顔から怒りが消えた。そして真っ直ぐにKを見据える。 「良いんですか?色んな答えがあると思いますが」 問うてはいるが、Kの口調はヘルダンがそう言うのを予想していたかのようであった。 「ふん、恐らくは…災厄様もそうなさったのだろう? そしてどうなったのだ?あの御方は」 未知なる虚無の大魔王界を知って、ヘルダン自身この短い時間に欲望を感じ、策略を巡らせ、脅威に震えた。しかし同時に自分が知らなかった世界の広がりを知り、そのあり方を垣間見た。 すると数刻前までの自分だったら感じ得なかったような高揚感が湧き上がり、未知なる世界での可能性についての思考が頭をもたげてきていたのである。しかし大魔王クルデリスの魔界で生を受け、上級魔族として存在し続ける宿運を持つ以上はそれは許されないのだ。 「災厄の魔王は、その出自たる畏怖なる神としての半生を顧み、そして新たな道を見つけたいとお考えになりました。故に―」 「逝ったのだな?」 ヘルダンが目を閉じる。脳裏に浮かぶは過ぎた日の”災厄”の姿であろうか。新たな道、それは輪廻転生の先にある。主は残酷な宿運を断って進む道を選んだのだろう。 「ええ、僕が介錯をさせて頂きました」 「そうか… 礼を言う。あのままクルデリスの配下でいるより幸せであったろう」 上級魔族はなかなか死なない。故に敗北した災厄が捕らわれれば、あのクルデリスは嬉しそうに嬲っただろう。災厄の魂は所在不明のまま、興味がそがれたクルデリスからの追求は無くなった。そしてヘルダン自身も計画に邁進出来たのも、認めたくは無いが目の前の想定外尽くしの術士のおかげとも言えた。 「決闘は同士討ちに非ず、互いを知る手段とレイエンの子が言っておったが…」 争いが多い魔界において、正々堂々仕合う事などない。勝つか負けるか、勝利のみが求められる。故に自身も手段を選ばず戦ってきた。しかし人間界を知り、人間を知り、そして新たな世界を知った。戦後の主の軌跡も分かった。ヘルダンは生まれて初めて自身の存在について考え、そして歩むべき道を選んだのだ。 そして仕合うのは、今の生に対してのケジメであった。 「さて!では参ろうか!しかしお前の力が俺に届かなければ介錯にもならんぞ?」 「ええ、ご心配なく。全力で介錯を務めさせて頂きます」 六本の腕を旋回させ、最大の魔導術式の構えをとるヘルダン― そしてKは一見不規則な歩行術式で陣を描き、その中央において退魔の構えをとった― 「うむ。魔王…いや ”魔爵・伯爵位” 腐蝕のヘルダン! いざ尋常に!」 ”キィィィィィィィィィィィィン!!!” 膨大な魔素が放出されていった。ルームでの爆球を更に超えた腐蝕の集積体はヘルダンの命の輝きでもあった。 「煌仙術・対妖戦闘術”浄雷” カムア・ロー 参ります!」 ”……………………………………………………………” 静寂が辺りを覆った― 「…うぐ… お前… 人間…か?」 消えたのだ― 「”浄雷”は滅びでは無く清めの雷術…」 大気に溢れていた高密度の魔素が― (全て…だと? この一帯…見渡す限りの魔素を…全てか??) Kの腕が天を指す。 黒く晴れ渡っていた空に”白き雷雲”が生じた― ”カッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ” (完敗だ… しかし… お前にやられるなら悪くない…) 災厄様もそうお考えになったのだろうか?― それがヘルダンの最後の思考だった。
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