【怪奇譚】Aドッペルゲンガー





黒服団が出会う奇妙な事件や、伝承にまつわる事件。

ドライゼの日常に現れる非日常。

心優しい彼がとる選択は?


世界中に存在するドッペルゲンガーについての伝承を再編アレンジしたものになります。

ルリカ

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[1]ドッペルゲンガー1
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 夕暮れ時/ルブル市内


「お兄ちゃーん」
「早く来ないと、おいてくよー」

 マッチとユ――
 ――緑の目に色白で小柄な体型にブロンドのボブカット。
 双子なので当たりまえと言えば当たり前だが、何から何まで瓜二つな2人は、後ろを振り返りながら小走りで、夕暮れの街をかけていく。

「ちょっと、俺は荷物持ちなんだから」

 ドライゼ・アマカイ――
 ――黒服団団長の息子であり、黒服の書記や秘書官を務める、見た目にも何処かルリカを思わせる。
 一見すると黒服としては頼りなさもあり、少女にも見紛う青年は、両手に荷物を持ちながら、走るマッチとユーを追いかける。

「早く行かないと宿が埋まっちゃうよ?」
「そうそう、演劇場が近いから人気なんだよ?」
「わかってるけど……買い物が多いよ」
 ドライゼは楽しそうに走るマッチとユーをしんどそうに……でも、どこか楽しそうに見ながら、2人の後を追いかける。

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[2]ドッペルゲンガー2
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 日付変更直後/ルブル市内/演劇場近くの宿


(ドッペルゲンガー……目撃はあれども単純に双子の可能性もありか……)
 マッチとユーが寝静まった後、ドライゼは街で手に入れた噂本をぱらぱらと捲る。
 双子という文字がたまたま目に入ったドッペルゲンガーの説明を読むと、ふと視線を感じた気がして振り返る。
 仲良く同じベッドで眠るマッチとユー……そして、その足元に立つ、視線の主。

「っ!?」
 ユーと全く同じ姿の存在が、しーっとジェスチャーをしながらドライゼを見つめる。
 ドライゼは驚き叫ぶのを咄嗟に口を抑えて我慢する。
 完全に頭が理解を通り越し、軽いパニック。
 とりあえずはユーと同じ顔、体の存在を抱きかかえ、急いでお風呂へと向かう。


「お兄ちゃん、乱暴だよ?」
 頭の中に響くほどの心臓の音を落ちつけようと、何度も何度も深呼吸をする。

「……君は誰だい?」
 裏返りそうな声を無理やり押さえつけ、何とか出た言葉に、目の前の存在はニコリと笑う。
「お兄ちゃんは本を読んでたよね? ドッペルゲンガー……」
「……ユーのドッペルゲンガーだっていうのかい?」
「そうだよ。だから……」
 目の前の存在は、首を傾け、再びニコリと笑う。
「目的も……わかるよね?」

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[3]ドッペルゲンガー3
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 しばらくの沈黙……
 もちろん、さっき読んだばかりなだけに、ドライゼの中では質問の答えはわかりきっている。
 ドライゼが考えるのはその先……そして、目の前の存在もその先の返答を待っている。

「悪いけど……」
「協力はしてくれないんだね」
 目の前の存在はドライゼの言葉を遮るように、言葉を被せる。
 その言葉と同時に、笑顔は消え去り、殺意のこもった両手で、ドライゼの襟首へと掴みかかる。
 
 ドライゼは無表情な目から逃げるように目をそらす。
「これ以上やるなら……」
「出来るの? ねぇ? 出来るの?」
 ドライゼの身体をぶんぶんと揺らす、目の前の存在。
 ドライゼは、風の槍を生成しながらも、つい怯えと迷いで手が止まる。

「っ!! ごめん……」
 覚悟を決めたドライゼは、目の前の存在へと槍を突き立てる。
 目を固く瞑り、目の前の現実から目を背けながら……

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[4]ドッペルゲンガー4
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「へー。私と入れ替わるなんて、ホラーだね」

 ユーのドッペルゲンガーの死体をどうしていいか分からなかったドライゼは、仕方なくマッチとユーを起こし、経緯と現状を説明する。
 マッチは無言で……ユーも淡々とした口調で、ドッペルゲンガーの死体を見下ろすと、2人はいそいそと服を脱ぎ始める。
「ユー!? 何して……マッチも!?」
「何って、これ処理しないと」
「処理所に持って行くにしても、大きいから畳まないと」
「お兄ちゃんも脱がないと、血シミつくよ?」
「畳むって……」
 ドライゼは戸惑いながらも、2人に急かされるがままに服を脱ぎ捨てる。

「お兄ちゃんは腕を固定してて」
 ユーはドライゼに死体の腕を固定させると、自らと同じ顔、同じ体のドッペルゲンガーにも躊躇うことなく、関節部にナイフを突き立て、力を込めて切断を始める。



 〜〜〜迷い家につづく〜〜〜

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