【怪奇譚】Bマヨイガ
黒服団が出会う奇妙な事件や、伝承にまつわる事件。
旅人の前に突然現れ、食べ物や寝床を提供し、食器などを持ち帰れば幸せになれるという“マヨイガ”
断に導かれたアリスは、何を見るのか。
今回は、日本の民間伝承の“マヨイガ”をアレンジした話となります。
ルリカ
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[1]マヨイガ1
昼時/ルブル市内/暁甘味処
くせっけ髪をショートカットカットで無理やりに誤魔化した、少しあどけなさも残る金髪の悪魔の少女――
――アリスは、テーブルに並ぶ大量の和菓子にげんなりとし、行儀悪くテーブルに肘をつく。
「よくこんな量、食べれるわね……」
長くきれいな白髪に、右目を眼帯で覆い、和装の脇差の付喪神――
――断は既にアリスよりも多くの和菓子を食べながらも、ペースを緩めることなく食べ進める。
2人のこの世ならざる存在は、賑やかな酒場で、他の客とは何ら変わりなく食事を続ける。
「もう腹いっぱいなら、妾が食い終わるまでこれでも読んでおくかえ?」
「何よこれ?」
断が取り出したのは、近頃、街で流行っているという噂本。
「食い終わり次第、そこに載っておるマヨイガと思わしき廃墟を訪ねる故に」
断がペースを止めずに、どんどんと和菓子を食べ進める中、アリスはため息をつき、肩を落として本のページを適当に捲る。
「どうせ、あんたは覚えてるんでしょ? なら、私がいまさら確認してもしなくても関係なくない?」
「しょせん暇つぶしのために渡したものであるためにな」
御馳走様と手を合わすと、断は立ち上がりアタッシュケースを手に取る。
「ほれ、出発するぞ。ついて来い」
「……はぁ」
自分勝手に行動を始める断の背中を追うように、しぶしぶ後をついていく。
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[2]マヨイガ2
1時間後/ルブル郊外/とある森林奥地
「マヨイガとはな……」
「へっ?」
草木が道を隠すほどに生い茂る山道を歩きながら、断は突然アリスに喋りかける。
「お主の為にわかりやすく話すと、山で迷った者の前へと姿を現す家である」
(遠回しに馬鹿って言われた気がするけど……)
「その家には誰も居らんが、食事も水も布団もあり、生活用品を持ち帰れば幸せになるそうじゃ」
「なにそれ? いいことしかないじゃない」
「幸福の大小もあるが、基本的には悪いものではない。しかしの……」
「しかし……なんなの?」
「その廃屋は迷い人を喰らうとも言われておる」
「……噂話なんて大体そんなものじゃないの? 広がるにつれて、誰かが有ること無いこと好き勝手に付け足してさ」
そんな会話をしながら、20分も歩けば、道と呼べない程に草木が生い茂る森の中へと迷い込む。
そこから5分も歩けば、もう方角すらわからなくなるほどの場所へとたどり着く。
「ねえ。私が飛んで運ぶから、もう帰らない?」
「そうじゃの。これ以上は迷うだけよの……」
アリスが翼を展開し、断を抱きかかえると、翼を羽ばたかせゆっくりと上空へと飛び上がる。
「ガタイの割に軽いわね……ねぇ……あれ……」
アリスの指さす先。
森の開けた場所……そこにはポツンと立つ古びた民家が存在していた。
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[3]マヨイガ3
ルブル郊外/とある森林奥地/廃墟内
「これは、当りかの」
アリスと断の見つけた家には人気が無く、中へと入ってみても人のいる気配がない。
「当りとしか……思えないわ」
家の中は廃墟とは思えない程に綺麗。
そして、何より異質なのは、テーブル……いや、テーブルに置かれた“もの”。
「これは料理じゃの。どこからどう見ても」
アリスは用意された料理に面食らうも、断は揚げ魚のソテーと思われるものをつまみ上げ、口へと運ぶ。
「あんた……よくそんなもの食べれるわね」
気味悪そうに断を見るアリスを他所に、断はテーブルに用意されたナプキンで手を拭く。
「まだ温かいの……というよりは作られたばかりか」
アリスは家の中を散策しようとするが、ふと違和感を感じ立ち止まる。
「ねぇ、断……魔力の残滓と血の匂いを少し感じるんだけ」
「どこかに魔法の痕跡があるやもしれんという事か」
断は周囲を見渡し、どこかおかしい場所……マヨイガとまでは言わずも、此処が普通ではない場所であると確信を得るものを探そうとする。
アリスがテーブルの料理をつつく中、断はふと小さな違和感を感じ、綺麗に中身が整理された食器棚へと向かって歩き始める。
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[4]マヨイガ4
断は綺麗に皿が整列された棚を開けると、中の皿を1枚手に取る。
「持って帰るの?」
アリスの質問も耳に入らない程、断は集中して棚と皿……そして、テーブルに並ぶ数々の料理を見比べる。
「のうアリスよ? この棚はしっかりと皿やらで埋まっておるの?」
「見た感じそうだけど……それがどうしたのよ?」
「テーブルの上の皿。あれは、どこから出したのかの?」
「そりゃ……」
言葉に詰まるアリスを他所に、断は棚の縁へと手をかける。
「急に住人がいなくなったような家……しかし、気配が全くない……まるで人形ハウスのようじゃ……の!!」
断が勢いよく棚を引き倒すと、アリスは咄嗟に身をかわす。
「何すんのよ! 危ないでしょ!!」
アリスは怒鳴りながら、散らかった食器の破片をかたずけようと箒を探すが、断がじっと一点を見つめていることを不思議に感じ、自分もその視線の先へと目を向ける。
「何をみてんの?」
「お主の感じた魔力の残滓とはこれではないかの?」
断が指さすのは食器棚の裏の壁――
――いくつもの円形の焦げ跡の付いた、まるで意図的に隠されていたような焦げ跡がついた壁。
「魔法使いが……放った魔法の跡?」
「問題は何と戦ったのかじゃの。もう一つ感じ取った血の跡と、街での噂、ドライゼ達が遭遇した怪異と合わせると……」
「この“家”と戦った……ってこと?」
アリスと断はひとつの結論にたどりつく。
その瞬間、ゆっくりと飛び散った食器の破片がふわっと宙へと浮き上がる。
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[5]マヨイガ5
少し困惑するアリスを他所に、断は焦ることなく、帯に差し込んだ脇差の鞘を掴み、腰を落として居合の構えをとる。
「めんどな事になってしもうたの」
「ほんと、アンタに着いてくと面倒なことばっかり」
アリスは肩を落としてため息をつきながらも、テーブルの上のフォークを手に取ると、フォークへ電気を帯電させ、同時に黒い翼を展開する。
「くるわよ!」
「声を張らんでもわかっておる」
次の瞬間、飛来する食器の破片や包丁、鍋、ティーカップ……
断は脇差を振るい、アリスは帯電させたフォークを振るい、次々と迫りくる飛来物をたたき落としていく。
細かい食器の破片の一つ一つも的確に斬り払いながら、断とアリスは背中合わせに、入ってきたドアへと近づいていく。
アリスはドアノブを回すが、まるで石壁を押しているようにビクとも動かない。
「ちょっと! 開かないんだけど!」
「デカい声で喚かんでもぶち破れるであろう。それまで全部斬り落としてやる故」
「怪我しても文句言わないでよ」
アリスは角も展開させると、角と翼、そして体中に帯電を始める。
それと同時に、背中合わせの2人の元へと、大きなテーブルが飛来する。
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[6]マヨイガ6
「デカいの飛んで来るんだけど!」
「お主は黙って扉を破壊せい!」
断は声を少し荒げながらも、飛来する大きなテーブルを見据えると、納刀し、少し深めに腰を落とす。
(斬っても直撃するの……)
断はテーブルが自身の目の前まで接近するのをじっくりと待つと、素早く抜刀し、脇差の側面をすくい上げるようにテーブルへとぶつける。
飛来したテーブルは、上方へと跳ね上がると、大きな音を立てて、天井へと突き刺さる。
断は飛来物を的確に斬り落としていくが、流石に分が悪く、頬や手足に破片が突き刺さり、ポタポタと地面に血を落とす。
(流石に多いの……食器を割ったせいかの)
断とアリスの実力を認識したのか、家が飛ばす飛来物は徐々に危険性を増していく。
(寸胴……中身入りかえ)
「あれ!」
「お主は黙って最大まで魔力を貯めえ!!」
熱々のスープの入った寸胴が飛来すると、断は片足を上げ、床をぶち抜く勢いで寸胴を踏みつける。
「つぅ!」
「チャージ完了! 体丸めてて!」
断は床に崩れながら体を丸めると、直後に閃光と強烈な電撃音が室内を支配する。
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[7]マヨイガ7
「やり過ぎたわ……」
「うむ、やりすぎたの」
アリスは雷撃で半分が吹き飛んだマヨイガを見上げながら、断のやけどした脚へと包帯を巻いていく。
「半分ぐらいでよかったわね……これ」
「妾が武器化して、お主が振るえばそれで解決であったが、硬さがわからなかった故にしかたないの」
アリスは包帯を巻き終えると、その場に腰を下ろし、思い出したことを断へと質問する。
「そういや、なんで最初に運ぶときに武器化しなかったのよ? そっちの方が運びやすいでしょ?」
「お主よりもデカいのに、お主よりも軽い……妾のプロポーションの良さを自慢してやろうと思っての……っう!!」
アリスは陰湿で遠回しな悪口にイラっとすると、包帯を巻いた脚を思いっ切り叩きつける。
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[8]マヨイガ8
2日後/昼食前/黒服団詰所/マウザーの執務室
尖った耳に肩口よりも長く伸びる栗色の髪。
黒服団副団長を務める、種の存続の為に人へと擬態し、人の社会で生きる竜の女性――
――マウザーは羽根ペンを所定の場所に突き刺すと、書き終えた書類を手に立ち上がる。
「イズマッシュさん、これを……アキュラさんが言った通りに噂本の内容を少し書き換えたものです」
美形な顔立ちに、黒くきれいな髪。
上下ともに黒い服を身に纏った、180センチオーバーの男性――
――イズマッシュはアキュラから資料を受け取ると、近くのメモ用紙に文字を書き始める。
『かなり誇張した内容だが、大丈夫なのか?』
「私も少し不安だけど……これが広まってくれれば問題ないし」
『広がらなくても尾ヒレは多少付くと?』
「うん。それに何より、イズマッシュさんの流言やアキュラさんの思い付きは頼りになるから」
マウザーはイズマッシュに微笑みかけると、大きく背伸びをし、部屋を出ようとするイズマッシュに声をかける。
「オフの時にほんとごめんなさいね」
イズマッシュは問題ないと片手を上げ、背中越しにハンドサインを送ると、部屋を後にし、詰所を後にする。
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[9]マヨイガ9
前日/黒服団詰所内/アキュラの自室
アキュラの部屋を訪ねたマウザーは、椅子に座り込み、ベッドに寝転がるアキュラに目を向ける。
「こんな噂の誇張で本当に怪奇現象が消えるんですか?」
「消えるわけないじゃない」
アキュラの即答と意外な答えに面食らうマウザー。
アキュラはベッドから起き上がると、簡易なキッチンに向かいお湯を沸かしながら、話を続ける。
「一部は消えるわよ。でも全部は消えない……って言った方が正しいわね」
「なんでそんなことが?」
アキュラはティーカップを2つ用意し、紅茶を注ぐと、テーブルへと運び、マウザーの対面に座り込む。
「マヨイガって言ったわね……あれは断が壊した。ドッペルゲンガーはユーが殺した……じゃぁ私たちが遭遇した人面キメラはどこに行ったのかしら?」
アキュラが紅茶に口をつけると、マウザーは両手でティーカップを持ち、マウザーの次の言葉を待ち続ける。
「私はそれをずっと考えてたの。そして、あくまでも私の考えだけど、ひとつの結論を出したわ」
「結論……ですか?」
「そう。私たちが人面キメラが作製されてるっている場所を見つけたから……そこが廃棄された場所だったからじゃないかってね」
「えぇっと……」
イマイチ言葉が結びつかないマウザーに、アキュラはカップを置くと説明を続ける。
「作られた場所、作れるはずのない研究所……矛盾が生じちゃったのよ」
「矛盾さえ生じれば消えると?」
「多分ね。それにこんなブームなんて一過性の物よ。ほっといてもそのうち消えていくわよ」
〜〜〜吸血鬼につづく〜〜〜
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