【怪奇譚】C吸血鬼ー前編ー





黒服団が出会う奇妙な事件や、伝承にまつわる事件。

闇夜に溶け込みむ不死の存在。

吸血鬼と黒服の出会いの物語。



※世界各地にある吸血鬼伝承の中で、世界観と話にマッチするように、設定を削ったり強めたりしたてあります。

ルリカ

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[1]吸血鬼・前編1
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 夜/ルブル市内/とある酒場


 多くの人で賑わう酒場のひとテーブル。
 断とアリスは多くの料理が乗せられたテーブルで向かい合う。

「あんたはさ……酒場に来て酒も飲まないわけ?」
 仏頂面のアリスは文句を言いながら、大皿から炒め物を小皿に取り分け、口へと運ぶ。

「ここの酒場は料理が美味い故にな、それに妾は酒に弱い」
 断はアリスの文句も全く気に留めていない様子で、料理を食べ進める。

「1度でいいから、酔いつぶれた姿を見てみたいものね」
 アリスは料理を食べ進めながら、はっと思い出したように、ポケットから1枚の紙を取り出す。
「頼まれてた“行方不明者”の件、見つかったわよ」
「……攫われた先は?」
「あの“マヨイガ”って言われてた家よ」

 断は料理を食べ進める手を止めると、ハンカチで口を拭く。
「マヨイガに喰われた可能性は?」
「ないわ。私たちが潰した後だから」

 断が腕を組みしばらく考え込んでいると、再びアリスが口を開く。
「血を吸う化け物……」
「吸血鬼……いると思うかえ?」
「私の知り合いにもいるわ」

 その言葉を聞くと、断はアリスからメモを受け取り、行方不明者達の名前を読み込み始める。
「イーサン・シェベス……ソニア・ベント……ラーク・パス……」
「そんなじっくりと読み込む暇なんてないと思うわよ?」
「……それはどういう意味じゃ?」
「黒服のなよなよした奴……ドライゼだっけ? 現場に向かったわよ」

 その言葉を聞くと、断は椅子から立ち上がり、隣に置いたアタッシュケースを持ち上げる。

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[2]吸血鬼・前編2
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 昼/幹部会議終了後/黒服団詰所内/会議室


「ルリカちゃん? ちょっといい?」
「ええ、マウザーさん。時間ならいっぱいありますからー.....ちなみに私がマウザーさんより身長が高いのは厚底ヒール.....もしかして、これの売り場を知りたいですかー?」
「いや.....そうじゃないんだけど.....

 幹部会議の終了後にルリカを呼び止めたマウザーは、ルリカの冗談に苦笑いしながら、椅子に座り込む。
「今回の行方不明者の事件だけど……なんでドライゼ君に行かせたの?」

 ルリカはコーヒーカップを手に取ると、コーヒーを一気に飲み干す。
「ドライゼ君はまだまだ弱いです。だがら、1度でいいから生死を掛けるような場面に向かわせました……まぁ、犯人がいればですが……」
「……もし、危ない犯人だったらどうするの?」
「彼は危ないところにまで踏み込まないでしょう。踏み込むようなら、半人前以下です」

 ルリカは飛び上がるようにテーブルから立ち上がると、コーヒーのオカワリを汲みに近くの台へと向かう。
「それに、保険もかけておきました」
「……保険?」
「断さんの友人と言う方に、今回の件の情報を全て流しておきました」

 そういうと、ルリカは再びマウザーの前へと座り込むと、空のマウザーのティーカップへと、紅茶を注ぎなおす。
「超極秘事項ですがねー」

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[3]吸血鬼・前編3
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 深夜/とある森林奥地/元マヨイガ近く


(これ以上は不味いかな……)
 ドライゼは黒いフードを深く被りながら、廃墟の前に並ぶ死体の数々と、4人の女性を監視する。
(金髪の女性が主犯……というよりボスみたいなものかな)
 金髪の女性の前に膝をつく、小柄なピンクの髪の少女、長身な白髪の女性、黒髪の中背の女性。
 女性達は、それぞれ死体を金髪の女性へと差し出し、褒美なのか、その死体の一部をもらい受ける。

(もう少し手がかりを掴むか……それとも今日は……うっ!?)
 思わず声がでそうになり、ドライゼは手で口を押える。
 ドライゼでなくとも、余程、胆の座った者でなければ声がでてしまうような光景――
 ――4人の女性が死体を食い漁る……おぞましい光景。
 意志に反して、後ろに下がる体は、思いがけず地面に転がる枝をバキバキと踏み荒らす。
 枝を踏み折る音がドライゼの耳に届けば、咄嗟に振り返り、全力で駆けだす。
(不味い! 見つかったかも!)

 ひたすらに茂みをかき分け、少し開けた場所に出て竜に戻ろうとした途端、ドライゼは肩をポンと叩かれる。
「女性の食事をのぞき見なんて……失礼よ?」
「っぅ……!?」
 
 ドライゼは肩に置かれた手を咄嗟に弾くと、振り返り、翠の鱗で体を包むと、風を集めて短い槍を作り出す。

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[4]吸血鬼・前編4
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 数分後/とある森林奥地/元マヨイガ近く


「うっ.........あっ......」
 黒髪の女性が、細剣をドライゼの腹部へと突き立てると、素早く細剣を抜き、血を払うように細剣を振るう。

 ドライゼはバタリとその場に倒れ込み、傷口を押さえながら、息を荒らげて小刻みに震える。
「弱い子......これじゃ眷属にしても意味がないわね」
 黒髪の女性はドライゼの背中を踏みつけると、虫を見つめるように冷酷な目をドライゼへと向ける。

「ローラン。餌にしましょう」
 ローランと呼ばれた白髪の女性は、中華包丁を手に取ると、ドライゼの近くへしゃがみこみ、頭を押さえつける。
「じゃぁ、いっちゃうか♪見たいぞー。可愛い男が無惨に命を散らす......そんな光景♪」
「くっ......そっ......」
 ローランはゾクゾクとしながら、中華包丁を振り上げると、ドライゼの首元へと中華包丁を振り下ろす。

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[5]吸血鬼・前編5
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 振り下ろされた中華包丁は、硬いものに命中し、大きく弾かれる。
「ちっ!鱗が硬い」
「違うわ。よく見てみなさい」
 舌打ちをし、歯の欠けた中華包丁を眺めるローラン。
 ワンは押さえつけるドライゼの右腕の服を掴むと、勢いよく引き破る。

「くっ......」
 服の下に隠されていたのは、首元の頑丈な翠の鱗とは大違いの、ボロボロといまにも崩壊しそうなヒビの入った翠の鱗。
「首元の鱗に魔力を集中させているだけね」
「なるほどな......それじゃお楽しみタイムだ♪グラ! すぐにやるからな」
「はーい♪ 楽しみ楽しみー♪」

 ドライゼはグッと歯を噛み締めると、奥に立つ金髪の女性を睨みつける。
「ちゃんと残さず食ってやるから、安心しろよ」
「............っぅ!!」
 中華包丁がドライゼの肩口に入り込み、ドライゼの右腕の肉を裂き、骨を砕き、神経を断ち切る。
 その感覚がドライゼの脳内を刺激し、痛みへと変換されると、ドライゼは体を跳ね上げ、森中にこだまする悲痛な叫びを上げる。

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[6]吸血鬼・前編6
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 切断目から噴水の様に血が吹き出し、地面には大きな血溜まりが広がる。
 ローランは吹き出す血を手に浴びながら、ドライゼの切断された右手を掴み取ると、グラへと投げ渡す。
「わーい。いただきまーす♪」

 グラは骨ごとボリボリとあっという間まに、指先から肘辺りまで食べ進める。
「味はどうだ?」
「うーん......あんなに弱っちかったくせに、魔力が凄いほうじゅ〜ん♪」
「へぇ、そりゃいい」
 ローランはドライゼの背中に硬化させた爪を突き立てると、一気に腸を引きずり出す。
 ドライゼには叫ぶという余裕すらなく、ビクビクと体を痙攣させながら、失禁し、切断された肩口からはさらに激しく血を吹き出す。

 金髪の女性はその光景を心の底から楽しそうに眺める。
「クスクス♪ ちゃんと私の分も残しておくのよ?」
「頭と性器でしたかー?」
「違うはローラン。脳と目玉、舌、男性器、子宮よ。しっかりと覚えておきなさい」
「クスクス♪ ワンは頭がいいわね」
「ありがとうございます。それでは私も若くて綺麗な内蔵を......うん?」
 ワンと呼ばれた黒髪の女性がドライゼに近づいた瞬間、殺気と月明かりを反射する刀身が目に入る。
「ローラン!!」
 ワンはローランの首根っこを掴むと、大きく後ろへと飛び下がる。

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[7]吸血鬼・前編7
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「これはこれは……敏感なものがおるの」
「あんたが殺気を出し過ぎなだけじゃないの? よっと」
 断は茂みから脇差を振るいながら飛びだすが、黒髪の女性によって紙一重で回避させる。
 すかさず反撃に移ろうとする黒髪の女性の前へと、アリスは軽く落雷を落とす。

「アリス! 中に止血道具がはいっておる」
 断はアタッシュケースをアリスへと投げ渡すと、アリスは軽く頷き、ドライゼの元へと駆け寄っていく。

「その子のお仲間? 強そうね」
 金髪の女性が合図をすると、黒髪の女性は断の背後に回り込み、左右にピンクの髪の少女と白髪の長身の女性が位置をとる。
「強そうではなく、実際に強い故にの」
「あら、面白い女……食べちゃう前に名前だけでも聞いておこうかしら?」
「名を訊ねるなら、先ず自分達から……それが礼儀ではないかの?」
「確かにそうね。私達“吸血鬼”は高貴な存在だもの……失礼したわね」

 自らを吸血鬼と名乗る金髪の女性は、一歩下がるとスカートの端をつまみ、断に一礼する。
「後ろの黒髪はワン、横のピンクの髪の子はグラ、反対側の貴方と同じ白髪の子はローラン……3人とも私の眷属よ」

 断は金髪の女性の言葉を聞きながら、ローラン、グラと呼ばれた眷属を横眼で一瞥し、脇差を納刀する。
「そして私はシーズ。3人の主にして、正真正銘の吸血鬼……これでいいかしら」
「……妾は断。加賀美・断という」
「ダン? この国の人間ではないのね」
「いかにも。だから知りとうての……」
 断は手首を回しながら、準備運動の様にその場で軽いジャンプを始める。
「吸血鬼とはいか程のものかの」

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[8]吸血鬼・前編8
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「3対1で本当に勝てると思ってるのかしら? まだシーズ様も控えてるのよ?」
「確かにの......4人でかかれば妾の命に届くやもしれん」
 断は回れ右でワンの方へと振り返ると、不敵に笑うワンへと、意地悪な笑みを返す。
「ただ、確実に1人目......否、2人目は死ぬことになるぞ? たとえ伝承通りの吸血鬼だとしてもの」

 断は両手をあげると、グラとローランを指さし、再び不敵な笑いを浮かべる。
「それにしても、お主と違って、この2人は静かじゃの? 怯え竦んでおるのか?」
「舐めんな!! ............っ!?」
 挑発にのせられたグラは断へと向かっていくが、断は咄嗟にグラの懐へと潜り込むと、腹へと膝蹴りを食らわせ、グラを後ろへと吹き飛ばす。
「雑魚が......脆い脆い。そうよのローランとやら」
「......!?」
 気づかないように背後に忍び寄っていたはずのローランは、断の呼び掛けに驚きの表情を浮かべる。
 断は素早く、しゃがみこみローランの横なぎの切り裂きを避けると、前に転げるローランの髪を掴む。
「いてぇ!! 離せ!!」
「おう。離してやろう」
 断は振りかぶり、ローランをワンの方へと投げつける。

 ワンは飛んでくるローランをヒラリと避けると、クスリと笑みを浮かべる。
「ほう。お主は少し強そうよの」
「ええ、その2人よりは強いわよ」
「断!! 止血出来たわよ!!」
 アリスの声が響き渡ると、吸血鬼達は声の方を注視する。

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[9]吸血鬼・前編9
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アリスは止血の終わったドライゼを背負い、アタッシュケースに電気を帯電させると、ワンへと投げつける。
「全く、それは妾のものぞ」
「知ったこっちゃないわ!とっととずらかるわよ!」
アリスは翼を展開し、適当に前方へと羽根を飛ばしながら、上空へ上がっていく。

アタッシュケースを弾いたワンは2本の細剣を抜き、魔力を込め炎を纏わせると、周囲の羽根を燃やし尽くす。
「そこの雑魚2人は知らんが......」
断はワンの横を勢いよく走り抜けると、くるりとワン達の方へと向き直す。
「シーズとワンだったかの......また会おうぞ」
そう言い残すと、断は飛び上がり、脇差へと変化する。
アリスは脇差へと変化した断を掴むと、一気に空へと舞い上がり、サロンへ向かって飛んでいく。

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[10]吸血鬼・前編10
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翌晩/黒服団詰所内/会議室


 ルリカはグローザ、アキュラ、断――
 ――黒服の中でも戦闘能力に特化した、戦闘班と呼ばれる幹部を招集する。
「えーっと、まず初めに……」
「マウザーはどうしたのよ? 偉い叫び声がきこえてたけど」
 アキュラは、ルリカの言葉を遮るように、苛立った様子で、ドライゼの恋人であるマウザーの様子を訊ねる。
「……マウザーさんはステアーさん達に止めてもらってましたが……ステアーさん達を殴り倒して街へと向かってしまいました……」
「私だって真面目に来てるのに、副団長様がそんなんじゃ呆れものね」

 険悪な雰囲気の流れる中、ルリカは大きく咳払いすると、話を再開する。
「これから3人にはそれぞれの動きを説明します」
 ルリカはコルクボードに貼り付けた地図を軽く叩くと、アキュラを指さす。
「アキュラさんは私と来てください。いいですね?」
 アキュラは無言で立ち上がると、コルクボードに貼られた地図の方へと向かう。

「妾はあの家へと向かうぞ。よいな?」
「はい。元々、断さんにはそちらをお願いしようかと思ってましたから。後はグローザさん……」
 ルリカは続いてグローザを指さすと、ゆっくりと指を隣の部屋へと向ける。
「隣でガリルさんから指示を……何かは知りませんが、ガリルさんには吸血鬼達の監視をお願いしてますので……」

 歯切れの悪いルリカに、グローザはどうにも納得のいかない顔で立ち上がると、続けて断も立ち上がる。

「それでは皆さん、作戦開始です!!」

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[11]吸血鬼・前編11
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 会議終了後/暗がりの森/サキュバスSALON『ド・レイン』へ続く山道


 黒服内の伝令を担当するカラフルな喋る鳩――
 ――ガリルはバサバサと翼を羽ばたかせながら、カンテラを取り出す断の肩へと降り立つ。
「まだ吸血鬼はあの廃墟に居ったかえ?」
「ほほ、シーズだったかな? 彼女ならまだいるね」
「そうか。グローザへの指示というのは?」
「図らずとも屍食鬼に“成ってしまった”者への対処だ。何故だかあの吸血鬼は屍食鬼をコントロールしていない」
「お主の仕事は、今回もやはり伝令、偵察の類かへ?」

 ガリルは断の肩から飛び立つと、断の周りをゆっくりと旋回する。
「今回は私も直々に“討伐”にからもうかとね」
「……てっきりマウザーの捜索と思うておうたが」
「もちろん、依頼されたのはマウザー嬢の捜索だよ」

 ガリルは、少し驚いた表情を見せ、カンテラに火を灯し、歩き始める断の肩に再び止まる。
「もう見つけてしまったからね。だから余った時間を潰そうかとね」
「是非とも見てみたかったの。お主がどう戦うのかを」
「ほほほ、参考にならないと思うがね。魔法特化の私と、剣術特化の断嬢ではね」

 ガリルはそういうと、断の肩を強く蹴ると、バサバサと暗い夜の空へと飛び去って行く。
「見つけた上で放置とは、人.....いや、鳩が悪いの。しかし……あれを肩に止めると爪が痛いの」
 断は軽く肩を撫でると、山道を街へと向かい下っていく。



 〜〜〜吸血鬼・後編につづく〜〜〜

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