【怪奇譚G】『姉妹』





黒服団が出会う奇妙な事件や、伝承にまつわる事件。

連日の様に降り続く大雨。

降り続ける雨は音を消し、時折鳴り響く雷は一瞬だけ室内を照らし出す。

鏡にもたれかかる少女の目は光を灯さず、曇天の空の様に虚ろに一点を見つめる。

床に広がる血だまりには、外の豪雨と対照的に、ぽちゃんぽちゃんと血がしたたり落ちる。

ルリカ

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[1]第1話『怪奇事件』
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【断】
「妾は冒険者ギルドに登録しておっての・・・」
【グローザ】
「はぁ?いきなり何なのさー?」

珍しく断からの食事の誘いに、裏を感じながらも大人しくついてきたグローザ。
食事も終わると、何の脈絡もなく話始める断に、追加の注文をしながらも不審な目で断を見ながら、おとなしく話を聞くことにして。
【断】
「しかし仕事が回ってこぬ、特に最近はギルス騎士団で充分な仕事ばかりでの」
【グローザ】
「・・・で?そんな愚痴を聞かせるために私を誘ったのかー?」

断はアタッシュケースの中から数枚の資料と取り出すと、1枚をすっとテーブルに置くと。
【グローザ】
「なに・・・これ?」
断が取り出したのは、どこかの家の図面、1回に大きな鏡がある以外はいたって普通の・・・
【断】
「ここの鏡にもたれかかるように、少女の死体が見つかっての・・・」
【グローザ】
「死体ー?・・・それの犯人探しってことー?でもそれって・・・」
【断】
「うむ、そのような事案は衛兵やその辺の雑魚の仕事であろう・・・・しかしの・・」
断は図面を指でトントンと叩きながら話を続ける。
【断】
「見つかったのは左半分だけでの・・・」
【グローザ】
「へぇ?・・・左・・・半分・・・?」

断は顔の半分を手で隠すと。
【断】
「そうじゃ、正中線から綺麗に半分だけ・・・」

グローザは背筋に悪寒を走らせながら、ごくりと生唾を飲み込む。



〜〜〜続く〜〜〜

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[2]第2話『姉妹』
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雨こそあがったが曇天の雲に覆われた空を見上げながら、グローザも心をどんよりとさせて、断の隣を並んで歩く。

【断】
「どうであった?文字通り真っ二つであったろう?」
衛兵からギルドへの依頼ということもあり、すんなりと死体を見せてもらえたが・・・・
【グローザ】
「・・・えぐすぎ・・・・何だよーあれ・・・・」
【断】
「背骨まで綺麗に真っ二つ・・・一撃でやったのならともかく、ゆっくりと裂いたのであれば、犯人は常人ではないぞ」
【グローザ】
「・・・・姉貴の方は?」
【断】
「以前として行方不明だと・・・・普通であれば犯人の筆頭ではあるが・・・」

グローザは断の言葉に不思議そうな顔をして、顔を見下ろす。
【断】
「サロンのキャストにリアルスというものがおるであろう?」
【グローザ】
「うん、あの馬鹿力のサキュバスだろー?」
【断】
「うむ、それではそのリアルスがサロン以外に孤児院を手伝っておることは知っておるか?」
【グローザ】
「へっ?そんなことしてんだー、全然知らなかった」

断はどんどんと歩を進め、グローザは断に歩調を合わせながら歩き進める。
【断】
「この姉妹はそこの孤児院出身での、そこのもの曰、恋人の様に仲が良かったと・・・そういう話じゃ」
【グローザ】
「へぇー・・・ってことは、犯人というよりも、どっちかっていったら・・・・」
【断】
「第一発見者でもある姉は、妹の惨たらしい死に様に自ら命を絶った・・・・その可能性の方が高いの」

断が歩みを止めると、グローザは顔を見上げる・・・・
【グローザ】
「なぁ、此処って・・・・」
【断】
「うむ、甘味処じゃの」
【グローザ】
「あんなもん見た後に、甘いもんでも食うのか・・・?」
断は扉に手をかけ、ゆっくりと扉を開きながら。
【断】
「残念ながら違うの・・・ここで事件を解決までもっていく故、ついてまいれ」



〜〜〜続く〜〜〜

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[3]第3話『犬猿の仲』
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【断】
「邪魔するぞ、ワンはおるか?」
夕刻、客足の収まった甘味処に入っては、手短に用件を伝える。

【ワン】
「・・・いないわ。帰ってもらってもいいかしら?」
【断】
「居るではないか、女狐が」
【ワン】
「狐・・・・うふふ、いいわよね狐・・・可愛いし、食べても美味しいし」
【グローザ】
(・・・超居心地わりーな・・・)
険悪な2人に居心地悪そうな顔をしていると、店主が奥の部屋へと案内してくる。


奥の和室でお茶を飲みながら座り込んで待っていると、私服に着替えたワンが、お待たせと入ってきては座り込む。
【ワン】
「で?なんの用かしら?忙しくはないけど、手短に話してね」
【断】
「うむ、お主は血の匂いには敏感であろう?」
そういうと断はアタッシュケースから布にくるまれた、血に濡れた衣服の一部を取り出す。
【ワン】
「何かしらこれは?」
【グローザ】
「説明端折りすぎだってのー」
グローザは事件の発生から現在に至るまで事のあらましを丁寧に説明していく。


【ワン】
「・・・大体わかったわ」
【断】
「ではこの血の匂いと同じ匂いをたどれるかの?」
ワンはしばらく考えると、血に濡れた布を手に取って。
【ワン】
「できるわよ・・・・でも私への見返りはあるのかしら?」
【断】
「そんなものは後で考える故、とにかく案内したまえ・・・・それとも力ずくで引っ張ろうか?」

腰を上げて居合の構えを取ろうとする断よりも、グローザは素早く立ち上がり。
【グローザ】
「まぁ、頼むから協力してやってくれよー」
断の頭を押さえつけながら、頭を下げる。
【ワン】
「・・・いいわ、やってあげるから見返りはしっかりと考えておいてちょうだいね」
ワンは立ち上がり、布についた血の匂いを嗅ぐと2人を連れて店の外へと出ていく。



〜〜〜続く〜〜〜

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[4]第4話『純粋無垢』
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ワンは2人を連れて歩きながら、かすかな血の香りを頼りにどんどんと進んでいく。

時は深夜、曇天の雲が小雨を降らす中、グローザが口を開く。
【グローザ】
「なあなあ、そろそろ帰って明日にしねーか?」
【ワン】
「これ以上雨が降ったら香りも全部流されてしまうわよ?」

小雨の中、大きな橋の近くに差し掛かると・・・
【ワン】
「この橋の下よ・・・物凄い血の香りがするわ」
【断】
「ふむ、では降りるとするかの」

3人は梯子を使い橋の下に降ると、確かにそこに存在していた。
血のにじむ布にくるまれた大きな塊・・・・そして・・・
【ワン】
「あらあら・・・・うふふ、面白いことになってるじゃないの」
楽し気に微笑むワンの視線の先には、布にくるまれた半身の死体とその横でニコニコとこちらを見つめる、死体によく似た少女の姿。

【グローザ】
「・・・犯人を自力で見つけた・・・って感じには見えないなー」
グローザは刀を抜くと、少女をにらみつける。
【少女】
「あらっ!!貴方、剣士なのね!!ちょうどよかった」
刀を向けられてもニコニコと笑う少女に、グローザは理解の出来ない顔をして。
【少女】
「私、剣士を探してたの。貴方なら力も強そうだし、私を真っ二つにしてくれるよね?」

少女の言葉を理解できないままでいると、断は手に”気”を練り込み。
【断】
「妹が死んでおかしくなったかえ?・・・それとも、お主がやったのか?」
【少女】
「うん!!私が切ったんだよ。時間はかかったけど、綺麗に切れてたでしょ?」
悪意もなくニコニコと話す少女に、グローザは吐き気を覚えながらも。
【グローザ】
「・・・その罪滅ぼしかー?」
【少女】
「うんん、それは違うよ、剣士さん・・・」

死体を包んでいた布をはぎ取ると、妹の右半身を持ち上げ、ぎゅっと抱きしめて。
【少女】
「私たちは身も心も一心同体になるの」



〜〜〜続く〜〜〜

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[5]第5話『純粋な悪鬼』
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少女が笑顔で話し終えると、断は眼帯に隠された右目を押さえてうずくまる。
【グローザ】
「ちょっ!?おい!!」
【断】
「心配するでない・・・・ちょっとばかし、あてられただけ故・・・・」
【ワン】
(ふーん・・・感性が強いというのも考え物ね・・・)

うずくまる断から少女に目を戻すと、大きく身体を広げて、無垢な目でグローザを見つめて。
【少女】
「剣士さん、早く早く!!早くズバッと斬っちゃって」
【グローザ】
「・・・ひとつだけ・・・なんで殺した?一緒に暮らしてれば・・・」
【少女】
「だってこの子が、彼氏と一緒に暮らすって言いだしたんだもん。だからそんなこと出来ないように一つになるの」

少女が喋るたびに、断の息遣いは荒くなり、嘔吐しそうになるのを口を押さえて必死で堪える。
【少女】
「だからね、私は頑張ってのこっ!!」
グローザは少女の言葉を遮るように、少女の望むように脳天から少女の体を真っ二つに切り裂く。

【グローザ】
「はぁはぁ・・・なんだよ・・・くそっ・・・」
グローザはこと切れて動かない少女に目をやるが、咳き込む断の声に反応し、素早く断の元へと駆け寄る。
【ワン】
「大丈夫よ・・・気絶してるだけ」
【グローザ】
「そっか・・・」

大量の汗をかいて気絶する断を背負うと、少女の死体の処理をワンに頼もうとした矢先。
【ワン】
「ねぇ?死体の処理を任せてもらってもいいかしら?」
ワンの口から出た言葉に唖然としながら。
【グローザ】
「まぁ・・・やってくれんならありがたいけどさ・・・」
【ワン】
「うふふ、じゃあ決まりね」
微笑むワンに促されるように、とりあえずは断を詰所に運ぼうと、足早にその場を後にする。


【ワン】
「さてと、成功するのかしら?少なくとも私は見たことはないわね」
その場に座り込み、つぶやくワンの目の前で、妹の右半身と姉の左半身が黒い靄に引っ張られていく。



〜〜〜続く〜〜〜

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[6]第6話『ワンによる断』
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少女の左半身と妹の右半身は粘着質のある音を立てながら・・・・やがて1つの人間の形へと接合されていく。
小雨はやがて豪雨へと変わっていくが、ワンはその様子を瞬きすらせず、座り込んで観察し続ける。

【少女】
「うんっ・・・・・私・・・」
接合部に大きな傷を残し、ゆっくりと目を開く。
【ワン】
「おはよう、ご機嫌いかがかしら?」
ワンは立ち上がり、少女の元へと近寄ると、そっと手を差し出す。
【少女】

「貴方は・・・後ろで見ていた・・・」
少女はワンの手を掴み、ワンの助けを借りて立ち上がると、周囲をキョロキョロと見渡して・・・
【少女】
「あれは・・・私の体の半分・・」
【ワン】
「そうね。どういう原理か知らないけど、1つになったのね」

しばらくして、バンザイし、やったーっと喜びはしゃぐ少女にワンは細剣を差し出すと。
【ワン】
「これからどうするのか知らないけれど、必要でしょう?」
【少女】
「そうねー・・・ほとぼりが冷めて傷が治るまでは・・・」
顎に指を当てて考えると、少女は左手を伸ばしてワンから細剣を受取ろうとする・・・・しかし・・・
ワンは手をどけ、細剣を渡そうとしない。
【ワン】
「貴方には聞いていないの・・・ねぇ?どうしたいのかしら?もう一人のお嬢さん?」
ワンは再び細剣を差し出す。
【少女】
「お姉さん・・?何を・・・?」

少女が不思議そうにワンを見つめると、意思とは関係なく少女の右手が細剣に伸び、ワンから細剣を受取る。
【少女】
「えっ!?ちょっと・・・なにこれ!?」
右手は細剣を迷いなく首に当てて、自ら首を切ろうとするが・・・・
【ワン】
「もういいわ・・・・いい子ね、貸しなさい」

ワンは少女に近寄り、渡した細剣を奪い取ると、ゆっくりと振り上げて。
【ワン】
「妹さんは綺麗ね・・・・・貴方は・・・吐き気がするほど気持ち悪いわ」
有無も言わさず細剣を振り下ろすと、つながった少女の体を再び切断する。



〜〜〜続く〜〜〜

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[7]第7話『眷属』
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ワンは切断した少女の体の右半身、元妹の部分を倒れる前にそっと受け止めると。
【ワン】
「こんな体にされて、蘇っても自ら死を選んで・・・・そして自害を選んでも自分側の首に刃を当てる・・・」

ワンはそっと妹の半身を寝かすと、もう片側・・・・姉の方の半身を持ち上げて。
【ワン】
「あの女が動けなくなる程の悪鬼・・・・半身は差し出すけど、もう片方は犬の餌にでもしましょうかね」

とりあえず死体を布に包むと、直後、とりあえず宿に断を預けてきたグローザが戻ってくる。
【グローザ】
「やっぱりなー、まだ終わってない・・・っていうかなんか企んでるよなー?」
グローザに姉の真っ二つの死体が入った袋を投げ渡すと。
【ワン】
「ええ、企んでるわよ。この子を眷属にするの」
【グローザ】
「・・・・・はぁ?」
【ワン】
「聞こえなかったのかしら?この子を眷属にするの、だから半身の保存場所を教えて頂戴」
【グローザ】
「・・うーーん・・・まぁそれが見返りってことで・・・いいのかー?」
【ワン】
「ええ、十分よ」

グローザは死体をしっかりと包み固定しながら、ワンに死体の保存場所を教える。
【ワン】
「ありがとう、じゃあ腐らないうちに行ってくるわね」
ワンは半身を布に包むと、グローザに後を任せながら豪雨の中を、妹の死体の保存場所へと歩き始める。


”悪鬼は人の面を被り、狂うことなく狂気に走る・・・”



〜〜〜姉妹・完〜〜〜

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