【怪奇譚O】『螺旋階段』





黒服団達が出会う奇妙な事件や、伝承にまつわる事件。

衛兵からの手紙を発端に事件に巻き込まれるアキュラ。

彼女は衛兵のある派閥と共に事件の真相へと迫っていく…

ルリカ

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[1]第1話『依頼』
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昼食後/黒服団詰所内/ルリカの執務室



「で? 今日はなに?」

「なんでいきなり喧嘩口調なんですか……ドライゼ君」

 椅子に座り込むルリカに対して、アキュラは椅子に座り全く別方向を向いて座ると、ドライゼからお茶と1枚の手紙を受取る。

「これは…?」

「衛兵からアキュラさんに手紙です。おそらく前回の事件の解決の功績が認められ、同じように事件解決の協力をお願いしたいのだと…」

 ドライゼの説明を受けながら、アキュラは蝋印を剥がすと床に捨て、中身を確認する。

「で、グローザは遠出中だけどいいのかしら? 私だけで?」

 ルリカはドライゼにコーヒーをお願いすると、ふーっと息を吐く。

「グローザさんの戦力は火を見るまでもなく明らかです……アキュラさんにはぜひともその“知性”を示してもらいたいのです」



続く

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[2]第2話『ザルマン・シェベス』
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夜/ルブル市内/とある宿屋


 呼び出されたのは衛兵の駐屯地ではなく何故か宿……そして時間帯も夜。
 アキュラは不思議に思いながらも、呼び出された部屋の扉をノックもなしに勢いよく開く。

「ひゃっ!! びっくりした…」

「エリザ? 何でいるのよ?」

 エリザがいることを不思議に思いながらも、アキュラは扉を閉めると、エリザの隣に座り、先程から腕を組みこちらの様子を少し微笑みながら見つめる人物に目を向ける。

 白い服に身を包んだ…男性?女性?……少し判別の難しい男性は2人に資料を渡しながら口を開く。

「お二方とも初めましてザルマン・シェベスと申します。以後お見知り置きを」

「あっ、どうもエリザです」

「アキュラよ……で?本題とエリザまで呼んだ理由は?」

「先の“連続首吊り事件”でのお二方の活躍を派閥のものから聞きました。そのお力を貸していただけないかとお呼びしたしだいです」

「派閥…ね……」

 派閥という言葉に明らかにアキュラの雰囲気が変わったことに、エリザは少し怯えながらも、どうすることも出来ずにアキュラの次の言葉を待ちながら、アキュラとシェベスをキョロキョロと伏し目がちに見比べる。

「ひとついいかしら?」

「はい、なんでも…」

「事件の解決のために私達の力が欲しい?…それとも派閥のために私達の力が欲しいのかしら?」



続く

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[3]第3話『正直者は…』
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「8割方は派閥の為です」

「そう…」

シェベスのシンプルな答えに、アキュラは一言返すと、シェベスについていた衛兵が用意してくれた紅茶を1口飲む。

その短い問答にエリザは不安を抱き、思わず口を開く

「……怒って…ます?」

「何で怒る必要があるのよ。平和のためー…とか心にもないことを言ったら帰ろうと思っただけよ」

アキュラは脚を組むと、未だに不安そうな顔をするエリザの額をピンと指で軽く弾く。

「無事了承いただけたようで何よりです……それでは事件の概要を…向かいながらでも大丈夫でしょう」



続く

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[4]第4話『螺旋階段』
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30分後/ルブル市内/事件現場


「へぇ、これが…」

「螺旋階段…ですか……」

翌日にアキュラとエリザが案内されたのは、少し大きめの民家…

事件の概要はこうだ。
民家の持ち主は有名な錬金術師であったが、突如として行方不明に。
その行方を探しに行ったものが、家の地下に螺旋階段が造られているのを発見した。

「私も報告と書類だけではにわかに信じ難い話でした。しかし、実際にこの螺旋階段を目にすると…」

「…吸い込まれそう………」

エリザが呟いた通り、螺旋階段は真っ暗な地下へと繋がっている。
ずっと覗いていれば、吸い込まれそうなほどの漆黒の空間へと……

「私達の派閥に担当が移る前に、衛兵が3人この階段を降りて行きましたが、未だに帰って来ていません」

アキュラは近くの石を拾い上げ、螺旋階段に近づくと、その石を投げ込む。
当然といえば当然だが、途中で石も見えなくなり、何かに当たった音も聞こえてこない。

「エリザ、この螺旋階段をゴーレムに変えれるかしら?」

「実はさっきからやってますが……その…魔力が全く流れないんです…」

「魔力が流れない?人工物にしろ、自然石にしろ魔力が流れないなんて…」

不思議に思う2人にシェベスは言葉をかける。

「我々の常識の範囲外……そんな物質で出来ている…という訳です」



続く

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[5]第5話『気配』
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「有り得ないものが、目の前にあるって事かしら?」

「はい、もしかしたら我々は発見者になるかもしれませんが……それが現存の螺旋階段の形を模しているといのは有り得ない」

シェベスは部下から片手サイズの銃を受け取ると、暗い空間に向ける。

「全員武器を……何か気配が近づいて来ています」

そういうと、シェベスは下へ向けて銃を放つ。
直後、穴からは羽音を響かせながら、大量の大きな蜂が姿を表す。

「エリザ!!」

「わかってます!!」

出てくるや否や、辺りの衛兵に向かって飛んでくる蜂をアキュラは風を起こし羽ばたきを妨害すると、エリザはゴーレムを生成し、片っ端から踏み潰していく。



続く

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[6]第6話『蜂』
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(蜂…?確かに地下に巣を作る蜂は存在しますが…)

暴風とゴーレムによって順当に蜂の群れが迎撃される中、衛兵達は上へと上がろうとする蜂を扉を閉めて撃ち落としていく。



「はぁはぁ…全部…倒せましたかね…?」

「知らないわよ…倒してたのはあんたでしょ?」

アキュラとエリザは少し息を荒らげながらも、周囲に蜂の残りがいないかを確認しながら、近寄ってきた衛兵から水を受け取る。

「お二方ともお疲れ様です……しかし、すぐにこれを見て欲しい…」

シェベスは2人へと近寄ると、2人だけでなく周り全体に見せつける様に、比較的形を残したまま死んでいる蜂を指でつまみ上げる。

「さっきの蜂…ですか…?」

「はい、でもこれは自然界の生物としては有り得ない……全身が刃物の様になっています」

シェベスは蜂の亡骸を振り回すと、近くの衛兵が持っていた鉄製の盾へと傷をつける。

鉄に傷がはいる……それほどまでに蜂は鋭利…そしてそれは体全体を覆っている。

「シェベスさん周りの方々が説明を欲しがって……あと、私も…」

申し訳なさそうにエリザが手を上げると、周囲も頷く。
1人だけその意味を理解したアキュラを除いて……



続く

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[7]第7話『解決策?』
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「全身鋭利な体でどうやって生殖活動するのよ?ってことでしょ?」

「ええ、収納可能なら別の話になりますが…」

壁にもたれかかり様子を見ていたアキュラは、シェベスよりも先に口を開くと、シェベスも小さく頷く。


シェベスやアキュラは周囲に散らばる死骸を片っ端から拾い上げるが、生殖器と思えるものも見つからず、エリザが2人のためにタオルを用意した頃、1人の衛兵が静かにシェベスへとある提案を耳打ちする。

それは当然の提案。
ここを塞いでしまう事……降りていった3人の衛兵や行方不明の住人は置いて………

「……私としては塞ぎたくは無い…塞げば解決はない…あくまで止めるだけの応急処置です。しかし……」

シェベスとしては当然の答え。
4人も行方不明がでたまま事件の捜査を停止する。
しかし、今回限りは状況が少しだけ違うのも確か……

「訳の分からない生物……いや、生物の形をもした武器が出てきたとなると…………こういう事柄に慣れていそうなアキュラさんの意見を参考にしたい」



続く

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[8]第8話『アキュラの答えとエリザの感性』
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シェベスの言葉に皆、アキュラへと視線を向けると、アキュラは静かに口を開く。

「私の思う通りにしてもらえるのかしら?」

「ええ、できるだけそうしようかと…」

「……塞ぐわ。私ならね…」

「そうですか……エリザさんはよろしいでしょうか?」

エリザの独特な感性……事情。
怪奇に巻き込まれ、怪奇により殺され…怪奇によって再び生を得た……

そんな感性が何かを感じ取ったのか、エリザは小さく頷く。




続く

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[9]第9話『埋め立て』
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翌日の夕刻/ルブル市内/事件現場


「おい!!土はこっちだ!!後で隙間にいれる」

「鉄の量が足りません!!追加で発注を……」

シェベスの迅速な指揮の元、1日もかからずに至る所で資材の準備が始まるが、資材が足りずに現場では大声が飛び交う。

それもそのはず、シェベスの考えた塞ぎ方が類を見ない塞ぎ方。
エリザのゴーレムの力を借り、薄い鉄板を方向を変え、ミルフィーユ状に重ねて地下室を防ごうという効率を無視した方法。

「シェベス…でいいかしら?……少し過剰過ぎない?」

アキュラの言う通り、そして口には出さないがエリザも、準備を行う衛兵達も思っているだろう…この埋め方は些か過剰だと…

「ええ、過剰です……当事者以外から見れば…」

「どういう意味ですか?」

「話だけは聞いています…お二方は怪奇に詳しいと…」

「違うわよ。勝手に寄ってくるだけ…」

「それは失礼致しました。しかし、その怪奇も可能性としてのこの塞ぎ方です……資材が揃うまではもう少しかかりそうですので、中でお話を…」



続く

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[10]第10話『アキュラ』
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夜中/ルブル市内


すっかり人気もなくなった街。
アキュラとエリザは無言で帰路につきながらも、我慢出来なくなったエリザが口を開く。

「アキュラさん…シェベスさんは何故私たちみたいな外部の人の意見を素直に受け入れたと思います?」

「知らないわよ…というか、他人の頭の中のことなんて普通は分からないわよ」

「そうです…よね…」

「でも、時間をおいて…状況を客観視し…考察することなら誰でも出来るわ」

アキュラでも分からないことはある。
そんなことを分かりながらも、アキュラの言葉にエリザはしゅんとして頭を下げた次の途端、アキュラの口から発せられた言葉に、エリザはパッと顔をあげる。

「あんた…表情豊かね…」

「どうでもいいですそんなこと!それよりアキュラさんの考え教えてください!」

「そうね……まぁ、とりあえず何処か入りましょうか?…お腹も空いたわ」



続く

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[11]第11話『グローザへの手紙』
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私がエリザに語ったのは、あの“螺旋階段”が“降りる”ための物ではなく“上がる”ための物…そういうこと。

地上で過ごしているから、それは素直に受け入れにくいかもしれない。

でも、地底に住む者がいるなら、あの“螺旋階段”は“上がる”もの…その認識が普通なんだと思うわ。

読んでて不思議に思うのは分かるわ。

でもあんたは“竜人”私は“エルフ”…アリスは“悪魔”でエリザは“吸血鬼”

今更、地底人とか出て来ても不思議でも何でもないわ。

シェベスはそれにいち早く気づき、そしてそれの“進行”を防ぐために塞いだ……あんたも帰ってきたら1回会いに行きなさい…まぁ、そのうち会うだろうけど…


P.S.

早く帰って来ないと、私はエリザに夢中になっちゃうわよー。



〜〜〜螺旋階段・完〜〜〜

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