ド・レイン小説『召喚術士大戦 』



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[31]召喚術士K


㉛エンテ・セルピ

「さて、仕上げといこうか!」
 衝突のダメージでなかなか立ち上がれない三体の前に歩いてきたサイアが両の手を大きく広げた。
「レジャネーヤ・バーニャ(凍てつく暴風)」
 ビュフゥゥゥウウウ!! サイアの前方のみ、倒れている三体を包み込む範囲のみで風が荒れ狂う。この術式が竜巻と異なるのは、ただの上昇気流ではなく限られた範囲のみで風を循環させるところだ。従って周囲に被害を出す事なく目的を達せられる。
「ぐわあああああああぁぁぁぁぁぁぁ」三体の悲鳴が広場中に響き渡る。この暴風は凍気を含み対象者を凍てつかせ、更には氷の刃で切り刻む。たった1ラウンドの攻撃で三体はボロボロにされてしまった。
「終わったな。全く、早く着くのも善し悪しだ。パルナの聖騎士どもの手助けをする事になったのだからな」
「そう言うなよ。パルナとは友好関係を築いているのだ。それに良い肩慣らしになったのではないか」
 ぼやくサイアを窘めるのは戦士風の人間である。いや魔法衣を着ているから魔術師、召喚術士か。
「ではゾルゲイ、後はパルナの聖騎士に任せて我々は居住区とやらに行こうか」
「いや、まだ終わってないようだ」
 歩み寄ってきたサイアに後ろを向くように促すゾルゲイ。振り返ったサイアの目には、青年ジャイアントが立ち上がろうとする姿が映った。
「ほぉ、レジャネーヤ・バーニャをくらってまだ立ち上がれるとはな」
「お…俺は…逃げな…い」
「やめておけ。お前は戦える状態ではない」
 サイアの言葉は賞賛であった。それ程の破壊力がある術式だったのである。その証拠にオーガーとビーストはその衝撃で気を失ったままなのだ。
 そして忠告をしたのは、必殺の術式を耐えた青年への情けであった。立ち上がりはしたものの出血や骨折などのダメージによって満足に戦える状態ではないのは、周囲で見守っている者達の目にも明らかだった。
「倒…す」
 それでも青年の目から戦いの火が消える事はなかった。フラフラしつつも拳は前に向けられ、その視線はサイアの動きを逃すまいと注がれている。
「…そうか、では一撃で倒してやろう」
 サイアはこの青年のようなタイプが嫌いではない。恐らくは良い戦士になる素質があると思った。しかし向かってくるのであれば倒さねばならない。
「コピーヤ・ソルンサ(太陽の槍)」
 サイアは大きく右拳を引き、左手の平を青年へと向ける。引いた拳には膨大な熱量が灯り、周囲の気温が何度も上がっていくのを観戦者は感じた。
「今度は熱?炎?あの巨人って氷を使うだけじゃないの?」
「北の巨人族は、世界に散らばる遍く全ての巨人族の特性を学ぶと聞いた事があります。そして会得した特性の数が彼らの称号になると」
 リオの疑問にアウルムが昔に読んだ書物の記憶を呼び戻しながら答える。
「先程サイアさんはエンテ・セルピと名乗りました。私の記憶だとこれは六を現す古代語のワードです。恐らくサイアさんは六つの巨人族の特性を会得しておられます」
 アウルムの記憶通り、北の巨人族は世界に散らばる同胞の特性を身につけようと研鑽をする。その数は十三種。これを達人といえるレベルまで昇華して初めて会得したと認められる。そのための修練法が受け継がれているのだ。一つの特性を会得するまでの平均期間はおよそ十年。長寿の巨人族ではあるが、修練が困難な事もあって高位称号を持つ者は少ない。そんな巨人族の中でサイアは六つの特性を合わせて十年で会得した。
「では行くぞ」
 サイアの重心が前に移動していく。刹那、加速した。
青年は動かない。いや動けない。
 高熱を帯びた拳が青年を捉え…

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[32]召喚術士K


㉜救済をする者

「!?」
 サイアの視界に黒一色の人間が映った。それも自分と青年の間に!
 Kだった−
「ぐっ」
 繰り出された拳は最早止められない。このままKを打ち抜くのか?
 力を抜き術式も解くが、それでも人間一人を消失させる事が出来る破壊力と熱量は急には消失しない。
「なっ!?」
 気がつけば、いや一瞬でサイアはKと青年ジャイアントを越えた場所にいた。
 まるでそこに誰もいなかったかのように、必殺の拳を空振って。
「K!貴様、何をした!何故、邪魔をする!!」
 邪魔をされた事に激昂したサイアは拳を握りしめてKを問い詰める。
「あの…ひさしぶりです。サイア君。あの…もうやめたげて下さい。ね?ね?」
 ふら〜っとサイアに歩み寄ってきたKがサイアの拳やら腕やらを手の平でタッチしたりしながら懇願する。
「や…やめろ!気持ちの悪い。お前はどうしてこうなんだ」
 興がそがれたといった感じで拳を降ろして後ずさるサイアは、内心では青年ジャイアントにトドメを刺さないで済んだ事にホッとしていた。戦士として倒さねばという心と、生かしてやりたいという心が葛藤していたのだ。
「で?やめたとしてどうするんだ?おまえは」
「それはですねぇ」
 Kが説明しようとした時だった。
「は〜い、カムア君〜。連れてきたわよ〜」
 元気なハスキー声が近づいてきた。執事服をお洒落に着こなしている長身の麗人だ。
「はい、ごめんなさいね。道をあけてね〜」
 麗人が声をかけると群衆がさっと道をあける。これはカリスマだから!という事ではない。彼が持っているものに理由があった。 
「貴様はKのグレーターデーモン!なるほど、貴様も出るのだな?この大会に」
「あら、サイア君じゃないの?元気にしてた?私はただのカムア君の付き添いよ〜」
 朗らかな会話…だろうか。一人は三体の魔物を一人で倒してしまった巨人族の戦士、そしてもう一人は…。
「よいしょっと♪」
 ドスン− 持っていたものを地面に降ろす。
「あれって!?」リオが本日何度目かの驚愕の声をあげた。
「先程逃げたトカゲ男と猫ちゃんですねー。流石はセコムンさん。一人で捕まえたんですねーもぐもぐ」
 すっかり観戦モードになったルリカがいか焼きを食べながら答えた。
「はい、貴方たちは静かにイイコにしていなさいね」
 セコムンが降ろしたエルダーリザードマンとホークキャットに微笑みかけると、二体は震えながら縮み上がって頭を縦に何度も振った。
「ありがとう。セコムンちゃん。…残りの三人は危ないなぁ…。サイア君が大人げないから…」
「おい、K。喧嘩売ってるか?」
「売ってませんよ。それより…手当をしませんとね」
 取り急ぎ"仕立て屋ピクシー軍団”に手当を指示し、自らはどこから出したのかヒールポーションやエリクサーを出すと、倒れている三体に与え始めた。

「おい、カムア。何をしてるんだ?」
 事態が落ち着いて来たため、聖騎士隊に戦闘配置から警戒配置に指示を変えたリーランドがやって来てKを問いただす。
「ええっと、救急治療…ですが」
「正気か?こいつらは契約不十分状態で暴れたんだぞ?こちらで確保させて貰う」
「うーんと…出来れば僕の方で保護してあげたいと言いますか…」
 そう言いつつ立ち上がり、キョロキョロと周囲を見渡すK。
「気持ちはわかるが、こういう事は規定通りにやらないとだな」
「あ、いた!」
 Kが指さした先には、先程青年ジャイアントに拉致された召喚術士がいた。
「セコムンちゃん、確保!」「らじゃ!」
 Kが指示するとセコムンが綺麗に手入れされているネイルをその術士に向けた。そして指先をチョイっと捻る。
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
 叫び声が近づいてきて、あっという間に術士はセコムンに首根っこを持たれた形でぷらーんとぶら下げられた。

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[33]召喚術士K


㉝禁忌契約からの解放

「はい、たぶんですね…ここらへんに…」
 Kが術士の魔法衣の中に手を入れてまさぐる。
「こら!やめろ!どこ触って…ぎゃあああーーーっ」
 セコムンが軽く軽く首をギュッとすると、術士は悲鳴をあげてから大人しくなった。
「ああ、あった。これだ」
 Kの手には六つのスクロールがあった。それをリーランドに渡す。
「なんだ?これは」
「彼はこれを使ってこの子達を使役していたんですよ」
「魔具を使っての使役も認められていると思うが?」
 首を傾げるリーランドにスクロールを広げるようにKは言った。
「…なんだ?この文字は」
 そこにはルーンなどの魔法文字とは異なる文字が羅列してあった。薄気味が悪く禍々しい気配する感じられる。
「これは呪術に用いる文字や記号です。彼は…魔具ではなく呪具を用いてこの子達を支配していたのですよ…」
「なんだと!?」
 魔具と呪具は似て非なるものだ。魔具は文字通り魔術を用いる道具である。ところが呪具は…。呪いと祝いは同義であるが、共に神の力によるものである。呪いと言われる殆どは生物の魂を縛るなどの禁忌にあたり、人間界だけでなく魔界においても禁止事項となっているのだ。
「従来の契約術も、もしかしたらまだ何処か行われているかもですが、酷い拷問などの上で結ばれているものもあります。しかし呪術は…」
 人ではなく神の、大体の場合が邪神とされる混沌の存在の力を借りて行う契約術は、術士も魔物も魂レベルで浸食される。下手をすれば邪神の顕現の贄にされる事もあるのだ。それゆえの禁忌である。
「なるほどな。被害者だと思っていたこいつが実は加害者だったというわけか。おい!詰め所で話を聞かせて貰おうか」
「ひぃぃ」
 リーランドが鋭い目で術士を睨み付けると、術士は消えそうな引き声で悲鳴をあげた。
「しかし、よくこいつが呪具を使っているとわかったな」
「ええ、先程この子達が発現した時に、呪術の気配を感じたんです。それにちゃんとした契約なら術士への危害を与えない制約も入れられるでしょうに、彼はあっけなく拉致られてましたからねぇ」
 ちゃんとした契約術であれば、制約はオートマチックである。しかし呪術の場合は異なる。行使する呪法については、呪術をかけた者の意思で行わなければならないのだ。
「なるほどな。こいつらは反旗を翻すタイミングを狙っていた訳か」
 こうなると倒れている魔物達が哀れに思えてくる。リーランドは改めて犯人である術士を睨み付けた。

「では、この子達は僕が保護するって事で!何かあれば証人として出頭させますから。ね?ね?」
 リーランドにふら〜っと近づいて、肩やら腕やらにペタペタとスキンシップを図りながら訴えかけるK。
「やめろよ。気持ち悪い…。保護するって、何かあったらどうするつもりだ?」
 引き気味に問うリーランドにKはにこやかに答えた。
「え?何かあった事ってありましたか?僕が保護した子で」
「…ない…と思う」
 災厄戦後、Kが仲間になった魔物達を殺処分せずに保護したのは有名な話である。最もそのための資金繰りが苦しくて、ド・レインを開設する事になったのだが…。
 そしてKが保護した魔物が人間界でトラブルを起こした事例は未だ報告されていなかった。
「はい!では決まりという事で!」
 ぱんっとKが手を叩くと、五体の魔物を直下に扉が出来た。
”きぃぃ〜”扉があいて
”わーーっ”魔物達が落ちるように吸い込まれて
”ばたん!”扉が閉まった。
「はい、収容致しました。では僕も失礼して、彼らの解呪と手当に入ります」
 宣言したKの直下にも扉が出現した。
「おい!ちょっと待て。こちらとしては手当の様子とか、保護した場所も知っておきたいんだが」
 止めるリーランドにKはニコッと笑って提案をする。
「良いですよ。リーランドさんでも誰でも、一緒に来ますか?」
「え…」
 暫し固まるリーランド。
「よし!ジェイソン!お前行ってこい!」
 後ろに控えていた巨体の聖騎士を推挙する。
「え?俺…ですか?」
 突然の命令に戸惑うジェイソン。寡黙で頼もしい白聖騎がガチに緊張をしている。
「あ、じゃあジェイソン君、行きましょう」
「いや、ちょっと待て…わーーーーーっ」
 ジェイソンの手を握ったKが、そのまま扉を開く。するとKとジェイソンの体がその中に消えていき…
”ばたん!”閉まると同時に白聖騎ジェイソンが珍しく発していた叫び声も、そして扉も消えた。
「…大丈夫だよな?」
 リーランドは不安げに、近くに居たリオに尋ねる
「さぁ、僕らも初めて見ますよ。いつもの転送術ではないようでした」
「マジか!?」
 Kの奇行に慣れているリオは「きっと大会に向けて準備した何かしらだろうなぁ」とざっくり受け入れていたが、額を押さえるリーランドはストレス性の頭痛が再燃したようだった。

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[34]召喚術士K


㉞それからのルリカ

召喚術士技量競技大会・本戦組み合わせ発表日−
 予選会から三日後、いよいよ本戦の組み合わせが発表される。本戦はトーナメント形式である事と競技内容が、予選後に明かされた。
 ちなみに競技内容は闘技であり一試合につき出場魔物数は五体、そして試合内容は団体戦というのが共通事項であり、星取りか勝ち抜きかは試合前に対戦者同士で話し合う事となっていた。

 ウツロイシティ・本戦参加者居住区− 予選を突破したKに割り当てられた居住区はかなり広かった。国家代表で来る者もいるので、警備の観点でも必要な処置なのだろう。当初の予定通りに黒服団のメインメンバーがやってきて居住区内の警備を始め、SALONのキャストも何人か、観光目的で顔を出していた。
「ねぇルリカ、確か本戦の組み合わせ発表って今日の正午だよね?」
 Kが館とこちらを行き来する召喚陣を設定した部屋で、本を読みつつKの帰りを待っていたリオが床に寝転びながらウツロイシティ名物を食べまくり状態のルリカに尋ねた。
「えっと…。ええ、そのはずですねーもぐもぐー」
「そっか。…あれだよね。マスター忘れているかもだよね。戻って来ないから、リーランドさんが考えてくれた祝勝会もなくなっちゃったしね」
 Kは中央広場で騒ぎを起こしてしまった魔物達を保護してから、居住区の整備のために一度顔を見せに来たきり戻って来なかったのだ。
 Kが戻ったら教えろと言ってくれたリーランドに謝りに行ったら「じゃあ本戦で優勝したら今回の分も併せて盛大にやってやろう」と言われて更に恐縮するはめになった。
「まぁ試合日までに戻れば大丈夫なので、別に見なくても大丈夫かと。あっこれも美味しい〜モグモグ」
「……」
 食べるか喋るか転がるかのルリカをジト目で見つめるリオ。確かにその通りなのだが、普通は対戦相手をいち早く知って対策を立てるものではないだろうか。
「まぁマスターはぶっつけ本番でも大丈夫かもだけどね」
 普通のスポーツの試合ではなく実戦形式の闘技である。災厄戦などの戦争も経験しているKなら、その場に適した魔物を事前対策無しでも選択出来るだろうなと考える事は出来るのだが…。
「じゃあ僕が見てくるよ。必要ないかもだけど」
「はーい、いってらーもぐもぐー」
 やや自虐気味のリオに、食べ寝転がり状態のルリカが手を振って見送る。
「ルリカ…ここに来てから食べまくってるけど、大丈夫なの?」
「ええ、お腹は至って元気ですー。いくらでも食べられますー」
「いや、お腹まわり…の事なんだけどね」
「何言ってるんですかー、私のわがままボディは健在ですよーもぐもぐも〜」
「多分だけど、お腹まわり=身長に見えるんだけどねぇ」
 ルリカの身長は139cmである。…という事は…。
 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ〜。転がる円周139cmの球体。
「ハッッッ い…いつの間に!?」
「じゃあ、いってきま〜す」
「あ、リオさん!待って…。ぎゃん!」
 立ち上がろうとするも重心が不安定になっているわがままボディ状態のルリカは、すぐさま転倒すると壁まで一直線に転がっていった。

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[35]召喚術士K


㉟麗人クレリア

「まったくルリカは…」
 中央広場への道を歩きながら、リオは転がるルリカを思い出して思わず呟いた。
「それにしても…ほぼ同じ量を食べているのに、リリーさんはいつも通りなんだよねぇ」
 ルリカと食べまくり友のリリーは、ルリカと同等の食事量にも関わらず体型は維持され可憐さが揺るがない。もしかしたらリリーはカロリーをエナジーに完全変換出来るのかもしれないとリオは考えた。

「よぉお姉ちゃん、一人かい?」
「俺らと遊ばないか?美味しいクレープのお店知ってるんだ」
 ゴロつきAとゴロつきBが現れた!
「…また?もう…」
 リオはゴロつき達をジト目でみた
「なぁ〜」「良いだろう〜?」
 ゴロつき達はリオを誘った!
 しかしリオには効かなかった
「あ…」「うわ…」
 ゴロつき達は逃げ出した!
 リオは経験値0と0ゴールドを手に入れた

「あれ?なんで?」
 ゴロつき達は後ろ歩きで遠ざかっていく。こちらをポーっと見ながら。
「君、少し良いだろうか」
 リオの背後から澄んだ声がした。振り返ったリオはゴロつき達の逃走理由を理解した。
「え…あ…はい」
 これしか話せなかった。目の前に立つ黒髪の麗人はニコッと笑うと、リオの目線まで姿勢を落として話を続けた。
「私は中央広場まで行きたいのだが、恥ずかしながら道に迷ってしまってな。道を教えてくれないか?」
「え…あの…僕も中央広場まで…行くです。一緒に…行きますか?」
「そうか!それは助かる」
 麗人の満面の笑みにリオは思わず赤面する。
(この人…人間だよね?なんでサキュバスである僕が…)
 リオが考える通り、これは異常事態だった。どんな美人であったとしても、種族的に人間はサキュバスの魅力には敵わない。なのに目の前の女性は…。
「あの…どちらからいらっしゃったんですか?」
「私か?私は東の方から来た。家が古くからの銀竜公の縁者でな。今回はそれが縁でこちらに参ったのだ。今居住しているのは東門の外の銀竜公の駐屯地でな」
 感じの良い話し方。綺麗なのに凜とした佇まい、そして颯爽と歩く姿は見る者を魅了する。その気高き姿は神々しくもあり、並の男など近づけないだろう。
(なるほど…こりゃあ逃げるよね)
 振り返るとゴロつき達が数人、こちらを物陰に隠れながら見つめている。その距離10m程、麗人のオーラに気圧されて恐らくそれ以上は近づけないのだ。
「あ、あそこです。中央広場」
「おお」
 麗人の魅力的なオーラに慣れてきたリオは、無事にミッションをクリアした。
「あ、その…良かったらお名前を。僕はリオと言います」
「ああ、すまなかった。名乗らずにお願いだけしてしまって。私はクレリアという」
 麗人クレリアはリオに非礼を詫びると、リオの目を見つめて尋ねた。
「君は綺麗な瞳をしているな。サキュバスのようだが、とても清楚で可愛らしい」
「えっ 清楚で…可愛らしいって?ぼ…僕が」
 クレリアの美顔がリオの目の前にある。そして紡がれる甘い賛辞の言葉にリオは再び頬を赤らめた。
「そして君は、召喚術士K殿と契約をしているね?」
「!?」
 リオは一瞬で間合いを取り、Kから貰ったエルダー・ゲイザリオンを構える。
「クレリアさん、貴女はいったい…」
「フフフ…あはははははっ」
 真剣な眼差しのリオに対して、大爆笑のクレリア。
「え?」キョトン顔のリオ。
「いや…ハハハ…すまない。君の反応が、とても素直で可愛らしかったものだから」
「ええっと…」
「この大会で色んな魔物や魔族も来ているようだが、サキュバス族にして清楚なイメージの君を見てピンと来たんだ。きっとK殿所縁の子なのだろうとね」
 広場に吹く風がクレリアの黒髪をなびかせる。笑う様子や詫びる感じにもクレリアの人柄がにじみ出ているようだった。
「マスターの事、知ってるんです?」
「ああ、災厄戦で共に戦った。とても素晴らしい人だ」
 マスターの戦友、よくSALONに来る破戒僧ムーアや閉鎖した魔界とのゲートの警備する魔法戦士エリスと同じような災厄戦で絆を深めた仲間、彼女もその一人だった?
「じゃあマスターが所属していたっていうギルド軍にいたんです?」
「いや、私は…」
 クレリアが災厄戦でのKとの出会いの経緯を話そうとした時だった。

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[36]召喚術士K


㊱クレリアと東の双龍姫

「あー、やっぱりいた!思った通りね!ファユ?」
「ええ、本当に来るなんて!思った通りよ。イリィ?」
 元気な声達がクレリアを中心とした半径10mの無人圏内に入ってきた。
(あ、そっくりな顔…。双子なのかな?)
 リオではなくクレリアに向かってスタスタとかなりの速度で迫ってくる二つの愛らしい顔立ちの女の子達。それを見るや、クレリアも動いた。
ガバッ! 一気に間合いを詰めた達人級のハグ。
「やあ、イリィにファユ。久しぶりだね!元気にしてたかい?」
「なっ なななっ 何よ!いきなり抱きつくなんて!」
「そそそそ そうよっ いきなり抱きつくなんてマナー違反だわ!」
 抱きしめられている双子風の女の子、イリィとファユはアタフタとしながら、赤面し声をあげる。
「こらこら、ちゃんと挨拶をしないといけないだろう?お前達は」
 イリィとファユが突破してきた人垣から、紫色の魔法衣を纏った落ち着いた雰囲気の男が入ってきて、ワーワーと声を上げる娘二人を叱った。
「やあ、カロンじゃないか。なるほど、東は君を参加させたんだね。納得の人選だ」
「お久しぶりです。クレリア姫。イリィとファユは未だに子供でいけません。失礼をお詫びします」
 カロンと呼ばれた紳士が頭を下げると、未だクレリアのハグから脱せないでいるイリィとファユは首を振りながら反論する。
「違うー、私達子供じゃないもん!クレリアがいきなり抱きついてきたんだー」
「そうー、抱きついて来なければ私達はちゃんとご挨拶できたもん!」
「そうか、ではちゃんとご挨拶しなさい」
 カロンがそういうとクレリアが二人をハグから解放する。
「「むーー」」
 ふてくされ気味の二人は、それでもカロンの言う事を聞いて挨拶をした。
「「ご機嫌よう。クレリア姫」」
(わー、可愛い…)二人は全く同じ動きで、スカートのちょいと持ち上げて、そして可憐にお辞儀をする。その仕草にリオはキュンとして見惚れてしまった。
「うん、ご機嫌よう。ファユ姫、イリィ姫」
(うわぁ…)
 クレリアが優雅に頭を垂れる、ただそれだけの仕草にリオは暫し時を忘れた。

「では、挨拶もすんだし…」「そろそろ本題」
 ファユとイリィは、トコトコとクレリアに近づくと、キッと鋭い視線を向けた。
「ねぇ、クレリアはKにもう会ったの?」
「正直に答えた方が良いと思うよ?」
「え、マスターに?」
 クレリアに発せられた問いかけに、Kの名前が出た事に驚いたリオが思わず溢してしまった。もちろんファユとイリィが聞き逃すはずがない。
「ねぇ、貴女。Kの事をマスターって、いったい誰なの?」
「ねぇ、正直に言わないと、私達あなたに何をするかわからないよ?」
 ぐるんと首を向けてリオを睨む二人。いや眼光だけでなく強力な威圧感がリオを襲う。
「え、ぼ…僕は、マスターに召喚されて契約している者です…はい」
「ふーん」「契約…ね」
 睨みながらリオの周りをグルグルと回る二人。
(えーん、可愛いのにぃ、すっごく怖いよー)何の罰ゲームかとリオは思った。Kのために試合の組み合わせを見に来ただけなのに…。
「まぁ…いいわ。私達の方が可愛いから」
「えぇ…そうね。私達の方が強いしね」
 可愛いし強い、それが全く嫌みに聞こえない。でも悔しい!
「そ…そりゃあ君達は可愛いし強いかもしれないけど、僕だって!」
 リオがファユとイリィに抗議をすると、カロンがグイッグイッと二人を背後から抱きしめた。
「どうやらこの人はK殿の大切な方らしい。何しろ試合の組み合わせを確認に来ているのだからね。良いのかな?君達の事はきっと報告されると思うけど。こんな失礼な事を言ったと知られても、良いのかなぁ〜」
「「うっ!?」」
 カロンの囁きでみるみると青ざめていく二人。
(こういうわかりやすい反応は可愛いんだけどなぁ)リオは思わず苦笑する。
「ご ごめんなさい。貴女も可愛いわ」
「ごめんなさい。きっとお強いのでしょうね」
 可憐に謝罪をする二人を見ると、先程の無礼も許したくなる。
「K殿の使役…いやご友人ですかな?私はカロンと言います。今大会に東の大国の代表として参った者です」
「リオと言います。その…よろしくお願いします」
 ちゃんと謝る事が出来たイリィとファユの頭を撫でてから、カロンは深々と頭を下げてリオに謝罪をした。

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[37]召喚術士K


㊲ミュオンと一緒に組み合わせをみよう

『はーい、皆さん!こんにちはーーー』
 本大会実況担当のトクファ・ズィームの声が中央広場に轟いた。
『これから召喚術士技量競技大会・本戦の組み合わせを発表致しまーーす。発表は魔晶スクリーンにも投影されますので、そちらもご活用下さいませーーー』
「あ!間に合いましたよ。リュネイ様!それにここ空いてます!…あれ?リュネイ様?リュネイ様ぁーーー!?』
 可愛らしい毛玉がクレリアの絶対制空圏(並の男が近づけないオーラが漂う領域の事)に入り込んできた。途端、パニックになって泣き出す。
「え、あの…君。大丈夫?」
 リオはカロンにその場を離れる事を告げると、駆け付けて様子見てみる。毛玉は目にいっぱいの涙を浮かべていた。
「もしかして…迷子?」
「リュネイ様と一緒に試合の組み合わせを見に来たんですが、リュネイ様が迷子になりまっした…」
(うん、そういう事にしておこう)
 リオは微笑むと毛玉に迷子になった状況を聞く事にした。組み合わせ発表が始まるがスクリーンに映るなら、この子の迷子のご主人様を探してあげてからでも良いだろう。
『えー、組み合わせはこの抽選ボールとルーレットを用いましてー。判定委員会の厳重な監視の元で行われますー』
 スクリーンにルーレットが映し出される。よく見ると第一試合から第六試合までがそれぞれ二つずつ枠に書かれていて、枠の総数は十二だ。どうやら出場召喚術士の名前がボールに書いてあり、それが入った枠で試合の順番がきまる仕組みらしい。
「ええっと… リュネイ様はリンゴ飴を買って下さるまではいました!それで…」
(うーん、辿り着くかなぁ…リュネイ様とやらに…)
 苦笑しながら毛玉の話を聞くリオ。
『では判定委員会の委員長を務めるガゾムさんにボールを投げて頂きましょうー。ガゾムさんは皆さんご存じのように聖王国パルナの宰相を務めておられますー』
「え!あの人ってパルナの宰相だったの!?」
 抽選ボールを手にしているのは、予選会でKに不正疑惑を突きつけた男だった。意外と国政に疎かったリオだったが、王都に住んでいたとしても顔を見る機会は少ない王宮付の政治家であるから顔を知らないのは仕方ないかもしれない。
『ではルーレットスタートォーー』
 トクファの合図に併せてルーレットが回転を始める。
『ではガゾムさん!ボールを入れて下さーーーい!』
『うむ!どりゃあー』
(あ、ノリノリだ)先日の険しい顔はどこへやら、満面の笑みを浮かべてボールを放るガゾム宰相。
『さぁー、ボールが枠に入っていきますよー!どれどれーー?』
 ルーレットを確認するトクファの動きにあわせて、スクリーンに投影するための撮影ゴーレムもこれに構図をあわせていく。
『さぁ!決まりましたよーー』
 広場に集まった者全ての目が魔晶スクリーンに注がれた。

☆召喚術士技量競技大会・本戦(第一回戦)
★第一試合   ガイ  VS リュネイ
(召喚術士G) (リフォール王国)
 ★第二試合   K   VS ゾルゲイ
       (予選1位)  (北の大国)
 ★第三試合  カロン  VS  リウト 
(東の大国) (パルナ)
 ★第四試合 ジャスティ VS   マイト
      (召喚術士J) (予選2位)
 ★第五試合  ブッコ  VS クィーンクィーン
       (黒の大陸) (召喚術士Q)
 ★第六試合 L・D・ロロス VS   ゼル
      (魔術師ギルド長) (召喚術士Z)

「あー、リュネイ様は…。……あのぅ…読んで頂けませんか?」
 どうやら毛玉は文字に疎いらしかった。
「え?君のご主人様も参加者だったの?そ…そっか」
 この毛玉のご主人様が?と一瞬疑ったが、スクリーンを見るとリュネイの名が映し出されている。
(リュネイってリフォール王国の代表なのか…)
「ええっとね、リュネイ様は第一試合だね。相手はガイ…魔術師ギルドの人らしいよ」
「第一試合!ガイ!覚えました!」
「あはは、良かったね」
 リュネイというのは今回の大会が不穏なものとなった原因かもと言われているリフォールの代表だ。でも…
「リュネイ様は優勝します!そしてリフォールの橋になるのです!」
「橋?うーん、なにかの橋渡し的な感じかなぁ?」
「違った!星です!」
「ああ、星ね。それならわかるや」
 朗らかなトークが続く。この毛玉の主人がそんな陰謀を企むものだろうか?そんな事を考えながらもリオは組み合わせをメモるのを忘れなかった。

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[38]召喚術士K


㊳負けられない戦い

「ふーん。私達は第三試合ね。ね、ファユ?」
「ええ。相手はパルナの聖王騎ね。ね、イリィ?」
「ああ、そうだ。いきなり難敵だな」
「あら、強いの?」「私達より?」自信に溢れる二人がカロンに問う。
「ああ、災厄戦で魔王を倒す事に多大な貢献をした者が与えられた称号だ。K殿もそうだと言えば手強さがわかるかね?」
「Kと同じ!? これは手強いわ。ね、ファユ」
「信じられないけど、そうだとしたら難敵ね。ね、イリィ」
 カロンの言葉に二人の表情が変わった。勝利への決意を胸に再びクレリアの前に立つ。
「私達の強さを見ておくと良いわ。クレリア姫」
「私達の成長を見ておく事ね。クレリア姫」
 二人はそう宣言すると踵を返した。
「ああ、楽しみだ。君達の成長を見る事は。ご武運を」
 クレリアの激励にカロンは礼を言い、ファユとイリィを連れて居住区へと帰っていった。

「あ、ミュオン!こんなところにいたのか!探したぞ!」
「あ!リュネイ様!」
 奇跡的にリュネイは従者として連れてきた毛玉=ニャボルトのミュオンを見つけた。
「迷子のリュネイ様が見つかりました!お姉さん!ありがとうございました!」
「ハハハ。良かったね」
 可愛い毛玉=ミュオンの話がウツロイシティの食べ物全ての説明になってきたところだったので、リュネイが見つかって本当に良かったとリオは思った。
「おや、ミュオン。この人は?」
「一緒にリュネイ様を探してくれたお姉さんです!」
 リュネイはミュオンの言葉を一切否定せず、リオに頭を下げると礼を言った。
「ありがとう。ミュオンと一緒に僕を探してくれんですね」
「あ!リュネイ様!リュネイ様は第一ガイです!」
「ああ、第一試合で対戦相手がガイって人らしいですよ…って、スクリーンを見れば分かりますね」
 苦笑しながらリオが補足をしてあげると、ミュオンは頭をかいて「もっと勉強します」と恥じらった。その仕草もたまらなく可愛らしい。
「ええっと、もし良かったらお礼にお食事でも如何ですか?」
「え?ぼぼ僕とですか?」
「ええ、可愛いお嬢さん。ミュオンの恩人は僕の恩人ですから」
 ニコッと笑うリュネイ、何故か白い歯がキラリと光る。
「いや…止めときます。僕は関係者なんで」
「ええ、知ってます。召喚術士Kさんの関係者ですよね?」
「!?」クレリアの時と違い、今度は飛び退かずに冷静にリオは対応出来た。
「なんで…って、リフォールは情報も一流だったかなって」
「ハハハ。そうですね。リフォールというより、僕が…ですけど」
(な?なにこの人)
 リュネイの言葉にたじろいでしまったリオは、感じた違和感を確かめようと思った。
「なるほど、一流の国の一流の召喚術士さんなんですね?僕のマスターとどっちが凄いかなぁ?」
「答えるまでもないでしょう?」
カッチーーン− リュネイの回答はリオの想定を軽く越えて来た。
(普通少しは遠慮しない?いや大会で当たる可能性があるからだとしても、もうちょっと言い方あるよね?何この人??自信家なんてもんじゃないじゃん!!)

 この時リオはこの後の三つのパターンを思いついていた。
 一つ目はこの場でぶっ飛ばす!…これは捕まるから却下した。
 二つ目はガチ説教をしてから帰る。…これは普通すぎるか…。というより、通用するのだろうか。
 三つ目はシレッと食事に付き合い、色々と情報を聞き出す事!そう色仕掛けである。
(今日はクレリアさんや東の可愛い女の子を見てうっかりしてたけど、僕ってサキュバスじゃん!こんなナルシストなんてイチコロで堕としてやる!!)
 そしてリオは三つ目の案をとり、リュネイとミュオンと食事に出かける事にした。本当なら謎多き麗人クレリアと話をしたかったのだが、リュネイの情報はKに役立つはずだ。
「そうか、ではK殿に宜しく伝えてくれ」
 麗人クレリアは和やかにリオに別れを告げると、手を振って見送ってくれた。
(クレリアさんのようなオーラは出てないかもだけど…必ず勝つ!)
 既に臨戦態勢のリオ。いやなんか趣旨が違うような…。
 決して負けられない戦いがここにもあったようなのである。

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[39]召喚術士K


㊴北の猛者

北の大国居住区−
「ふはははは!そうか!一回戦でKと当たるのか!」
 大型の魔物を収容できる広さと強度を持つ部屋の壁と床が何故かボコボコになっている。そんな一室でゾルゲイから本戦の対戦相手を聞いたサイアは豪快に笑った。
「楽しそうだな。俺は胃が痛いぞ?」
 サイアを恨めしそうに窘めるのは北の大国の代表術士であるゾルゲイだ。
「いやいや、勝ち進めばいずれ当たる相手だぞ?この前久々に会ったが、なにも変わっておらん。それに予選の映像と来たら…」
 あっはははは!更に豪快に、いや本当に可笑しいといった感じでサイアは壁や床をドウゥゥゥンドッゥオゥゥンと叩く。…これが原因か、壁と床のボコボコ。
「触手生物を10kmサイズまで成長させて、その中を溶けながら進んでゴールだぞ?お前、そんな事思いつくか?ククク…ははははははっ」
「いや、思いつくか以前にだな。普通はそこまで成長させられないし、溶けるさ」
 そう。インフィニット君は確かに無限増殖するし、溶解液をプロテクションで弾くのは正しい。だが増殖にはそれ相応の魔素が必要であり、プロテクションは完全に溶解液を弾けない。何しろプロテクション中も呼吸は出来るのである。という事は消化液が染みこむ隙もあるわけで。Kは10kmの移動中に骨さえ残らずに溶けてしまうところを無傷でゴールした上で、捕食する形で保護した他の予選参加者もほぼほぼ無傷でゴールまで導いて見せたのだ。
「笑いすぎだ。サイアよ。お前は祖国の代表たる責任の重さがわかっていないのではないか?」
 部屋にはあと四人いた。そのうちの一人、ゾルゲイが着ている軍の制服、それも戦士仕様のものをビシッと着こなしている男は一見すると魔族に見えた。
「すまない。ニトゥープ。だが俺とて祖国の代表である自覚はあるぞ?」
「なら良い。お前は強い。だが戦いを楽しむ嫌いがある。災厄戦を思い出せ。たった一度の油断が何人の同胞の命を奪ったと思う。俺達は祖国のために立ったのであれば必ず勝たねばならんのだ」
 静かに、しかし力強く話すニトゥープは北の大国に古くから住む魔族であるが、巨人兵のような由緒正しき種族ではない。しかし祖国への愛は並々ならぬものがあり、災厄戦での苦戦の記憶は気を引き締めるには十分すぎる理由であった。
「ああ、必ず勝つさ。そのために研鑽を続けてエンテ・セルピになったのだ。だが分かっても欲しいのだ。力を認めた相手との戦いは、その身に更なる成長を与えてくれる事をな。お前との関係がそうであるようにな」
 古の巨人兵サイアが種族外で認める男は数少ない。北の大国において、その一人はゾルゲイであり、そしてもう一人がニトゥープである。
 我が身を滅ぼしかねないくらい激しく研鑽を積み、災厄戦でも活躍をしたニトゥープとは模擬戦を通して切磋琢磨した関係なのだ。
「…わかった。しかし、召喚術士Kは難敵だ。一戦一戦を大切に勝たねばならん。幸い選出メンバーは災厄戦の経験者ばかりであるし、皆愛国者でもある」
 ニトゥープは立ち上がり、本戦の対戦相手を聞きに来ていた戦友達に話しかけた。
「グレイス、ジェヴァシ、ユバ。覚悟は出来ているか?」
「フフフ。相変わらずニトゥープは生真面目さんね。貴方以上の愛国者はいないんじゃないかしら。勿論覚悟なら生まれた時から出来てるわよ?」
 真っ先に答えた女が着ている服は、ニトゥープと同じ軍の制服であるが生地は赤一色で所々に白のアクセントがある。緑髪の合間に見える角は鬼族のものだ。
 氷鬼族− 北の大国内でも山脈に囲まれた厳しい地形でもノリノリで活動出来るオーガーの亜種であるが、その見た目は角と金色の瞳を除くと人と変わりが無い。しかし…。
パキン!
「あら、もう壊れちゃった…」
 ごろんと机に置いたのは拳大の鉄鉱石のなれの果て。バラバラになったそれの幾つかには彼女の手形がついている。
「ははは。相変わらずの怪力ですな。グレイス嬢は。しかしこの地の気候は我が眷属に合わぬ」
 軍の制服に黒色のマントを纏うは色白の少年。しかし発せられている声は老人のそれだった。そして、ふぉっふぉっと笑う彼の周りを氷で出来た鳥がクルクルと廻っている。
「だが地形適応力を付けるには、もって来いかもしれん。この度の戦いで我が一族は文字通りに飛躍してみせるぞ。勿論召喚術士Kの使役魔物を血祭りにあげてな」
 ジェヴァシは氷魔族と呼ばれる北の大陸にのみ生息している珍しい一族である。見た目も肉体年齢も寿命の直前まで子供のままという氷魔族は、氷に仮初めの命を与える事が出来る。
「先陣は俺に任せて貰いたい。大事な緒戦の一番手、これは譲れん」  
 身を乗り出して先陣を渇望したのはユバという蛇竜族の戦士である。凍結海に住む蛇型の竜族と幻と言われている巨竜族を祖先に持つと言われるその一族は、恐らくは北の大国に住む全ての種族の中で一番寒さに強く、そして柔軟な地形適性を持つ。その代わりに国外への興味は薄く、ユバのように人間族の軍部に属したり災厄戦などの戦いに参加するのは希有なケースだった。

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[40]召喚術士K


㊵ゾルゲイの決断

「どうだ?ゾルゲイ隊長。我らの覚悟を聞いても胃の痛みは変わらんか?」
「ははは。これでは誰が隊長かわからんな」
 ニトゥープ達の前に立ったゾルゲイは感謝を敬礼で表すと、本戦へ向けての話を始めた。
「さて諸君。今大会でいきなり難敵に当たったわけだが、サイアが言うようにいずれは巡り会う定めだっただろう。我らとしては祖国のために結果を出すだけである」
 どれどれと、サイアも立ち上がりゾルゲイと並んだ。今のサイアは人間族の施設に入るため、ほぼ人間大のサイズに体を縮めている。それでもちょっと燥げば床や壁はボコボコになるのだが。
「主催の方からは、試合内容の希望を打診されている。団体戦の星取りか勝ち抜きかだ。細かい要望があれば対戦者が受ければOKという事だが、何しろ相手が召喚術士Kだ。下手な策は打たずに正攻法でいこうと思うが、諸君の意見も聞きたい」
「俺としてはニトゥープの意見を聞きたいな。お前は俺と違って戦略にも長けるからな」
 ゾルゲイの説明を聞き、真っ先にニトゥープに話題を振ったのはサイアである。サイアからしたら、Kと対戦出来るだけで満足であるが、国の代表として来たからにはゾルゲイが言うように結果を出さなくてはならない。そのための作戦となった場合、立案はゾルゲイを除けば中隊の指揮権を認められているニトゥープが適任と考えたのだ。
「そうだな。次戦を気にしながら、そして外国の諜報を気にしながら勝てるほど生易しい相手ではない。ゾルゲイが言うような正攻法、勝ち抜きよりは星取りが良いだろう。一人一殺、検討すべきはオーダー内容…出撃順だな」
「なるほど。皆が星取りの選択で異論が無ければ、俺の考えたオーダー順を聞いて欲しい」
 ゾルゲイは契約をしているチームメンバーの実力を熟知している。それを対戦相手に併せてオーダーするわけだが、今回は相手がKなのが災いしていた。何しろ災厄戦で倒した魔物達と悉く契約を結び、その後も交流を続けているというKがどんな魔物をエントリーしてくるのか。
(災厄戦時にKの初期メンバーだった七体のガーゴイル、そしてそれに潜んでいた規格外のグレーターデーモンやライオンヘッド。それらが加わる可能性もあるわけか…)
 予選会後の混乱の中で再会したKはセコムンを連れていた。彼が参加して喜ぶのはサイアくらいだろう。参加するとして何戦目にエントリーするのか?
 そして更にゾルゲイを悩ませたのが星取り選択時の追加ルールだった。
(星の数を取り合うとはな。主催者はゲームかなにかと勘違いしているのではないか?)
 各参加者には総数15の星が渡され、それを各オーダーに振り分けるのだ。
 デフォルトは先鋒1次鋒2中堅3副将4大将5とされ、この数値を最低数を1として自由に変えられるのである。そして手持ちの星の数が総数30の半分以上を取った方が勝者となる。
「恐らくKはデフォルトのままでくると考える。我々もそれで受ければ良い。もしグレーターデーモンが出るとして、この設定数であるならば副将か大将だろう」
 ゾルゲイは全星を先鋒にかけるなどの奇策は避けた。その上で総力戦をしかける事を決めたのである。
「では発表しよう」
 北の大国の選抜者達は、全てが軍と関わり訓練をしている。その中心にいるのが契約術で彼らの存在を明確化しているゾルゲイだ。災厄戦においても中心となってアウェイの魔界で生き残れたのはゾルゲイの機転や判断によるものが多く、選抜者は厳格なニトゥープも含めて信頼を寄せていた。
「面白いな。俺に意義はない」
 発表されたオーダーを聞いて、まずサイアが喝采した。ニトゥープやその他の選抜者も手を上げて賛成の意を表した。
 恐らくは本大会で一番の実戦部隊がKとの戦いに気持ちを一つにして挑もうとしていた。偉大なる祖国のために。

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