【ド・レイン小説】『聖騎公と堕天の聖獣』





ド・レイン公式?小説の第二弾です。

舞台は聖騎公領にある古代聖騎士の修練場『ウツロイシティ』

外伝から続く”K暗殺計画”
そして聖騎公やKに向けられる復讐の刃

Kと仲間達はこの最大の危機を乗り越えられるのでしょうか

全米が泣いてくれたら嬉しい!
壮大な冒険スペクトルがてんこ盛りになっているかもしれない!

まぁ 気楽にお読み下さいませ(´^ω^`)

召喚術士K

書く|||n|emoji[search]|新順
前n|更新|次n
残949件カキコミ可 1/2n
累計734hit
今日2/昨日5
[1]召喚術士K


@プロローグ

 聖王国パルナー その王都であるガーデヴィには大陸最大と言われる大聖堂がある。"聖神”は唯一神であるが、その派閥は多数存在しており、西の連合諸国が主に絶対神として崇めるのに対し、パルナでは博愛の神として全ての存在を愛すると教える。

ギィ…

 夜更けに一人の術士風の男が大聖堂の門を開け入った。王族も参拝する大聖堂であるが、平民も含めて全ての者に開かれているため拝堂までは誰でも入れるのである。

「こんな夜更けにどうされましたか?」
 聖堂を警備している聖騎士の一人が声を掛けた。言葉こそ丁寧ではあるが、こんな時間の来訪者を怪しんでいるのは明らかだった。

「…教皇様にお会いしたいのです。お取り次ぎ頂けないだろうか」
 揺らめくキャンドルによって映し出される影よりも濃い黒衣を纏った術士風の男は笑みを浮かべながら用件のみを簡潔に答えた。
「教皇様に?こんな時間にですか?…失礼ですが貴方は?」
 ペアで巡回をしていた聖騎士の一人は腰の剣に手をあてがっていた。
「古い友人…といったところでしょうか。忘れられていなければ…ですがね」
 何が可笑しいのか、術士はヒッヒと小さく掠れた笑い声を交えながら答えるとスーッと滑るように二人の聖騎士の前に近づく。
”チャッ!ガチャッ!”
 抜剣、そして一人が威嚇を込めて切っ先を術士に向ける。その時だったー

「おや、懐かしい気配を感じて来てみれば」
 緊迫した現場には不釣り合いな温厚な声。高位司祭服を纏った老人が奥にある礼拝堂からの扉を開けて拝堂へと顔を出している。
「きょ 教皇様!!」
 二人の聖騎士は剣を背中に隠すように持ち帰ると、膝をついて教皇を出迎える。
「教皇様… か」
 またヒッヒと笑いを交えながら術士の男も膝をついた。
「この者は同郷の友です。もう随分と古い話になりますが。さて… ”友“よ。折角の再会だ。私の部屋に招待しましょう」
 敬虔な信徒でもある聖騎士に術士の身分を保証すると、教皇は術士を手招きした。
「忘れられていなくて良かったですよ」
 術士の男は聖騎士達に軽く会釈をすると教皇の後を追った。

「本当に久しぶりだ。どれくらいかな?ふむ… ざっと千年くらいかな」
 教皇が温厚そうな笑みを浮かべながら術士に尋ねる。
「しらを切るのかい? 四年だ。たったのな」
 恨みがましい笑顔…というのだろうか、術士が吐き捨てるように言う。
「確かにおまえが"行方知れず”になったのは千年前だ。だが四年前、おまえはあろう事か人間達と一緒になって私の前に現れただろう?」
「おお友よ。誤解があるようだ。弁解させて欲しい」
 教皇は手の平を顔に当てると嘆くように術士に弁解を始めた。
「かつてより神を信仰したかった私は念願叶って"信徒”となれたのだ。私は信徒の領分の中で人間達と共にいなくてはならなかった。友である君やー」
 ”災厄様を裏切るつもりなどありはしないのだ”

[削除|編集|コピー]
[2]召喚術士K


A教皇の正体

 かつて大魔王クルデリスの"大魔王界”には”十三悪”と呼ばれる魔王達がいた。クルデリスによって創造された大魔王界の領主の役割を与えられた魔族達の呼称である。このように聞くとエリート中のエリートというイメージがある。実のところ大魔王界における勢力ピラミッドの頂点に君臨しているというのは正しい。しかしー
 その実は悲惨であった。何しろ"残忍”を自称し実践するクルデリスに最も近しい存在であり、その被害を最も多く受ける存在でもあったからだ。むしろクルデリスの性格にして大魔王界が一応の秩序を保っていられたのは、領主たる魔王達の活躍が大きいとも言えた。
 では何故に魔王達は大魔王クルデリスに刃向かわないのか?答えは明白である。"勝てない”からだ。十三人の魔王、それに魔爵や影が全員で抵抗したとしても大魔王には敵わない。それほどの力の差があり、更には"契約”による縛りもあるため魔王達はクルデリスに対して従順でなくてはならなかった。

 しかし長い時間の中では、偶然も含めて大魔王の呪縛から逃れられる者もいた。その一人が凶石という魔爵だった。魔族にして聖神を信仰したいという風変わりな魔爵は、その狂気にもにた信仰心と激情から”ある儀式”を実戦する。その副産物の一つが"クルデリスの呪縛”からの解放だったわけだが、その過程で魔王化(クラスアップ)も果たした彼は思いのままに人間界を研究するようになった。それが千年前の事である。

 実に千年の研究ー そして信仰への情熱の末、彼は人の体へと疑似転生を試みる。魔王としての力を"ルーム”に秘めたまま、魂の一部を人間として転生させようというのだ。そして妙案が見事に成功した凶石は念願の聖地へと向かう。そして人間として神に仕えた彼は"災厄の魔王”が戦争を仕掛けてきた頃には、なんと"司祭”にまでなっていたのである。

[削除|編集|コピー]
[3]召喚術士K


B魔儡の遊戯

「私は災厄様のお考えに賛同している。いや天妖様や腐殺様、十三悪の魔王様達への尊敬の念は神を信仰できるようになった今でさえ薄れることはないのだ」
 千年越しの想いではあるが、災厄は四年前に倒れ、天妖達が起こした魔族戦争もまた四十年程前に失敗していた。
「おまえが信仰などととち狂っている間に我々は災厄様を失ってしまったわけだ。私もまた手酷い傷をおった。おまえが大好きな人間達によってな」
「君は大きな誤解をしているぞ!友よ」
 教皇は意外だといった表情で術士の言葉に割って入った。
「私が愛するは神であり尊敬する災厄様であり友である君達だ。人間は…神が愛するというのであれば愛するという信仰の一部なのだよ。それに私は…」
 やるべき事はやっているからねー そう言って教皇は自室の窓を開けた。大聖堂の上階にある教皇の執務室からは首都ガーデヴィの夜景が映える。魔導灯が幻想的な風景を描いていた。
「私の特性は知っているだろう?この千年、信仰と同じく情熱を傾けているんだ。そして私の神への信仰は人間の協力者さえ作り出す事が可能でね。今では戦力と言える程の規模となった」
「ほぉ…」
 術士の目が妖しく光る。そして楽しそうに口角を上げた。
「では、久々に遊戯(ゲーム)をしないか?友よ」
「遊戯?ああ"賭け”の事か。神に仕える身としては不謹慎であるな」
 そう言いつつも教皇は断らない。
「どのような遊戯だね?思い返せば君の提案してくる遊戯にはいつもドキドキさせられていた。また面白い提案をしてくれるのかね?」
「ああ、期待は裏切らない」
 そういうと術士はガーデヴィからの魔導灯の明かりを背にして遊戯の内容を語り出した。

[削除|編集|コピー]
[4]召喚術士K


C黒き衣の少年

「きゃあああああ!なんでなんでなんでぇぇぇぇ!!」
 私は全力疾走していた。背後からはグランドワームと言われる大型のミミズのような魔物が迫って来ているからだ。
「なんでこんな図体なのに速いのよぉ!!」
 私の名前はリーマ。聖騎公領の外れの外れの外れの…小さな村に住む修道女だった。物心ついた時には既に母親はなく、聖騎士だった父に育てられたんだけど、その父が先の災厄戦で殉職してからは修道院に入って生活していたんだ。
(父のような聖騎士になりたい!)修道院の仲間や村のみんなから父の活躍を教えて貰っているうちに、自分も聖騎士になりたいって想うようになった。でも聖騎士には簡単にはなれない。とりあえず体を鍛えつつ、神様に祈りまくったわ!そしてチャンスが”現れた”の!
 古代の聖騎士修練場が再び姿を現したー
 魔霧と呼ばれる何百年も晴れる事のなかった霧が消え去って、そこに古代遺跡群が出現したの。戦乱で焼け残った歴史書にはそこが古代聖騎士達の修練場と来訪者のための街とあったそうで、聖騎公の号令の元での調査が行われたんだけど…。
 遺跡群には魔物がいて、それが多種多様である事から修練場の復活と噂されたわ。今では調査のために冒険者ギルドが出来、解放された修練に挑もうと聖騎士達が集まって街の機能も復活!古代アンティーク級の宝やレベルアップに最適な街として周知されるようになったの。
 ウツロイシティー 古代ではこういう音で呼ばれていたという事から街の名前が決まったそうよ。

(ここで経験を積めば聖騎士になれるかも!?)
 そう思い立って貯めたお小遣いで装備を調えてウツロイシティ方面に向かう乗合馬車に乗り込んだまでは良かったんだけどね…。
”ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!”
大きな炸裂音がした途端に私… 意識を失っちゃって。気がついたらドドドドドって地響きがしてね。そして今!全力で走っているってわけなのよぉぉぉ!!!

「あ!!」
”ドテッッッ”
 ワームなんて住んでいる荒れた土地だからかしら… 転けちゃった…。
「ギャアアァァス!!」
「どこから声出してるのぉぉ!?」…って生涯最後の言葉がこれ? いやぁぁぁ!!

”ドカッ!!”
「ギヤァァァスッッ!?!?!?」
”ゴロゴロゴロゴロ!!”衝撃音、そして何か大きな物が転がる音。
「私… まだ生きてる?」
 少し遠目にさっきのワームがのたうち回っているのが見えたわ。その前には−
「ええっと… 大丈夫でしたか?」
 黒色の冒険者用のマントを纏った私くらいの少年が手をこちらに差し出していたの。

[削除|編集|コピー]
[5]召喚術士K


Dカシム・ファクサール

「ギヤァァァァァァァスゥゥゥゥ!!!」
 いきなり現れて私を助けてくれた少年、その背後でがランドワームがその巨躯を起こして攻撃態勢に入っていたわ。
「後ろ!後ろ!!」
「ふむ… この程度の"蹴り"では流石に無理でしたね。じゃあ…」
"ブンッ ブンッ!”
 再び訪れた絶体絶命に滑稽なほど”後ろ!”というワードを繰り返してしまった私も私なんだけど、黒衣の少年の言動は私のそれを越えていたと思った。だってワーム相手にスタッフブンブンって!?バカなの?ああ…死んだぁぁ、私終わったぁぁぁ。
「キィィィィィィィィィィィ!!!」
 その咆哮の後に訪れたのは絶対的な死。ただしワームの。
「ギ… ギィ…」
 さっきまでの力強さはどこへやら、ワームは一度二度だけ体を震わすと動かなくなっていたわ。
「やぁ、ありがとう。君のおかげで助かりました」
 少年が頭上に向かって話しかけていた。…頭上?
「キィィ♪ ィィキキィ♪」
 わわわわわわわわわわわ… わわわわわわわわわわわわわわわわ…
「ワイバーン??なななななななんでワイバーンがここにぃ???」
 あろう事か少年が話しかけていたのは空の狩人と言われる飛龍である。奴らは獲物を仕留める時に矛のように鋭い尾を用いる事は知っているわね? その尾には即死性の猛毒があって… 倒れているワームの表皮に巡っている血管がドス黒く変色しているのがその効果を裏付けていたわ。
 ちなみに私がワイバーンを知っているのは小さな頃にワイバーンに会ったら神に祈りなさい(=死が確定)という修道院のマザーの教えがあったから。ちなみに今もお祈り中の私。
「ああ、この子はですね。途中でばったりと出会いまして…」
 ここまで送って貰ったんですよ〜 と少年はまるで野良馬に出会って乗ってきたくらいの感じで軽〜く教えてくれた。いや野良馬って何だよ!もう私の思考はメチャクチャだ。
「ああ、さっきの転んだ時に頭を打ちましたかね?確かヒーリングポーションが…」
 はい− と少年が渡してくれたポーションを飲んで数ラウンド。ようやくパニックから脱した私はお礼と自己紹介をした。
「リーマさんと仰るんですね。僕は… … …… ええっとですね…」
ガサゴソとポケットをまさぐる少年。…何をやってるんだろう?
「ああ、あったあった♪ ええっと… カシム… カシム・ファクサールと言います」
ポケットから出した小さなカードを見て名乗る少年。ええっと… どこから突っ込めば良いんだろう。自分の名前、カードを見ないと分からないのかなぁぁ??
 あえてつっこまずに話を聞いてみたら、少年=カシムもまたウツロイシティに向かうと言う。怪しさ満点だけど、グランドワームに捕食されかかった私の命を救ってくれた恩人であるのも確かだったし、人を信じる事は大切だと亡き父が言っていたから−
「宜しく。カシム君」
 私はウツロイシティまでの道中、カシム君と道連れになる事にした。

[削除|編集|コピー]
[6]召喚術士K


E旅は道連れ

「キィ〜」
 名残惜しそうにしながら空へと帰って行ったのはカシム君の友達になったワイバーンのバウ君。…ネーミングセンスについては個人の自由だと私は思うの。
「これ以上近づくと街の人に誤解されるかもですからね」
 まだ街が小さく見えているうちに別れたから、そこから街までは結構な道のりを歩くことになった。そして道中、カシム君の謎がもう一つ増えた。
「僕の職業(クラス)って何だと思います?」
 はっっっ?? 顔は穏やかな笑顔を保ったまま(だと思う)心の中で盛大に私は突っ込んでいた。途中襲ってくるワンダリングモンスター(彷徨う魔物達)を割と撃退する私とカシム君。…ほぼカシム君が敵を倒しているけど。
 そして私の気のせいかもしれないんだけど、その何割かは起き上がって名残惜しそうに見つめてくるの。まるで仲間にしてくれって感じで。いや…ないよね。野生のキラーラビット(凶暴)やスラッグデストロイ(超凶暴)(てかナメクジだよ?)が仲間にしてくれ〜なんて。ごめん、忘れて。
 そして私は改めて彼を分析してみた。

装備:旅人の服?と黒いマント
武器:スタッフ?(主に殴る)
魔法:初歩的な炎や氷の魔法をぶつけている
その他:たまに蹴る

「…荒くれ者?」
「ハハハ リーマさんはジョークがお上手ですねぇ」
 …爽やかな笑顔に殺意を覚えたわ。
 でも本当に、なんの職業だろう?
「ふむ… 街に着くまでに考えないとですね」
「なんで?」
「だってギルドで登録しないとでしょう?」
「あ! そうか! じゃあ私もだ…」
「一緒に荒くれ者で登録しましょうか?」
 私の一睨みで黙るカシム君。素直で宜しい。
「あ そうだ!」
 ポケットをまさぐるカシム君は先程のカードを出して目を凝らしている。…目が悪いのかしら?
「決まりました♪」
 にやりと笑うカシム君。えーなんかズルイー。そんな心の声が聞こえたのかな。
「リーマさんは僧侶とか僧侶戦士で良いと思いますよ。修道女の経験があって初級の神聖魔法が使えるのですから。それらの上位クラスが目指している聖騎士なのでしょう?」
「な なんで私が聖騎士を目指しているって!?」
 自己紹介の時に修道女だった事しか言っていなかったのに… なんでわかるの??
「だってリーマさんが担いでいる剣は聖騎士のものでしょう?柄の所に聖騎公の紋章が入っています。由緒ある剣なんですねぇ」
 あ そうか。何度か戦って抜剣もしていたから、見る人が見ればわかっちゃうんだ。
「これは父の形見なのよ。私を守ってくれる…」
 だから私も聖騎士を目指す。恥ずかしかったけどカシム君に私はそう宣言していた。
「もう私ばかり… で、カシム君の職業はなんなのよ?」
「僕は”道士で登録します”」
 聞き慣れない職業だった。
「道士は父が冒険者をやっている時に登録していた職業のようなのでね」
 カシム君もまた父親を亡くしているのだろうか? それは聞かなかった。大事なのはこれからだから。ウツロイシティに着けば目標に向かって邁進するだけ!私は私の、カシム君はカシム君の。それだけで良いんだ。

「おっ 街が見えてきましたね」
 話ながらの行軍で気がつかなかったけど、少し大きな岩群を乗り越えるとそこには城壁を思わせる巨大な岩壁に守られた古代の修練場がもう間近にあった。見上げてみると−
「凄い… まるで”夜空”ね」
「ええ、ナイトタワーと呼ばれているそうです」
 巨大な岩壁よりも更に巨大な建造物が天にそびえ立っていた。恐らくは街の中央部に位置しているであろうそれは、昼だと言うのにまるで夜のように漆黒で、ところどころに星のような煌めきを発している。
「かつてはホーリィタワーと呼ばれた修練場最後の難関だったそうですが、文献にも建物の色彩の記載はないそうで、僕らの見ているのが古代のままの姿なのか?異変によるものなのかは不明なようですよ」
 …カシム君詳しい。私が知らなすぎるだけなのだけれど、なんか知識のギャップが悔しかった。そんな視線を感じたのか、自分も詳しい人に教えて貰ったのだと困った顔で頭を掻くカシム君。いや、気にしなくて良いよ。
 そこから街に至るまでは彷徨う怪物達は現れなかった。聖騎士達がその威信に賭けて街を守っていることや、冒険者ギルドが哨戒任務を設定しているためだとカシム君が言う。

「さて…参りましょうか」
 辿り着いた正門には聖騎士の門番が詰めていた。カシム君がワイバーンを街が視認出来るくらいの距離で帰したのは正しかったと思う。
「まぁ… がんばって」
 あまり仕事がないのか、眠そうな門番に激励の言葉を貰って私たちはウツロイシティへと入ったのである!

[削除|編集|コピー]
[7]召喚術士K


F冒険者ギルド

「ここが古代遺跡だったなんて…」
 恐らく初めてウツロイシティに入った人の全てがそう言うだろう。かくいう私もその一人だった。そのくらいウツロイシティの街並みは整っていたのだ。外界の脅威を防ぐ岩壁でさえ風化とは無縁の精巧さが見て取れた。今はギルドや聖騎公縁の商人などが入り込んでいる施設群もまるで新築の輝きを放っている。
 冒険者を受け入れるようになってまだ数ヶ月。整備などはしただろうけど、それだけとは思えない見事な街並みが私たちの目の前に広がっていた。
「建築に恒久化(パーマネント)の魔力付与を施す… 今も残る歴史建造物に共通する建築技術。…とお爺ちゃんが言っていたような記憶があります」
 お上りさんになっている私に、お祖父ちゃん子疑惑のカシム君が教えてくれた。
「ただ… それだけじゃないような… ふむ…」
 私とは違った意味でキョロキョロと街並みを眺めているカシム君は、建物に触れたり地面に寝転んだりし始めた。
「や やめてよ。なにしてんの??」
 ウツロイシティには既に多くの冒険者達が集っている。また本来の目的である修練を兼ねようと聖騎士達にも長期滞在をする者がいるらしいと村を出る時に聞いていた。それを裏付ける人通りの中で、スタッフを背負った黒マントの少年が地面に突然寝転んだのだ。失笑があちこちで発声しているのが聞こえる。

「何をしてるんです? さ、ギルドへ急ぎましょう?」
 赤面して顔を伏せていた私を呼びかけるカシム君声が遠くからした。いつの間にか建物一個分先に進んでいる!?
「あ あなたねぇ!!」
 恥ずかしさの赤から怒りの赤に顔色が変わった事に恐らくカシム君は気がつかないだろう。そういう奴だとこの短い付き合いでも分かるようになってしまった。
「さてさて着きました。では−」
 私の説教を建物三棟分聞きながら(聞き流しながら??)、比較的正門に近い位置にあった冒険者ギルドの扉をカシム君は何の躊躇もなく開けた。

ギイィィィ−
 雰囲気のある木戸の音。流石にこれは後付けだと思う。建物の大きさとしては村にあった教会より少し大きいくらいかな。正面右手にはウツロイシティのマップと"冒険ポイント” そして情報交換や依頼などの掲示板が展開されていた。そして奥の… 教会で言う所の礼拝スペースに当たるところにギルドの受付カウンターがあった。
 あ 例えに教会が多いのは許してね。城下町のような都会の生活は小さな頃で、物心ついてからは殆ど村暮らしだから仕方ないのよー。
 追加!建物はL字で、カウンターの左手側にはSALON(交流スペース)があったわ。夜には酒場も兼ねるみたい。…少し憧れていた冒険者の酒場…。夜が楽しみになってきたわ!

[削除|編集|コピー]
[8]召喚術士K


G受付嬢ネム

「リーマさん?」
 エールに魔物肉に… 冒険者の宴を夢想していた私の肩を誰かがトントンって。
「あ はい!なんでしょう?」
 必要以上に声が大きくなってしまった…。目の前には苦笑するカシム君がいた。
「僕は手続きが終わりました。手続き…するでしょう?」
「も もちろん!」
 本日何回目の赤面だろう。今度の赤面は羞恥よ…。

「はい。リーマ様は… 僧侶戦士でご登録が良いと思いますよ♪」
「は… はひ はいっ!」
 赤面は続くよ、いつまでも。今度の赤面は目の前の受付嬢にたいしてだった。
 蒼い髪、蒼い瞳、そして事務服をビシッと着こなして… 更に隠しきれない見事なプロポーション。誤解しないで欲しいのは、私は性に対してはノーマルだと言う事! でも見蕩れてしまう…。
 そんな凜々しい感じの受付のお姉様が優しくテキパキと私のギルド登録を手助けしてくれた。至福の時間…。
「ネムさん…かぁ」
 名札にあったお姉様…いや受付嬢さんの名前だ。見回すと交流スペースに陣取ってネムさんを見続けている不埒な冒険者共がいる。私の次にカウンターに入った戦士風の男なんていきなり食事に誘っていた。勿論断られていたけどね!
「…さん?リーマさん?聞いてます?」
 ハッ! カシム君が何か言っている。
「ですからね。街に着きましたしギルド登録も出来ました。なので…」
解散しましょう〜と和やかに語り出すカシム君。
「えっ な なんで?」
「えっ?いや… もともと街までご一緒にって話だったと思ったので」
 …そうだった。元々一人でウツロイシティに来て、そしてギルド登録をして、そして出来れば聖騎士のパーティに何とか何とか入れて貰って…。そんなストーリーを村を出て直ぐまで思い描いていた。
 でもグランドワームに追われて、カシム君に助けられて、そこからウツロイシティまでの道中もカシム君がいなかったら恐らく私は生きていない。現実が夢を上塗りしていった。それでもギルド登録まで行ったけど…。
”こんな私を聖騎士様がパーティに入れて下さるのか?”
 いや、ベテランの冒険者達だって私なんて…。ここから先はダンジョン攻略や魔物との命のやり取りなのだ。
“私に出来るのかな…”
(だめ… 悪い事は考えないんだ!前に…進まなきゃいけない!)
 ポジティブな思考をネガティブな思考で塗り替えてしまう。どうすれば…??

[削除|編集|コピー]
[9]召喚術士K


Hパーティ結成!
「ふむ… ちょっと待っていて下さいね」
 不意にカシム君が立ち上がった。
「え… あの…」
 私は目で追うしかなかった。カシム君はスタスタとカウンターへ行き、ネムさんと何かを話している。…随分と長い事…。
(何を話しているんだろう? …まさか口説いていたり!?)
 年下の少年が年上の綺麗なお姉様に!?そんなストーリーが頭の中で渦巻く。

「…さん?リーマさん?」
 あっ 涎が…。ゴシゴシと腕で拭う。何よ!カシム君にとっては理不尽でしかないだろうが乙女の照れ隠しである。私に睨みづけられたカシム君は一瞬怯みながら意外な話をしてきた。
「ですから、宿の手配をして貰いました。勿論シングルで取ってます。これもご縁ですから遠慮無く使って下さい」
「え いやそれは…流石に悪いから」
 突然の申し出に私は面食らうなんてものじゃなくて…。
「でも… 泊まる所ないでしょう? …あれ?気がついてませんか?」
「???」
 多分私はこれまでの人生で一番のキョトン顔をしていたと思う。
「バックパック… ボロボロです。これじゃあ中身は…ねぇ?」
 はっっっ!? 形見の聖剣を降ろしてバックパックを降ろすと…いや既にそれはバックパックだった布切れとなっていて…。
「わ 私の全財産が…」
 恐らくは最初の衝撃音の時に破損したんだ。グランドワームに追いかけられてからは一切触れてないしダメージも受けていないから。
「なので、何かしらのアイテムをゲットするなどして資金繰りが付くまでという限定条件でならシングルをお使い下さい。受付の…えっと…ネムさんだったかな。少し割り引いてくれましたし、僕の所持金でも数日なら大丈夫なので」
「あ ありがとう… その…本当に…」
 なんて言おう。なんとかお礼は言えたけど。でも…わたし資金繰りなんて出来るのかな…。不安が再び翼を広げて私を覆い潰そうとしてきた。目の前が暗くなる。いや灰色か。見えるものが白黒だなんて、なんて私は脆いんだろう。
「あと迷惑でなければ… 準備が出来次第という事にもなりますが、今後のクエストなどの情報も共有させて頂いて。内容によってはご一緒しましょうか」
「!?」
 なんだろう。カシム君の一言で一瞬にして私の視界に色が戻った。なんで?なんでそんなに優しく… まさか私の体が目当てなんて事は?? そんな失礼な邪推も出来るくらいに私の精神は回復どころか増長していた。
「あ ありがとう。カシム君」
「いえいえ。僕もパーティとかどうしようかと思案してましたので」
 そう言って笑うカシム君。本当に謎な人だ。職業もやることも。でも不思議と元気をくれる。こうして私はカシム君とパーティを組むことになったのです。

[削除|編集|コピー]
[10]召喚術士K


Iギルドの三強

「良かったら俺が色々教えてやろうか?」
 ギルド直営のシングルに… 置く荷物も失っていた私は今後のクエスト進行に必要な最小限のアイテムや普段着さえカシム君に立て替えて貰わなければならない状態だった。ギルド一階の交流の場:SALONでカシム君を待っていた時だった。野太い声に誘われた。「すみません。連れがいますので」
 見ると戦士…いや盗賊かなぁ…それなりに場数は踏んでそうな感じの冒険者が二人、私のことをにやけながら見ていた。
(嫌だなぁ… どう見ても良い人には見えないものね…)
 お父さん、人を信じろというのは尊いけど… この人達は違うわ。
「お 連れも可愛い子かい?だったら丁度良いじゃねぇか?な?」
 …何が丁度いいのかしら? 多分本日何度目かの苦笑を私は浮かべていただろう。まぁ…カシム君は可愛いと言えば可愛いかもしれない。そんな現実逃避的な思考をしていた時だった。
「お待たせしました。あれ… えっと… どちら様でしょう?」
 私にとってはナイスなタイミングだったけど、カシム君をまた厄介事に巻き込む形になってしまった。
「あん?なんだ男かよ。消えな!」
「えっと…」
 ”ドスッッッッ!”
 カシム君の問いには答えずに威嚇してきたゴロつきA(そう呼ぶ事にした!)は次の言葉を紡ごうとしたカシム君のお腹めがけて拳を入れて来た!鈍い音がしてカシム君の体が沈んでいって…
「な なにをっっっっっ」
 私だって聖騎士志望なんだ。恩人でもあるカシム君を殴られて黙ってはいられない。何とかしなくちゃ!! そう思って立ち上がるのと等しい時間。その時間で−
「痛っ 痛タタタタタっっ 痛てぇぇぇぇぇ」
 聞き苦しい野太い声が床の方からした。見るとゴロつきAが苦痛の表情で天井を…いやカシム君を見上げている。え?
「て てめぇ!!」 
 ゴロつきB(ゴロつきAの連れの方)がショートソードを抜いて斬りつけようとしているのは目で追えていた。でも体は動かない。その切っ先がカシム君に向かって…
”バタッッ”
 切っ先が消えたと思ったら床から鈍い音がした。見るとゴロつきBが倒れている。え?何が起こったの??
「お友達も連れ帰って頂けますか?」
 やんわりとしたカシム君の声。ゴロつきAの耳元に顔を近づけて、それはそれは優しく…、まるでだだをこねる子供をなだめるように指示を出す。
「は… はいっ」
 腕を逆手に捻られていたゴロつきAは解放されるとBを抱きかかえて一目散にSALONから逃げていった。
”パチパチパチパチ”
 SALONの奥から何人かの拍手がした。
「いやあ、いいもん見た!なかなかの使い手だな、君は。武闘家か何かかい?」
 一番奥に座っていた黒色のプレートメイルを着用した戦士が立ち上がって声をかけてくる。
「おお ラトスが行ったぞ!もしかして勧誘か?」
「雷光の魔戦士の目に叶ったなら凄いぜ…」
 他のテーブルの感嘆の声も聞こえて来た。どうやらギルドでも有名な男のようだ。

「いえ僕は道士でして…。まぁ武闘家に近いのかな」
「いや鮮やかだった。俺はラトスという。君は?」
「カシムと言います」
「カシム君か。この街は初めてのようだね。まだパーティとかも決まっていないんじゃないかな?」
 再度の周囲のどよめき。それくらい凄い男がいきなりカシム君をスカウトしているって事??
「いえ、それが… 僕の方が予定より早く着いてしまいまして。あとから合流する予定の仲間がいます」
 えっ?このどよめきは私の口から発せられた。まだ聞いてないよー。いたんだ…仲間。
「そうか。君の仲間なら期待出来るな。いや警戒しなくて良い。下手な勧誘はしないさ。でもこの街を早めに知っておくのは損ではないだろう?良かったら街を案内してあげよう」
 ”おおおおおおおおおおおおおおおっ” 凄いどよめき。そんなに凄い事なの?いや…凄いんだろうな。例えば見習いにもなっていない私を聖騎公様がショッピングに連れて行くみたいな感じかな…。見れば有象無象ではない経験と迫力を兼ね備えた冒険者達のどよめき。それは私の想像より凄い結果なのだと理解できた。
「ありがとうございます。お時間を相談させて頂けたら幸いです。連れの買い物をしなくちゃなので」
 嬉しそうに頭を下げるカシム君。いやいや、そんなに凄い話なら私なんておいて… いやカシム君に置いていかれたら路頭に迷うのか…私。…すみません、お時間を下さい。
「わかった。酒場の営業時間になったら俺はいつもの場所で仲間達と呑む予定だ。遠慮なく声を掛けてくれ」
 じゃあな!とカッコ良く席へと戻るラトス様。ん…ラトス?え?ラトス???
「なんか凄い人みたいですね?」
「いやいやいやいやいやっっ 凄いなんてものじゃ…」
 かくいう私も忘れていたんだからカシム君と同じなんだけどさ。
 雷光の魔剣士ラトス− あの勇者ピットの魔王討伐時のメンバーの一人。魔王戦後にはパーティは解散し、ラトスは更なる強さを求めて修行をしているという噂だ。このウツロイシティに来たのも修練のためだろう。そのラトスに声をかけられるなんて!

[削除|編集|コピー]
[11]召喚術士K


Jグリさん

「よっ お兄さん達!鮮やかでやんした!」
 ラトス様がいかに凄いかという講義を展開しようとした私の言葉を遮る不埒者がいた。ラトス様とは真逆の、強いて言うなら先程のゴロつきに近い風貌の男が目が見えない位伸ばした髪をかき分けながら人懐っこく話しかけてくる。
「あっしはグリさんってケチなもんでやんす。お近づきにとっておきの情報を無料でさしあげやす!」
 これは!情報屋ね!冒険には的確な情報が必要、そう村にクエスト(ゴブリン退治など)をしに来た冒険者達に聞いた事があった。でも、このノリ…大丈夫なのかしら?だって…やんすって言ってるのよ?
「お話しは何でも助かります。どんな事でしょう?」
「このウツロイシティでの冒険が解禁になってから今まで。ギルド内で”三強”と呼ばれる存在が出来やした」
 カシム君の問いかけに嬉しそうに語り出すグリさん。ビッと指を三本立てる。そして奥の席でスクロールに目を通しているラトス様を手の平で指し示す。
「一人目は“雷光の魔戦士ラトス” 本人の戦士としての力量!そしてパーティの総合戦力、何より現時点でギルドが発注しているクエストのポイント数がダントツナンバーワン!」
「なるほど、凄い人なんですねぇ」
 ハイテンションのグリさんにマイペースなカシム君。
「二人目は…」
 キョロキョロとギルド内を見渡すグリさん。
「珍しいな。この時間は大体いるんだけど。ええっと…二人目は”はぐれ聖騎士のケーン”って言いましてね。どこからどう見ても"蛮族の戦士”だっていうねぇ」
「はぐれ聖騎士? 聖騎士にはぐれってあるんですか?」
 ギヒヒと品のない笑いを漏らすグリさんにカシム君は冷静に説明を求めた。
「ああ 紋章を付けてないんでやんすよ。普通、剣や鎧に付けるでしょ? だからはぐれってね。でもね、いいやつなんでやんす。豪快な感じでね♪」
 何よりクエストで良い仕事をした日にはSALONに来ている冒険者全員に酒を振る舞ってくれる!そう言ってグリさんは涎を拭った。
「だからここではラトス様より人気者だよ。おっと!」
 そう言ってから、しまったといった表情でラトス様の席をチラ見するグリさん。
「でね… 実力も豪快。パーティはここで意気投合した戦士や魔法使いと構成している感じだから、選抜メンバーのラトス様と比べちゃうと少し落ちるかな。ギルドのポイント数はラトス様に次いで二位!」
 何故か少しだけ小声で伝えて来た。そのまま小さく三本の指を出すグリさん。はいはい、三人目ね?
「ここからは有料でやんす!」
「えーーーーーーーーっっ」
「…冗談でやんすよ?お嬢ちゃん♪」
 …ぶん殴るのを我慢した私を褒めて。そしてグリさんは三人目について語り出す。
「三人目は…」
「俺の事かい?」
 え!? その声は私の真横、カシム君の正面からした。

[削除|編集|コピー]
[12]召喚術士K


Kディセント

「!?」
 ビクッとしたのは私だけじゃなかった。カシム君もだった。
「ああ、すまないねぇ。面白そうな話を邪魔しちゃいけねぇと思ってね」
 静かにしていたんだ♪− そう笑うのは年の頃60…いや幾つだろう?
 お爺さんなのは間違えないんだけど、その迫力というか凄みはそこらへんの冒険者では醸し出す事すら出来ないというのは私でも分かった。
「お 驚かさないで下せぇ ディセントさん。心臓に悪いや」
 かなり驚いたのだろう、グリさんは腰が抜けていた。
「せっかくだし自己紹介しておこうか。俺はディセントと言う。見ての通りロートルの剣士さ。雷光の〜とか小洒落た通り名は持ってねぇ。だよな?グリさん」
「へ へぇ…まぁ…」
 ディセントさんに差し伸べられた手を握った途端に、どう引っ張ったのか分からないくらい勢いよく立たせて貰ったグリさんは、フラつきながら近くにあった椅子に着座して力なく応えた。
「でぇ〜 君の名は何というんだい?」
 顔をグッとカシム君に近づけながらディセントさんが問うと、同時におおっーっという本日二度目の響めきがSALON内でした。
「暴力じ… ディセントさんまで行ったぞ?」
「荒くれ… 三強のうち二人もか?」
 どうやらディセントさんが三強の最後の一人で間違えないようだ。だけど空耳かしら?なんか耳障りの良くない通り名が聞こえて来たような…。
「いやぁ…ほら、ディセントさんって見た目は爺でしょう?絡む輩もそれなりにいやしてね、それをあの枯れ枝のような体で全員ねじ伏せちゃったもんだから…」
 何故か小声で、何故か私にだけ囁きかけてくるグリさん。ふんふん…。
「腕っ節は間違えなく一流。ただパーティを組まずに一人でクエストやってるみたいでギルドポイントは五番手あたりだけど、何しろ質の低い冒険者共を全員しめちゃったから文句なしの三強ってわけでやんす…」
 ぼそぼそと私に囁き続けるグリさん。その間にカシム君の自己紹介も終わっていた。
「ほぉ カシム・ファクサール君か。そうか…」
 どことなく優しげな目でカシム君を見つめるディセントさん。これだけ見たら孫を見るお爺ちゃんって感じなんだけどなぁ。
「じゃあ、俺からも情報をあげよう。”魔霧の草原”と”精霊洞”は後回しにしな。”地下墳墓”(ハイポジアム)と”古代寺院”(テンプル)あたりからがお勧めだ」
「このウツロイシティのクエスト・ポイントですね?理由をお聞きしても宜しいでしょうか?」
「んー そうだな。とりあえず色々と経験してから訪ねて来な。その方がわかりやすい」
「…なるほど、わかりました」
 突き放されたのに素直に頭を下げるカシム君。
「おう、別に意地悪じゃねぇぜ?お嬢さん。悪く思うなよ」
「え あ 私はべ 別に…」
 私もしかして無意識に睨んでいたりしたのかしら?ディセントさんはカシム君でなく私にフォローを入れてきた。
「まぁ リーマさん、とりあえず百回くらいやってみろってどんな世界でも言いますので…」
 …カシム君もなんで私を取りなすような言い方を? …そんなに人相悪いかしら…私。

[削除|編集|コピー]
[13]召喚術士K


Lはぐれ聖騎士ケーン

 ディセントさんにお礼を言った後、グリさんから聞いた話をカシム君に伝えた。グリさんはおすすめ買い物スポットまでを無料で教えてくれて、後はいつでも声を掛けて貰えればと有料課金を匂わせて席を立った。
「ありがとうございました。これチップです」
「いや…良いんですかい?ひやっほぉぉ〜い♪」
 カシム君が出したチップを遠慮の欠片なく貰ったグリさんは、歓喜の声を上げてすぐさまSALONのイートコーナーにエールを買いに走った。いやぁ…初めて聞いたなぁ、大の大人のひゃっほぉ〜いって…。

「じゃあ、行きましょうか」
「おっ 新人君かい?」
 ようやく買い物に出ようとした時だった。SALONブースに入ってきた一行がいた。その先頭の男が物珍しそうに私たちに話しかけて来たのだ。
(で… でかい)
 ラトス様やディセントさんも背が高い方だったけど、少し腰を落として目線を合わせてくる目の前の男は更に大きくて。腰には大剣を帯刀しているのだけれど、更に白い布で包まれた”もっと大きな何か”を背負っており、褐色の肌と筋骨逞しいその姿は蛮族(バーバリアン)の戦士のようであった。
「はい。今日こちらに着いたばかりです」
「そうか。俺はケーンという。宜しくな!」
 爽やかな笑顔で挨拶をしてくるバーバリアンな戦士ケーン。…ん?ケーン?どこかで聞いたような…。あ!?
「ええええええっ はぐれ聖騎士のケーン????」
 私の驚きの声と、本日三度目のSALON内の響めきはほぼ同時だった。
「おい、ケーンまで行ったぞ?」
「いや、ケーンさんは懐っこいからな。普通だろう?」
「それにしても想像通りのリアクションだな!あの嬢ちゃん」
 少しばかり私に失礼なノイズもあった。冒険者の酒場デビュー前に私の印象が固まりつつあるという由々しき事態。
「おい、お前!はぐれなどと…ケーン殿に失礼だろう!」
巨体の聖騎士ケーンさんの背後から私を咎める声がした。見るとケーンさんの後ろには四人の聖騎士がいた。
「ああ別に良いさ、ティレンス。確かにエンブレムを付けていなければ”はぐれ”だからな」
 ティレンスと呼ばれた聖騎士は端整な顔立ちで、厳しい目で私を睨み付けていたけれど、ケーンさんに優しく制止されると一礼して最後部に下がった。
「それに通り名って勝手なものだぞ?俺の親父殿なんて、対峙した魔族に”白い悪魔”めって言われてたんだからな?どっちが悪魔だって話だよ」
 そう言って豪快に笑うケーンさん。…今のって聖騎士ジョークかしら?
「連れが失礼しました。僕はカシムと言います」
 ぺこりと頭を下げて詫びを入れるカシム君。…ごめん、また私のせいで…。
「こちらこそな。彼らは同郷の者達でな。まぁ幼なじみといったところだ。彼らも今日こちらについてな。それで街を案内して来たところだ」
 因みに俺の方が年上な− そう言ってニコッと笑うケーンさん。はい、それは見ての通りなので承知しております。

[削除|編集|コピー]
[14]召喚術士K


M白聖騎

「私はリーマと言います。あの… すみませんでした」
 謝りながらケーンさんの背後をチラ見すると、ティレンスさんだけでなく他の三人も私を訝しげに見つめている。そりゃあ、同郷の友人…恐らくは兄貴分をいきなり“はぐれ”扱いしたんだもの当然よね…。
 ちなみに聖騎士のはぐれというのは、何処の騎士団にも所属できないはみ出し者の意味に”神の目に叶っていない”という意味が加わるため、他の騎士でいうところの”浪人”状態より恥ずべき状態である。それをあまり知らない冒険者達ははぐれの持つ放蕩感のみで二つ名を付けるのだろうが、知っている者からしたら失礼極まりない事なのだ。
「いや別に良いさ。はぐれになってから学ぶことも多くてな。少なくとも”ここ”では誇らしくさえ感じるな。だからそんな険しい顔で少年達を睨むなよ?リーランド」
「…ケーンがそう言うならそれで良い。郷に入り手は郷に従えという古い言葉もあるからな」
 そう言って一歩前に出たのは、布に包んだ巨大斧(グレイト・アックス)を片手で軽々と持つ大男だった。ケーンさんより小柄だけど、別の意味で野性味があって… 神の敵を全て倒してしまう、そういう凄みを全身に纏っていた。
「調査隊として着任した”白聖騎”のリーランドという。明日よりこの三人、ジェイソン・ロディ・ティレンスと臨場する」
 彼らが名乗ると再びSALON内にドヤドヤ音がした。後で聞いたところ、これまで公務でやって来る神聖騎士はウツロイシティの専守防衛任務が主で、現場に出るのは遺跡内のレアポイントが発見されたときに限られていたからだった。それが調査隊を組織する。それも”白聖騎”が。
 白聖騎− ”聖騎公”が認めし神聖騎士(セイント・ヴァリアー)、その中でも神聖力が高い者だけが名乗ることを許されるのが”白聖騎”だ。
「白聖騎様が組織するチームが参加するなんて…」
 この時点での知識でも想定できること、そのくらいこのウツロイシティの調査が困難なのか?と私が緊張していると、
「いや、全員”白聖騎”だぞ? 皆、俺と違ってちゃんとしているからな」
 しゃがんでコッソリと私とカシム君に耳打ちをしてくれるケーンさん。いや…その巨体ですと、全然コッソリしてないんですが…。
「じゃあ、こいつらをギルド登録しなくちゃだから散会だ。また後でな」
 爽やかな笑顔と豪快な笑い声と共に去って行くケーンさん。リーランドさん達もそれに続く。険しい顔はそのままに…。
ええっと… リーランドさんはケーンさんと同期って感じで、ジェイソンさん達は後輩って感じかな?

[削除|編集|コピー]
[15]召喚術士K


NSALON DEBUT!

「さぁ、お買い物に行きますよ〜」
 真面目に分析している私を呼ぶカシム君はほぼギルドを出つつあった。
「あっ 待ってよっ」
 なんで女の子を取り残していくかなぁ〜! カシム君、そーいうところあるよね。…まぁ…魔物から守ってくれたり宿を手配してくれたりもしたけどさ…。
 私の心の揺れは武具屋などの商店ブースに着く頃には平常に戻っており、そこでカシム君のお勧めの装備を購入した。

武器:メイス
防具:スモールシールド、ガントレット、チェインメイル、レッグアーマー、法衣
アイテム:ヒーリングポーション、アンチポイズン、アンチパラライズ、バックパック
スクロール:ライティング、ウェブ

 武器がメイスなのは扱いやすいから。聖騎士の剣を使うのは、冒険に慣れてきてからの方が良いという。私としても父さんの形見の剣を壊すわけにはいかないので受け入れた。何しろ街に辿り着くまでに剣の扱いの難しさは身に染みていたからね。
 その他の装備やアイテムについても、自分の経験不足を痛感した。村にゴブリン退治などに来てくれていた一般の冒険者さん達もこういうのを熟知してたんだなぁと思い当たる。私がなりたいのは聖騎士だけど、様々な任務をこなす事を考えたら、この街での経験はきっと役に立つ!

「さぁ、帰りますよ〜」
 真面目に決意を新たにしている私を置いて宿に帰ろうとしているカシム君。
「あっ 待ってよっっっ」
 よく考えたら出会ってからずっとこんな感じかぁ…。もう慣れたよ。これがカシム君だとインプットする私。
(これで後は冒険者の酒場…SALONデビューね!)
 何しろパーティの人数は今のところ二人なのだ。カシム君の仲間という人達が来るにしても何日後かわからない。だとしたら、SALONで仲間捜しをするのが定石!
 それと情報収集。このウツロイシティの全容もまだ未確認だし、各クエストポイントの現時点での踏破状況も知らないといけない。こういうのはカシム君が詳しそうだけど、甘えてばかりもいられないからね。私は私で頑張ろう!
 それにぃ〜 SALONでカシム君を待っている間、目の前を通り過ぎていった美味しそうなお料理の数々。あの肉の塊は何? あの香ばしい匂いは? 色の黒いエールも見かけたんだけどどんな味がするんだろう? あと… ……。
「…さん? リーマさん?」
 はっ!? 
「あ はい… なんでしょう?」涎を拭きながらカミカミで答える私。
「ええっと、明日は一応街を廻って、可能なら少しだけ各フィールドに入ってみます。本格的な探索は相応の準備がいりますので、その後に考えます」
 なるほど。これは私も想定していた!
「で、SALONにも行かれると思うんですけど…」
 はい、どちらかというと夢の冒険者料理で頭がいっぱいです。
「ケーンさんかディセントさんがいたら、彼らと呑む事をお勧めします」
「え?なんで?」
 仲間捜しも考えていた私としては、あちこちのテーブルに行ってみようと画策していたわけで。それに何でケーンさんとディセントさん?
「公認ギルドの酒場と言えば聞こえは良いですけど、色んな方がいらっしゃるから」
「あ…」
 私の頭をよぎるゴロつきA&B。彼らにしてもベテランの冒険者なわけで。
「ら ラトス様は? ラトス様が一番手応えありそうだけど?」
「ははは そうですね。でも聖騎士志望ならケーンさんやお友達のリーランドさんとのお話しはきっとリーマさんのタメになると思いますよ」
 はっ! そうだ!私は聖騎士志望だった! 忘れていたわけではないけど、明日から冒険という高揚感が(そして酒場の美味しそうなお料理が!)その使命を少しだけぼやかしていた。
「そ そうね。もしクエストにご一緒できたら…」
 それは当初思い描いていた絵空事が現実になるわけで。お父さん、私…
「さ、着きましたよ。ではおやすみなさい〜」
 私の父への想いがめぐり始めたのとギルドに着くのはほぼ同時だった。そしてあっという間に自分の部屋へ帰っていくカシム君。はい、もう動じません。あれ? でもカシム君ご飯食べないのかしら? まさかダイエット? いや…そんなはずは…。
(考えても仕方ない。夕食代は借りているし… 食べよう!)
 秒で部屋に帰り、そして普段着(勿論、動きやすい服よ!)に着替えると私は念願のSALONデビューに向けて階段を降りていった。

[削除|編集|コピー]
[16]召喚術士K


O同郷の聖騎士

 SALONにはラトス様が定位置である一番奥にパーティと一緒にいらっしゃり、カウンターにはディセントさんがグラスを渋く傾けていた。一番の賑わいのある一角の中心にはケーンさんがいて、あの四騎士達も語らっているのが見えた。ギルドの三強が勢揃いしているためか、ゴロつきA&Bのような輩も比較的静かに呑んでいる。なるほど…。カシム君が言っていたのはこの事だったのね。これなら初心者でか弱い私も安心して呑める!
「あのっっ」
 思い切って声をかけたのはカシム君おすすめのケーンさん。何しろ話しかけやすい!昼の一件がなければ見た目が蛮族の戦士だからちょっと敬遠したかもだけど、人柄を知ったからかすんなりと声が掛けられた。
「ん? ああ、確かリーマさんだったな」
 そう言って私に席を勧めてくれたケーンさん。その席はケーンさんの隣で、私はあの四騎士の隊長リーランドさんにも挟まれる形で着座したのだった。
「ははは 大丈夫だよ。リーランドは俺よりも紳士的な男だからな。むしろ固いくらいの奴さ」
 いえ、そこは心配していないんですけど…。むしろケーンさんに対する私の失言をまだ怒っていないかなぁ…と心配していた。
「昼の事なら気にしなくて良い。当人が良いと言っているのだから怒る筋合いでもないからな」
 そう言いながらオーダーした私のグラスにピッチャーに入っていた黒いエールを注いでくれるリーランドさん。実務的な話し方だけど口調は至って優しかった。
「君はストットル地方の出か?」
「ええ、でも何で?」
 わかるのだろうと聞くと、リーランドさんは私のペンダントを指さしてニコッと笑った。「俺達もストットル出身だ。我らが神の教えについて最も柔軟に優しく解釈する宗派が我らの故郷の自慢だからな」
 !? 私は嬉しくなった。聖神は唯一神であり、他国にある宗派では神以外の全ての存在を排斥する教えもある。だけれども神は全てを愛するという教えを尊しとする宗派もあり、その発祥の地であり”聖神の寝所”と言われているのが私の故郷であるストットル地方なのだ。
「なるほど… お父上がな… それでマイヤー修道院にか」
 リーランドさんは聞き上手だ。私も神聖騎士様に、それも白聖騎様に身の上を聞いて貰えている事で興奮してしまって…。もう何をどれだけ話したかわからない。
「そういえば昼間の少年、カシム君とか言ったかな。彼とは?」
「はいっ カシム君は良い奴で…ですねっ 私をこーーーーんな大きなワームから助けてくれてですねっっ それでバーーーンってワイバーンを従えていてですねっっ」
 …ごめん、黒いエールが美味しすぎたのがいけないの。呂律がもう…。
「ほぉ… ワイバーンを?」
 一瞬リーランドさんの目が鋭く光った!…ように見えたけど、全てお酒のせいでふ。

[削除|編集|コピー]
[17]召喚術士K


P疑惑のカシム

”ギィィィ”
 酒場の喧噪の中、ギルドの扉が開く音がした。それが何故か私の耳には大きく響いて聞こえて。
(あれ?カシム君?)
 見るとカシム君が外に出て行くところだった。…何をしにいくんだろう?普通の街ではない冒険のためだけの街だ。夜の観光スポットがあるわけでもないだろう。となると…?
(え? ま…まさか!)
 娼館!? え? そうなの? カシム君? あっさり自分の部屋に帰ったのは私を巻くため? アルコールが廻った見事な推理が脳に満たされていく。すると、
”ギ ギィィィ!”
(あ そんな…)
 それを裏付けるように立ち上がった一行がいた。
(ラトス様!?)
 奥に陣取っていたラトス様のパーティがカシム君の後を追うように出ていったのだ。
(街を紹介って… そういう意味だったの???)
 止まらない妄想。ラトス様がカシム君を娼館に?いやラトス様とカシム君が?いやいやラトス様のパーティにも妖艶な魔女がいたように見えたし…。え?全員で?
 ごめん、これらの妄想は村に来た冒険者さんと飲み明かした時に聞いたゴシップの話が元なんだと思う。何しろ念願のSALONで、更には聖騎士様と意気投合という夢のような状況だったからね…。甦ってはいけない記憶もポンポン出てきちゃってて…。
「す… すみません… わ わたしカシム君を止めないと…」
「いやリーマさん、君は水を飲んで酔いを覚ました方が良い」
 立ち上がりざまにふらついた私の腕を取ってくれたのはケーンさん。
「だ 大丈夫です!」
 差し出してくれた水を一気飲みする私。よしっ これで大丈夫! 修道院に入ってからは禁酒してたけど、それまではお父さんよりお酒が強かった私は”カシム君の危機”という仮想アクシデントを阻止する使命感でほぼシラフ状態へと戻っていた…と思う。
「バカシム君を連れて戻りますので!待っていて下さい!!」
 ケーンさんにお辞儀!リーランド隊長に敬礼!そして三騎士たちにも律儀にお辞儀をした私はギルドの扉をバーンって開けてカシム君を追った。

「カシム君!…どこ?」
 多分、娼館に向かったはずだ! ウツロイシティのマップがまだ頭に入っていない私はギルド前に設置されている案内図を見て目的地を確認すると走った。
 そこはギルドからは離れた場所。そして聖騎士達の詰め所からも離れていた。そういう性質の場所。
「…いた!」
 その路地は娼館の一つ手前だった。話し声がしたので覗いてみたところ、立ち止まった感じのカシム君と追いついた感のあるラトス様のパーティが今まさに邂逅していた。

[削除|編集|コピー]
[18]召喚術士K


Q絶望の足音

「…君 一人かい?」
「ええ、何か御用でしょうか?ラトスさん」
「ふむ… こんなところに一人で何をしに…と聞くのは野暮か。…いつから気がついていた?」
「出会った時からといったら、信じますか? …勘のようなものでしたが、明らかな殺意を感じました」
「なるほど… やはり只者ではないか。”聖王騎”というのは」
「…こちらも”なるほど”です。ですが… 避けられませんか?ラトスさん」
「愚問だな。君も分かっていたからここに来たんだろう?」
「避ける…の次の選択肢がこれしかありませんでした。このまま宿で寝ても結果は同じでしょうし、明日を迎えられたとしてもクエスト先で対峙する事になれば仲間にリスクがかかりますので」
「優しいのだな。そして愚かだ…。君はピットに似ているな。俺の… 俺の最も忌み嫌う男に!勇者?聖王騎?全く… どいつもこいつも図に乗りやがって!」
 …何を言っているのか… 私にはよく聞こえなかった。ただ静かにだけど"決裂”していく流れだけは分かった。だとしたら私は…
「いま…いくからね!カシムく… ぐっっ」
 私なんかが加勢したところでなんら戦力にならないのはわかっているけどさ。恩人のカシム君を見殺しになんか出来ない!ギルドに戻ってケーンさん達に知らせるという選択肢もあったけど、間に合わない。何しろあの雷光の魔戦士が牙を剥くのだ。カシム君がどんなに強くたって数ラウンド持てば良い方だろう。決意を胸に飛び出そうとした私を後ろから羽交い締めにする奴がいた。
(しまった… ラトスの仲間?? ひいいいっ!?)
 見上げた瞬間に情けない悲鳴を漏らしてしまった。私を捉えていたのは禍々しい角を生やした…魔族だった。なんで?この聖地に魔族が?
《静かにしていなさい》
 その冷ややかな声は耳からではなく脳に直接響いてきた。
「さて… では狩らせて貰おうか」
 ラトスが魔戦士の云われたる魔剣に手を掛けると、彼のパーティもまた臨戦態勢に入る。巨躯の戦士、妖艶な魔女、大きなロッドを持つ魔道士に二刀流のスカウト、それに僧侶戦士らしいフレイル使い。恐らくはクエストで魔物を狩る布陣。彼らは決闘ではなく、カシム君をただ殺そうとしているのだ!
(ああ神様!お父さん!お願いっっ カシム君を… 助けてっっっ!!!!)
 私は必死に祈った。そして何とか抜け出そうと魔族の手に噛みついた!しかし魔族は全く動じない。ただ静かにラトスのパーティがか弱き少年を狩るのを見守っているのだ。
 ”絶望”が足音を立てて近づいてくるのが聞こえて来た。

[削除|編集|コピー]
[19]召喚術士K


R情熱淫魔『アウルムさん』

 "暗がりの森”魔素量が多く、魔物も多く住むという特級危険区域に指定されるこの森に風変わりなSALONがある。Dと呼ばれる伯爵が魔神を呼び起こそうとしたという伝説とも言える事件があった館を改装して営業しているのはKと呼ばれる召喚術士だ。
 彼は主にサキュバスを召喚して、人と魔族のコミュニケーションの場としてSALONを開いた。月日は流れ、開設から三年ほどたった今では国家やギルドの監視の元ではあるが”比較的安全な施設”と認可レベルが上がっている。

「ふぁ〜 気持ちの良い朝ですね〜」
 窓から朝日が差す少し前に気持ちの良さそうな起床の声を上げたのはSALONで活躍するアウルムさん。彼女の朝は早い。
「さて!」
 部屋に完備されているシャワールームで気分をスッキリさせると、得意の空間魔法で収納しているゴスロリ風メイド服を着用する。
「おはようございます♪ モブさんにザコさん… 貴方はシタツパさんでしたね?」
 彼女が挨拶をしているのは館警備の夜勤をしていた黒服達。森に住まう魔物や野盗の類いから館を守ってくれる警備部のスタッフには最下層の者達にも敬意を払う。
「ええ、彼らがいるから私たちは安心して暮らせるのです。挨拶は当然なのです!」
 礼儀正しいアウルムさん。彼女はまずキッチンへ降りると前日に下ごしらえしておいた食材のチェックをし、テキパキと下準備をしながら別空間から巨大肉などを取り出す。
「これ? これはマスターのお友達の朝ご飯です♪ 大切なマスターのお友達も館を守るセキュリティに参加してくれますので、感謝の印なのです!」
 召喚術士Kは特に大切な魔物を友達と称しているらしい。六年前に起こった災厄の魔王戦において活躍した彼を支えた強力な魔物達。彼らもまた館を守る守護者であるのだ。

 =中略=

「さて!マスターを起こしに参りましょう♪」
 帰ってきたのが夜遅かったので、お休みの前に甘酒を召し上がって頂いたのですよ〜と微笑むアウルムさん。少しでも長く寝ていて頂きたいけど、寝過ぎも体に良くないのですよ〜と主の健康を気遣う。
「一度起きて、もし疲れが抜けていらっしゃらなかったら…」
 得意のマッサージでデトックスをして甘美な眠りへと再度誘うと言う。
「あら?お部屋にお帰りになってませんね。また召喚部屋でおやすみなのですね…」
 マスターKの自室は整頓されたまま、空であった。どうやらマスターKは執務室を兼ねる召喚部屋で寝てしまっているらしい。
”ぎぃ〜〜”
 三階にある召喚部屋。主である召喚術士Kがサキュバスを召喚するこの部屋は、館の中で最も大きな部屋の一つであり、簡単な仕切りで彼の執務室や仮眠室を兼ね、キャスト達の交流部屋としても機能しているという。今その扉が元気に開いていった。
「あ あそこですね♪」
 アウルムさんの視線がクッションが大量に引き詰められている場所に寝ている黒衣の男を見つける。マスターKだ。
「さぁ 朝ですよ〜 マスター♪」
 アウルムさんの手がマスターKを優しく撫でる。
「…? マスター?」
 反応がない。アウルムさんの手が止まる。そして…
「きゃーーーーーーーーーーーーーーっ マスターーーーーーーーーーーっ」
 絹を引き裂くような悲鳴。そう…アウルムさんの目の前でマスターKは…
”死んでいた”

[削除|編集|コピー]
[20]召喚術士K


S早朝の悪夢

(殺ってしまった…)
 某日吉日− 早朝にアウルムによってKが"瀕死中の瀕死状態”で発見された。
 アウルムの必死の回復呪文。そしてアウルムの救援要請で駆け付けた黒服ルリカと白服ネモフィラ、そして回復術を扱えるリオが手際よくKの蘇生を試みる。
 早朝故に夜行性タイプのサキュバス達の姿は少なかったが、早朝の仕込みをしていたアイシャとティアはその異変に気づいてサポートを手伝っている。そして出来得る治療がKに施されたのだが、Kのエナジー値や生命反応は未だ危険な状態にあった。
「エリクサーでも回復しないなんて…」
 サキュバス達に求められて吸われてグッタリする事も多いK。それでもオーバー(過量投与)気味なエリクサー投与などで回復する事が多い。それでも今回は回復しない。
(マスターが悪いんだぁぁぁ…)
 ”無の表情”でテキパキと蘇生を試みながらも、心の中で絶叫していたのはリオという。一見中性的に見える銀髪のサキュバスは元人間であり、色々あって現在はサキュバスに半転生している状態である。
(マスターが相変わらずだから、ほんのちょっとだけ”濃度”を上げただけなんだよ〜)
 昨夜も健気にKの帰還を待っていたリオだったが、うたた寝をしている間にアウルムに回復サービスの機会を奪われ、だったら回復したエナジーをボクが!と思い立つも相変わらずのイイコ扱いをされた後にKは寝落ちしてしまうというルーティーン。
「ボクからも回復のドリンクサービスですよ〜 マスター〜〜」
 そう言って寝ぼけているKに"特製ドリンク倍盛り!”(注:毒)を飲ませたのだったが…。
(いつもだったら (ヽ´ω`)←こーいう顔でボクを出迎えてくれるはずなのに〜 なんで死んでるのさ〜〜)
 合唱−
「まだ死んでないですよー リオリオ〜」
 青くなったり落ち込んだり悪い顔になったりしているリオの顔を覗き込むのは黒服ルリカ。日頃の様子から既に真犯人を突き止めていた。しかし…
「これは… かなりタチが悪いです…」
 ご遺体の検視… いや治療を続けていたアウルムが険しい表情で顔を上げる。
「かなり強力な毒薬の反応がありましたが…」
「ドキッッッッ」
「いや… ドキって口に出して言ったらダメですよー リオリオ〜」
 テンパっているリオとジト目のルリカ。
「これはかなり解毒されているっぽいのでセーフです。…が…」
「セーフ!?ボク、セーフ〜 良かったぁぁ〜♪」
「声に出てますよー リオリオ〜 それは心の中で言わないといけない台詞だと思いますがねー」
 極限状態からの解放でテンションが上がるリオを肘で軽く小突いて正気へ戻そうとする茶髪の黒服はアウルムの分析を気にしているようであった。
「何か… 良くないものがマスターの体内にいるというか… 蠢いて… これはいったい??」
 リフォール王国の宮廷魔術師を父に持ち、魔具生成において卓越した技術を誇る母親から様々な知識を得ているアウルムは簡単な医療魔術とそれに付随する学術的な事も心得ている。しかしそれでは解き明かせない領域の"何か”がKの体を蝕んでいる。
「もどかしいです。これはちゃんとしたお医者様… いえむしろ魔術や神聖術に長けた方に見て頂かないと」
 誰に診せるべきか? Kには敵も多い。診せる者を間違えればそれはKの死を意味するかもしれない。しかしアウルムが悩む前に答えが出た。それは幸いにも?いや不幸にも!

[削除|編集|コピー]
[21]召喚術士K


㉑ 呪戒虫

”ブシュッ ブシュウウウウウウウウウウウッッッ!”
「きゃあああああああーー マスターっっっ」
”それ”はKの胸から飛び出て来た。
「こ こいつは!?」
 かつてこれを見たのはリオとルリカ。
「でも、間に合うように治療をしていたはずじゃ…」
《キシャァァァァァ〜》
 ドス黒い、まるで腐った血の固まりのような外骨格を持つそれは、百足のような多関節の体を持っていた。驚いて身じろぎ一つ出来ないアウルム達を体をよじりながら観察している眼は昆虫然とした複眼ではない。まして動物の持つ目でもなかった。眼窩にあるのは暗闇そのもの、それが視力を有しているかもわからない。
 しかし”それ”は禍々しい奇声を上げて楽しそうにKの体に再び入り、そして今度は腹から顔を出す。そうする事で戸惑う観客を嘲るかのように。
 呪戒虫− Kの曾祖母であるマナがそう呼んでいた。出生後すぐのKに掛けられた呪いの一種だという。
「引きちぎってやる!」
 この異常事態に対処すべく動いた者がいた。ダークエルフのような褐色の肌を持つ淫魔ティアである。彼女は呪戒虫の関節の隙間に手刀を繰り出した!
「あ だめです!タン!こいつは!!!!」
”ブシュウウゥゥウゥ!” ”ブシュウウゥゥウゥ!”
 簡単に攻撃を受けるそれは楽しそうに身をよじりながら体液を撒き散らした。そして同じ現象がその直下、Kの体にも起こっていた!
「あ なんで…」
「こいつへのダメージは全部マスニーにいくんです!」
「くっっ」
 ルリカの制止で二撃目を強引に止めるティア。そのティアの体を締め付けるように呪戒虫は蠢く。それはダメージを与えるためではなかった。それ程に緩い束縛。奇怪な顔がティアに迫る。
「くそっ 離せよっ」
 引きちぎってみろと”それ”は言っているようだった。しかし引きちぎったら? それはKの体を引きちぎる事に近しい。ティアは蹂躙を許すしか無かった。
「どうすれば”こいつ”を倒せるのです? リオさん!ルリカさん!知っている事を教えて下さい!」
「それは”死神の”…」
 呪戒虫の動きを目で追いながらKの傷口にヒーリングをかけるアウルム。周りにいたサキュバス達を待避させつつ答えようとするルリカ。
 発現してしまった呪戒虫を沈静化するためには、神族の巫女たるマナの"死神の鎌”による一撃が必要だったが、リオ達がその経緯を説明している時間などない。
「ああ、マスター!!」
 所有する聖石の何かしらが呪戒虫に効くかもしれないとゲイザリオンで結界を張りつつ思考を巡らせていたリオが”それ”の動きに気づく。
”ゆら〜〜〜”
 ティアを締め付けていることも意中にないような動きでそれは、体を天井まで大きく伸ばすと、そのまま顔をKに向ける。何かを計るように。
「まさかこいつ… もうトドメを指そうとしているんじゃ…」
 虫の形をしていても”それ”は虫ではない。ましてや魔物でさえない。紛うこと無き”呪い”それが正体。故に発動条件さえ揃えば”それ”は執行する。即ち”呪殺”を!

”キシャアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアァアァアァアアアア!!!!”
 耳を覆いたくなるような悲鳴のような攻撃音!ドス黒い静脈血を材料にしたようなスモッグを撒き散らしながら”それ”はK目掛けて突っ込んでいった!!

[削除|編集|コピー]
[22]召喚術士K


㉒虫狩り

「いやあああああああぁぁぁぁぁ!!」
”キィン!”
 鋭い音と共に、アウルムの目の前を”スイカ大の物が飛んだ…。
「あ… マス…ター…」
 突然の事に目を覆う事も出来ず”スイカ大”を見つめてしまう。しかしそれは…
”キギャアアアア!??????”
 首だけになった"呪戒虫”だった。
「え?」「あ…」
「これって…」
”モワモワモワ〜〜ン”
 周囲を覆っていたドス黒い霧はどこへやら、淡い桜色を纏う一陣の風が室内なのに吹いてくる。
「はぁい♪ 呼ばれてないけどジャジャジャジャ〜ン?」
「あ 貴女は!! おぶっっ」
 劇的に解説をしようとしたルリカを桜色の衣が覆い隠す。
 それを脱いで放る勢いのまま呪戒虫の首を狩ったのは?
「ま マナさんっっ!!」
 召喚術士Kの曾祖母にして神族の巫女、そして呪戒虫の天敵となるマナその人であった。
「あら〜 リオちゃんルリカちゃん、おひさしぶりねぇ〜 他にも可愛い子がこんなに? カムアも隅に置けないわね〜」
 至って日常の会話。圧倒的に日常。生来の白髪をポニテに結んでいるマナは桜の意匠の死神の鎌を軽々と回しながら周囲のサキュバス達を物色するように見渡していた。
「あ ちょっと待っててね? よいしょっと♪ あら?私『よいしょ』なんて言っちゃった?嫌だぁ〜 ホホホホホホ」
 至ってお約束。そしてこの会話の最中に呪戒虫は完全に”浄化”されていた。死神の鎌によって全ての関節を裁断されて…。

[削除|編集|コピー]
[23]召喚術士K


㉓お姉様的な

「いやぁ… さっきまでのシリアスシーンはどこへやらですねー」
「まるで草むしりだったね… いや確かに前もそんな感じだったけどさ…」
 二度目のルリカとリオでさえ、そのギャップに毒気が抜けていく。
「あのね?マスターから虫がバーンって!それで俺がエイってやったら、マスターからビューって!それでね、えっとね…」
「あら〜 カムアを守ろうとしてくれたの?ありがとう〜」
 ”ぎゅっ!”
 突然の危機的状況からの脱力日常への帰還に最もやられてしまっていたのはティアであった。何故か幼児化した口調のティアをマナが優しく抱きしめて頭を撫でる。
「えへへへへ〜」
 笑顔が戻ったと同時に腰が抜けるティア。そのティアをマナから受け取るように抱きしめたルリカとリオもまた一緒に床に座り込んだ。

「貴女もありがとう。カムアに治癒を施してくれて。これが無かったらけっこう危なかったわね〜」
 まるで危ない感じがしないテンション。
「あ はい。あの… 私はアウルム・ヒッペルドルムと言います。失礼ですが貴女はマスターの縁者の方でしょうか?」
 アウルムもまた力が抜けていたのだが、差し伸べられたマナの手を取って立ち上がると、リフォールの礼に従って挨拶をした。
「ええ、私はマナ。カムアの… ……」
「マスターの??」
「んー お姉さん…的な?」
 一瞬の思考、そして一瞬の間。そして前向きの虚構。
「!! マスターのお姉様でしたか? これは知らなかったとはいえ失礼を!わわ私は!!」
 先程自己紹介までちゃんとしているアウルムであったが、まさかのKの身内登場でやや舞い上がっていた。
「いや曾祖母ってマスニ ぐふっっ!?」
 そして真相を話そうとしたルリカは神速で繰り出された鎌の柄の打突で召喚部屋の最も奥までぶっ飛ばされていた。
「まぁ〜お姉様だな・ん・て♪ 可愛い子ね〜〜♪♪」
 貴女のひ孫さんがまだ瀕死中の瀕死状態なんですけどー。 そう言いたいけどきっかけが掴めないリオ。呪戒虫も完全に死にきったわけではない。あくまで発現モードになったのを沈静化しただけなのだ。
「あの… マナさん。今回は前と違ってるように思うんですけど…」
 恐る恐るマナに進言する。
「はい!では診てみましょう〜」
 アウルムに興味津々のマナであったが、幸いにも本題を思い出してくれた。
 素早く床で胸と腹から血を流してグッタリしているKの頭から足までをサッと撫でると、呪戒虫に付けられた傷という傷が”まるで無かったかのように”なった。
「これは…治癒というレベルじゃないです!奇跡…神の奇跡です…」
 感動のアウルム。
「いやねぇ〜 誰が女神様ですって〜♪♪」
「いや アウルムさんは女神なんて言ってな… がはぁっっ」
 ようやく戻った矢先に不用意な訂正を入れて再度ぶっ飛ぶルリカ。
「あら?これは…」
 笑顔だったマナの顔が引き締まる。
「確かにこれは厄介ね…。あら〜 どうしましょう?」
 マナの表情は思案へとシフトしていった。先程までの明るさに大きな影が降りていく。

[削除|編集|コピー]
[24]召喚術士K


㉔少年モード!

「あの… マスターは… 大丈夫ですよね?」
 リオの恐る恐るの質問パート2。
「そぉねぇ… あ、そうだ!とりあえず♪」
 リオの問いに暫し天を仰いだマナは、Kを床に寝かすと彼のデスクの引き出しを開けた。そして小さな小箱を持ってくる。
「あったあった♪ まずは〜」
 そう言いつつ小箱を開けて中から指輪を取り出す。そしてそれをKにはめた。
”カッッッッ!”
 閃光が走った。そして−
「う う〜ん…」
 Kの口から吐息と共に声が漏れた。しかしそのオクターブはやや高い。それもそのはず、Kの体は少年と言って良いくらい若返っていた。
「あ これって確か!?」
「おおっ これは!?」
 Kのこの状態を見たことがあるはずのリオとルリカであったが、いずれも非常時だったために記憶は朧気らしい。
「マナさん、これって若返りの魔具ですか?」
「いいえ、違うわ。これはね−」
 やはり驚きを禁じ得ないアウルムにマナが優しく使用したアイテムの説明を始めた。
「神族の特性を引き出すアイテムなの。カムアは私の血も引いていますからね。体内の巡りなども切り替わるから、もしかしたらってね」
 元々は”虚無の大魔王界”で暮らさなくてはならなくなった時に、その魔素の濃さと性質の違いに適応するためのアイテムである。神族と魔族はほぼ共通の性質を持つため、神族の血や性質が強く出れば、人間にとって過酷な魔界においても生存が可能になるのだ。
 そして神族・魔族の肉体は人間のそれよりも生命力が強い。厄介であるらしい呪いに対してマナがとった緊急蘇生術であった。

[削除|編集|コピー]
[25]召喚術士K


㉕記憶喪失!?

「う〜ん… …… あ… おばあちゃ がふっっっっ」
 目を覚ましたKの目に飛び込んできたマナの心配そうな顔。それに応えたのに容赦の無い鎌の柄がKの頭部を小突いた。
「マスタ〜 心配したよぉ〜〜」
 Kに抱きつくリオ。
「まぁ 一歩違ったら真犯人でしたけどねー」
 優しいジト目のルリカ。
”ボンッッッ”
 何かが破裂したような音が…したような気がした。
「あれ? マスター?」
 リオがまじまじと見つめるKの顔が真っ赤になっている。それこそ沸騰させているやかんといった感じで。
「あ あの…」
「…はい?」
「君は…」
「? …??」
「誰…でしょうか?」
「… …」「…」「… ………」
しばしの静寂− そして
「「「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ」」」
 恐らくはその場にいた全員の絶叫が召喚部屋で幾重にもこだました。

「え ええっと… もしかして記憶喪失?」
「みたいですねー でもいったいなんで記憶喪失になったんでしょうねー?」
「ぼ ボクのせいだって言うの?ルリカは!?」
「そうは言いませんが、記憶を失うくらいの頭部への衝撃が過去に類を見ないほどマスニーを襲ったのは事実かも知れません」
 リオの毒、呪戒虫の発現、助ける際のダメージ、助けた後のダメージ…
「あら?それもしかして私も入ってたり?」
「…自己申告で結構です…」
 笑顔のマナ、打撃に備えるルリカ。
「あの… マスター? 私の事もお忘れに…?」
 ズイッと距離を詰めるご奉仕大好きサキュバスのアウルム。その距離の近さに比例してKの赤面度も濃度を増していくようだった。
「端から見ていると面白いですけどねー 少年の滾りかぁ…えへへ」
 見に廻っているルリカの一見ゲスい発言は実は的を得ていた。
「ご ごめんっ ちょっと席を外す…」
 慌てていたからか、この頃はこういう話し方だったのか、一瞬で後ろに飛び退いたKは体を反転させて空を切ると、そこに生じた”狭間”に身を滑らせるようにして… 消えた。
「あ…」
 そのKの態度に衝撃を受けるアウルム。そんなアウルムの頭を優しく撫でてから、マナが手を叩いた。
”パンパンッ”
「はい、皆さんのおかげでカムアも助かりました〜♪ まだ治療が必要かもしれませんが、ここはいったんお開きという事で♪」
 まるで何かの宴の中締めのようなノリであったが、駆け付けて尽力してくれた者達の一人一人にマナは謝辞と労いの言葉を贈った。
「アウルムちゃんもありがとう。貴女のおかげでカムアが助かったと言っても良いわ。さっきのは許してあげてね。もし記憶が逆行しているのだとしたら、アウルムちゃんみたいに可愛い子に会って舞い上がっちゃっただけだと思うから♪」
「え… そんな〜」
 照れ照れモードのアウルム。Kの身内に高評価というのも嬉しかった。先程のKの態度が拒絶でないのならそれで良いのだ。
(記憶喪失なら、記憶を取り戻すお手伝いをするまでです!)
 すぐさま新たな目標を設定。そして邁進する!それがヒッペルドルム家の女の矜恃なのだから。

[削除|編集|コピー]
[26]召喚術士K


㉖重なる呪い

「やっぱりここだったのね」
 幽世− 隔離世とも言われる空間。そこにKの簡易ルームがあった。肉体から抜け出した魂が輪廻転生をする際に通る道のような意味合いの場所である。
 Kにとっては少年期にマナの死神としての仕事や曾祖父の退魔の仕事を手伝う際にも良く通った道である。その場所に秘密基地的に作ったKのルームがここにあった。
「おばあちゃん、僕の体…というか、今…どういう状況?」
「んー 結構マズイ状況かしらね」
「…おばあちゃんの結構マズイは”かなり”だね… これはため息しか出ないよ」
 大きなため息をつくK。
「おおよそ年齢相応の記憶が残っている…で良いかしら?」
「今が何歳かも分からないけどね。そうだな…友達で言ったら−」
 Kが話したのはアルソッ君やセコムンちゃんをはじめとした学友達の名前と覚えている魔界での活動のいくつか、そして−
「おじいちゃんが亡くなって…少し経ったくらいの感じ」
「そう…」
 旅立った最愛の人を思い天を仰ぐマナ。
「それなら基本術式は覚えているわね。それなら希望はあるわ」
 そしてKの手を取り、共にソファーへと移動する。
「いいよ、なんか照れくさいから」
「あら?反抗期かしらね〜」
「とりあえず状況を教えて貰えないかなっっ」
 マナの優しさがイコール事態のまずさなのだろうとKは感じていた。心が弱い状態では震えなどでマナに察知される… それを避けたいという気持ちからの反抗である。
「呪戒虫の事は覚えているわね?今、貴方の体にはもう一つの”呪い”が掛けられています」

[削除|編集|コピー]
[27]召喚術士K


㉗不可思議な最悪

 ゾクッ… Kに悪寒が走る。呪戒虫の記憶は忘れたくても忘れられない出生からの文字通りの呪縛である。これにもう一つの呪いが加わるとマナは言うのだ。
「こちらもまた私でも解呪出来ないものです。その意味合いは異なるけどね」
「おばあちゃんでも解けない呪いかぁ…」
「呪戒虫と異なるのは、恐らくは高位呪具を用いているという事。これは呪具を破壊しない限り解けないのよ。何しろ呪い返し的な解呪が通用しません」
 言い換えると、呪戒虫の呪いは高位呪具ではない方法でKを蝕んでいる事になる。
「ただ…」
「? ただ?」
「おかしな点というか、合点がいかないというか…」
 不思議な事になっているとマナは首をかしげた。
「高位呪具での呪いといっても、貴方も防御結界を張っていたと思うのよね?こんなに綺麗に決まるかなぁ〜というのが一つ」
「もっとあるの?」
 ただでさえ厄介な状況に分析がしにくいノイズがある。それがマナのいう結構マズイなのだとKは察した。
「決まれば即死にも出来る呪いのようなんだけど、何故か保留状態になっています。これが二つめ」
「え… それじゃあ何時死んでも可笑しくないとっ??」
「術者がスイッチを押せばね。でも…まずは”押さない理由”がわからない」
「…押せば良いと?」
 恨みがましい目でマナを見つめるK。
「違いますっ きついはずなのよ。保留状態って。何しろ回避不可の呪殺が発動しているの。それを必死に止めるのも苦行なら、止める事で自身に呪いのエネルギーが返ってくるリスクもある。それなのに止めているって事」
「間違えたので解呪中…って事だったら嬉しいけど。それは無さそうだね…」
「三つ目は、せっかく止めているのにも関わらず… その呪いのエネルギーをね…」
”呪戒虫が食べているって事よ”

[削除|編集|コピー]
[28]召喚術士K


㉘リミット

「ええっと… それはどういう事になるのだろう?」
「今は三月に一度の発現で、基本は発現直前に狩ってたし、出てきてしまっても私の鎌でサクサクすれば良かったんだけど。このペースでパワーアップされちゃうと、発現時に鎌を受け付けなくなる可能性が大ね」
 それは早朝の出来事がバッドエンドで終わる事を意味していた。
「…発現までのリミットは?」
「およそ二ヶ月ってところね」
 それまでに呪いが発動すれば直ちに死。しかし保留という異常事態に意味があるのだとしたら二ヶ月の猶予期間に呪具を発見して破壊するしかない。
「そしてそのためには記憶を取り戻す必要がある…か」
 しかし記憶を取り戻すのに手こずっていたら、呪いのリミットの方が先に来てしまう。
「…同時並行でやらないとかぁ…」
「そういう事。今日一日養生して、身体的なトラブルがなければ…」
 スクッと立ち上がったマナが最愛のひ孫に手を差し伸べた。
「取り急ぎ実務可能レベルまでの技術を一週間で思い出させます♪」
 それを聞いてKは天を仰いだ。それは曾祖母への感謝と”生きて訓練を終える事”への祈りであった。

[削除|編集|コピー]
[29]召喚術士K


㉙気がかりな事

「あ… そうだ… 訓練の前に聞いておかないといけない事がもう一つあったんだ…」
「? あら? 何?その訓練よりも嫌そうな顔は」
 Kの嫌そうな顔はマナの指摘通りであったが、それを問いかけているマナは訓練の告知の時よりも楽しそうな表情をしていた。
「いや、僕がいた場所は人間界だったようだけど… 何処だったのかなって」
「えー 何? それだけかしらぁ〜?」
 ワザと煽るマナ、それと対照的に不愉快そうな顔をするK。
「…おばあちゃんのその表情で半分くらいの事情は察するけどね」
「あの子達は全員あなたの嫁です♪」
”ガッ!” ”キンッ!!”
 一瞬で交差する二本の死神の鎌。Kの繰り出した下行からの一閃をマナの鎌が円形の動きで去なした。
「あら?家庭内暴力かしら?」
「呪いで何時死ぬか分からないひ孫に冗談を噛ますのは如何なものかと思いますよ。おばぁちゃん」
「はいはい。あっ はい は一回ね♪ もう〜旦那からの遺伝かしらねぇ。冗談が通じないひ孫だわ」
「詳しい記録があったら欲しいけど、とりあえずダイジェストで話して貰えないかな」
「はい。わかりました。記録は貴方がガーゴイル君という擬態用アクターに取らせていたようだから、無理のない範囲でダウンロードすると良いわ」
 そしてマナが語ったのは、魔界からの旅立ちから今日までの、直にKから聞いた話のまとめであった。SALON開設までの話は少し端折り、開設から今までの様子を伝えた。

[削除|編集|コピー]
[30]召喚術士K


㉚百鬼夜行と”ともだち”

「なるほど… あそこが父さんや母さんが行方不明になった場所か…」
 出生後直ぐに起こった事件で、Kの父母は行方知れずとなった。その上祖父にあたるカミナもまた、その捜索中に行方知れずとなる。
 Kが魔界で成人の年齢を迎えた時、曾祖父が輪廻の輪に乗った。そしてKは人間界へと向かったのである。そしてまもなく”災厄”の魔王が争いを引き起こす。
「その時の報奨金であそこを買ったわけかぁ。しかし−」
 事件の舞台であった場所、そして祖父や父母と”伯爵”との因縁めいた話、そして館を取り巻く環境、それらは少年期には既に聞いて知っていた。今のKであっても、館の購入は必然であったろうと考える。しかしあの子達は…。
「いぶんかこうりゅうですって♪」
 楽しそうに、そしてあえて辿々しく語るマナをジト目で見返すK。
「異文化交流ねぇ」
 確かにそれは考えそうだ。魔界と人間界を行き来してきた身として、退魔師や死神の手伝いをして来た経験から、Kは少年期にはそれを実現したいと考えていた。
(あの子達は魔族だったな… 僕はあの子達をおじいちゃんのように”使役”していたのだろうか)
 Kの曾祖父は退魔師であった。主に東の大国から島国にかけて渡り歩いてきた鉄人は、大妖と言われる強力な者達をも従えて禍々しき存在から人々を守ってきた。
「その姿は雄々しくて、逞しくて〜」
 これはマナの弁である。ともかく色々あって曾祖父とマナが結ばれる事になったわけだが−
(あれは軍隊だったからなぁ… 強力な契約でアヤカシを従えた過去に例がない”百鬼夜行”って言われてたっけ)
 それに憧れた時期もあった。しかしKは魔界で友達が増えるにつれて曾祖父とは異なる考えを持つようになっていく。
(なんで”ともだち”ではいけないんだろう?)
 それは甘く愚かな子供の発想だったのかもしれない。しかしKは成人までの間、結果として誰一人とも”契約”をしなかった。
「あなたはあなたなのよ。旦那様でもカミナでもなければ、お父さんのカシムでもない。驚いたわよ?だってあなたが人間界に行くと言った時に−」
 契約もしていない”クラスメイト”達の全員が、Kと一緒に人間界へ行くと言ったのだ。全て虚無の大魔界の”次世代”達である。
 ある者はKを守るためにと、ある者は遊びたいからと、そしてある者は− その理由はそれぞれであったが、曾祖父の百鬼に負けず劣らない若き夜行が一日にして成ったのだ。それも契約無しで。

[削除|編集|コピー]

前n|更新|次n
書く|||n|emoji[search]|新順
タグ一覧

掲示板TOPへ戻る

書き込み削除
スレッド管理

芸能・アイドル @ 神楽
掲示板カテゴリ検索
写メ/待ち受け 動画/ムービー
音楽/エンタメ 雑談/その他
趣味/スポーツ

無料レンタル動画まとめe-Movie
無料レンタルBBSebbs.jp