【ド・レイン小説】『聖騎公と堕天の聖獣』



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[31]召喚術士K


㉛緩々な契約

「いきなり何を?僕は別に…」
 Kの不愉快そうな顔は、リオ達を強制的に使役してしまっているかと疑心暗鬼から来るものだった。それを見抜き更に揶揄っていたマナはKをぎゅっと抱きしめていた。
「人間界の性質上、契約はしているようだけどね。あなたらしい緩々〜な契約よ」
 詳しくはアクターの過去ログを見れば良いわ− 反抗期…ではないにしても、いきなりの抱擁に戸惑うKはマナの腕を振りほどく。
「わかったよ。いずれにしても責任があるわけだ。お爺ちゃんのように出来るかわからないけど… やれるだけやってみるさ」
「もう〜 生真面目さんねぇ。そんなところも旦那様にそっくりだわ」
 再び抱きつこうとするマナを牽制し、Kはマナとの基礎訓練へ赴いた。

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[32]召喚術士K


㉜アウルムの不安

一週間後−
「戻りました〜」
 誰に向かって? 突如召喚部屋に帰ってきたK(注:少年モード)
「あ!」「まぁ〜」「るりっす!」「ハロハロ〜」
 迎えたのは失踪したKを心配して召喚部屋に入り浸っていたリオ・アウルム・ルリカ・アイシャの四人。あの時居合わせたメンツのうち、ティアはSALONへ出ており、ネモフィラは任務の一次帰投中だった事から任務地へと戻っていた。
「タン(注:ティアのこと)も心配してたんですよー。でもマナさんが着いているだろうからとやせ我慢してました」
 大切な友人のフォローをするルリカ。
 実際ティアのやせ我慢はいじらしかったらしい。何故かやけ酒に付き合わされたナイトメアは三日目あたりから姿をくらましていた。
(そういう意味ではメアたんも失踪中ですねー)
 今更気づくルリカだったが、Kの記憶がどうなっているかなど気になる事が解決していないために再び心にしまい込む。
「元気そうで何よりでした。マスター。召喚部屋の床が血塗れだったから心配したんですよ!」
 そういって自慢のバストを意図的にKに向けるのはド・レインの演出家にして料理長でもあるアイシャ。その自慢のショーでは観客の鼻血でSALONの床が血塗れになると言われいてる。(鼻血だけですかねー?byルリカ)

「ああ、大丈夫ですよ。リオ、アウルム、アイシャ、………えっと…ルリカ」
「私の時の間はなんだーーーー?」
「召喚術士ジョークです」
 つまらないジョークであったが、Kの帰還に笑顔が戻る。
「マスター? もう記憶とかも大丈夫です?」
 リオがわざとKにぐぐいっと近づく。
(心配する振りをして、この前の赤面を引き出そうとしてますねー)
 何故か温かい目で見守るルリカ。
「ええ、まだ完全ではありませんが… ああ、そうだ!それもあってガーゴイル君とMarkUを使いたいんです。リオ?連れてきて貰えませんか?」
「えっと… はい」
 リオの落胆はKが通常に戻ってしまった事だろうか。それとも−
「あの… マスター? もしお疲れならマッサージなどいかがですか?」
 Kの記憶が戻ったのは喜ばしい。ただ失踪中にまた無理をしたのではと推察も容易だったアウルムはKに魅惑的な奉仕を提案する。
「ありがとうアウルム。まずはやらなくてはならない事をしてしまいたいから… また今度お願いします」
「そうですか… 無理はしないでくださいね。マスター」
 残念だが奉仕とは相手が望むようにと心得ているアウルムは見事に引き下がった。
「ですがお忘れにならないで下さいね。私は…いえ私たちは貴方の従魔なのです。貴方が望めば何でも致しますから…」
 この言葉を− 後にアウルムは後悔する事になる。勿論このアウルムの言葉に間違えなどない。むしろ主たるKが感涙しても可笑しくない言葉なのだ。しかし”今のK”にとっては…。
「従魔…ですか」
「ええ!それに人と魔が理解し合えるSALONで働く機会も頂いて!感謝しても仕切れないのです!」
 満面の笑み。それは心からの感謝の言葉だった。
「ですから最高の奉仕でお返しをしたいのですよ〜」
「…そうですか… ありがとう、アウルム」
 心なしか力なくKが感謝の言葉を口にする。
「はい!マスター。お待ちかねのガーゴイル君達ですよ」
 バンッと召喚部屋の扉が開いて、不満顔のリオがガーゴイル君達を招き入れた。
「ありがとう、リオ。では皆さんも… ちょっと作業をしたいのでお部屋に戻って下さい」
 優しく… でも実務的な感じでKが告げた。
「ではお四季に〜(注:お先にの意味)」
「じゃあまたね〜 マスター」
「では失礼します…」
 速攻でルリカがリオと、そしてアイシャが悩ましげに、最後にアウルムが礼儀正しく召喚部屋を後にした。

”ぎぃ〜 バタン”
「…なんだろう… 何かが…」
 アウルムが呟く。
「あ アウルムちゃん! マスター帰ってきましたか? リリー、マスターが帰ってきたら読んで欲しいご本が… …アウルムちゃん?」
「あ リリーちゃん。ええ、マスターお帰りですよ。でも…今はお仕事みたいです。ご本は私が読んであげましょうね」
 Kの帰還を喜ぶリリー。そしてリリーの手を引いてアウルムはリリーの部屋へと向かう。
(そう… マスターの帰還はリリーちゃんも喜んでいる。他の皆さんも喜ぶはず…)
 アウルムの小さな胸に落ちた拭えない不安のようなもの…
「私は… 何か間違ったのでしょうか…」

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[33]召喚術士K


㉝記憶のダウンロード

「さて…と、心してかかろうかな!」
 そう言って二体のガーゴイル君と向かい合うK。かなり気合いが入った様子であった。
《ガガガ?》
「さて、ガーゴイル君!そしてMarkU!リンク(同調)をするよ」
《期間は?》
「魔界からの旅立ちから−」
”今日までだ!”そう告げるKにすぐさまエラー信号を発するガーゴイル君。
《危険です!危険です!容量が多すぎます。それに…》
「そんな事をしたら、心が壊れてしまいます。お止しになって下さい…」
 それは思念波でない少年の声。
「ああ、クレイ君。ごめんね、起こしちゃった?」
「そりゃあ起きるよ。友達が自殺行為をしようとしているのだから」
「大丈夫。基本戦術を再学習したからね。既に”心も固めてある”」
”心を固める”それは退魔師がアヤカシから受ける恐怖心などのプレッシャーで怯まないため編み出された術式の一つ。先程のリオの超接近に対して動じなかったのも、この術式のためであった。そしてこの術式は膨大な過去のデータを新たに脳に刻む際の副作用の軽減にも役立つはずであった。
「それでもきついって。既にデータを知っている僕が言うんだ。止めた方が良い」
 無機質なガーゴイル君の中からの声、それは心配を通り越した悲痛にも似た響きだった。
「私も… 反対です」
 MarkUから聞こえるのは少女の声。
「プラスちゃんも… 起こしちゃったね。でもね、責任がある。仲間にした者達へのね。それに…後付けでも記憶が無いと僕は助からないんだ。頼むよ」
 Kの原動力は仲間への想い。そして自身の命というワードを持ち出したのは、心配する二人の友人の許可を貰うため。
「…わかった… 但し無理だと判断したら止めるよ」
「時間もかけてください。せめて一週間…いえ十日はかけて。そうでないなら許可しません!」
 プラスの声は…泣いていた。
「ありがとう。では十日でやろう。併せて十七日か… ギリギリだけどね」
 ”記憶の再ダウンロード”それは治療ではない。死神の特性と術式を応用した記憶の上塗りである。しかしそれは”自分だった者”の記憶を本で読むのと近しい。
 理解は出来ても実感しているのとは異なるし、あくまで記録だから、前後の経験などから思考していく過程が省略されてしまうのだ。故に誤解や曲解をしてしまう事もある。
「それでも!この難局を乗り越えるためには必須の”知識”というわけさ」
「だったら… 優先順位を付けてくれ。あるんだろう?理解をするなら時系列だろうけど、君が知りたい事項が含まれていそうな時期というのが」
 クレイと呼ばれた少年の声は、Kにダウンロードする記録を重要性の高い順にするようにと要望した。
「そうだね… 時間の短縮になるのなら」
 答えながらKは思考する。父母の失踪にも関連するのであれば… それこそ自身の記憶でも足りない。しかし今回の呪いは…
(人間界に来てからのだろうな…)
 何かの目的でというよりも私怨、高度な呪具を用いる辺りもそれを裏付けているように感じた。となると−
「ねぇ、クレイ君とプラスちゃん的にはお勧めってないかな?」
「…」
「こっちに来てからさ。僕を普通に殺すんじゃ飽き足らないってなるような何かがあったりしなかった?」
「どういう意味だい?君はそんな怨みを買う奴じゃ無い。…けど…」
「けど?」
「くそっ なんでこういう時は察しが良いんだよっ」
 毒づくクレイ、そして無言のままのプラス。
「じゃあ、そこらへんの記憶から始めようか」
 Kは俯く二体のガーゴイル君を優しく撫でて頭を差し出す。
「心を…もっと強く固めてくれ。そうでないと…知らないからな!」
”カプッ!”ガーゴイル君がKの頭を噛んだ! …東に伝わる獅子舞の様に。
《ダウンロードを開始します!時系列…確認。記録時期…セット。》
《災厄戦… 魔儡の結界塔攻略… ダウンロードを開始しました…》

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[34]召喚術士K


㉞心を固めていても…

=それは時間にして一時間程であった=
「う… うううううううっっ ああっっっ ぐっっっ」
 召喚部屋にはKの苦痛に耐える声だけがあった。
”つーーーーーーーーっっっっ”頬を伝わるのは止む事の無い涙。
「だから… 言ったじゃ無いか!」
 ガーゴイル君の中から漏れるクレイの声もまた苦痛の色を帯びていた。
 どんな恐ろしい魔物に対しても動じる事の無い”心を固める”術式、それを最大限に発揮しているのに…である。

《ダウンロードを終了します…》
 ドスっという音がして、ガーゴイル君の口から解放されたKは膝を折って床に倒れ込む。
「グズッ… うう…」
 涙がまだ止まらない。そのまま仰向けになって涙を腕で拭いながら天井を仰ぎ見る。
「…大丈夫かい?大人の君でさえ心が折れかかったんだ。今の君には…」
「だ 大丈夫… ありがと クレイくん… おかげでわかったよ 僕が…何をしようとしていたのか… でもまだ…捉えきれてない」
 涙目でガーゴイル君を見上げるK。その言葉で慌てるのはクレイの方だった。
「ま まだやるのかい?」
「うん、ちょっとだけ休んでからね。持つべき者は友だね。クレイ君のおかげで一発目にして一番重要な事を知る事が出来た」
「それで良しには出来ないの?」
 心配そうにプラスが話しかける。
「見落としがあってはマズいからね。恐らくは当たりだけど… それに…」
 帰りを待っていてくれた者達がいた。彼女達に対する責任もある。先程は意識を取り戻した時に聞こえていた彼女達の会話や、マナから教えて貰った情報を元に無難な対応をしてしまったが…。
 そして暫しの休憩後−
「さて!再開していこうか。さっきみたいなので無ければ大丈夫だからさ」
 心配そうに見守っている二体のガーゴイル君− いやクレイとプラスに笑顔を向けてKは記録のダウンロード作業に戻った。

 それから十日して−
 およそ数十分のダウンロード作業を行うと休憩も数十分取るといったサイクルを何十回と繰り返す。
 館で顔を合わすメンバーの情報を優先し、それから呪いに連なる可能性の高い情報を収集。ダウンロードの過程で自らを暗殺しようとする存在を知った後は、優先順位をあげてこれらの周辺情報の収集も強化した。

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[35]召喚術士K


㉟ダウンロード完了!

「なんか頭がウニだー」
 結果ほぼ全てのダウンロードを終えたKは”情報分析室”というプレートを掛けた館の一室で思いっきりゴロゴロした。
 記録のダウンロードは記憶の再生とは違う。
 例えるなら沢山の書物を読み、動画を見続ける行為に近しい。自身の経験とはいえ、数年分の情報を一気見したのである。脳の疲労は半端なかった。
「結局五日で終えるのですから… 本当にご自愛頂かないと!」
 プラスの声は少し怒っていた。
「心配掛けてごめん。慣れてくるとペースが上がっちゃってね」
 Kは床に寝転んだ状態で手を天井に伸ばすと、その指の間からシャンデリラを透かし見る。
「で、捉えたのかい?」
 Kの視界を妨げないように、しかしグッと顔を近づけてガーゴイル君=クレイが楽しげに問う。
「君は昔から、こういう謎解きが好きだったからね。無事にダウンロードが終わったんだ。後は厄介な呪いを無事に解いて貰いたい」
「そうだねぇ」
 Kはスクッと立ち上がると仮眠用の簡易ベッドに入る。
「ふぁ〜ぁ、ちょっと寝てからまとめるとするよ。あ、大丈夫!ちゃんと捉えたからさ。クレイ君とプラスちゃんもありがとう。一緒に休も… …」
 話ながら眠りに落ちるK。
「過労死という言葉を知らないのかしら…」
「僕達の活動限界を気遣ってだよ。プラス。今のカムア君では、僕らに魔素供給が出来ないからね」
「私たちも寝るけど… どうかご無事で…」
「大丈夫さ、カムア君を守る友達はまだ五人いるからね」
 Kが人間界に旅立つ時、クラスメイト全員が同行しようとしたが叶わなかった。それは魔界での立場であったり人間界では過激すぎる特性が仇になったケースもあったが、単純に魔素供給の問題が大きかった。
 人間界では魔界と比べて魔素が希薄であり補給が間に合わないのである。魔素を蓄えられる自らのルームを使えば解決する問題ではあるが、それは人間界に魔界レベルの魔素を持ち込む事になるために神界・魔界共に原則禁忌とされていた。
 それ故にKに同行できたのは、立場や特性の問題がクリアであり、且つ擬態用アクターとしてKがラプルスに習って作成したガーゴイル君スーツが貰えた七人のみであった。
 擬態用アクターは人間界の希薄な魔素を吸収して濃縮するエナジー炉を搭載しており、禁忌に触れる事無く魔素補給が出来るのだ。
 災厄戦でクレイとプラスを除く五人はアクターを失ってしまったが、エナジー炉は健在であった。普段は自らのルームに身を置く五人は魔素の消費すると、エナジー炉から補給をするのである。
「五日間フル稼働したからね。途中交代で魔素補給したけど…」
 要するに燃費は悪いのだ。給仕程度なら人間と同じくらいの活動時間が得られるが、戦闘など魔素の消費量が多い場合はそれはグッと減る。
 クレイとプラスは日常業務時は偽魂モードで魔素消費を節約していた。有事に全力で動けるようにという配慮である。
「まさかエナジーの大半をデータのダウンロードに使う事になるとは思わなかったよ。さて…魔素の充填に入ろう。僕らの出番がない事を祈りつつね」
 虚無の大魔界の魔物が人間界で目立つのも憚られるのだ。人間界に近い魔界の魔物を刺激しかねないからである。故の擬態でもあった。
「むにゃぁ〜」
 Kから漏れる妙な寝息を聞いて、魔鉱石で出来た表情を綻ばせる魔法生物たち。Kが見る夢は子供時代のものだろうか、それとも−

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[36]召喚術士K


㊱Kの出立

「え!?マスター仕事に出かけるって… まだ子供のままなのに大丈夫なの?」
 記録のダウンロードを終えてから二日目。Kは召喚部屋で旅支度を始めていた。
「ええ、今度は一ヶ月くらいですかねぇ〜 あ、これはいるやつだ」
 心配そうに見守るリオにバックパックを整理しながら答えるK。
「一ヶ月… 随分と長いのですね…」
 これまでもダンジョン攻略等で長く留守にすることはあったが、それでもKは拠点を作れれば帰還していたのだ。一ヶ月も館を開ける事は無かった。
「今回はダンジョンの複合と言いますか… 4〜5カ所を一気に攻略しないといけませんので… あ、これはいらないやつだ」
 アウルムの問いに答えるも、バックパックの整理に余念が無い。
「フフフ 私は知っているー」
「何をです?ルリカ。あ、これは… いるのかな?」
 得意げにAAAの胸を張るルリカに、謎の人形を見せて問いかけるK。
「あ それはいりません」
「えー ずるいよ、ルリカだけ知っているなんて」
「いやあ ほら、わたしって黒服統括じゃないですかー そりゃあ知ってますよー」
「どこなんです?ルリカさん」
 いらないと言われた人形をルリカに手渡すK。むくれるリオに心配顔のアウルム、そして得意顔のルリカは何故か眼鏡を装着すると更に自慢げに話し始めた。
「ウツロイシティですねー?マスニー!」
「はい、正解… あ、これは?これはいらないよね?」
「いえ、それはいります!」
「ウツロイシティ?」
 Kはルリカにいると言われた”ひのきのぼう”を大事そうにバックパックに入れる。
「ええ、今回のバタバタ事件の前にマスニーの勅命で白服のアッシュさんとネモフィラさんが調査に赴いているんですよ。更に!うちからも腕利きを一人派遣しました!」
「ああ、それはルリカがズルイ〜って言ってきたからで… …あ これは… これはいらないでしょう?流石に」
「いえ!舐めてるんですか?いるに決まっているでしょーーにぃーーーーー!!」
 ルリカに切れ気味に「いる」と言われたバナナを「腐らないかなぁ」と不安げにバックパックに入れるK。
「珍しいね。マスターが事前に白服さんや黒服さんを派遣するなんて」
「ええ、ウツロイシティは事前情報が皆無でしたので。何しろ新しく出現したスポットですからねぇ」
「あのぅ… 失礼ですがマスター?」
「どうしましたか?アウルム」
「ご記憶は、その…戻られたのでしょうか」
 心配そうにKの顔を覗き込むアウルム。その瞳にKの笑顔が映る。
「ありがとう。心配を掛けましたが、ある程度回復しています」
 とびきりの笑顔。そしてアウルムの頭を優しく撫でた。
「でもマスター、子供のままだけど?」
「ハハハ リオは面白いですねぇ〜 あ これはいるよね?」
「いりませんよっ そんなの… 死ぬ気ですか?」
 何故かふくれっ面のリオのツッコミに”いつものように乗っかる”K。そしてルリカに却下された護身用ダガーを名残惜しそうにバックパックから出す。
「さて!これで良しッと」
 変幻自在の常闇の衣を旅モードで纏いなおすと、Kは召喚陣へと向かう。
「召喚術は送還術と♪」
「便利だよね。ウツロイシティまでビューンって感じです?」
「いえ、途中までかな。聖騎公領は行った事がないので、ポートがないんですよ」
「ふーん そうなんだ」
「あ そうだ。ルリカ? 僕が留守中は警備体制を強化して下さいね」
「ええ、いつも万全です! …何かありましたか?マスニー?」
「いえ、ネモフィラが一時帰投していた時に持ってきてくれていたんですが−」
 それは密偵局のマル秘文書であった。
「ふむ… なるほど」
 いつになく真面目モードなルリカ。
「なんなのさ?ルリカ」
「いえ!不確定要素が多いのでアレですが!まぁ先日の闇夜の月さん達みたいな輩がまた来るかもという話ですねー まぁ〜 我々にかかればケチョンケチョンですがねーー」
「ケチョンケチョンって… ルリカが断さんにされてたんじゃ… ひっ!?」
 リオの言葉はルリカの目力で押さえつけられた。
「まぁ アルソッ君やセコムンちゃんもいるし、ガーゴイル君達もいますからね」
 まぁ大丈夫でしょう〜 そう言ってリオとアウルムに笑顔を向けるKは、大きく手を振ると送還術で出立していった。

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[37]召喚術士K


㊲少女達の疑念

「…」
「…」
「おや?どうしましたか?リオリオにアウルムさん?」
「おかしいのです」
「そうだね」
 笑顔でKを見送った後、俯き加減だったリオとアウルムはルリカの問いにやはり俯きながら答えた。
「マスターだったら、ポートが無くても何処へでも行けるよ。それに…子供モードのままってさ、回復が必要な状態から脱していないって事でしょう?」
「き 気のせいでは? 割とショタモードを気に入ってるんじゃないかと…」
「マスターの笑顔… いつもと違うのです。この前からずっと気になってたんですが… まだ記憶がお戻りでは無いのではないかと…」
「あ ああいう顔なんじゃ…」
「絶対何か隠してる!ボクの薔薇色の脳細胞がそう言っている!」
「何で打ち明けて下さらないのでしょう… 私の力不足でしょうか…」
「いや… お二人とも落ち着いて… ね?ね?」
 続けざまの展開にたじろぐルリカ。そのルリカに二人の顔がグウウッと迫ってきて、
「ルリカは!」
「ルリカさんは!!」
 二人の視線がルリカを射貫く!
「ひぃぃぃ…」
「どう思う?」
「どう思いますか??」
「わ わわ わたしはーーーー」
 避けられない。逃れられない。リオとアウルムの手がルリカの肩を捉えて放さない。
「マスニーは… な ナニカカクシテイルトオモイマスネー」
 全力で視線を反らしながら何故か片言で無難な回答をするルリカ。
「やっぱり!」
「そうなのですね…」
「ぐわぁ おっ!」
 返事を聞くと同時に勢いよく解放されたルリカは召喚部屋の床を四回転半して正座という着地を決めさせられた。
「あら〜 皆さんおそろいで?」
”もわもわ〜ん”と演出込みの桜色の煙幕と共に現れたのは、召喚術士Mことマナであった。
「あ マナさん」
「マスターのお姉様!」
「あら〜 リオちゃんにアウルムちゃん可愛い〜」
「…」
 満面の笑みのマナに、何故かお口チャックのルリカ。学習しているのである。
「あの… お姉様。不躾ですが、教えて頂きたい事があるのです!」
「あら?何かしら? あ ちょっと待っててね。カムアにお土産を持ってきたんだけど」
「マスターなら出かけちゃいました。一ヶ月のお仕事とか言って」
「まぁ… またあの子は…」
 お土産とはKが幼少期を過ごした東の国のお菓子であった。皆さんでと渡されたアウルムは暫し中座してお茶を用意しに行く。そして−
「こんにちは マスターのえっと… お姉様」
「ハロハロ〜」
 戻ってくると二人増えていた。ティアとアイシャである。
「ずっと召喚部屋の外で待っていたようなのです。お二人もまたマスターを案じておられます。ですから…あの…」
 お茶を淹れ和菓子を楽しむ暫しの時間さえ、待ちきれない様子でアウルムがマナに尋ねた。
「まぁ〜 カムアったらしょうがない子ねぇ こんな良い子達に悲しい顔をさせて…」
 まずは事情を聞くマナ。館に戻ってからのKの行動、そして出立の様子を聞く。
(なるほどね… 私の予測よりもずっと早く”捉えた”のでしょうね。それは喜ばしいけれど)
 思案しているマナの顔を覗き込むアウルム達の眼差しは真剣であった。
(この子達に充分なフォローもせずに出かけるなんてねぇ…)
 Kの思考はまだ子供時代のままであったし、タイムリミット付きの呪いが発動中でもあったから、致し方ない事だったかもしれない。

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[38]召喚術士K


㊳マナの考察

「わかりました。ではお話ししましょうね」
 あ カムアには内緒ですよ〜 人差し指を唇に当てて微笑むマナ。身を乗り出すアウルム達。何でも知ってる風のルリカさえ、小さな座布団をマナの前にセットして良い姿勢で語りを待ち構えていた。
「さて…」
 アウルム達が心配しているのは”Kが何かを隠している”事である。そしてそれはKの身に関わる重大事ではないかと推察しているのだ。何しろあの”呪戒虫”事件からの流れである。
「まずは〜 カムアの姉的な立場から皆さんにお礼申し上げます。カムアを心配してくれてありがとう」
 アウルム達に頭を下げるマナ。その正面でお口チャックのルリカ。
「ご想像の方もいるようですが、カムアの体調とか記憶〜的な?事はまだ万全ではありません」
「「やっぱり!」」とハモるアウルム&リオ。発言こそないがマナの一挙手一投足を見逃さないように視線を送っているのがティア&アイシャであった。
「それを解決する方法がウツロイシティにあるようなのです」
「なるほど… あれ?」
 納得しつつ疑問の声が漏れるルリカに視線を返すマナ。反射的にガードをするルリカの頭をマナは優しく撫でた。
「ルリカちゃん賢いわ〜、その通り。ウツロイシティについては、こうなる前からカムアは下調べをしていたようですね」
 ウツロイシティ− 古代聖騎士の修練場だった古代遺跡。冒険者からしたら古代アンティークのアイテム群の宝庫であり、聖騎士達からしたら、試練を突破してのクラスアップの望める聖地の復活である。
「私の詳しくは知りませんが、元々は新たな冒険の場所という事での調査だったようです」 過去に類を見ない古代遺跡、それだけでも冒険者の食指が疼くだろう。そしてそれが古代聖騎士の修練場となれば、かなり大規模なものとなる。
「そして!現在カムアに降りかかった状態異常を取り除く可能性がこの聖地にあるようなのです」
「なんと!それは一体??」
「それは〜 私にもわかりません〜」
”ひょい〜” 疑問を呈するルリカにふんわりとした言葉を返したマナは、そのままルリカを抱き上げると優しく揺すり始めた。
(カムアは記憶の再ダウンロードが終わった報告とウツロイシティに行くって話しかしてくれないのだもの。私にさえ内緒だなんて… 全く誰に似たのやらねぇ〜)
 厳粛だった夫を思い出すマナ。困難な事を全ては語らずに解決へ奔走していた。連れ合いだから分け合って欲しいと願う。連れ合いだから危険には巻き込まないと誓う。幸いにもこの夫婦の互いを思う気持ちは、死が二人を別つまで続いた。
「神族と言ってもお仕えする神様が異なりますからね〜 なのでウツロイシティの詳細についてはわからないのよ。この辺はカムアに調査を依頼されたルリカちゃんの方が知っているかもしれませんね?」
”ひょい!”
 突然話題を転嫁されてティアに渡されるルリカ。
”じーーーーーーーーーーーーーっ”
 皆の視線が集まる。
「へっ? あ いや、わたしは何も… かか隠しているわけではっ」
「ルリカ、後であっちのお部屋で話し合おうね」
 リオの告知以外は誰も一言も発せず、ルリカ以外の四人はアイコンタクトで意思疎通が図れたようだった。甘く甘美な尋問(拷問?)が確定するルリカ。
「あ その前に〜」
 のんびりとした口調で、更にはお茶と和菓子を楽しみつつ、マナがルリカ達に向き直る。
「当たっているかわからないから、そのつもりで聞いて欲しいのだけど」
 カムアを襲っている新たな呪いについて、マナが解析した呪法を知り記憶のダウンロードを行った上で、カムアはウツロイシティに行くとしか彼女に告げなかった。
(考えられるのは、ウツロイシティの聖騎士の鍛錬に纏わる伝説。もしくは…呪具の所有者がそこにいるか…かしらね?)
 前者の成功確率は恐らくは低い。何しろ聖騎士が大成するための訓練報酬なのだ。とはいえ、神の奇跡をその身に受ける事が出来る希少な体験ではあるし、そこに希望はある。
 後者については… もし記憶のダウンロードで真相を”捉えた”なら、呪具の破壊を第一優先するはずである。だとしたら、少なくとも友達に助力を頼むのではないだろうか。

「あの子の目的として推察されるのは、人探しとウツロイシティのクリア報酬にあるかもです」
「人探し…ですか?」
「クリア報酬?ギルドの?」
 やや食い気味に質問をするのはリオとアウルム。ルリカの拘束はティアに任せてマナの眼前に舞い戻る。
「人探しについては…私の推理の枠を出ません。なので、これについてはあの子が自発的に話すまでは皆さんの胸に閉まって下さい。そして報酬というのはギルドのではなくてですね。聖地としての…です」
 それは即ち−
「神の奇跡=ウイッシュ=ですよ」
 女神が如き笑顔を讃えながらマナが囁いた。

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[39]召喚術士K


㊴リオとアウルム

「ウイッシュかぁ…」
 話が壮大すぎてピンと来なかったリオだったが、そんなものを当てにしないとならないくらいKが追い詰められているのではと理解したのは、解散して、ルリカを尋問して、魔界にある農場に戻ってきて、温かいミルクを飲んで、ミニガーゴイル君達と草むしりを始めた頃だった。
「…言ってくれれば良いのにさ」
 いつもこうだ。肝心な事は何一つ話してくれない。
「今回だってきっと一人で解決してしまうんだ。きっと…」
 心なしかミニガーゴイル君達が心配そうな視線をリオに向けているようである。
「……」
 リオは心を静めるように… 気がつけばただ無心となって草むしりが捗っていった。

”ガチャッ”
 召喚部屋を出てきたのはアウルムである。皆でルリカの尋問を行った後、再びマナに話しに言ったのだ。
(ウツロイシティの下調べは、あくまで下調べでした。だったらマスターは何をお考えになったのか…)
 加えて一時帰宅した時に感じた違和感。アウルムはそれが拭えないでいた。
「従魔…ですか」
 あの時マスターは何で悲しそうな顔をしたのだろう?それが引っかかっていた。
 マナにルリカより聞き出した情報をフィードバックした時に、思い切って聞いて見ることにした。
「あら、そうだったの。うーん、それは…」
 一瞬口ごもったマナは、アウルムに向き合うと昔話をした。
 それは魔界住みのカムアの少年時代の話。マナと共に新たな召喚契約術を編み出した曾祖父の話。そしてカムアが友達と契約術を行使せずに付き合っていた事。そんなカムアを慕った友人達が人間界へ戻るカムアを契約術の範疇を超えた絆で追いかけようとした事。
 全てを聞き終えた時、アウルムの頬を涙が伝わっていた。

「あ アウルムちゃん、マスターは… あ アウルムちゃん?大丈夫ですか?なんで… 泣いているのですか?」
 廊下で遭遇したリリーがアウルムの異変に気づいて心配そうに顔を覗き込む。
「私は… 間違っていたのです。マス…ぐすっ ターのお気持ちを…」
 後は言葉にならなかった。

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[40]召喚術士K


㊵美少女実行部隊長ルリカ!!

「酷い目に遭いましたよーー♪」
 四人のサキュバスによる甘く甘美な尋問によって身も心もカラカラにされた被害者ルリカは、その元凶たるマナに嬉しそうにクレームを入れていた。
「まぁ、カラカラなのにツヤツヤねぇ〜」
”ひょい”再びの抱っこモード。
「あのー 嬉しいんですけど、抱っこはいかがなものかと。何しろわたしも大人ですし」
 神族の巫女たるマナに抱っこされるプレイも嫌いではないルリカであったが、若干の羞恥心があったのかもしれない。
「なんで?大人って… えーっと… うんうん ○○歳? えーっ 普通に美少女じゃない? 可愛いわ〜 ルリカちゃん♪」
 実年齢を聞いても揺るがないマナ。
(そりゃあ、神族であるマナさんは○○○歳でしょうから、私なんて子供みたいな…)
 その割には年齢の話題に対しては容赦ない。なのでここら辺もお口チャックモードのルリカである。が!この時、気づいてしまった!
(ハッ!! もしかして… 神族目線だと、私って子供?いや少女?いや美少女!?)
 美少女は個人の考えが入っております。が!辿り着く!ルリカ新境地へ!!
「あの… マナさん? わたしって…美少女?」
「? ええ、何を今更♪ ルリカちゃんは超絶美少女ですよ〜」
 マナの個人的な趣味も入っております。が!舞い上がる!ルリカの魂!!
”しゅるり!タッッ!!”
 いきなりマナの抱っこモードから脱し、四回転半を決めて着地ポーズを決めるルリカ。
「マナお姉様!私に出来る事はありますでしょうかっっっ!!!」
「あら〜 ルリカちゃんキレッキレね〜 じゃあ一つ頼まれてくれるかしら〜」
 これがマナの策謀であったのか、天然であったのか、自然な流れだったのかは誰にもわからない。しかし、ここに最強の実行部隊長が誕生したのだった。

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[41]召喚術士K


㊶アウルム総帥の演説

 ここはサキュバスSALON『ド・レイン』 けっこう安全な魔族との異文化交流サロンである!
 サキュバスがメインの、いつもは華やかなSALONであったが、この日ばかりは悲しみに満ちあふれていた。
 普段は露出多め!の衣装に身を包むサキュバス達が黒一色の喪服を纏っている。
 華やかな美と淫をテーマにしたステージもまた黒と白の幕で覆われ、今ステージに黒の正装で現れたのは我らがアウルム総帥である。付き従うのはやはり正装を…落ち着かない様子で着ているリリー。
 いつもとは違った様子に戸惑いを隠せない得意客達。
 フロアが暗転し、魔晶石より発するステージライトがアウルム総帥を照らし出す。
 今ここに、歴史に残るカムア追悼演説が始まるのであった。

「諸君!我々は最愛のマスターを失った。しかしこれはド・レイン閉店を意味するのか?否!始まりなのだ!
 ルブル市街に比べ、我がド・レインの立地は魔物も出る最悪な場所である。にもかかわらず今日までやってこられたのは何故か?」

「それはアイシャが素敵だからさ!」「むっ 演説中に私語を慎めレアニウス!」「なんか一人増えてるが…誰だ?」レアニウス・パイロン・ゲインのジェットでストリームな駆け引きをとりあえずレアニウスを踏みつけて黙らすアイシャ。
「俺を踏み台にし… げふっ」グリッ!言い切る前に沈黙させるアイシャの美脚力!

「諸君!我々サキュバスの魅力が最高だからだ。これは諸君らが一番知っている。
 我々の多くは人間に追われ、魔物として討伐されかかった。魔族戦争後一握りのエリートらがこの地に膨れ上がった人間界を支配して30余年、魔界に住む我々が人間界に出てきた時、何度踏みにじられたか。
 ド・レインの掲げる人と魔族一人一人の自由のための交流を神が見捨てるはずはない。
 私の主!諸君らも愛してくれたカムア・ローは死んだ!」
「死んでないですよー」バーカウンターの中でリオが呟く。
「何故だ!?」クライマックスのアウルム総帥。
「坊やだからですかねー」 チャキっとサングラスを着用したルリカがカウンター席で呟く。
「店内でサングラスって…」「ふっ リオリオもお子様ですねー♪ 匂いですよ〜」「え、僕、なんか匂う?」噛み合わない会話。良い意味で噛み合う二人。

「新しい時代の平和を選ばれた民が得るは歴史の必然である。ならば我らは襟を正し、この難局を打開しなければならぬ。
 我々は過酷な人間界を生活の場としながらも共に苦悩し、錬磨して今日の文化を築き上げてきた。
 かつて、カムア・ローは人と魔族の交流は魔界の民たる我々から始まると言った!」
「言ってたっけ?」ティアがグラスを磨きながら呟く。
「しかしながらギルドの反対派共は、自分たちが人間界の平和を守れると増長し我々に敵対する!
 諸君の客もその反対派の無思慮な差別の前に干されていったのだ!」
「いや、俺は干されてないぞ!ぐわっ」反論するレアニウスを踏み抜くアイシャの御御足。「この悲しみも怒りも忘れてはならない!それをカムアは!死をもって我々に示してくれた!」
「これはもう…死んだって事で良いか」苦笑のリオ。
「我々は今、この怒りを結集し反対派の暗殺者に叩きつけて、初めて真の勝利を得ることができる。この勝利こそ主たるカムアへの最大の慰めとなる!
 サキュバスよ立て!悲しみを怒りに変えて、立てよ!サキュバスよ!
 我らド・レインのキャストこそ選ばれたサキュバスであることを忘れないでほしいのだ。優良種である我らこそ人間族を救い得るのである!」
「ドー・レイン!」演説を店名で締めくくったアウルム総帥。
「ドー・レイン!!」「ドー・レイン!!!」
 感銘を受けたキャストと顧客が一堂に店名を連呼する。
 こうして店主であるカムア・ローはなんだかんだで死んだという事になった。

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[42]召喚術士K


㊷夢の向こう側

「ドー・レイン♪ むにゃむにゃ」
「…リカ! ルリカ!!」
 BARのカウンター席。不可思議な寝言を連呼しているルリカの耳元でリオが呼びかけのボリュームを上げていった。
「うひゃっ あ リオリオ〜 お目覚のちゅー〜〜」
ガシッ! 何処かで学習したらしい片手でルリカの頭をキメたリオは、お目覚のチョコをルリカの口に放り込んだ。
「なんだい、ルリカ。ドー・レインって?良い夢でも見たの?」
「あ なんだ。夢でしたか」
 まさかの夢落ち! …ではない。確かにルリカの夢ほどの演出や過激発言ではなかったが、昨夜アウルムによるKの偽装店葬が行われたのだった。
「マスターの暗殺が成功したとすれば、SALONの危険度が下がるという一点では賛成ですがねー」
 マスター不在による危険もまたあるだろうとルリカは推察していた。
「だから来たんでしょう?あの人が」
 事前にマナに相談した案件だったので、すぐさまあの男が招集された。
「ラプルス様の事だね?」
「ふひゃっ!?」
 ルリカでさえ気づけないほどの希薄な気配。貴族服の少年がそこにいた。
「じ ジーコさんか、心臓にわるいよ」
「ごめん。もうちょっと魔素でも垂れ流せば良いんだよね。わかってるんだけどさ」
 ジーコというのは、Kの伯父であり錬金術士であるラプルスに付き従う”チャイルド”と呼ばれる少年達の一人である。
 ラプルスが自動人形・ホムンクルス・ゴーレムなどの技術の集大成とするチャイルドたる彼らは、その容姿も言動も人間のそれと変わりない。そしてその戦闘力と言えば。
「あのトパーズが赤子同然だったからね。これなら安全かぁ」
「我々もいますからね?リオリオ? …リオリオ?なんでこっち向かないんですかーー?」 そして特記戦力の固まりである黒服団。これは確かに万全のセキュリティといえた。
「あの追悼演説はSALONは勿論ですけど、マスニーの安全も考えてでしょうねー」
 呪戒虫事件の直前には、暗殺者部隊の侵入事件があった。その時にKに対しての大がかりで厄介な暗殺計画が存在する可能性が浮上したのである。故の偽装死亡であった。

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[43]召喚術士K


㊸館襲撃計画

「色々と万全。なのになんでルリカは浮かない顔をしてるの?」
「ネモフィラさんからの、密偵局絡みの情報ですよ」
 Kが出立前にルリカに渡したマル秘情報の事である。
「これによるとマスニーの暗殺とは別に、この館狙いの計画があるとか」
「え?館って、SALONとは別にって事?」
「ええ、これまでの不法侵入者は8割以上がマスニー暗殺関係でした。そして残りが窃盗やストーカーの類いですね。館そのものを襲うというシチュは意外となかったんですよ」
「特別な場所だって事はわかるけど… なんでこんなところを?」
 人間界にしては魔素が濃く、色々な異常事象が起こる事から”指定危険区域”として国家より認定されている”暗がりの森”。そこにある召喚用に建てられた館。周辺地域より行方不明者が多発した事に端を発した”伯爵事件”の現場でもある。しかし危険はあってもお宝の類いとは縁遠い場所である。何が目的なのか、リオには疑問だった。
「私にもわかりませんが、こうなると黒服団の特記戦力を容易に派遣できなくなるわけでして…」
 通常の個人狙いの、いわゆるアサシンがやってくるくらいなら元々の警備システム、即ちガーゴイル君が黒服の役割を担っていた頃のままでも間に合う。しかし−
「館を制圧する規模ってなると… まさか軍隊が来るなんて事ないよね?」
「流石にそれは… と言いたいところですが、それも視野にいれないとですかねー」
 何しろ館は大きい。これを制圧する規模の部隊が来るとしたら?その規模の部隊を迎撃するためには?過去にあった厄介事から考える対応策は?
「私の頭の中では様々な対応策がグルグルと巡っているのですよー」自慢げなルリカ。
「いや、寝てたよね?」久々にツッコミに戻ったリオ。
「まぁ、僕達もいるし〜大丈夫じゃない?」会話に入り込むジーコ。
「そうですねー、ラプルスさん達の増援は頼もしいですよ。とはいえ…」
 Kが予告した一ヶ月という期間は厳戒態勢を維持するのにはとても長い期間であった。警備スタッフも食事や睡眠を取らないとならないのである。館全体を軍隊規模の襲撃から守るとしたら? その想定で組んだシフトだと、空き人員はほぼ出なかった。
「あ、ルリカちゃん。やっぱりここかぁ〜」声はルリカの背後、更に下の床からした。
 ぬるぅ〜んっと黒いシミが床に広がると、そこからひょこっと頭が出てくる。ダネルであった。

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[44]召喚術士K


㊹ガリルからの情報

「うわっ まだ慣れないなぁ。ダネルさんの登場」
「ん〜 私はこの移動が楽だからね〜」影?いや闇と同化しているダネルはひょこっと手を出すと、持っていた書簡をルリカへと渡した。
「ガリル氏からのポッポ便だよ〜。超特急速達だって」
「なんですと!?このタイミングで?」慌てて書簡を広げるルリカ。
「ガリルさんって、いつもアヒルの姿の人だったよね?」
「アフラっ いや鳩ですよ。リオリオ。ガリルさんにはウツロイシティとの極秘連絡用の書簡を運ぶシステムを構築して貰ってまして…。ふむふむ」ツッコミ解説を入れつつも、目を忙しく動かして書簡を読み取るルリカ。
「これは… なんでこんなに早く…」
「どうしたの?ルリカ」いつにも無いルリカの真剣な表情にリオも緊張を覚える。
「マスターがもうウツロイシティに着いたようです」
「え? まだ二日だよ?転送ポートはないって言ってたのに、なんで?」
 館からウツロイシティに至るには、直線距離で800km程。馬を使って昼夜を問わずに進行した場合で二日という計算は成り立つが、実際の地形がそれを許さない。途中にある首都の城塞は迂回しなくてはならず、山間部では馬が使えない。そしてウツロイシティの辺りは元々濃い霧のため人が寄りつかなかったために荒れ地となっていて、更には凶悪な魔物が行く手を阻んでいるのである。
「わかりませんが…。なんであの人はこちらの予測を面白く裏切りますかねー」思わず天を仰ぐルリカ。あの時、マナからはKの身辺警護も依頼されていた。
(館の警備はマスターから指示されてましたし、キャストの皆さんの警備もこれに含まれていますからねー)しかしKは自身の警護は依頼してこない。それを察したマナがKの警備を追加で依頼したわけである。
(マスターがおそらくは… 首都近くまで転移して、そこから徒歩あるいは馬車で移動…いや馬を調達するのが早いか、それで到着までは早くて4〜5日と読んだんですが…)
「ルリカ、あれだよね?マスターの…援護の手配の事だよね。大丈夫…なの?」天を仰いで思案しているルリカの眼前にリオの心配顔が近づく。
「リオリオ… 心配顔も可愛いですねー♪ ちゅー」リオの顔を見て思案は何処かへと吹っ飛び己の欲望に忠実に行動するルリカ。
”がしっ”
「ルリカ… 今はお仕事しようね」一瞬で心配顔から真顔に変わったリオが片手でルリカの頭をキメた。
「がはっ! だ… だだ大丈夫ですよー。あ、凄いキまってる!?リオリオ−離してー」
 ジタバタと足をバタつかせるルリカの手は懇願の言葉とは裏腹にリオの胸へと伸びていく。
「なっ!?ルリカ!ルリカには緊張感…(それはないか…)とーにーかーくー!!」
”がん!ばたんっっ!!がごごごごご!!”あり得ない音。
「えー、どうなったら、そうなるの?」魔石将級を一蹴する実力を持つジーコでさえ不可思議な光景がそこにあった。

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[45]召喚術士K


㊺警護と手助け

「うっ がぁぁぁ!! リオ〜リオリオ〜 ギブ〜 ギブギブ〜 …あ、これはこれで良いか♪」
 リオのゲイザリオンによるぶち切れ攻撃は、様々な魔力の融合反応などを伴って、なんだかんだの末、リオがルリカに関節をキメた状態で固まっていた。なのに至福の表情のルリカ。
「ルリカ… このままだとボク…ルリカの事嫌いになっちゃうよ?」
「え? あ…それは困りますー。あ、でも離れない〜♪ …と冗談はさておき!」突然、真顔になるルリカ。
「その体勢で真顔になれるんだねー」驚愕のジーコ。
「大丈夫ですよ。リオリオ。ウツロイシティには、元々マスターがアッシュさんとネモフィラさんを派遣していましたし」
「でもさ… なんかマスターの様子がおかしいしさ… マナさんが推理したように遺跡のクリア報酬ウイッシュが目的だとして、それはかなり困難だろうし…」
「そちらの方は… リオリオが助けになってあげればいいじゃないんですかねー?」
「え? ぼ…ボク?」
「身辺警護的なのは私達黒服団やアッシュさん達白服の出番ですがねー。でも、遺跡の攻略とかは、専門外ですよ?」
「でも… マスターは手伝えって言ってないし… それにボクなんかが行っても…」
 伏し目がちになるリオの頭ルリカの手がいつの間に脱したのか、優しく撫でる。
「フッ。ド・レインは自主自立の精神で運営されているんですよー? マスターはリオさんを言いなりに操るような契約を強要してましたか?ゆる〜い契約でリオさんがしたい事を応援していませんでしたか?」
「それは… でもボクなんかじゃ」
”するりっ くるくる〜 すちゃ!”どう脱したのか?突然飛び上がり、幻の四回転を決めた後に見事に着地をするルリカ。
「ゆっくり考えさせてあげたいのですが、マスニーがウツロイシティに現着してしまった以上、時間がありません!」
”びしっ”とリオを指さすルリカ。
「館の防衛シフトができあがり次第、私はウツロイシティに発ちます」リオに背を向け、今度はジーコに話しかける。
「ジーコさん。ラプルスさんに依頼していた”アレ”って出来てそうですか?」
「ああ、”アレ”? うん、そうそう。僕はそれを伝えに来たんだった♪」てへぺろが似合うチャイルドは頭を掻きながら笑顔で答えた。

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[46]召喚術士K


㊻誰を送ったのかクイズ

「ルリカ、”アレ”って?」
「私達がウツロイシティに行く場合に必要になるものです。リオリオも見ますか?興味があれば…ですがね?」ニヤリと口角を上げた黒服団統括は、親友の行動を見通していた。
「それと…マスターの当面の警護ですけどね。勿論万全ですよ?既に…ね!」
 口角を更に上げようとしたが無理であったため、頭をぐるんと回して特別感を出そうとしたルリカだったが、「どうなってるの?面白ーい♪」とジーコがその回転を後押ししたため…。
”ぎゅるん”一回転した後にウインクを一つ。
「…今…首が一回転しなかった?」
「なんの事ですー?」瞳孔が開いたまま、リオをみつめるルリカ。
「いえ、何でもないです」一歩引いて後を追うリオ。
「そうそう、万全の理由ですけどね。あの人達も行ってるんですよ。それと…前にうち(黒服団)からも一人送ったって言ったじゃないですか−。勿論精鋭を送ってますからねー♪」
「誰だろう?マウザーさんとはこの前会ったし…、グローザさんはさっき森の中を走ってたし…」リオの脳内で黒服団ナンバリングメンバーの顔が浮かんでは消える。
「えー、すぐに浮かびませんかー?割と傷つくかもしれませんよ?」ルリカの瞳孔は開いたまま、恨めしそうにリオを見つめている。
「ごめん… わかんないや」あっさりと白旗を上げるリオに何故か涙目で食い下がるルリカ。
「もうちょっと頑張りましょうよー。あれは頑張り屋さんなんですからー」
「…ルリカがここまで食い下がるのって珍しいよね… …あっ」
 親友の言動で頭に浮かんだのは、黒服団随一の苦労人の儚い感じの笑顔。
「ええ、ええ。良いですよ。今更…」デレツン?一転して拗ね始めるルリカ。
「いや、ごめん。だって…あれだよ?ルリカ達がぶっとん…いや…えっと…元気すぎるからさ。割と普通な感じだから…。いや、ごめん」上手くフォローできずに謝るリオ。
”ぎぃぃぃ〜”誰を送ったかクイズの答えが出たのと三階の召喚部屋に着くのはほぼ同時だった。悄げ気味のルリカが扉を開ける。

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[47]召喚術士K


㊼管理召喚術士

「やあ、いらっしゃい」
 召喚部屋の一角に大量のフラスコやら機械類やらが置かれていた。その中で忙しく動き回っているのが災厄戦の英雄の一人、錬金術士ラプルスその人である。
「どうぞ、こちらへ」現在調整中…となっている召喚陣の横には別室にあったソファーが5つほど運び込まれていた。キャスト室も兼ねる部屋なので、研究・作業スペースと境界を作るためであったが、今は会話スペースとなっている。
「あ、マナさん!」
「はぁい、リオちゃんにルリカちゃん。こんにちは♪」女神の如き笑みを浮かべているマナは優雅にティーカップをテーブルへと戻した。
「あ、マナお姉様。こちらが例の書類です!」美少女ルリカがテキパキとした動作でマナに書類の束を渡す。
「あら〜、ルリカちゃん優秀ねぇ〜」ルリカの頭を撫で撫でするマナ。
「なんの書類…です?」
 ルリカの変わり身に突っ込みたかったリオだが、不用意に突っ込むわけにはいかず、無難に気になった事を聞くに留めた。
「管理召喚術士の登録証など諸々ですよ。リオリオ」
「管理…召喚術士って?」
「リオリオ〜、魔術師の素養を持つ貴女が知らないだなんて…」
”スリスリスリスリ〜”刹那の早さでリオの胸に飛び込んだルリカが神速で顔を擦りつけた。
「にゃあぁ〜〜!!」リオの嬌声。
「今回はこのくらいで許してあげましょう」殴られる前に離脱し、今度はマナの膝に正座をしたルリカは、マナから管理証を借りるとリオの前に広げた。
「先日、アウルムさんの奇策でマスニーの死を偽装しましたよね?となると、現在ド・レインには召喚術士不在で魔族や魔物が蔓延っているって事になってしまうわけですよ」
「あ、そうか!」素で納得したリオだったが、再びルリカが飛びかかってくるかもと思い両手で胸を死守する構えをとっていた。
「ですから、このマナお姉様をド・レインの新たな主って事にして!制度上の不備がないように動いたわけです」
「それにしても早かったわね〜」ルリカの頭と顎?を撫でながらマナが感嘆の声を漏らす。
「ごろにゃ〜。ええ、私は何時でも出前迅速がモットーですから♪」マナの膝の上でルリカが喉を鳴らす。
「こちらも丁度出来たところだよ」ぬっと顔を出して会話に入ってきたのはラプルスである。
「そうそう!これこれ♪ これで準備は整いました!」
 マナの膝に負担を掛けずに飛び上がるという地味な妙技をみせたルリカはラプルスの眼前へと着地する。

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[48]召喚術士K


㊽正体を隠せ!

「さっき言ってた”アレ”だね?それは…いったいなんなの?」質問すると飛びかかってくるかもしれないと予測したリオは、ラプルスに付き従っていたギルツというチャイルドの背後に隠れながら問うた。
「これはですねー。… ……なんでしたっけ?」
「え?」
「いや冗談ですよ。内容はわかってます。ただ私も…名前までは知らないものなので」
 救いを求めるようにラプルスに視線を向けるルリカ。
「ああ、これね。ルリカ君に依頼されたもので、確かに名前はまだない。性能としては、”正体がバレない”といったところかな」
「正体…です?」合点がいかないリオの目はルリカとラプルスを行ったり来たりしている。
「要するにですね。せっかくマスターが死んだ事になっているのに、私達が援護に行ったら、そのせいで素性がバレてしまうかもしれないじゃないですか」
「あっ、そうか!」
「そこで、なんとかなりませんかねーって、何でも発明しちゃいそうなラプルスさんに相談したんですよー」
(発想はわかるけど、随分雑な相談だったんだ)リオは心の中で苦笑していた。
「まぁ、丁度良いタイミングだったよ。前に認識を阻害するスキルを持つ者が来ただろう?面白いと思って原理を分析していたからね」
 闇夜の月と二つ名のテッド達が館に送り込まれた事件があった。その時に引率者として館に潜入したのがガザ・アルマス。彼は達人レベルの断の認識さえ阻害してみせたのである。
「ほら、これだよ」
「!? こんなに小型なんですか?凄い…」ルリカが真顔で感嘆の声を漏らすほど、ラプルスの発明品は凄かった。
「原理は魔素充填式の魔法具と変わらないよ。一日一回、魔素を充填する必要はあるからね」
 はいっと、ルリカに渡されたのはラプルス著(リューク画)の取説であった。
「これは… わかりやすい!」感嘆の声パートU
 認識偽装メダル(仮称)− 性能は主に三つ。@光学的に視界認識を変える能力(これにより、人相などが少し変わって見える)A変声能力 B魔素の波長パターンを変調する能力
 特定の誰かに成りすますための道具では無い。あくまで身元を隠すのに特化したものである。故に小型化に成功したとラプルスは語る。
「これは幾つほど作って頂けたのでしょうか?」
「材料の関係でね…、6つしか出来なかったのだが」すまぬとラプルスが頭を下げる。
「いえいえいえいえ!こんな短時間に6つも作って頂けるなんて!充分ですよ!」
 ラプルスからメダルと6つ受け取るルリカ。

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[49]召喚術士K


㊾メダルを受け取るのは

「さぁぁぁぁぁぁて!」にま〜〜と笑みを浮かべるとリオの方に向き直る。
「1つは私ですがねー。あとの5つは誰に渡そうかなー?」
「ち 近い… 近いよ、ルリカ」かなー?のあたりはリオの眼前だった。
「私はこれから有志を募りに行きますけど、リオさんはどうしますかねちゅ〜?」
 ぬぅーーっとルリカの頭を掴んで突き放そうとするリオ。
「今どさくさに紛れてキスしたでしょ!もうーーーーーーーーっ」
”ドガガガガガア!! バンッ ブフボフフッッ!!!”
 暴発魔法・本日二回目! 床に転がるルリカだった者の手からメダルを一つ抜き取るリオ。
「わかったよ!行くよ!だ…大体マスターはさっ いつも勝手に一人だけでさ…」
 ぎゅっとメダルを握る。
「会って一言… いやガツンって言ってやんなきゃいけないでしょ!だから… 一つは僕が貰うからね! … ……あれ?ルリカ?」
 ルリカは動かない…
(また殺ってしまった!?)
 デジャブ。
「…っていう遊びはまた次の機会に!」
 死体状態から、ドンッっと飛び上がったルリカは一度天井に張り付いた後、開いているソファーへと着地を決めた。
「さて… 残り4枚は…」トランプのように4枚のメダルを扇状に広げる。
「1枚は私です」ルリカの背後からニュッと白魚の如き手がメダルへと伸びる。
「わ 私の背後を!?」
「甘いわね、ルリちゃん!」メダルを取った手は、振り返ったルリカの頭をロック!そのまま−
「むぐぅぅぅ〜 むぐむぐむぐうぅぅぅぅ〜♪♪♪」その大型の果実を連想させる膨らみの挾間にルリカの頭を埋没させると… 締めた!
”ちーーーん”死体化二度目。
「わたしの勝ちね♪」桃源郷を彷徨うルリカを見下ろすのは、ステージ帰りのアイシャである。
「まったくお前は相変わらずだよなぁ」
「うわっ ティアもいたの?」いつの間にか倒れているルリカからメダルを奪っていたのはバーテン姿のティアである。
「俺さ… もしKが居なくなったら、また旅に出ようって思ってたんだ」メダルを見つめながらティアが物寂しげに話す。
「あ、悪い意味じゃないぞ?ほら…魔族の寿命って人間より長いだろ?…そういう事もあるかなってさ」キンッ− メダルを指で真上に弾くと落下してきたメダルを再キャッチ。
「旅も良いけど、まだ遊びたいんだよ。Kと… リオ達ともさ」
 何も無い空っぽの部屋− それが埋まってきたら、何か変わるのだろうか。初めてKに召喚された時、貰った空っぽの部屋を見てティアは思った。それから月日が流れ、Kだけでなくリオやルリカ達との交流も何時しかかけがえのないものになっていく。気がつけば部屋は空っぽではなくなっていた。
「うう… あ あと2枚は…」ゾンビのように床を這いずりながら呻くルリカ。
「勿論、私たちです!」
”きぃぃぃぃぃ〜”スタスタスタスタスタ!
 完全なる旅支度をして召喚部屋に現れしは我らがアウルム総帥であった。
 傍らに付き添うのは魔導ハットのジャジャを深々と被り、小型ぬいぐるみ化したコタツックマの抱きかかえ、イービルーエッグより産まれしパクモーをバックパックに変形させて背負い、魔導箒キーリンを自動モードで操る我らがリリーである。
「アウルムさん!…元気になった?」
 先日のKの偽装店装はルリカの夢とは真逆のテンションであった。
 最愛のマスターを失った…と、悲嘆しながら弔辞を読み上げる喪服のアウルムに引き込まれたリオは一緒に泣いていた。
「ええ、成すべき事がわかったからには邁進するのみです!」
「リリーさん…大丈夫?なんか大変そうな」フルアーマー・リリーを心配そうに覗き込むリオ。
「リリーは… リオさんやアウルムちゃんみたいには出来ないと思うのです… でも…」
 Kに舞い降りた異変を知らなかったリリーだったが、傷心のアウルムを心配して付き添って以来、その小さな胸を一抹の不安が占めるようになっていた。
(マスターは大丈夫でしょうか… アウルムちゃんはまたいつものように笑ってくれるでしょうか…)
 いつものように− リリーがかつて魔界を彷徨っていた時の”いつも”は飢えと逃走だった。サキュバスとしての未熟さを自覚していたものの、どうしたら良いのか分からない事だらけだった。Kに召喚されてから、リオやルリカ、アウルム達と交流するようになってから、リリーの”いつも”は楽しさと美味しさに変わった。幸せな日々。それは皆が笑顔で暮らせる事。
「大丈夫ですよ、リリーちゃん。リリーちゃんの姿を見れば、マスターも元気になって下さると思います」不安そうなリリーの頬に手を当てて笑顔で励ますアウルム。
「はい!リリーも頑張るのです!」アウルムちゃんも− マスターに会えばもっと元気になれるはず!そしてもっと素敵な笑顔を見せてくれるはずなのです!大好きなアウルムを見つめ返しながらリリーは素敵な”いつも”を取り戻したいと願った。
「これは有志を募る手間が省けましたねー。すこぶる良い意味でですが」
 いつの間にか復活していたルリカは暖かい目でアウルムとリリーの友情を見守っていた。
 ここに、ルリカ・リオ・アイシャ・ティア・アウルム・リリーのK救援パーティが結成されたのである。

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[50]召喚術士K


㊿アウルムの妙案

「で!出発は何時だ?準備があるからさ」パーティ結成直後、大事な質問をしたのはティアである。
「それが… 先程ガリルさんからの伝達によると、マスニーは既にウツロイシティに現着したそうです」
「え?早くないか?結構な距離だし険しい地形だぞ?」驚く面々。代表質問者はティアだ。
「あの人の事ですからねー」この一言で何故か全員が納得する。
「今ある選択肢ですが、@密偵局御用達の長距離移動術で行く Aマナお姉様の送還術でいく Bラプルスさんの何かしらの発明品で行く が時短出来るかもしれない手段ですかね。あとは高速馬車を何台も乗り継いで… これだと何日かかるか…」
「は〜い、Aですけどね〜。残念ながら私はここより西側には行った事がないので、送ってあげられません〜。ごめんなさいね」万能そうな転送術だが、転送先にポートの設定が無い場合、様々な危険が伴うのである。
「いえいえ、マナお姉様。お気持ちだけでもありがたいです!そもそも勝手に当てにしてすみません…」早速選択肢が一つ減った。
「ああ、僕の方なら良い実験機がある。これなら超超高高度から一気に落ちる事で…」嬉々として画期的な発明品の説明に入るラプルス。
「却下ですー」超超高高度ってなんですかーっ…と突っ込みたいのを我慢しつつ、すみませんがと謝るルリカ。選択肢がまた一つ減った。
「まぁ…密偵局のアレも似たようなものですがね… でも!実績がありますから!」
「アレだよね?前にサナって子が来た時にルリカが舞い戻ってきたやつ… あれはルリカ以外はムリだと思うよ」大型弾丸のようなシャトルに入り、大型ボウガンで長距離を飛ぶそれはルリカ砲と呼ばれている。ちなみに密偵局でも実績を持っているのは現在に至るまでルリカだけである。
「詰んだじゃん!」リオの久々のツッコミは絶望的な結論だった。
”ガシッ”ルリカを羽交い締めにするティア。
「さぁ捻り出すんだ!ルリカ!お前なら何か思いつく!」
「いや… 流石にそれはぁ… タン? なななな」何をするの?むにゅん♪とルリカは雨に打たれて佇む子犬のような視線でティアを見つめた。
「おまえは出来る子だろ?」優しい眼差しで返すティア。一見すると微笑ましい構図。しかし…
「目… 目が本気ですよー」ルリカ絶体絶命!
「あの… 私で良かったら妙案があるのですが」救いの主はアウルムである。
「ああ、アウルムさーん。怖かったぁーー」
”スリスリ〜 ガッ!”
どさくさ紛れにアウルムの胸に飛び込んだルリカは、二擦り程でティアによって引き離される。
「妙案って、どんなです?」妙案の妙というところに不安を感じたリオがアウルムに尋ねた。
「私も転送ポータルをいくつか所有しているのですが、その一つにリフォール王国があるのです」
「ああ、アウルムさんの実家があるんだよね」
「ええ、まず私の実家に来て頂いて…」
「でも、リフォールからだと… やはり時間がかかりますよ?国境もありますし」
「はい。ここからは私ではなく、グンナムお父さんに頼む事になるのですが」
 リフォールよりその隣国、即ちパルナと隣接する国の国境近くにあるポートまで移動できる。すると−
「国境を越えて…ウツロイシティまでの距離はありますが、直線で行けますし地形も平野部です!これなら一日あれば!」ふむふむとルリカが分析する。希望が見えた。
「みなさん、カムアをよろしくお願い致します」深く頭を下げ、一人一人の手を握って感謝をするマナ。
「館の方は元々の警備システムがしっかりしてるからな。加えて僕がいるんだ。安心して行っておいで。カムアの事、よろしく頼むよ」重度のシスコンであるラプルスは、妹の子であるカムアの事も溺愛していた。救援にも自ら行こうとしたのだが、とにかく目立つ。それはKのためにならないからとマナに諭されて館へ残る事になったのだった。
「ええ、出立は明朝!バナナはおやつにはいりません!」腕を突き上げてルリカが宣言した。こうして救援パーティは無事に出発する事になったのだ。

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[51]召喚術士K


51.そしてウツロイシティへ

「あ、そうそう」ルリカが腕を降ろすのとほぼ同時にリオが話しかけた。
「えー、リオリオ〜。せっかく私が締めたのにー」不満顔のルリカ。
「いや、ルリカが送った腕利きさんなんだけどさ。一人で大丈夫なの?」
「むっ!あの子はきっと大丈夫ですよー!たぶん難局を打破するはずですー!」
「きっと… たぶん…」不確定要素が多分に含まれていて。
「言葉のアヤですよ!多分今頃大活躍しているはずです!」
 そう、ルリカの予感は当たっていた。だって今、ウツロイシティでは…
 雷光の魔戦士ラトスがカシムことKに迫っていたのだから!

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