【ド・レイン小説】『魔導公と禁忌の魔獣』



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[61]召喚術士K


=62.連撃・揺らぎ

「ぐわあ!」
 刹那、ヘルダンが驚愕の声を上げた。
「”月華陣・満月(フルムーン)”」
 破壊と同じタイミングでリジルの月華陣がヘルダンの両の手と胴体を捕らえたのである。

「さて、ルリカさん?」
「いや…作戦とはいえ、皆さんに見られていると…」
 破壊と同時にリュネットはルリカを抱き上げていた。見つめ合う二人。
”ちゅ… ちゅるぅ…”
 リュネットの唇がルリカのそれを捉え、舌がねじ込まれていった。
「あ…あふぅ…」(そんな見られているのに…って…萌えるじゃないですかー!)
 ルリカにとってリュネットは…、ドレイン中毒時に”最も吸ってくれた相手”である。すなわち中毒の総元締め。故にルリカの脳はどびゅどびゅとエンドルフィンを分泌していった!
”ちゅうぅう〜”
「あっ あっ ああああああああああああああああああああああん!!」(リュネットさーーーーん わたしわたしぃ!思い出して…あああああああああんんん!!!)
”キィィィィィィィィィィィィン!!!”
 ルリカの背中にぶら下がっていた妖刀ムラムラがまばゆい光を放った!

【再び説明しよう! ルリカの欲望が臨界値を超えた時、妖刀ムラムラの封印は解け、恐るべき力を発揮するのだ!】

「とにかくっっ!許せませんっっっっ!」
 スルッとリュネットの腕から飛び出したルリカが強大なオーラを放ち大剣と化した妖刀を構える。
”ズシャァ!”
 一振り。放たれた光弾がヘルダンにぶつかると、巨大な陣となってそれを捕らえた!
「ぐっ 小癪なぁ」
「うおおおおおおおおおおっっっ!!」
 オーラの輪を背中に発生させ、放出するオーラで突進するルリカ。
「ルリカイザァァァァァ サンダァァァァァ!! クラァァァァッシュぅ!!」
 飛び上がり振り下ろされる正義の鉄槌!それがヘルダンの体を真っ二つに裂いていく!
 同時に―

「追撃させて貰うぜ?」
 たまらず膝をつく姿勢のヘルダンと零距離にアッシュはいた。
「展開…」
 これも一瞬だった。ヘルダンの視界にアッシュとそれを取り巻くように無数の銃剣が現れ―
「フルバーストだ!”断罪弾・全弾放出!”」
”ババババッッッ!” ”キィィィィィィィィィィィィン!!!”
 謀らずともともレーヴァの秘剣と同じ名称。それの意図するところは邪悪に対しての絶対の断罪である。そのための術式、それはただの魔弾放出ではなかった。発射と同時に描かれる”陣”は肉体だけで無く、霊体をも貫く特性が付与される。
(儀式とは、それそのものが邪を祓う…か、あいつは間違えなくマナ様の血縁だな)
 魔弾放出に”儀式陣”の特性を付与するというのは、Kのアドバイスだった。退魔の術式の応用であり、これによりアッシュの奥義の特に魔属性に対する威力が格段に上がったのである。

「ぐわあああああ!!」
 ムハブゥの肉体を乗っ取って間もないヘルダンにはたまらない攻撃であった。
”ブゥン… ブゥゥゥン…”
 生じた揺らぎ… それは融合の綻びであった。

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[62]召喚術士K


=63.連撃・破邪

「さて、友の体から出ていって貰いましょうか!」
 アッシュの魔弾に続いたのは、黒き衣を纏った術士、いや前衛に特化した装いでロッドを”大鎌”に変化させたKの姿は死神であった。
「魂送術・離葬送!」
”死神の大鎌”を一閃、そして印を結んだ左手をヘルダンの心臓部へと突き出す!
”ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥン”
 ヘルダンの体が震え、そして―
『ば…馬鹿な!?』
 その声はヘルダンの体の直後からした。ルリカに斬られ、アッシュに撃ち抜かれた己が肉体を霊体の自分が見下ろしている―
「肉体への大ダメージ、そして霊体へと届く損傷を受ければ”不安定”になりますからねぇ、僕の死神の術式がおばあちゃん程では無いにしても、これなら貴方に届くというわけですよ」
 Kが”ぬんっ”と力を入れると、ヘルダンの霊体は更に肉体から押し出されていった。

『ぐぅ… まずい… この状態であれを喰らったら!』
 ヘルダンの視線がレーヴァへと向く。かつて自らの肉体と霊体を斬り裂いた魔光剣の使い手であり、その最大の剣技である”断罪”を警戒して。
「ああ、お前を裁つ準備は出来ている」
 その視線の先、レーヴァの剣にはアッシュと対峙した時以上の断罪の光が集積していた。
『させるものかっ!』 
 ヘルダンがKの”離葬送”に抵抗しつつレーヴァの一撃への防御を施そうとした時だった。

”カッッッ―――”
 まばゆい”聖”の光がその背後から放出されて来たのである。
「悪いけどトドメはボクらしいよ?相性が良いんだってさ… んん…」
 初めての大技の展開に集中しているため言葉少なめに宣言したのはリオである。Kからの伝達で”エルダー・ゲイザリオン”に所持していた聖石全部を充填し、持ち合わせた魔石を周囲に展開させる。上級魔族ニックと同調(リンク)したリオの偽魂がその有り余る魔力量を全放出させて唱えるは、クリスタル・パレスに伝わる邪を祓う”聖なる波動”の術式だった。

(しかし…これ…魔素の放出量が半端ない…ボクじゃ制御しきれな…)
 リオの一族を狙う存在から彼女を守るために施された術式。ニックの魂が放出する魔力量を制御しきれないのが難点であるが、敵の目を欺くたに必要だった命がけの偽装。そのためそれを戦闘に利用する術については未訓練であった。
(ボクのせいでトドメをさせないなんて事…)
 必死に制御しようと試みるリオ、その心が折れかけそうになった時だった。
「リオさん!」
 声と共にゲイザリオンに添えられた手。途端に魔力制御がしやすくなった。
「ケリィ?」
 リオの傍らでゲイザリオンに手を差し伸べたのはレイエン家の末子ケリィ・レイエンだった。

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[63]召喚術士K


=64.虹の先には

「僕が制御します。リオさんは術式の完成だけをイメージして下さい!」
 流石はレイエンの血筋、ケリィは暴れる魔力の渦を綺麗な”流れ”に転換していく。
「ありがとうケリィ… 一緒にあいつを倒そう!」
 僅か一日でたくさんの事があった。SALONに助けを求めてきたケリィ、そして魔物に襲われた村へ、偽物のKと実験体―
(最後に魔王だなんてね、とんだ悪夢もあったもんだ!)
 ケリィの手に自らのそれを添えて、リオは悪夢を振り払う一撃に集中する!
「聖石展開… 魔石術式…」
 リオから溢れる魔素の流れがケリィによって制御され、展開された魔石に行き渡る、ゲイザリオンに聖なる光が集積し―
「邪を祓う聖石よ、魔を滅ぼす聖なる光よ、白き国を守りし聖なる精霊の名において…」
 展開された魔石が各々の特性の光を放ち、それは円形に収束していく。それは鮮やかな虹となりリオの背後で後光のように輝いていって―
「我ここに誓わん、我らの前に立ち塞がりし悪しきもの達に、聖なる裁きを与えん事を!」
 リオの視線がヘルダンを射貫き、集積した聖なる光がゲイザリオンを媒介に放出される!
「聖光虹破弾《クリスタル・レインボー・スナイプ》!!」
 放たれた光弾は美しい七色の光の軌跡を描きながらヘルダンの心奥部を貫く!リオの背後に展開する虹色の後光、そして背中より放出される魔素の迸りは―
(まるで天使の翼ですねぇ)
 リオの渾身の一撃がヘルダンの霊体を完全に滅せられるように、死神の術式・離葬送で捕らえながらKは自身の想定を上回るパワーを引き出したリオの優しく力強い魔素の迸りを心で称えていた。

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[64]召喚術士K


=65.続・大団円

『ぐわあああああああっっっ!!』
 断末魔の声、Kによって肉体より離脱させられたヘルダンの霊体は”聖属性”を持つリオの光弾によって貫かれ、実験室の壁へと打ち付けられた。そして―
「お前の企みもここまでのようだな?返して貰うぞ、我らが友を!」
 リオの聖弾によって霊体に大ダメージを受け、体が消失し始めたヘルダンに断罪の光を温存したレーヴァが魔光剣を振るう!
「カムア殿!」
 レーヴァが斬り裂いた”腹部”から弱々しく光る球体が零れ落ちると、それをKが”死神の鎌”より発生させた霊属性の光球でキャッチする。
『お…のれ…』
「ヘルダン、”ムハブゥ”の魂は返して貰いました。これにてお別れですが、素直に輪廻の輪に乗ることをお勧めします」
 消失速度は早く、カムアの宣告後にヘルダンは今際の言葉もろくに発する事なく姿を消した。

「魔王の最後ですが、意外と呆気ないものなんですねー。ぜぇぜぇ…」
 自身は無傷だが、あり得ない程のエナジーを放出する妖刀ムラムラの必殺技を一日に二度も使わされたルリカの目の下には真っ黒なクマが出来ており、息も絶え絶えであった。
「大丈夫?ルリカ?さっきの凄かったけど…」
「リオリオこそ、なんですか?さっきの!初めてみましたけど凄かったですよー」
「あれは…ケリィが助けてくれたからさ」
 実は放出時、ヘルダンを貫いた後ではあったが、魔力の制御が緩んで転んでいたリオであったが、それは内緒なのだ。

「カムア殿…」
 レーヴァとリジルの兄弟がKの元へと歩み寄る。その視線はKの手の平へと注がれていた。
「ええ、ムハブゥの魂です。少し浸食されていますが…」
 ヘルダンに肉体を乗っ取られたムハブゥは、肉体こそ奪われたが魂はすぐには同化されなかったのである。
「魂の同化は肉体のように早くは出来ません。ヘルダンも”食べる”と表してましたので間に合うと思いました」
「なるほど、それで霊体を引きずり出して…」
「トドメも兄で無くそちらのお嬢さんにか…」
 融合してすぐは魂と肉体が馴染まない。故に魔王化の力も肉体を失えばその多くを消失するのである。そしてムハブゥの魂の救出のためには、断罪の力で肉体を瞬時に滅ぼしかねないレーヴァよりも、急所の核のみを貫くリオの方が向いていたのだ。

「おばあ…曾祖母に依頼してムハブゥの魂の汚れは取り除きます。あとは…寿命を調べてとなるのが自然ではあります」
 要するに輪廻転生が自然であると、特にムハブゥの生に執着したリジルへ告げているのだ。
「わかったよ。カムア殿。友を自然に… 頼む」
 理解していても耐えがたかったのであろう。リジルの声は震えていた。
「兄さん…」
「すまなかったな。ケリィ。エルファスと… そして民にも多大な迷惑を掛けた」
 俯くリジルの肩を抱きしめるケリィ、そしてその二人を抱きしめるレーヴァ。
「まったくはた迷惑な兄弟ですよー。おかげで私の貴重な休みが…」
 迷惑と言いながら少し嬉しそうなニュアンスでヤレヤレのジェスチャーをするルリカ。
「まぁ良かったよ。魔爵、そして魔王なんてさ。夢魔であっても見たくない悪夢だからね」
「終わりに見せかけた始まりって…誰かが言ってましたからねー。何かが始まったりして」
「誰が言ったの?そんな事。変なフラグが立ったらどうするのさ」
 ムハブゥの魂を外気から守るオーブで包みリュネットへ預けるK。大団円!誰もがそう思った時だった。

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[65]召喚術士K


=66.ヘルダンの執念

”キュルキュルキュルキュル!”
「う…」
 無数の触手が床から伸びKを捕らえた!
「マスター!?」
「カムア殿!」
 即座に対応に動いたアッシュとレーヴァだったが、床より凄まじい量の魔素が放出されて吹き飛ばされる。
『全く人間とは… 恐ろしいものだ。ある意味で大魔王よりも厄介と言える…』
 地面より聞こえるは穏やかなれど凄まじい程の殺気が籠もった声。
「ヘルダン!?そんな…さっき滅したはず…」
『でも愚かだ。わたしを完全に倒した気でいたのか?万が一のために魂の一部を秘匿しておく…災厄様との時もそうであったようにな』
 故に魔王化した時に魂の一部を即座に自らの”ルーム”に保存していたヘルダン。本体の大部分を分身体としてK達との戦いに臨んでいた。
「ヘルダン… 輪廻の輪に乗ることをお勧めしましたが?」
 霊体の触手に束縛されながらKが声を絞り出す。
「漆黒の術士よ… お前が元凶だ。今回の事もだが、災厄様の事もだ!」
”ズブズブ…!”
 Kの体が沈んでいく!?
「カムア!」
 放出する腐蝕の魔素を浴びる事も構わずアッシュがKに向かう。
”バシィ!”
 それを触手で弾くヘルダン。
「慌てるな。わたしの空間でこいつを始末したら、順番に殺してやるからな」
 アッシュは先程のフルバーストで魔弾の全弾を使い切り、レーヴァもまた断罪の光を集積し切れていなかった。
「ああ、大丈夫ですよ。アッシュ。それより…」
 ムハブゥをおばあ…いや曾祖…の途中で言葉は途切れ、Kの姿は研究室より消失した。
「くそ!俺はまた!」
 床を叩くアッシュの肩にレーヴァが手をかけて、
「いや… カムア殿は心配ないだろう。何か考えがあるように見えたからな。それに―」
”彼女達が一緒だから…”

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[66]召喚術士K


=67.ルーム

 そこは真っ暗だった―
 ヘルダンが自らの肉体と魂をしまう場所、Kが”ルーム”と呼ぶ魔族特有の空間。そこは彼の特性そのものであり、全てのものを腐蝕する場所であった。結界があっても、その結界自体もいつかは腐蝕されてしまうだろう。無重力…いや水中のような重さと触感、引き込まれたKはそこを漂っていた。

「ふむ… ここが貴方の”ルーム”ですか… イメージ通りではあります」
 その生き物を…いや無機物であったも存在出来ない場所で、黒き術士はお上りさん的に周囲を見渡しながら、飛行の魔法の応用で姿勢を制御した。
「やはりお前は無事か。前の戦の時、地獄界へと封じたヴェナの心臓を取り戻したと聞いたが… 真実であったのだな」
「ええ、僕はあらゆる空間に適性を持ちますので」
”災厄戦”のターニングポイントは二つあった。一つは人間界での王都での反攻作戦の成功。そしてもう一つは災厄の右腕とされたヴェナの人間への加担。ヴェナを無慈悲な戦闘参謀”ハートレス”として縛っていたのは、文字通り彼女の心臓の封印であったのだが、その封印場所とされた地獄界に行き奪還した人間の術士がいた。それがKであったのだ。そしてKがそれを成し得たのは正確には纏っている”常闇の衣”の特性であるが、敵に正直に話す事ではない。
「しかし…あちらの二人はどうなる?」
「え?」
 Kの前で先程よりは小振りではあるが魔素の集積で実体化したヘルダンが指を指した方向を見てみると、
「これ…魔力の消費量が半端ないんだけど… 溶ける?ボク溶けちゃう?」
「フフフー わたしは平気っぽいですよー? 天才?わたしって天才?」
 Kの視界に入ったのは、聖結界を張っているリオと、何故か溶けないルリカだった。
「なんでルリカは溶けないの?」
「よく見て下さいよー (くいくい)」
 ルリカは”気”による結界(のようなもの)を張っていたのだ。よく見てみると…
「ドレイン・ナイフ!?」
 エナジーを吸い取る黒のナイフによってルーム内の魔素を吸収し、白のナイフから放出する時に自らの気のバリアを形成する。これによって持続的に防御結界が張れていたのだ。
「溶けなくても息が続かないでしょうに…」
 やれやれと、しかし嬉しそうな表情を浮かべたKが両の手を前に振り下げると、”常闇の衣”から二本の触手が伸び、浮遊しているリオとルリカを彼女達が張っている防御結界ごと掴み取り、Kの元へと引き寄せた。

「ぬおっ なんて便利なっ」
「マスター… いくつビックリアイテムを持ってるです?」
 引き寄せられ、今度は二倍程度に広がった”常闇の衣”に包み込まれるリオとルリカ。
「この衣はある程度の形態変化が可能です。そてにしても…、二人ともあの一瞬で飛び込んだんですか?」
 ”常闇の衣”は神族の巫女たるマナの一族が儀式の際に纏っていたものであるが、マナが結婚するタイミングで巫女の仕事を休業する事となり、その後は召喚術の継承者の証としてカミナ・カシムと受け継がれてきた。
 そしてKが嬉しくも驚いていたのは、レーヴァやアッシュでさえ間に合わなかった自身の救出にこの二人がより早い判断を行ってくれていた事だった。
「いや、体が勝手に動いてですねー ははは」
「丁度マスターの背中のあたりにいたから…」
 照れ笑い。実際ルリカの判断は早かった。出だしはアッシュと同じであったのだが、魔弾を使い切っていたアッシュがKを捕らえた触手の属性を推理しつつ得物を出そうとするタイムラグの間にルリカは沈み込むKに飛びついていた。そしてリオは言葉通りKの背中のあたりにおり、触手がKに巻き付いた瞬間こそ一歩下がったが、Kの体が沈み込んだ時、反射的に体が動いたのだった。聖石切れなのにも関わらずに―

(だって…今度マスターを見失ったら、もう二度と会えなくなると思ったから…)
 俯きながら小さな声で呟いたリオの声はKに届いたのだろうか?代わりに答えたのはヘルダンだった。
「麗しき主従愛か。せっかく来たところでこの場所で”この私の領域”では何の役にも立てぬがな」
 フンと鼻で笑いながらヘルダンが大きく手を上げると、その六本の腕の描く軌跡が強い魔力を発し始める。
「お前達に体の大部分を持って行かれたが、この空間から得られる魔素量を込める事で先程に匹敵する術式を発揮する事が可能だ。そして四散し腐蝕したお前達のエナジーを奪えば回復も早かろう」
「ぬぅー」
 ブンブンとナイフを振ってみたものの姿勢が安定しないルリカ、そしてK同様にフライト魔法の応用で姿勢こそ維持できるようになっていたが、聖石切れで決定打を持たないリオ、せっかく駆け付けたところで無力の烙印を突きつけられるが、Kは和やかにヘルダンへ返した。
「いやこの子達の援護はとても有りがたい。大切なのは相手のために動く事、即ち”心”です。わかるでしょう?ヘルダン。貴方もまたその身を捨てる覚悟で災厄の魔王のために戦ったのだから」
「知ったような事を!お前に何がわかるのか!?いや…今ので確信した。お前…災厄様の”消失”に関わっているな?」
 上位魔族は簡単には死なない。魂や肉体が僅かに残るだけでも復活の可能性があるからである。勿論弱体化するため再び強力な個体になるまでに他の魔族に滅せられる事も多いため、一度死ねば同じ地位まで戻る事は容易ではないが。しかし災厄の魔王が討たれた後、新派の魔族がその欠片を探したが何処にも見当たらなかったのだ。
「その件については、何も申せません。が、その攻撃は止した方が良い。貴方は既に敗北していますので」
 自身の真価を100%出せる空間で、更には魔王化した事で扱える魔力量が格段に増えている事から放たれる術の破壊力はとんでもないものになると誰にでも予測がつく。なのにKはあろう事かその相手に敗北しているなどと宣言したのだ。
「既に敗北か?確かに再び肉体を失った。ただ一度クラスアップをした私は”魔王”のキャパシティを手に入れている。再度肉体を手に入れ時間を掛ければ復活も容易いだろう」
”ギュウウン!”
ヘルダンの言葉を裏付けるように、彼の放とうとしている破壊の術式は禍々しく膨れ上がり、先程の凶華片や腐蝕の暴風を凌駕する破壊球となっていた。
「お考えは変わらないと?」
「くどいな。お前達を滅し、レイエンの子らも始末した上で…私は当初の計画通りに歩むとしよう。さらばだ、黒き術士とその魔物達よ!”腐蝕暴球弾!”」
「誰が魔物だー」
 魔物扱いされた事に抗議を始めたルリカの声は、先程の腐蝕の大暴風を凝縮したようなヘルダンの術式が発する悲鳴のような音にかき消されていった。そして破滅への魔弾がK達に向かって放たれた―

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[67]召喚術士K


=68.虚無

「ここは…何処?」
 一瞬で風景が変わった。リオは草原にいた。目の前には大きな川が流れている。
「変な植物… ここは人間界ではないようだね」
 魔術師として植物学にも精通しているリオが知らない植物が群生していた。
「あはは リオリオ〜 川がありますよー、一緒に渡りましょうー」
 見るとルリカが千鳥足で川に向かっていく。
「だめだよっ ルリカ! 危ない! あれ…」
 慌ててルリカを抱き止めるも、リオもまた目眩を覚えた。それもかなり強烈な。
「おかしい… なんか酔っ払ったみたいに…」
 それは高濃度のお酒以上の酔いであった。しかし何故? それに、ここは…何処?

”ズゥゥゥゥン!”
「やはり黒き術士の魔物達か。ここは何処だ?」
 上空より川へ落下し、水柱を立てながら現れしは”腐蝕”の魔王ヘルダン。
「誰が魔物だーだーだー!!あはは」
魔物扱いされての抗議の最中にも呂律が怪しくなり、クルクル回転して尻餅をつくと何故か笑いのツボに
入るルリカ。
「ボクの方が聞きたいよ。さっきまでグチャグチャな空間にいたと思ったら、何でこんな…見た事も無い魔界に!」
 尻餅をついて笑っているルリカを庇うようにゲイザリオンを構えるリオだったが、彼女もまた呂律が回らなかった。
(見た事もない魔界?それにこの酔い…まさか!?)
 リオの脳裏によぎった一つの可能性。それに答えたのはヘルダンであった。
「魔素酔いだな。しかし…こんな高濃度の、いや高密度の魔素は初めてだ。お前は魔界と言ったが”我々の魔界”にこんな場所は無い。そうなると考えられるのは…」
 別の大魔王界という事になる。だが異なる大魔王界との行き来は自由では無い。それぞれが魔界の神と畏怖される大魔王が創造(クリエイト)せし”国土”であり、特別な許可が無い限り入る事はおろか感知するこつすら出来ない別空間にあるのだ。
「ええ、ここはクルデリス様の大魔王界ではありません。最も深き魔界と言われる”虚無の大魔王界”です」
 ヘルダンの推理が確信へと変わった時、それに対する解答を伝える声が頭上よりした。

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[68]召喚術士K


=69.制約より重いもの

「マスター!」
「ますにぃ…にゃはは♪」
 魔素酔いで頬を紅潮させたリオとルリカが見上げた先には、”飛行”(フライト)で急降下してくるKの姿があった。
「ああ、案の定…でしたね。少し待って下さい?」
 Kが素早く衣を脱いで放ると、”常闇の衣”は大きく膨れ上がってリオ達を包んだ。外を覗ける程度の隙間を残して球体化する。
「これで酔いも軽減するでしょう。心配はいらないので、ゆっくりお休みなさい」
「あのマスター、ここは? それに…そう!ヘルダン!ヘルダンがいるんだから、ボクだって…うう目が回るぅ…」
「リオリオ〜♪ テントと言えば遭難ごっこですよー♪」
「ルリカ…人間がこの魔素を吸ったら意識がないと思うんですが…」
魔素に酔ってリオに抱きついているルリカを見て苦笑するK。
(ルリカの里は色々あったようですから…)人であっても魔物のように”酔う”要素がルリカの体にはあるのだろうと推察する。
「マスターだって人間じゃん!衣を脱いだら…」
ああ、それなら― ”チェンジング・リング”を装着するK、一瞬でその姿が少年となった。
「大丈夫ですよ。リオ。この姿は衣を脱いでもこの地に適応するためです。前にも見ているでしょう?ヘルダンと最後の…話し合いをしますので、安心して…」
 穏やかに告げて落ち着くようにとリオの頭を撫でる。
「マスターは…なんだかんだ死なないから…」
 頭に置かれた手をギュッと掴む。その手はいつもより少し小ぶりで…、そう自分と同じくらいの年齢の男の子の手だ。Kのこの姿は、曾祖母マナの神族の血の特性を強化したものである。この地で生きなくてはならなかった子供時代の姿。その姿をKは同窓会に行く前にリオに見つかっていたのだ。
「信じて良いんだよね?」
「ええ、信じて… ルリカと仲良く寝てて下さいね」
 ”ちゅ”リオの頬にキスをして、Kは姿勢を正してヘルダンへと向き合った。

「おまたせしました。さて…多分聞きたい事があると思いますが、聞きます?」
「ありすぎだな。そして拍子も抜ける。お前を抹殺してからのわたしの計画が滑稽にも思えてくる展開だ」
 大きく息を吸いながらため息のように吐き出すヘルダン。しかし目に宿った殺気が衰える事はなかった。しかし目の前の術士の即座の抹殺よりも、脱出不可能な自分の領域からの全員を転送という非常識な手の内を明かすというなら、知っておいて損はない。
 それに八大魔王の中でも最古参であり、深淵の魔神へと最も近しい存在と言われる虚無の大魔王の国土へ来たのであれば、これもまた情報があった方が良いのも事実であった。
「空間転移をアンチ化していたわたしの空間からどうやってここに来た?それも自分達だけで逃げれば良いものを何故わたしも連れてきたのだ?」
「僕の転移術ではありません。行使されたのは、貴方の空間のルールよりも重いもの、我々の根源のルールです」
「…!? まさか…」
「ええ、僕との契約に重大な違反があったために、貴方が罰(ペナルティ)を受けたんですよ」
 驚愕するヘルダンに告げられたのは、あろう事かKとの契約についてだった。

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[69]召喚術士K


=70.契約術

 契約術― 人間と悪魔の契約がイメージされるかもしれない。しかし術の事象の大小や内容に関わらず、全ての術式は契約によって成り立っているとも言える。例えば小さな”炎の矢”であっても、精霊魔法ならサラマンダーの力を借りているし、ルーン魔法であっても神の理(ことわり)の範囲で事象化されているのだ。大いなる軌跡である”神への願い(WISH)”も契約の一種と言えるだろう。
 即ちヘルダンが自らに有利に設定した”ルーム”の制約術より、原理原則に則った契約術の方が強いのである。

「馬鹿な事を!仮に強制契約だとして、どうやって?それにいつ施行出来た??魔王化したわたしに契約を強制的に刻めるとでも言うのか???」
 ヘルダンが慌てるのも無理は無かった。Kの言う事が本当で”契約”に縛られているとしたら、飛ばされる事などは生易しい。契約の程度にもよるが、最悪な罰則(ペナルティ)が発動した場合、魂も含めてのロストの可能性もあるからだ。

「魔王に強制的に契約を刻むなんて、おそらくは大魔王様達でも容易ではありません。僕が行ったのは”書き換え”です」
「あ…」
 Kの言葉を聞いてヘルダンは青ざめるしか無かった。書き換えだって? Kが誰の契約を書き換えたのか?答えは簡単だ。
「ええ、貴方が乗っ取ったムハブゥの体に宿りし霊獣や神獣達ですよ。彼らの多くは災厄戦で保護するために僕と契約を結んでいました。貴方がムハブゥの体を自らに取り込んだ時、契約はまだ生きていたんです」
「まさか…使われたのは体の一部のはず…」
「貴方だって”再生”するじゃないですか?ムハブゥの合成魔獣化に使われた霊獣・神獣達の一部にも魂を含むものがあった。それがムハブゥを苦しめたわけですが…」
 その苦しみの波動を感知した事も、Kがレイエン家に来訪した理由であった。
「肉体も魂も喰らえば自分の物になるなんていう傲慢は身を滅ぼすという事です。彼らとの契約も貴方の物となり、そして―」
 あの全員での連携攻撃の時、ヘルダンの霊体を”離魂送”で肉体から引きずり出したKは、同時に”契約術”の書き換えも行っていたのだった。
「でも安心して下さい。僕への危害のペナルティは”ここへの転送”のみです。別にロストにはなりません」
「なに!?」
 再度の驚愕。普通だったら― いや、この術士に普通は通用しないのかもしれない。何故そんな緩い契約にするのか? いや確か…
「フリッツとの…部下との同調で知ったが、お前は使役する魔物達に大した罰則もかけていないようだな?そういう事か?」
「? ああ、どこかで僕の”契約内容”を聞いたんですねぇ?ええ、ただ緩いと思わないで頂きたい。契約違反した魔物をここに転送するのは”理(ことわり)”を知って貰うためですので」
 Kが涼やかに答える。ヘルダンが自らの浅慮と”理”を知るのはすぐの事であった。

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[70]召喚術士K


=71.それがある理由

”ひゅん…””ひゅんんん…”
”ドゴォォッ”
 魔力の揺らぎと地響きが一つ。Kとヘルダンの元へと現れたのは、”黒影の騎士”と”漆黒のガーゴイル”だった。
「…こいつらはここの魔物達か?」
 ヘルダンの警戒がKではなく、突然現れた虚無の魔物達に向けられたのは極めて自然な事である。何故なら―
「排除します。ガガガ」「異界の者よ、ここはお前の安住の土地では無い…」
 宣告と攻撃はほぼ同時だった。
”ガッッッ!” ”ヒュンンンンッッッ!”
「ぐっ こいつらは!?」
 速かった。一瞬で間合いを詰められ、受けた攻撃はヘルダンの肩や腹をえぐった。無論ヘルダンも反撃をしている。カウンター越しで放った腐蝕弾によってガーゴイルの右腕が捥げ、騎士の頭が吹き飛んでいた。が、
”ガガガガ!!” ”コォォォォォ”
 ガーゴイルは地面を媒介に一瞬で腕を再生して突貫してくる。連弾で放った腐蝕弾をものともせずに連打でヘルダンの体を削ってくる!そして騎士は、いつの間にか頭を再生して魔影剣と呼ばれる霊体を斬る剣をハルバード型に変え、強大な魔素を収束し始めていた。
「ぬおおおおおおおおおっっ!!」
 ガーゴイルの猛攻を四本の腕で凌ぎ、襲い来るであろう騎士の一撃に備える防御を残る二本の腕で行おうとするも、想定される破壊力はそれを上回りそうであり、ヘルダンは絶叫をあげて全身の全魔力を放出せんとした!
「はい… とりあえずはここまでにしましょう」
Kが静かに宣言すると―
「標的…消失」「…認識した…紛らわしい事だな」
ガーゴイルが無機質に、そして騎士は不満げに呟くと来た時と同様に一瞬で姿を消した。

「なっ なんだったのだ!今のは!?」
 一瞬で死を体感させられたヘルダンが吠える。仮初めの肉体で力も半分ほどしか出せないにしても、魔王化した自分を圧倒するだと!そんな事があって良いはずがない!
「今のは警備兵です。ご存じの通り大魔王界は独自の国土ですので、侵入者を嫌います。加えて外世界には魔界に属さず単独で存在する危険な輩もいますので、彼らはそれらの脅威から大魔王界を守る英雄的存在なんですよ♪」
(特にあの漆黒のガーゴイル…格好いいですよねぇ、レアですよ♪)自らの好みは心に秘めながら、Kが穏やかに話す。
「警備兵だと…あれがか? 外世界? 一体何の事だ??」
「ですから”理”です」
 ヘルダンに向き合い、周りを見渡すようにと手を大きく開くK
「せっかくの生ですから、どう生きようとそれは自由です。目に見えるものだけを追いかけるのも良いでしょう。欲望のままに生きるのも良い…」
 それはただの”形”であるが、それもまた大事なものなのだろうとKは思う。Kが契約違反した魔物をここに送ろうと考えたのは、自分達の知っている世界の中だけで、目に映る欲望だけで満足して欲しくないという想いからだった。もちろん新しい世界に何を見るのかはそれぞれである。脅威を見るのか?それとも―

「そして今、貴方が体験したような出来事があります。何にでも理由があるという事です。貴方が強すぎたために警備兵が来ましたが、普通の魔物だったら魔素酔いくらいですからね」
 実は警備兵が来ても戦闘意志がないものは連行され、元の世界に戻されるか等を含めて意外と平和的に処理されるのであった。いきなり戦闘になったのにはKも驚いていたのだ。そして警備兵が引き上げたのは、Kが契約を施行したためである。Kの使役魔物と認識されたヘルダンは、国土への滞在を許可されたのである。
「なるほど、お前に守られたわけか?このわたしが!」
 警備兵が来た理由、そして襲って来た理由、更には去って行った理由がある。そして去った理由を悟ったヘルダンにはそれは屈辱であった。が、この小癪な人間が言っている”理”については少し分かった気もした。要は心のありようなのだ。
(わたしは怯え、こいつの魔物達は夢心地か…)
 口には出さぬが、それが答えだとヘルダンは悟ったのである。

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[71]召喚術士K


=72.再生のための浄雷

「黒き術士よ、仕合って貰おうか?」
 ヘルダンの顔から怒りが消えた。そして真っ直ぐにKを見据える。
「良いんですか?色んな答えがあると思いますが」
 問うてはいるが、Kの口調はヘルダンがそう言うのを予想していたかのようであった。
「ふん、恐らくは…災厄様もそうなさったのだろう? そしてどうなったのだ?あの御方は」
 未知なる虚無の大魔王界を知って、ヘルダン自身この短い時間に欲望を感じ、策略を巡らせ、脅威に震えた。しかし同時に自分が知らなかった世界の広がりを知り、そのあり方を垣間見た。
 すると数刻前までの自分だったら感じ得なかったような高揚感が湧き上がり、未知なる世界での可能性についての思考が頭をもたげてきていたのである。しかし大魔王クルデリスの魔界で生を受け、上級魔族として存在し続ける宿運を持つ以上はそれは許されないのだ。

「災厄の魔王は、その出自たる畏怖なる神としての半生を顧み、そして新たな道を見つけたいとお考えになりました。故に―」
「逝ったのだな?」
 ヘルダンが目を閉じる。脳裏に浮かぶは過ぎた日の”災厄”の姿であろうか。新たな道、それは輪廻転生の先にある。主は残酷な宿運を断って進む道を選んだのだろう。
「ええ、僕が介錯をさせて頂きました」
「そうか… 礼を言う。あのままクルデリスの配下でいるより幸せであったろう」
 上級魔族はなかなか死なない。故に敗北した災厄が捕らわれれば、あのクルデリスは嬉しそうに嬲っただろう。災厄の魂は所在不明のまま、興味がそがれたクルデリスからの追求は無くなった。そしてヘルダン自身も計画に邁進出来たのも、認めたくは無いが目の前の想定外尽くしの術士のおかげとも言えた。

「決闘は同士討ちに非ず、互いを知る手段とレイエンの子が言っておったが…」
 争いが多い魔界において、正々堂々仕合う事などない。勝つか負けるか、勝利のみが求められる。故に自身も手段を選ばず戦ってきた。しかし人間界を知り、人間を知り、そして新たな世界を知った。戦後の主の軌跡も分かった。ヘルダンは生まれて初めて自身の存在について考え、そして歩むべき道を選んだのだ。
 そして仕合うのは、今の生に対してのケジメであった。

「さて!では参ろうか!しかしお前の力が俺に届かなければ介錯にもならんぞ?」
「ええ、ご心配なく。全力で介錯を務めさせて頂きます」
六本の腕を旋回させ、最大の魔導術式の構えをとるヘルダン―
そしてKは一見不規則な歩行術式で陣を描き、その中央において退魔の構えをとった―

「うむ。魔王…いや ”魔爵・伯爵位” 腐蝕のヘルダン! いざ尋常に!」
 ”キィィィィィィィィィィィィン!!!”
 膨大な魔素が放出されていった。ルームでの爆球を更に超えた腐蝕の集積体はヘルダンの命の輝きでもあった。
「煌仙術・対妖戦闘術”浄雷” カムア・ロー 参ります!」
”……………………………………………………………”
 静寂が辺りを覆った―

「…うぐ… お前… 人間…か?」
 消えたのだ―

「”浄雷”は滅びでは無く清めの雷術…」
 大気に溢れていた高密度の魔素が―

(全て…だと? この一帯…見渡す限りの魔素を…全てか??)
 Kの腕が天を指す。
 黒く晴れ渡っていた空に”白き雷雲”が生じた―

”カッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ”

(完敗だ… しかし… お前にやられるなら悪くない…)
 災厄様もそうお考えになったのだろうか?― それがヘルダンの最後の思考だった。

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[72]召喚術士K


=73.キス

 白き光と爆音の後、辺りを静けさが覆った―

「マスター? あれ? ボク寝ちゃってた? うぅ…魔素酔いってこんなに目が回るの? このままじゃ…」
 ”常闇の衣”テントの中で目を覚ましたリオは、目だけで無く思考もグルグルと回っていたが、マズイ状況な事だけは理解していた。体内の魔力が暴走しかけていたのだ。
(大技を使って空になった後に、このわけの分からない魔素が入ったから??)
リオの偽魂を形成しているニックの魂が、この異様な魔素に同調して大量の魔力を発生させている。
(このままじゃ、ボクは…)
意識が遠のいていく―

「リオ?」
誰かがボクを呼んでいる?
「これは… 魂が不安定に…」
マスター? ああ、そうだマスターはヘルダンと話し合うって…
「聞こえますか? …リオ… これは… … ……!!」
何か言ってる? でも…良かった… 戻ってきたんだね? やっぱりなんだかんだ死なないんだからさ…
「君がいな…ては…」
なに? わかんないよ… もっと大きな声で… !?

 魔界の草原で少年の姿の術士が一人の少女を抱き上げていた。顔にかかった髪の毛を優しくあげてやり、そして口づけをした―

(外気術の応用… 君達で言うところの”ドレイン・キッス”でしょうか)
 唇を通して、リオの体内の膨大なエナジーがKへと注ぎ込まれていく。それを自身のエナジーに転換しつつ、ルームに貯めていく。

(あ… あれ? マスター? なんでボク、キスされているの?
エナジーがマスターに吸われている? やだなぁ…マスター、それはボク達の特性じゃないです?
ボクが貴方をカラカラに干からびさせ…)

「んん…」
 リオの手がKの首にかかる。しばしの時間―
(まぁ、いいや… なんだか眠くなってきちゃった… 別に良いよね? だってもう…)
今度こそ、大団円なのだから―
 リオの思考は夢心地で、甘くて深いまどろみの中へと落ちていったのだった。

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[73]召喚術士K


=74.目覚め!

「リオ〜」
んん… 誰かが呼んでいる?
「リオリオ〜」
もしかして… マスター?

 日射しが眩しい… パチリと目を開けたリオの視界に入ってきたのは、
「ルっ ルリカ!?」
「どーん♪ わたしでしたー」
 ペンギンフリースに身を包み、何故かつやっつやに光沢を帯びている頬を擦りつけているのは”黒服”のルリカであった。
「ますにゃーでなくて残念でしたねー(にやにや)」
「なっ なんでそうなるのさ!別にボクは…」(そういえば…何がどうなったんだっけ?)
 思考が纏まらない。

「リオさんはルリカさんとマスターをお守りして来たのです。その副作用みたいなもので、3日寝ておられました」
 丁度回復の術式を施しに来てくれていたリュネットが経緯を話してくれた。

「いや…ボクは別に役に立たなかったと…」
 少しずつ記憶が甦ってくれば、それはヘルダンの領域での出来事と、どこかしらの魔界での酔いの事だけ。
「いえ、マスターは心強かったと思います。行動それ自体が心なのですから」
 しょげるリオの頭を優しく抱きながらリュネットが微笑みかける。
「…それにしてもルリカはつやつやだね? ルリカも酔っ払ってたと思うけど?」
 リュネットの美顔を間近にして照れたリオは、自分の傍らでゴロゴロしているルリカに話題を変えた。
「それは〜 ほら私って大活躍だったじゃないですか? それで変な魔素吸わされて死にかけていたんで〜 リュネットさんと艶姫さんが〜 えへへへ」
 魔界から緊急送還でレイエン家に戻ったKが、リュネットとアッシュを回収し、そしてエルファスの実験場に残してきたティアとアイシャ、リアルスを連れ帰った後、魔素酔いで死にかけていたルリカの救済のためにエナジードレインを施したのである。ただ虚無の魔界の魔素は、サキュバスによっては毒にもなるため、修行で虚無の大魔王界を経験済みのリュネットと、傾国の妖姫である艶姫がその任に付いたのだった。

「それでツヤツヤなのか… あ、マスターは!? 大丈夫なんですよね?」
 記憶がハッキリしないけど、事後に声を掛けて貰った気がする。しかし魔王と化したヘルダンと話しって…、意識がハッキリすればするほど”ありえない!”と思えた。故に安否が気になったのである。

 ”ギィ〜”
「噂をすればですね♪」
 リュネットがリオの頭を支えて起こしてくれる。その視線の先には最愛のマスターが…
「やぁ… リオ… 起きましたか?」
 つやつやのルリカとは対照的に、非常にゲッソリした顔つきのKがそこにいた。
「ま マスター? いったいその状態は… そうか!ヘルダンにやられたんだね!?」
 ヘルダン!なんて奴だ!悪魔め!…とまでは思わないにしても、やつれるKに対して慈愛の視線で見つめるリオ。
「いえ、これは…」
「フフフ 主様? 今度は妾の番♪ さぁ来てたもれ」
 Kの背後から艶姫が絡みつくと、Kは力なく引きずられて行った。唖然とするリオ。
「帰還後、色々理由をつけて皆さんが搾っておられまして…」
 リュネットが苦笑気味に話す。
「ふ…ふふふふふふふふ そうだよねぇ じゃあ楽にしてあげるおくすりをあげなくっちゃね…」
「リオリオー 目がヘルダンになってますよー」
 そして数刻後、艶姫に吸われてヘロヘロのKの元に、非常ににこやかなリオがおくすりを届けたという。

 結果は… (ヽ'ω`)ゲッソリ

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[74]召喚術士K


=75.新たな道

「は〜い、後は里親探しね♪」
 桜色のローブで現れしは召喚術士Mこと、Kの曾祖母マナである。
「ありがとう。おばあ…」
”ゴッッ”
 言い終わる前の死神の鎌での打突。
「しかし… 小っちゃくなっちゃったなぁ おまえ」
 出来たてのたんこぶを擦っているKの膝の上にいるのは、ミニブタサイズの… ミニブタだった。少し違うのは背中に羽が生えている事だろうか。
「仕方ないわよ。拾い集めた魂の破片。そしてそこから他の霊獣達の魂を浄化したり、ヘルダンの汚れを祓ったら…」
「わかってるよ。感謝してる。ある意味では… 丁度良い転生だったと思うよ」
 リジルとの約束を果たし、その転生を見守った。その結果がミニブタだったのだ。
「おまえ、本当にリジル様が好きなんだな…」
 転生は死に際の念が一番影響するという。かつての姿に近しい状態になるという事は、魂に刻まれたものが生まれ変わっても忘れたくないものであるという事なのだろう。

「可愛いーっ その子、だぁれ?」
 パタパタと走ってきたのは、マナに付いて色々修行しているアヤであった。
「ん… アヤか。この子はね…」
 ミニブタをアヤに抱かせてやり、頭を撫でてやるK。
「バハムートンという神獣の子供さ、名前はね…」

”ムハブゥって言うんだよ”
 
 アヤと楽しそうに遊び始めたムハブゥを眺めながら、Kはその新たな生に幸あれと心の底から願うのだった。

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