【ド・レイン小説】『魔導公と禁忌の魔獣』



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[31]召喚術士K


=31.異変=

「では完成体のキマイラの脅威をエルファス共々体感して頂きましょう!」
フリッツの歓喜の声と共にGDキマイラが吠える!

「フリッツ!おまえ…」
迫り来るGDキマイラからケリィを庇いながらエルファスがフリッツに”大火球”を放つも…

”パァン!”
フリッツは腕の一振りで、その火球を消し飛ばした。

「残念ですが、君と私では役者のレベルが違うんですよ。分かっていませんか?君に邁進して貰うために催眠を施していた事に。明らかに私の方が格上でしょう?」
睨み付けるエルファスを一笑し、フリッツはGDキマイラに更なる攻撃を指示した。

「さて私も急ぎますので… まとめて始末してやりなさい!」
”キュイィィィィィン!”
指示を受けたGDキマイラが全ての腕に”大火球”を凌駕する特大の火球を発生させた!それをロックオンしたリオ達全員に向けて放とうとした時だった。

「ガ…ガギィィィ…」
動きが止まった。いや…何かに止められていた。

「完成体の…なんだったかしら?」
「キマイラだ。前に教えた事があるだろう?」
この場にそぐわない少女の声。そして聞く者の生気を凍えさせる男の声がした。

「お お おまえは…」
「あら? あなた…随分と酷い有様ね?でも勘違いしないでね?別に貴女たちを助けるつもりなんてないのよ。わたしには。」
GDキマイラによって砕かれた柱の陰から現れたのは、かつて単独で館へ潜入しルリカを翻弄した少女の姿のマリオネット師サナと、フリッツが模倣した災厄戦の英雄の一人にしてネクロマンサー…いや、その次のステップへと進んだ本物のエルゼだった。

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[32]召喚術士K


=32.エルゼの課題=

「それにしても大した外殻ね。サイコロステーキにしようと思って巻き付けた私の操り糸=斬糸=に耐えるだなんて」
「だから言っただろう。相手の得意分野に付き合うな…とね」
どうやらサナは得意の人形操りの糸でGDキマイラを拘束しているらしい。それもかなり強引に。

「おや!おやおやおやおや!これはこれは!本物のエルゼに会えるとは!私はついているのか?いや!ついている!今日は最良の日だ!」
偽エルゼ=フリッツが悦に入った声を上げた。

「あら?先生?お知り合いでしたか?」
「…いや…記憶にはないがね…」
面白そうに笑うサナ、そして嫌そうな顔をするエルゼ。

「ええ、覚えてはおられないでしょう。お会いした時、私は”影”でしたからね。良いんですよ。とにかく今日は良い事づくしで興奮を禁じ得ません!まもなく”主”の目的が達せられる!私が手を下すまでもなくね。だったら…私はご褒美として”貴方を貰っても良いですよねぇぇ?”」
最後は絶叫だった!そのフリッツからとてつもない魔素が放出されていく!!

「な… なんだこれは!? 人間じゃねぇ…」
ティアが驚くのも無理はない。それは魔素の性質だった。禍々しいほどの”邪悪”なオーラ。

「げっ なんですかーこれは!? 腐ってる???」
一番フリッツよりにいたルリカが飛び退けた。フリッツの魔素オーラが突き抜けた空間の床が腐り落ちたのだ。岩で出来た材質はそのままであったが、残っていた壁や木製の残骸が尽く腐敗していた。そればかりではない。それらはスライム状に姿を変えルリカ達へと迫ってきているのだ。

「”腐敗”か… なるほど。概ね事態を理解した。私にとっては”災厄”な日だがね…」
”ふわっ”とエルゼが宙に浮く。そしてフリッツに向けて魔法陣の術式を発動する。

「サナ。課題だ。私が帰ってくるまでに、その”出来損ない”を始末しておくように」
言うやエルゼの姿が忽然と消えた。そしてフリッツも。

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[33]召喚術士K


=33.マリオネット講座=

「はぁーい。”そんな課題”で良いのなら、喜んで。…それに、カムアの事が気にかかりますからね」
エルゼがいた空間に退屈そうな返事をするとサナはGDキマイラの締め付けを強めつつ、ルリカ達の方に小首をかしげるような仕草で視線を向ける。

「それにしても貴女たち… ”こんなの”に苦戦をしていてカムアの役に立てているのかしら?」
侮蔑の視線だった。

「な!そっちだって苦戦してるじゃないですかー! 聞きましたよー 斬れなかったって! わたしは切り裂きましたからねー アイシャさんとの愛のコラボ技で!えへへ…」
啖呵の最中にアイシャのHカップを思い出しにやけるルリカ。

「実験体…だったかしら?見ていたわ。相変わらずの力押しだったわねぇ…あなたは。先生の課題の意味を教えてあげるわ…。はぁ…」
ため息をつきつつ、完全にGDキマイラに背を向けるサナ。

「肉体が融合していても、魂はそう簡単にはいかない。合成魔物(キマイラ)の作成が難しいと言われる所以よ。まぁ…どんなに上手に体を繕ったところで?その中身は綻びだらけってわけなのよ?」
サナの講釈。その合間にも…。

”ギ… ギギギギ… ギイイイイイイイイイイ!!”
GDキマイラの亀裂が広がり、そして…

「マリオネットの操り糸の応用編。その”綻び”に糸を忍ばせて、潜らせて、そして裁てば?」

”パァァァァァァァァァァァン!”
GDキマイラの体が四散した!

「ほら♪ この通り♪ サナのマリオネット講座でした♪」
開いた右手を大きく振って胸に戻し、頭を垂れる。

「あの固い奴を…解体ショーですか」
流石に言葉を失うルリカ。驚きつつもサナの挙動を見逃さないように見つめていた。

「ああ 大丈夫よ? 今日は貴女たちに何もしないから。」
GDキマイラをサイコロステーキにしたサナが、その肉片の1つに腰掛けて退屈そうに足をばたつかせた。

「それより… はやくカムアのところへ行かなくて良いのかしら?」
「…わたしたちを行かせると?」
「…だって私は…」
一瞬言葉が詰まる。

=まだ会えないから…=

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[34]召喚術士K


=34.魔鎧”デビルプレート”=

「ここは…まさか…」
エルゼの放った魔法陣によって”飛ばされた”フリッツが見たのは、懐かしい風景だった。

「ああ そうだ。死界… あの世… 幽世… まぁ生と死の狭間だな」
エルゼが興味なさそうに言う。

「おお 本物のエルゼと死界に来られるとはな!やはり人生最良の日と言える!」
「人生か… おまえは人間ではないだろう?」
驚喜するフリッツにエルゼはぶっきらぼうに言い放った。

「ほぉ わかるのか? 流石だ…」
「わかるもなにも…だな。あの”腐敗”に見覚えがあった。おまえは災厄の魔王討伐の時の… あの”魔爵”の執事だった男だ。そもそも”影”というのはおまえ達(魔族)の執事や使用人を示す隠語だろうがね?」
災厄の魔王戦。不意を打たれて苦戦をしたのは人間界での攻防だった。エルファスも語った”四大公”(マグナート)達の奮戦で戦局が変わるも、魔王の本拠地のある魔界では敵の領土内であり地の利のない討伐軍は再苦戦を強いられる。中でも”魔爵”クラスの抵抗は大きかった。

「私が魔界で使役した不死の軍団の最大の難局が”腐敗”を操る伯爵位の魔爵であったからな。同じ死を操るというが…。”不死”の”負の生命”を尊ぶ私と、尽くを”腐敗”させ”土に還すだけ”のおまえ達とは肌が合わないと感じたものだ」
やや遠い目をしながらエルゼが回想する。

「おお!おおお!そこまで覚えていてくれているとは!私はこの日を待ち焦がれていたのだ!どんなに腐らせても抗うおまえの”不死者”達!その姿は美しかった。私がおまえに辿り着く前に…」
狂喜の表情が一瞬憎悪へと変わった。

「あの忌々しい”魔導公”のせがれ共が… そして”召喚術士K”が… ”我が主”を倒しさえしなければな!」
フリッツの体が変貌していく…。美しい蝙蝠の翼、体にある無数の顔、6本の腕…。そして禍々しい”鎧”を纏っていた。

「なるほど、実験体とは… おまえの”肉片”を利用したというわけか」
「ご名答だ。そうでなければ、合成魔物(キマイラ)は簡単ではないよ。体が強くても”魂”が持たんからな。そして…」
フリッツの纏っている鎧が変貌していく。それは増殖するようにフリッツの体を覆っていき、瞬く間にフルプレート状へとなった。

「魔鎧”デビルプレート”という。ある方より賜ったものだ。まだ未完成品だが…見ろ!」
”バッ”と抜き打ちに出した手のひらから魔素の塊が放たれると、その着弾点が凄まじい炎に包まれた。

「どうだ?まだ未完らしいが…おまえとの楽しい時間のためには丁度良いとさえ感じるよ。…さぁ…エルゼ。選んでくれ…”腐って死ぬか” ”焼き焦げて死ぬか” …どちらであっても美しい情景だろうなぁぁ〜。残念な事に2つは見られんのだ。どちらが…良いかなぁぁぁ??」
完全なる狂気。右手から”腐敗”を地面越しに放ち、左手から”火炎の渦”を宙へ放ちつつフリッツがエルゼに迫った!

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[35]召喚術士K


=35.死鬼炎=

「時間に余裕があれば、サナに講義を受けさせたい案件だな」
迫り来る”腐敗”と”炎渦”を冷ややかに見つめながらエルゼが呟く。

「まず”腐敗”だが…」
エルゼは手のひらを地に着けると

「死鬼炎…」
無詠唱状態で、短く術式を放った。

”ごおぉぉぉぉ!”
黒い炎が地面を伝わり、腐敗の波とぶつかると、その尽くを延焼至らしめる。

「なに… ばかな…」
フリッツの笑いが止まった。本来なら魔法の炎さえ駆逐する腐敗アメーバの波があっさりと打ち勝つはずなのだ。

「何故ここにおまえを連れてきたと思っているのだね?ここ死界には腐敗のベースとなる微生物もおらんし魔素もない。腐敗の術はその2つがふんだんになければ効力はほぼないのだよ。ここにあるのは死気のみ。それを操る私の”死鬼炎”がおまえのそれに勝るのは自明だと思うのだがね?」
「くっ!!」
腐敗が通じぬとわかり”両手”を使っての”大火炎渦”に切り替えるフリッツ。

「魔鎧の魔素も合わせての”魔炎渦”だ!焼き焦げる姿を見せろ!エルゼぇぇぇ!!」
フリッツが両腕を振り下ろす!魔炎の渦がまるで雪崩のようにエルゼに襲いかかった。

「は…はは…ははははははは!そうだ!燃えろ!その焼き焦げる姿を俺に見せろ!エルゼ!!!…え… える… な  なぜだ… なぜ?????????」

=なぜ燃えんのだ!?=
荒れ狂う炎の海の中にエルゼは静かに佇んでいた。

「さて… 特別授業だ。フリッツ。私が無事な理由を答えなさい」
”パン!”エルゼが腕を振るうと、エルゼの周りの炎だけが消えた!いや…違う。エルゼは燃えていた。ただそれがフリッツの魔炎ではなかった。

「”死鬼炎”か…」
「ふむ。よく出来たね。だが…サナだったら少なくとも腐敗を食い尽くす死鬼の炎を見た時点で…いや、この死界の特性に気がついた時点で答えているだろうがね…」
死者があの世に旅立つ世界。一部の霊属性や死の属性を持つ魔族が住まう世界である”死界”そこには人間界や魔界とは違い、死気と呼ばれるエナジー源しかなかった。魔界と通じ、強力な魔素を持つ魔族は空気のようにしか感じないエナジー。ありふれたものとしか捕らえていないフリッツに対して、エルゼはそれを術式のレベルにまで昇華していたのだ。

「”死鬼炎:魂爆”」
エルゼが言い放つと同時に、死鬼炎が魔炎を食い尽くし、そしてフリッツの本体を包む。

「この死気の炎は”魂を焼く性質”を持っている。わかるね?”どんな鎧を着ていようと、意味をなさない”という事を」
「焼き焦げるのはぁぁ 俺だったのかぁぁぁぁ!!」
”ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ”
死界に似つかわない閃光と共にフリッツは宣言のまま爆散した。

「この死界はおまえにとっては自らの領土(テリトリー)なのだろうがね。私にとっては骨休めに遊びに来る避暑地のようなところなのだよ」
既に原型のないフリッツだったものにそう言うと、エルゼは帰還用の魔法陣を展開させた。

「残るは…」
フリッツが災厄戦時の魔爵の影であった事から想定される最悪な事態を思うエルゼ。フリッツの元主は”倒されたはず”だ。しかし魔爵以上の魔族は魂まで死滅させるのが難しい事も周知であった。

「もし”死んでいないのなら…”」
そして”魔鎧”という魔武具の出所。未完と言いながら魔素0の死界であの魔素量を放出できるとなると…。

「カミナの孫なら”解”に行き着いているだろうかね?」
思案しつつ魔法陣に入る。

「…そうか!それなら期待が出来る。そうとなれば”援軍”を早めに送るべきだろうな」
エルゼ自身が”解”に辿り着いたのか、エルゼは青白い顔のままクスクスと楽しそうに笑った。何かしらの結論を出したエルゼは元の仮面のような無表情に戻り、サナの元へと送還術を発動させるのだった。

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[36]召喚術士K


=36.選抜メンバー=

「会えないって…」
SALONへ二度潜入して来たこの少女はKとどのような関係なのか…。ルリカはその潜入を二度防ぎ、職務としてKに報告している。リオも知り合いなのかと聞いた事があったが、その返事はNOだった。

「白黒付けたいところですがねー マスターがピンチとなると尋問している場合でもないですね。リュネットさん、人選をしましょう。4人でしたか?行けるの」
「ええ、座標の特定もありますので私も参ります。なので3人を選ぶ事になります」
簡潔にリュネットが話す。

「だったら… 防御魔法のリオさんと無傷でお強いアイシャさん、そして…」
ルリカが戦力分析をしていく。当然最後に名前を連ねるのは…

「リアですかねー」
「え… ルリカ行かないんだ?」
てっきりルリカ自身の名前をいうと思っていたリオは目を丸くしてルリカに問うていた。

「ええ 私よりリアの方が強いですからねー マスターのためにも最強戦力を送らないとって」
「ルリカ…」
きっと悔しいのだろうな…とリオは思った。サナの強襲の時だって一番体を張ってボク達とマスターを助けてくれた。そのルリカが自身で選別を辞退するのはきっと…。

「んー リアはルリカが行くべきだと思うのー」
「へっ」
リアルスの挙手しての突然の発言に半音高い声で反応してしまったのは逆指名されたルリカだった。

「だってこの人(エルファス)を腹パンしたのはルリカなのー 私たちの誰よりも判断が速かったのー」
「いや、それはそうですが…」
「今回はそういうのが大切なのー。あとアイシャさんの代わりにケリィが行くべきだと思うのー ケリィだったらお兄さん達を止めれるかも知れないのー」
「どうしたんですか?リア。凄くまともな事を言って… ぎゃっ」
リアルスの戦力分析にいたずらにツッコんだルリカの脳天に”軽く”かかとを落としたリアルスは、アイシャの方に向き直り笑顔で見つめた。

「そうね。リアちゃんの言うとおりだと思う。あ〜あ、また”淫聖衣”(エロス)が出せないのね〜」
SALONの演出家たるアイシャには、この最終局面の画が浮かんでいた。それは理にかない、そして美しくあり。

「決まったなら、さっさと行きなさい。全く…偽のカムアも見抜けなかった貴女たちに任せないとならないなんて…」
自身が行けない事の不満をブツブツと漏らすサナ。

「メスガキ… 帰って来たら泣かす!」
「出来るのかしら? あなたに。 今度はあなたをサイコロステーキにしてあげるわよ?」
ルリカとサナが一触即発の雰囲気になった時だった。

「時は一刻を争うのだがね?まったく…カムアの乱心かとここに駆け付け、偽のカムアを見て呆然としていたのは、君も同じだったと思うのだがね?」
冷ややかで抑揚のない声…フリッツを撃破して帰還したエルゼだった。

「!! せ…先生っ それは… だって…」
「へぇぇぇ〜 呆然としてたんですね〜〜」
「やめておけルリカ…。誰も得をしないぞ…。早くKのところ行かないとだろうが…」
リオ達とほぼ同じ反応をしていた事を暴露され赤面しながらエルゼに抗議するサナ。その首取ったと責めに回るルリカをティアは羽交い締めにして、既に展開を終えたリュネットの送還陣に放り込んだ。

「では!参ります!」
リュネットが印を結び、発動呪文を詠唱する。送還陣から光が溢れだし、それはリュネットを中心に陣にいるリオ・ケリィ・ルリカを包み込んでいく。

「マスター 今行くからね…」
Kに貰った”エルダー・ゲイザリオン”を握りしめるリオ。リオの心は”この杖… なんかネーミングがなぁ…”と思うくらいには回復しているようだった。

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[37]召喚術士K


=37.”暗がりの森”の迎撃=

 =同時刻 ”暗がりの森”ド・レインより100フィート付近=

「何体いるの〜? もう給料分以上働いたと思うんだけどな〜」
「だーちゃん さっき大型で素早いのが一体抜けちゃったけど、どうしよう?」
「え〜 そうだったっけ〜」
ルリカの予想通り、強力な魔具で武装した"不死者”を中心とした30人の軍勢がSALONへ迫ってくるのを感知した黒服団"防衛担当”は、その被害が館へ届かないように待ち伏せ攻撃を行っていた。

「クローザとかいるし〜 ガー君も門番してたし〜 大丈夫じゃない?一体くらい」
「そうですね。もし誰か怪我でもしたら減給ものですけどね?」
「だとしても〜 減給はルリカちゃん隊長だよ〜 わたしは何時でも満額支給だから〜」
「わぁ…そうなんだ」
そんな朗らかな会話の最中にも、数体の"不死者”がダネルの闇に喰われていた。

「空白地帯はあるけど〜 そんなところで"出くわしちゃう”運の悪い子なんて〜いないよ〜♪」
更に1体の"不死者”を捕らえながらダネルが眠たげにマウザーに笑いかける。そう!黒服団は館から離れたところで良い仕事をしており、減ったとはいえ最強ともいえる守りの精鋭が館にいる。危険なのは”その間の地帯のみ!”そこでたまたま襲撃者と出会ってしまうような不運なんてあろうはずが…。

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[38]召喚術士K


=38.LILY=

「あ 目があってしまいました!」
「…おまえ…召喚術士Kの魔物だな?」
ダネル達の待ち伏せをたった1人突破し、自信満々に館を破壊しに来たフリッツ襲撃小隊最強の… ”トロール"ベースの実験体であり、”不死者”と”ローパー”の特性を併せ持った…

「NO.44 ジェノサイド・フットだ… 爆ぜさせてやるぞ…」
「むむむ… これはピンチです!リリー大ピンチです!!」
そう… たまたまアウルムに作って貰ったお弁当を持って森をお散歩していたリリーが、たまたまこの最恐の実験体と出会ってしまっていたのだった…。

「行くぞ!…ん…??」
”NOTHING!”ジェノサイド・フットが攻撃態勢に入った時には既にそこにリリーの姿はなかった。

”テテテテテテテッッッ!!”
凄まじい速さで館へと逃げるリリー。

「逃走か… 相手が俺でなければ成功していただろう…な!」
「あ!」
ジェノの最後の発声はリリーの眼前からした。慌ててブレーキをかけるリリー。

「この人… リリーより速いです!」
「当たり前だ!観念し… あ??」
”NOTHING!”再びリリーの姿がない。ジェノの眼前には箒にぶら下がって飛ぶリリーの姿が!

「”キーリン!”一緒に逃げるのです!館まで行けば… あ!」
魔導箒の"キーリン”はリリーが生長させているため”速さ”が半端ない。なのに…

「ビッグ ジェノサイドぉぉ!!」
更なる高速移動でリリーを追い抜いたジェノが反転してリリーに巨大な腕を振り下ろしてきた!!躱す”キーリン”!当たっていればミンチにされているであろう一撃を回避するも、その反動でリリーは吹っ飛んでしまった。

「いたたた… お尻を打ちました!脚も…。これでは走れません…」
「ではまず一匹!」
動けないリリー!迫り来るジェノサイド・フット!

「助けて… マスター!!」
Kから貰った宝玉を握りしめてリリーが叫ぶ。そこに無慈悲に振り下ろされるジェノの豪腕!

”ガキッ!!”
「ぐわっっ」
野太い悲鳴が一つ。それは…ジェノのものだった。

「おいおいおいおい!うちのリリーに何してくれてんだ!ぶっ潰すぞ!このでか物が!!」
「わんわん!! ガルルルルルゥ!!」
カウンター気味にジェノの顎を蹴り上げるゴブリンと、鳩尾に正拳を撃ち込むコボルトがそこにいた!

「ああ!ジャッキー君!ポッチー君!!」
そう!Kの戦闘用魔物の上昇志向のゴブリン”ジャッキー”とコボルト界きっての格闘家であるポッチーであった。リリーが握って祈った玉は”召喚玉”であったのだ。

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[39]召喚術士K


=39.UNLUCKY=

「おお 久しぶりだな。サキュバスのメス!助けに来てやったぜ!!」
「くぅぅぅぅん!」
相変わらずの毒舌であるが、リリーから目線を外して赤面をしているジャッキー。

「助かったのです。お礼にクッキーをあげます」
ポシェットからクッキーを出そうとするリリー。

「あ… さっきので砕けてしまいました…。」
割れたクッキーを見て涙目のリリー。

「いや…良いんだよ。気持ちだけでよ… 泣くなよ…」
「くぅん…」
リリーの涙にアタフタするジャッキーとポッチー。気まずくなるやジェノの方に向き直り。

「てめぇ… よくもリリー… ……のクッキーを!!」
「ジャッキー君、クッキー好きなのですね!」
よくもリリーを!…と言えなかったジャッキー君。それをクッキー好きと解釈した食いしん坊のリリー。可愛い照れ隠しと可愛い勘違いのコラボであった。

「なんだ… ゴブリンとコボルトか… ふがいないな俺も… こんな小物達に一撃を貰うとはな!」
怒りのオーラがみなぎるジェノ。トロールであった彼は亜人・巨人族であり、神話の時代の神の眷属の末裔とも言われていた。それが小鬼や犬系の亜人に不意を突かれたのだ。これは屈辱なのである。

”ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!”
ジェノの突進!その巨躯の移動の際の空気の震えと、腕を振り下ろす衝撃の振動が耳障りな共鳴音を奏でるとジャッキー達がいたところに大きな穴が出来た!

「お前みたいな勘違い野郎を何人も倒してきたんだぜ?俺たちはよ!」
飛んで躱し際に”コイン”を投げるジャッキー。

「なんのつもり… ぐっっっ」
ジェノの目前でコインが… ”増殖”した!何枚…いや何千枚?何万枚だろうか、コインの渦がジェノを包み込む!

「邪魔だ!」
ジェノが腕を振るっても、当たったコインが吹き飛ぶだけで絶対量は変わらない。そればかりか…

「ぐう 小賢しい!!!」
コインから炎が吹き出ていた。一枚一枚から小さな炎の息吹が。だが何万枚となると…。ジェノの体が炎に包まれる。

「こ これは… 綺麗なのです!」
リリーが感嘆の声を上げる。それは炎がコインの輝きで反射されて出来た光の柱のようであったのだ。

「紹介するぜ?俺たちの仲間… グリーピングコイン(這い回るコイン)のアンラッキーちゃんだ!」
なんと!コインは魔物であった。

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[40]召喚術士K


=40.JACKIE&POTIー=

「この程度の炎で俺を殺れると思うなよっ 小鬼どもがぁぁぁ!!」
咆哮と同時にジェノの魔素オーラが増大していく!そして全方向位に向けて”衝撃波”が放たれた。それは技や術といったスキルではなく、ただ荒々しいだけの”放出”であったが、実験体として魔族の細胞も埋め込まれているジェノのそれは”火球”の炸裂に近いし破壊力を持っていた。

「ちっ 流石にアンラッキーちゃんだけじゃ無理だったか」
リリーを抱き上げて反転し、自らを衝撃波からの盾にするジャッキー。そのジャッキーをかばう盾となるポッチー。着地するとジャッキーはリリーを”アンラッキー”の上に下ろした。

「アンラッキーちゃん。リリーをこのまま館まで連れて行ってやれ」
「わん!」
決意を新たにジェノに向き直る2人。

「ジャッキー君!ポッチー君!」
そんな2人をリリーは抱きしめた。

「リリー、お菓子を作って待っています!必ず無事に…」
”ちゅ♪””ちゅ♪”感謝と祝福のキス。そしてリリーはアンラッキーのコインのカーペットで滑るように館へと去って行った。(おお!これは凄いのです!)感嘆の声が遠ざかっていく…。

「ポッチー…」
「わぅん…」
腕を回すジャッキー! 尻尾をぶんぶんと振るポッチー!

「これでやらなきゃ…男じゃねぇだろっ!!」
「わん!」

=一瞬だった=

ジェノがトドメのために衝撃波を放とうとした刹那。2人の姿が忽然と消えた。高速移動を得意とし、そのための動体視力を誇るジェノの目にも映らなかった2人。気がついたのは首の後ろの熱さと、直後に感じた胸の空虚さだった。

「影殺…」
「わん…(”ただの正拳”と呼んでいる至高の打突拳)」
”影”の特性を持つジャッキーは短距離であれば影から影へと移動が出来るのだ。そしてジェノの背後に現れたジャッキーはその頸椎を黒い小刀で切断し、高速移動時に一瞬だけ景色に同化出来るポッチーは神速の打突を繰り出し、”紅爪”でジェノの胸を貫いたのだった。

「馬鹿な…衝撃波をよけたと?」
倒れながらジェノが呻く。

「ばーか。避けてねぇよ。喰らうつもりで行ったんだ」
消えゆくジェノの視界に傷だらけの小鬼と犬が映った。

「…なるほど… 見事だ…」
死を迎える瞬間、ジェノは自分を倒した2人が、自分の命を終わらせるにふさわしい戦士だったと気がついた。(いつからだ… 俺はいつから相手を見た目で判断するようになったのだ…)これはジェノが薄れゆく意識の中で最後に思考した事だった。彼もまたトロール族の戦士だったのだ。

「やったな!ポッチー…しかし…痛ててて。結構キタな…」
「わぅぅん! ”ペロペロ”」
ジャッキーの傷を舐めて治すポッチー。ポッチーの舐め舐めにはヒーリング効果があるのだ!

「くすぐってぇよ… はははは  あ!?」
視線を感じて振り返ると、そこには館へ帰ったはずのリリーが”ジーッ”と見つめていた。

「ジャッキー君とポッチー君は…」
”ぽんっ”と手を打つリリー。

「リリー、誰にも言わないのです!」
「いや… おまえ… なんか勘違いしてるだろう?」
「2人は仲良しなのですね?」
「…それはそうだけどよ…」
「大丈夫です!リリーは口が堅いのです!」
「やっぱり勘違いしてるな!おい!こら!」
顔を真っ赤にして怒るジャッキーと”困った顔”らしいポッチーを再び抱きしめるリリー。

「わかっているのです。2人は…いえアンラッキーちゃんも!リリーの素敵なお友達なのです!」
時同じく、ダネル達黒服団が不死者の小隊を撃滅していた。これにてフリッツが送り込んだ手勢は全て壊滅したのである。

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[41]召喚術士K


=41.非公式訪問=

ルブルより東… 東の大国との交易で栄える商業都市を中心としたエリアが”魔導公”レイエン領である。その居城には幾重もの魔法防御が施されているが、これは”災厄”の魔王の襲来時の反省からであった。

=リュネット達がリオ達に追いついた頃=

レイエン城の大広間に漆黒の衣を纏った術士が舞い降りた。簡易移動用の魔方陣からである。東の国の墨で書かれたそれは、通常の魔力検知に引っかからない。効力も弱いため活用には術者の力量が求められるが、その秘匿性は抜群であった。

「これは… カムア殿か? 久しいな。災厄戦以来であったか?」
「突然の… それも非公式での訪問とご無礼をお許し頂きたい。レイエン公… レーヴァ様」
大広間には当主レーヴァ・レイエンがただ1人でいた。レーヴァはまだ20代半ばであったが、眼光は偽りを射貫く程に鋭く、その佇まいは領主のそれにふさわしかった。非公式に、さらに勝手に作った魔方陣からの来訪などは許されなくて当然であり、無礼打ちをされても文句も言えない行為だったが、この若き領主はカムアの姿を認めるや笑顔でそれを許した。

「しかし…いつの間にこのようなものを?」
「三月ほど前です。これも本日の非公式訪問の理由と同じなのですが…」
「カムア殿も部下も咎めんから、方法を教えて貰いたいな。災厄戦以降、万全を期していたのに…こうもあっさりと突破されるとな」
セキュリティ担当の部下も不問にするという。カムアもレーヴァのあまりにも清々しい対応に正直に応える事にした。

「魔方陣に用いたのは墨。退魔師の技です。そして、設置したのは完全な人力…といえば宜しいかと」
三月前、”ある事件”の関係者としてレイエンの名前に当たったKが、黒服になる前のやさぐれルリカに元密偵の実直を見込んで魔方陣設置を依頼したのである。相手は魔法防御に長けた名家。しかしルリカは完全な人力で依頼を成し遂げていたのだった。(フフフ お子様には言えないような手を使いましたよー)

「ははは。そうか。魔王が入れなくとも、普通の人間が入り込めると?これは一本取られたな」
「恐れ入ります…」
「ふむ。再会の挨拶はこのくらいにして、本日の訪問の目的を聞いた方が良いな。カムア殿」
柔らかい物腰でレーヴァが話を本題へと戻したのは、Kが悲しげに視線を落としていたからだった。災厄戦時の共闘でKの人となりを知っており、戦後もその使役魔物達の安全な保護のために奔走している事も知っていたレーヴァは、Kが余程の覚悟での非公式訪問しに来た事を理解していたのだ。そしてその目的も…。

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[42]召喚術士K


=42.導かれる解=

「三月より少し前より、こちらの領土内での領民の失踪及びギルドメンバーの失踪事件がございました。こちらはご周知かと思いますが…」
「ああ、知っている。すぐに調査隊を組織したからな。"通路”が出来つつあったと報告があった」
”通路”とは魔界へと繋がる出入り口の事である。人間界と魔界は別の空間として存在しているが、その位置関係は複雑であり、たまに接点のようなものが出来る事がある。それが互いに行き来が出来る通路と化す事があるのだ。

「ええ。公式には、その通路から迷い出た魔物による事件として処理されました。ただ同時に数件の通路が出来るという現象は稀なのです。そして場所です」
「場所?」
「はい。"通路”は全て亜人達の居住区やトロル等の特殊な種族の生息地、そして神獣や霊獣が祀られている土地に出来ていました。これらの場所の共通項は、それらが知る知らずに関わらず、その起源の魔界や神界と繋がりが強い事にあります。すなわち…」
「”通路”が作りやすい場所という事か…」
今度はレーヴァが視線を落とした。

「そして調査結果が出た後、探索に長けた者に継続的にそれらの場所を調べさせたところ、神獣や霊獣、それに準ずるクラスの魔物が襲撃されていた事がわかったのです。命までは取られませんでしたが、体の一部が欠損する程の怪我をしているものもおりました」
「…何者かが、それらを奪うために襲ったという事だな…」
レーヴァの声に先程の覇気はなく、悲しげにKの発言の解を答えていく。

「可能性は二つ。一つは入手難度の高いアイテムとしての収集。こちらには貿易が盛んな商業都市がありますからね。しかし、その手のルートに詳しい者に調べて貰いましたが、襲われた霊獣や神獣に通じるものは出てきませんでした。そしてもう一つは、魔導実験です。これは魔素量を感知すれば良いわけですが…」
「なるほど… ”感知できなかったわけか”」
「はい。感知できない可能性は二つ。一つは実験をしていないから。もう一つは…」
「当家のように、強力な”魔導防御”を施しているから…だな」
導かれた解はレーヴァにとっては最悪なものだったようだ。

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[43]召喚術士K


=43.リジルの実験=

「そして本日、同じ場所に魔物の軍団による襲撃がありました。引率者は召喚術士K…僕という事になっています。」
「まさか!カムア殿ではないな。…そうかエルファスか…」
「エルファス殿とは?」
「弟リジル付きの”大魔導”(魔道士の魔法能力と戦士の素養を併せ持つレイエン家の精鋭の呼称)だ。真面目な奴でな。災厄戦時に我が父を守れなかった事をずっと悔いていた。先程の話の調査隊長に志願し、その後の治安維持にも奔走していると聞いていたのだが…」
立ち上がり謁見用の椅子越しに絵画を見上げる。そこには”レイエン家の系譜上で最強“と言われた”レーヴァの祖父の肖像画が飾られていた。

「あいつは戦後に台頭した者達を快く思っていなかったようでな。だからと言って"襲撃犯”に仕立てるといった短絡的な事をするとも思えないのだが…。しかしあいつの目を盗んで襲撃行為は出来ないだろうし、あったのであれば私に報告がないはずもない」
すなわちエルファスの犯行であるという解であった。

「現在、僕の"子"達が現地に行っているようなので、そこはわかり次第、必要な対応をして頂ければと思います。そしてここからが”今、解決しなければならない”案件となります」
ここまでは公式に対応出来る話であった。Kがリュネットにも行き先を言わず、そして非公式で訪問を強行した理由はこの案件にこそあったのだ。

「ああ そうだな。」
Kに向き直り歩み寄るレーヴァ。

「カムア殿。その案件とはリジルの事。弟の"実験”の事であろう?」
「はい…」
一度視線を落とし、そして顔を上げた時、レーヴァの顔はある決意に満ちていた。

「すまぬな。カムア殿。何も言わずに私と仕合ってくれ!」
ゆっくりと抜剣するレーヴァ。Kの前で試合用の構えを取った。

「レーヴァ様は弟想い…いや貴方は家族を領民を想う素晴らしい領主です。僕はそんな貴方が好きですよ。申し訳ありませんが、僕は仕合えません。リジル様に会わないとなりませんので…」
剣を構えるレーヴァの横を通り抜けるK。

「カムア殿!」
レーヴァの剣がカムアに向かう!それは魔術師に対する不意打ちではなかった。Kが”前衛”として体術も使える事を知っての開戦の一撃。

”ガシッ!”
その一撃を受け止めたのはKではなかった。レーヴァがその一撃を大きな構えから繰り出す一瞬に間合いを詰めた”白い服”の男が持っていた銃剣でそれを受けたのだ。

「彼が貴方の相手を務めます…」
振り返らずに言い放ち、そのまま領主の間の奥へと進むK。それを追おうとするレーヴァを対峙した男が押し返して阻止する。

「邪魔をするか… カムア殿の部下よ」
「すみませんね。何があっても"守る”って決めてまして…」
銃剣を構え直す”白服”は”決闘用の構え”をすると、レーヴァを真っ直ぐに見据えた。

「アッシュと言います。いざ尋常に!」
「…良い目だな。"守る”か… 良いだろう!お前を倒してからカムア殿を追うとしよう!」
改めてレーヴァも構える。未だ謎が多い"白服“アッシュと”四大公”魔導公”現当主レーヴァの一戦の幕が切って落とされたのだった。

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[44]召喚術士K


=44.守る理由=

”キンッ” ”パシュッ” ”ガガガ!”
剣と剣がぶつかり合う。躱し際の一閃、アッシュの銃剣術の真髄“刹那の刀身”がレーヴァを襲うも悉くが弾かれる。レーヴァの剣圧はアッシュのそれを上回るも去なされ決定打とならないでいた。

「凄いな。カムア殿は魔物だけでなく、これ程の剣士も配下におられるのか」
世辞ではない心からの感嘆の声。

「恐れ入ります。”魔導公”レーヴァ様との仕合は剣士にとっては誉れですが、主の気持ちを考えると些か興に乗り切れません」
要するにここまで2人とも本気ではないという事だった。本気になればどちらも無事では済まない。

「そうか。では少し話をしよう。アッシュ」
レーヴァが剣を下ろした。

「先程おまえは"守る"と言った。主たるカムア殿を守ると言うのだろうが、大公家を敵に回しても守りたいと言うのか?」
例えギルドで大金を積んだとしても、そんな依頼を受ける者はいないだろう。

「君は我が配下の"大魔導”にも引けを取らない。いや…私であっても全力で戦わねばならないだろう。戦闘狂でもない。…君の守る理由を聞きたいな」
剣を引いた状態だが、レーヴァの視線はアッシュを射貫いている。

(参ったな。ここまで真っ直ぐな人なのか。レーヴァ・レイエン…。)
アッシュも銃剣を下ろす。こういう男の前で"守る”と言ってしまった事を後悔しつつ。

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[45]召喚術士K


=45.Ashe=

「俺と弟は…戦災孤児でしてね。そんな俺らを拾ってくれた術士稼業のご夫婦がいらしたんですよ。俺らだけじゃない、身寄りの無い子達を集めてね。」
それは魔族戦争の後、大きな爪痕を残した大戦後には幾つかの紛争が多発していた。

「そんなご夫婦にお子さんが出来ましてね。嬉しかったな…。弟は特に喜んでいたっけ。自分にも弟が出来たってね。」
恥ずかしくて呼べなかったが、父や母と想う人達に幸福が訪れたのをアッシュは心より祝福していた。しかし…

「とんでもない邪悪が俺達の弟を襲ったんです。ご夫婦でも解呪出来ない程の”呪い”をかけやがった!」
アッシュの瞳に怒りの感情が籠もっていた。

「解呪するために、ある場所に行きましてね。そこでの儀式を成功させれば、あいつは助かるはずだったんです。そこを…”襲撃”されました」

”守りたかった…”

まるで狙い定めたように…。いやそのための"呪い”であった。それに気づいた時には全てが遅かった。その場所にいた全ての者が襲撃対象となっていた。非戦闘員すらである。

”守りたかった…”

「俺も弟も…師匠も大事な友達も、全力で戦いましたよ。」
実際、アッシュは脇腹をえぐられても、片腕がもげても戦った。

“守りたかった…”

「俺が倒れた時、弟は敵う見込みの無い相手に一矢報いました。師匠は禁忌の技を使い、大事な友達は…」
アッシュが目を閉じる。

=46.フラッシュバック=

『いつか3人で… あ 坊やも入れて4人でピクニックとか出来ると良いな。わたしお弁当作るからさ♪』
メイド服が似合うようになったあいつがそう言った。俺は嬉しかったのに…
『おまえさ、その時いくつだよ?全くいつまでもお子様じゃあ、師匠には相手にされないぜ?』
『うう…(ぺしぺし)』
あいつが怒って追いかけてくる。それが日常だった。のに…。

「命をかけて… 師匠の禁技の時間を… 俺の命を繋いでくれて…」

”守りたかった…のに… 俺は!!”
”守れなかったんだ!!!!”

弟と大事な友達の命を奪った敵は薄笑いを浮かべていた。

『うわああああああああああああああああああああああっっっっっっっ!!!』
魂の叫び。
命尽きるその時にアッシュは全身全霊の一撃を敵へとたたき込んだ!!

しかし…

『無駄な事だったわね♪』
女は平気な顔で笑い、アッシュの胸に、無慈悲に闇色の短剣を突き刺したのだった。アッシュが薄れゆく意識の中で見たのは…

『あ… が…』
裁断されていた女だった。視界の隅に、”魔剣”となった師の背中をみた。

『禁技…成功したんだ…』
そして意識は途絶えた。

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[46]召喚術士K


=47.一振りの剣=

「一度死んだ俺は、師とご夫婦の縁者のおかげで甦りました。それからは…守ろうって想った奴は守り抜くって決めたんですよ」
アッシュが目を開く。今度はアッシュの視線がレーヴァを射貫いていた。

「そうか… 私が君に感じていたのは、既視感だったようだ。」
レーヴァはアッシュに背を見せると、謁見の間に飾られている祖父と父親の肖像画を見上げた。

「偉大なる祖父。父もまたレイエンの名を継ぐにふさわしい英雄であった。その父が若かりし時に市井の女との間に出来た子が私だ。母は私を出産してすぐに亡くなったが、父が話してくれる母はとても素敵な女性でな。私は母の子として生まれた事に感謝をしている。」
そう語るレーヴァの声は優しかった。

「だがな…。大公の血筋、レイエンの系譜としては私は”ふさわしくない”のだ。母の血統に亜人の血が入っていたらしく、私はレイエンの家の者とは思えないほど”魔力素養”がないのだよ。その後、父が然るべき家柄の女性と結婚した。正妻となった"母”は私を可愛がってくれた。私も”母”を慕った。そして弟達が生まれた。血統としても申し分がない。次兄であるリジルは魔力素養も随一だ。なのに…だ。父は私を後継者とした。私は辞退したのだ。ふさわしくないと。」
実際、後継者に弟リジルを推す派閥もあった。自分の事で血族が割れる事などあってはならないとレーヴァは考えたのだ。

「だが父が言うのだ。"母”がそれを望んだと!わかるか?異端たる私を…。"母”からしたら自分の腹を痛めた我が子を後継者にと思うのが普通ではないか?災厄戦で父が亡くなった時、私を奮い立たせてくれたのは"母”だ。リジルは私が魔族と戦えるようにと命を削る苦労で魔具を作ってくれた。家臣達も私を認め、命をかけて戦ってくれた。だから私は”戦えたのだ!”」
圧倒的不利な状態からの起死回生は、こういったレイエンの結束によってもたらされたのである。

「そして私は誓ったのだ! ”レイエンを守る一振りの剣となろう”と。どんな敵も打ち倒す最強の一振りになろうと!」
そう話すと、レーヴァはアッシュを見据え、再び”決闘”の構えをとった。

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[47]召喚術士K


=48.断罪と十鬼=

(成る程…俺もこの人に既視感があったが、そういうわけか…。納得だが、カムアの奴…一体”どこまで知っていて”俺とこの人をマッチングしやがった?)
レイエン家に行く際、Kはアッシュに真剣にレーヴァの足止めを依頼してきた。それは技量の問題だけだったのか?それとも…。しかし、それを考えている余裕は既にない。レーヴァからこれまでにない”剣気”が放たれていた。それも魔力を帯びて!

「涓滴岩を穿つというが、魔力素養のない私でも”剣”にのみ魔力を注げば、このくらいの事は出来るのだ。」
「いやいやご冗談でしょう?魔力素養がないだなんて!」
アッシュが驚くのも無理はなかった。剣に込められたそれは、勇者レベルの剣気のそれを遙かに凌駕していた。剣気と魔力のオーラが重なり、それは倍加どころか乗倍化されて巨大な光の剣となっているのだ。

「伯爵位の魔爵を倒した一撃か…」
アッシュも覚悟を決めた。刀を鞘に入れるが如く、銃剣を左腰に乗せ、そして大きく体を捻った。レーヴァとは逆にアッシュの剣気は”消えた”

「俺の”とっておき”です。すみませんが、命の保証は致しかねます」
レーヴァが微笑んだ。それが答えだった。

「アッシュ!!」
=魔光刃 ”断罪”=
かつての災厄戦で伯爵位の魔爵の体を裁断した光の刃が振り下ろされた!神速の一振りである。

「秘剣… 隼…」
=”十鬼!”=
居合い、神速の回転からなる銃剣の剣圧が、発砲された魔弾のエネルギーを纏い、更に凝縮された魔力を抜刀と同時に爆発させて作った刃を重ねる。その刹那に作られる”絶対の刃”で瞬時に敵を十字に切り刻むのが"隼”である。更にそれを同時に十段重ねるのが”十鬼”であった。

””””カッッッッッッ!!””””
レイエン家大広間に閃光が走った。

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[48]召喚術士K


=49.リジル=

レイエン家居城。大広間の奥は階段となっており、最上階はリジルの研究室となっている。何故そのような造りかと言うと、それはド・レインのある館と同じ理由である。
即ち、魔素を得やすい地形においては、その最たるは中心部であり、更に魔素供給塔から円滑に魔素を取り込める場所はその最上階であるからだ。
Kがその扉を開けると、中にはまだ少年の様相を残した術士が被っていたフードを脱いで出迎えた。

「リジル様、お久しぶりです」
「ん… ああ、やはりカムア殿か。いきなり現れた魔力の波動がそうだったからな。しかし…貴方が非公式にやってくるのは…」
ふぅ…とため息をつくリジル。その理由は勿論…。

「嗅ぎつけてしまったのだね?僕の禁忌術を…」
リジルは壁際にいた。しかし、そこは間取りからいえば、中央部のはずであった。

「カモフラージュは意味を成しません。間取りからしておかしいので…」
「それもそうだ。つい悪い事は隠したくなるものだね…。貴方に見つかりたくないと咄嗟にやったのだが…」
赤面しつつリジルがカモフラージュを解く。すると…。果たしてそこは部屋の中央部であり、巨大な魔方陣が描かれていた。その中には…巨大な魔物が…異形なる"魔”がいた。

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[49]召喚術士K


=50.禁忌なる存在=

「これは…」
魔方陣の中で、それは唸っていた。それは凄まじい憤怒のようにみえた。姿はといえば、獰猛な獣がグレーターデーモンのような悪魔族の体に進化している途上といったところだろうか。翼や角を持っているが、そのバランスはどこか歪だった。

「霊獣… そして神獣のものですね?」
「…ああ、ただ誤解はしないで欲しい。”姿”のためではないんだ…」
リジルの研究は、やはり”合成魔物(キマイラ)”であった。その異形とバランスの悪さは、かつてリュネットが魔族戦争時に施されたものに近いようにみえる。戦闘のためだけの存在としての禁忌の合成術。それは対象に多大なストレスをかける。Kがこの場にリュネットを同伴しなかった理由だった。

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[50]召喚術士K


=51.ムハブゥ=

「この子は…元は僕の"友達”だったんだ。ムハブゥと言うんだよ」
リジルが子供の時に、兄レーヴァが怪我をした神獣の子を連れてきた。猪の子のようであったが、小さな羽が生えていて、かなりの魔素を持っていた。リジルはその子を治療し、そして”ムハブゥ”と名付けた。ムハブゥもリジルによく懐いた。しかし…

「災厄の魔王の強襲があった時にね。この子は僕を庇って死にかけた。僕はそれを助けるために!」
霊獣との合成を試みた。風前の灯火であったムハブゥの命は、生命力に溢れる霊獣との合成で再び輝いたのだ。そしてレイエン家は当主を失い、兄レーヴァとリジルは残った戦力をまとめて抵抗していく。そして戦いの場が魔界へと移った時だった。

「霊獣との合成で、ムハブゥも戦えるようになってね。一緒に戦ったんだ。カムア殿も知っているでしょう? 兄とムハブゥの活躍を!その姿は言い伝えの『一族の始祖とそれを助ける神獣』のようだった。僕はね、ムハブゥは兄を助けるために”神”が使わせた神獣なのだと確信したんだ!」
そして伯爵位の魔爵”腐蝕”の王たるヘルダンとの最終決戦。リジルは尊敬する兄と共にヘルダンを倒すも、ムハブゥは重傷を負わされてしまった。そのムハブゥを助けるために、リジルは二度目の合成を行った。

「合成術は、法的には1度だけとなっていますね?」
それは成功率とコンプライアンスのためだった。肉体的な合成は、3体の合成までは安定する事が多い。それ以上は、素材たる魔物同士の相性と術者の力量によるが、5体を超すと崩壊する確率が極端に上がる。神ならざる者が命を弄ぶのかという事がコンプライアンスであるが、真の理由は”魂の安定”だった。肉体と違い、魂は3体目から不安定となるのだ。結果として合成術は1度だけというのが、魔術師協会のルールとなっているのである。

「分かっている…。でもね…”良い素材”があったんだよ」
リジルの目に狂気の光が灯ったのをKは気がついただろうか。

「なるほど… それは…」
=ヘルダンの死体…ですか=

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[51]召喚術士K


=52.最凶のキマイラ=

高位の魔族は殺しても死にきらない。それが伯爵位の魔爵で、更に腐蝕を操るとなれば尚更であった。故に討伐後、その殲滅には細心の注意が払われ、そして念入りに浄化したはずだったのだ。

「流石はカムア殿だ。嘘はつけないな。でも問題があった」
「…それは、領内の神獣や霊獣への襲撃と関係がありますね?」
「…襲撃? …ああ、そうか…」
Kの問いかけで、リジルは事態を把握した。確かにヘルダンの死体の細胞を合成する事でムハブゥは甦ったが、ヘルダンの特性である”腐蝕”が良くなかったために副作用とは別の意味で崩壊し始めた。そこで”聖属性”の神獣や霊獣を、その一部を合成する事で対応しようとしたのだ。それを依頼したのがエルファスだったのだが、主を想うエルファスは、フリッツの催眠もあって、かなり強引な素材収集をしてしまった。必要な素材が入手できると喜んでいたリジルは、ようやくその絡繰りに気がついたのだった。

「相性の問題があったから、様々な素材を試す必要があった。フリッツが助けてくれたんだ。彼は”半魔族”だったからね」
それもフリッツの偽装である。フリッツ自身は生粋の魔族なのだ。自身の擬態と催眠に自信があったフリッツは、更に抜け目がなかった。僅かでも見破られるリスクを考えて、魔族と人間のハーフとしてエルファスに自身を売り込んだのである。勿論、擬態と催眠を込みで。その上で、人間に擬態し、更にエルゼに擬態した。

「カムア殿に指摘される前に白状をするが、素材に繋がる”通路”を暫定的に作る事で僕の実験は進んだんだ。死んでも尚”再生力”を誇るヘルダンの死体に再生のみを機能させ、その副作用たる”腐蝕”や”魔”の力の汚染を”希薄化”するための霊獣・神獣の肉体を部分的に合成する事で”ようやく完成したんだ”」
=ただ、一つを除いてね=

キマイラ・ムハブゥはKを見据え、唸り声を出し続けている。リジルはそんなムハブゥを愛おしそうに見上げると、手をサッと上げた。ムハブゥを縛っていた結界が消える。おぞましいほどの魔素が部屋中に放たれた!

「なんと… これは…」
(魔王クラスの魔素量ですか!?どれほどの霊獣・魔獣を掛け合わせたんです??)
驚くKにリジルが重ねる。

「完成を拒む一欠片のピース。それは召喚術士K…カムア殿、貴方なのだ」
リジルが手をKに向けると、ムハブゥは魔方陣を出て、のっそりとKに歩み寄り始めた。

「僕…ですか?」
「ああ、取り込んだ霊獣や神獣の一部にカムア殿との”契約”が残っていた事と、ヘルダンの肉体が記憶している貴方への恨みが合成を拒んでいる。恨みという点では、僕や兄も同じだろうと思うのだけどね。使ったパーツが貴方によって傷つけられた部位だったのだと思い出した。」
ムハブゥはKの目の前まで歩み寄ると、その巨躯を低くしてKと頭の高さを揃えた。Kを食いちぎるには、一瞬の時間ですむであろう0距離である。

「ムハブゥのために、兄の神獣のために、死んでくれないか?カムア殿!」
リジルの腕が再び上がり、そして振り下ろされた!

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[52]召喚術士K


=53.間に合わなかった…=

「はい!どーーーん!」
それはリジルの腕が再度上がった時に起こった。Kの背後10フィート程のところに、桜色の魔方陣が展開され、そこからリュネットらが転送されてきたのである。

「ルリカ?扉はないよ?」
いつも通りのリオのツッコミ。その時リジルの腕が振り下ろされた。

”ガウガウウウウガウウウウウウウ!!”
”バクバクバクバクゥゥゥゥゥ!!”
リオ達が見たのは、恐ろしい魔素を放出している魔獣がKに食らいつき、倒れたKに激しく食らいついている光景だった…。

「わああああああああっ ますにゃああああああああ!!」
「え?え?え?え?え?えええ???????」
「あ…」
パニック。

「ブグウウウウウウウ!!」
恐ろしい唸り声を出しながら、Kの体を押してリオ達の前までくるキマイラ・ムハブゥ!突然の惨劇と、ムハブゥが放つ魔王クラスの魔素量に当てられリオ達は金縛りのような状態になっていた。ムハブゥの鼻に当たるところがKの体の大半を潰しているらしい。辛うじて見えるのはボサボサのKの頭くらいである。

「ま…すたー?」
腰が抜けるように地面に尻をついたリオが、Kの頭らしいところを怖々と撫でる。不思議と涙は出なかった。

=いや…どうして良いかわからない…よ…=

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[53]召喚術士K


=54.パニック!=

その声に呼応するように、Kの首がグルッと廻った。そして…

「や… やあリオ?こんにちは。あれ?ルリカ?」
ベットリとした粘液に塗れたKが笑顔で話しかけてきた!?

「わああああああああああっ ますにゃああああああああ!!成仏!成仏ぅぅ!!」
「え?え?え?え?え?えええええええええ????」
パニック再び。

「あいたたた。凄い力ですねぇ…」
ムハブゥの鼻を押して、Kがのっそりと立ち上がった。パンパンッと埃を叩くとムハブゥの鼻の頭を撫でてやる。

「ご無事…なのですか?」
流石に固まっていたリュネットが恐る恐る話しかける。

「ああ…リュネット。来てしまったんですねぇ…。もう少し…待っていて下さいね?」
今度はKがリジルへと歩み始めた。ムハブゥと共に。

「な…何故?まさか…”契約”の上乗せか?それとも…」
合成魔術に長け、レイエン家の血統でも随一の”大魔導”であるリジルでも、目の前の現象が分からなかった。今度はムハブゥとリジルが零距離となる。ムハブゥの魔素の放出はリジルへと向かっており、その瞳はリジルのそれを射貫いていた。

「そう…か。恨んでいたのは僕をだったのか…」
ムハブゥの瞳に”苦しみ”を認めた時、リジルはそれを作った自分への恨みがムハブゥの完成を拒む一欠片であったと確信した。

「お分かりに…なりませんかねぇ…」
Kは悲しそうな瞳でリジルを見ると、腕を上げ…そして下ろした。

”バグウウルウウウ!!”
ムハブゥがリジルを押し倒した!

「わあああああっ ますにゃーが犯罪者に!?」
「え?え?えええ??」
三度目のパニック。

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[54]召喚術士K


=55.歪みと絆
「大丈夫…ですか?」
肩を落としているKに寄り添い、心配そうに覗き込むリュネット。

「ええ。大丈夫…です。リュネット…。君なら…わかるでしょう?この子はね…」
振り返ったKは泣いていた。

「幾多の合成によって、魂に歪みが出来て… とても苦しんだ」
死神の特性を持つKと、自らが”合成魔物”の被験者であったリュネットには、キマイラの魂の歪みが感知できた。それはムハブゥという核を霊獣や神獣の魂の欠片が守り、それをドス黒い大きな闇の力が犯しているという…責め苦であったのだ。何かを解決すれば安定するという代物では無かった。

「なのにね… この子は… こんなにもリジル様… 貴方の事が好きなんです…よ?」
あらためて良く見ると… ムハブゥはリジルを襲っているのでは無かった。魔方陣から久々に出られた嬉しさで、大好きなリジルを嘗め回しているだけだったのである。その苦痛を忘れるくらいに!先程Kにしていたのも、災厄戦以来の再会に感動してテンションが上がった状態で戯れていただけなのであった。(いや、それでも死ぬってw<リオ)

「!? む…ムハブゥ!!」
=いつからだろう?いつから僕は友達を…実験体として考えていたのだろう?=
子供の頃、初めてムハブゥと会った時が思い出された。ムハブゥはいつも僕を見てくれていたのに、いつから僕は…ムハブゥを友として見ていなかったんだ!?

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[55]召喚術士K


=56.つきもの
「つきものが落ちましたかねぇ?」
ムハブゥの鼻を優しく撫でているリジルを見てKがホッとした表情で呟いた。

「つきもの…です?」
Kの肩を抱いているリュネットと対局の位置でKの衣を遠慮がちに掴みながらリオが尋ねる。

「ええ、曾祖父は”通りもの”と言ってました。人が狂気に落ち、過ちを犯してしまうかどうかは、それに出会うかどうかなのだと」
Kの曾祖父は東の国で退魔師をしていた。子供の頃は、そういう名前の化け物が人間に乗り移るのだと想像していたKだったが、魔界での生活を経て人間界に来て、そして災厄戦を経験する過程で”それ”は誰にでも何時でも起こりうるものなのだと知った。

「せっかく援軍に来ましたが、これは出番無しですかねー?」
左右をリュネットとリオに取られたルリカは、その小柄さを利用してKに肩車を仕掛けていた。

「そうですね。”後始末”がありますが、それ程の面倒はないでしょうね」
「ラスボス倒して、その後に控える”真の姿”も倒すつもりでしたが、このまま大団円も良いかもです」
「ルリカ…そんな事を言ってると、本当にそうなっちゃうよ?」
お約束のツッコミ。そして大団円。誰もがそう思った時だった。

”ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ”
地面が鳴った。

「これは…」
真下から”おぞましい魔力の塊”が迫ってくる!?

”ドガッッッッッッッッッッッッッッッ!!”
ムハブゥを束縛していた魔方陣を突き破り、それは現れた。

「久しいな。忌々しいレイエンの子。そして漆黒の術士よ。」
それは霊体であったが、恐ろしいまでの魔力の衣を纏っていた。触れるもの全てを”腐蝕”させる特性を持ち、死してなお、敵意を保って存在する”邪悪”

「本当に…久しぶりですねぇ 出来る事なら会いたくはなかったですがね」
=魔爵 伯爵位… ヘルダン!!=

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[56]召喚術士K


=57.魔王爆誕!
「こ…これが…魔爵…」
「おわっ これはなかなか♪」
突然の脅威の出現に、リオはKの後ろに隠れ、ルリカは飛び降りると”白と黒”の短剣を抜き放った。リュネットも”死神の鎌”を構える。

「慌てるな。もっと面白いものをみせてやるからな」
”ドガシャアアアア!!”
無造作に放った魔力波であった。リオが咄嗟に防御壁を張る!”聖属性”の結界は、魔族の波動とは相性が良く、完全に遮断した。だが…

「フフフ ハハ フハハハハハッッ!!」
「!?」
その一瞬でヘルダンはリジルを吹き飛ばしていた。K達への魔力波は陽動だったのである。そして…

「この肉体は”わたし”がベースだ。よくまとまっている!移って魂を捕食してやれば、新しい肉体として申し分なし!」
ヘルダンの黒い衣は形を変え、ムハブゥを捕縛していた。そしてヘルダンの霊体が素早くその肉体へと潜り込んでいく!

「ブ…ブグウウウウウウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
耳を覆いたくなる程のムハブゥの悲鳴が上がった。それが止んだ時、K達の目の前にいたのはムハブゥのそれではなかった。

六本の腕、蝙蝠様の翼、禍々しい角… 全てが悪魔を象徴する完璧な肉体で再誕した”魔爵ヘルダン”だった。しかも…

「この魔素量… これはまるで… 魔王クラス!?」

「その通りだ。神獣と霊獣を喰ったのと同じレベルアップを果たしたからな。二階級超えも当然!今のわたしは…”魔王ヘルダン”だ!」
=”腐蝕”の魔王 ヘルダンが爆誕した=

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[57]召喚術士K


=58.最終決戦!!

「ふむ… これが”災厄”様の境地か…。感慨深いものだ。そして"災厄"様を害した漆黒の術士への復讐を果たせ、更にわたしの肉体を蹂躙したレイエンの子達を滅ぼせるとは、実に感慨深い」
 おぞましい程の瘴気を放ちつつ、ヘルダンは陶酔の表情で語った。

「これが魔王!?なんて圧倒的な…」
 Kの背中にしがみついたリオの言葉は、震えて最後まで発声されなかった。
「こんなのとマスター達は戦ったんですか?桁違いもいいところ…」
 魔爵のクラスアップは、階級が一つ上がるだけで乗倍となる。これが魔王クラスとなると、文字通り桁が違うのだ。圧倒的な瘴気の渦は、その場にいる全ての者を飲み込み、その心を内から蝕んでいく。

「さて… どうしましょうかねぇ」
「どうする?お前達は何もしなくて良い。いや、何も出来ないだろう?魔族のわたしに、魔王となったわたしに、人間如きが何を出来るというのだ!」
 気圧されている周囲に目をやり呟いたKに、ヘルダンは怒気で応酬した。

「再びお前を捕らえる…」
”ブゥン!”
 声と同時にヘルダンの足下の"魔法陣”が光り輝く。それはムハブゥを捕らえていたものだ。
「レイエンの子か?魔王たるわたしを、この程度の魔法陣で捕らえられると思うか!」
 ヘルダンの奇襲で壁に打ち付けられたリジルが立ち上がり、左手で印を結んでいる。同時に右手のロッドを掲げると、白銀の輝きが灯る。
「完全に封じてやろう。白銀の…リジル・レイエンの名にかけて!」
”魔氷・月華陣・封殺!”
 それは"災厄戦"時、魔爵ヘルダンを封じたリジルの秘術である。リジルの特性”魔氷”を円刃とし、相手を斬り裂くと同時に霊体を封じる。それから研鑽を続けたリジルのそれは、初対峙の頃よりも明らかに威力が上がっていた。

”がっっっ!!”
 それはヘルダンの体を斬り裂いて止まった。
「凄い… 大魔道士レベルの術を二つ同時に行使するなんて…」
 Kの背中からリオが感嘆の声をあげる。これが四大公の一族の力なのかと。そして誰もが決着と思った時だった。

「くくく… はははははは! 大したものだ。人間にしては…だがな!」
 ヘルダンは笑っていた。この上なく可笑しいといった風に。そして六本の腕で”月華陣”を掴むと魔力を腕に集約させていった。
「!? いけない! ガードして!」
Kが叫ぶのと同時だった。
「さて、貰ったものは倍にして返さんとなぁ!」
”パリィィィィィィン!”
 あろう事かリジルの月華陣を破壊すると、その魔力片を自らの腐蝕の魔力で包み込み込んだのである。
”腐蝕・凶華片!”
 それは月華陣の鋭さを持ち、相手を切り裂くと同時に腐蝕させる魔力片の凶刃だった。
「漆黒の術士とレイエンの子!まずはお前達から死んでいけ!」
 右の三本の腕からはKに、左からはリジルに、その凶刃が放たれた!!

「兄さん!」
「マスター!!」
 Kの背中から、ケリィとリオの叫び声があがった。

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[58]召喚術士K


=59.決闘とは

”魔弾・凱風連!”
”キィ…””ガガガガガガ!”
 銃声は一つだったが、十二の光の軌跡が刹那に生じ、六弾ずつ二手に分かれると凶刃を打ち抜き、軌道を変えたそれはKとリジルを裂けて周囲の壁や床を切り刻んでいた。
「うわっ かすった!かすったー!!」
 ただひとり、Kの傍らにいたルリカに向かった凶刃があったが、その神がかり的な危機回避本能で避けていた。まさに紙一重で。

「何だ?何故外れ… !?」
 必殺であった凶華陣が外れた事に驚くヘルダンに迫る者がいた。
”魔光剣・剣樹突!”
 その者は一瞬で間合いを詰め、そして突き出された光の剣は、成長する樹木が枝をはるが如く分裂し、ヘルダンの腕や足を貫いていた。
「貴様は…わたしを斬ったレイエンの…」
 片膝をつき、傷ついた腕で倒れまいとするヘルダンの目に、かつて自分を"断罪”した敵が映っていた。

「何度でも斬ってやろう。このレーヴァ・レイエンがな」
「どうやら魔弾は通用するらしい。だったら問題なしだ。撃ち抜いてやるぜ?」
 魔光剣を構えるは魔導公にして血族最強の剣であるレーヴァ・レイエン、そして魔弾を装填した銃剣を肩に担ぎ、カムアの前に進み出たのは”白服”アッシュだった。

「貴様達は、同士討ちを演じていたはず…」
 そう、そこまではヘルダンが立てた計画通りであった。霊獣(ムハブゥ)の復活に執心したリジルの心の隙をついての多重合成計画、それを配下のフリッツを使って誘導した。完成した合成霊獣を乗っ取って復活するために。そして計画達成が見えてきた時、同時に復讐計画も実行する事にした。かつて手を取り合って自らを害した怨敵達をあわよくば同士討ちにしてやろうというというのだ。そしてそれはほんの少し前まで順調に進んでいたはずだ。なのに、なぜ?

「いやらしい奴だな。感知していたって事か。だったらお前の思い違いだぜ?」
 ヘルダンを見据えたアッシュが銃口を向けて言い放つ。
「決闘は同士討ちにあらず、事次第によってはお互いを理解する術であるのだ」
 魔光剣に”断罪”の光を収束させながらレーヴァが重ねる。
 レーヴァとアッシュの決闘は、大切な者を守るための戦いだった。その想いを奥義という形で発現した時、ノイズとも言える息づかいを感知し得たのである。二人は咄嗟にその標的を変え、返す刀で実験室へと駆けたのであった。

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[59]召喚術士K


=60.絶体絶命

「なるほど、今のわたしになら少しはわかるな」
 自らの術式を弾き飛ばし、四肢を貫いた銃と剣を前にヘルダンの声は穏やかだった。
「あの時”災厄”様が人間との決着にご執心されたわけがな。小賢しいだけの存在と思ったが、成る程…”面白い!”」
 突如ヘルダンの体から魔素が突風のように吹き出した。それは先程の凶華片の比ではない。恐らく最大量に近い攻撃的放出!?

「ぐっ こいつ…いきなり何を!?」
「防御を!」
 どんな動きを取っても対応する気でいたアッシュとレーヴァにして虚を突かれた。レーヴァの一声でKとリジルが防御魔法を展開するが、腐蝕を纏った暴風は研究室内を吹き荒れていた。
「何を?簡単な事だ。”お前達を倒したい!”我が身を裂いた怨みなど今は忘れよう。ただお前達を倒し、この力で魔界へと戻る。そして災厄様のなさろうとした仕事をわたしが完遂するのだ。それだけで良い…いや!それが良いのだ!!」
”バキキキキィィィ!”
 強化したムハヴゥが暴れても大丈夫なように強化されていた研究室の壁が腐蝕していく!

「なんてパワー… こんなの浴びたら一瞬で…」
「ぬわわわわわっ ますにゃーの防御は大丈夫ですかねー?」
 Kの背後に隠れたリオとルリカが肩越しに周囲を見渡しながら目を泳がせていた。レーヴァはケリィを抱えてリジルの射程内へと滑り込み、月華陣を防御展開したリジルが狂風を何とか凌いでいる。

「すみません。撃ち込む前にやられちまいました…」
 咄嗟に足下に魔弾を放ち、その反動でKの射程内まで撤退したアッシュが詫びる。
「それにしても… この暴風はいつまで…」
 召喚術を身につけ簡易転移を可能にしたリュネットもKの背後へと転移して、Kの防御に魔力を上乗せしていた。
「おそらくは…」
 研究室の損害に合わせて防御陣を展開させながらKが静かに話す。
「ほぼ無尽蔵に…ですかね。リオとリュネットにはわかりますかね?壊れた壁の外側が」
 リオが暴風に怯えながら観察をすると、それは”黒い壁”のようであった。
「なんですか?あれ…」
「結界のようなものです。あれが”魔界”へと繋がっている場合、彼は体内に宿したエナジーを回復出来ますので…」
 Kが”ルーム”と呼んでいる結界がある。上級魔族クラス以上が大体持っているこの能力は、文字通り自室のような空間を作り出す能力であり、人間の自宅のような使い方をされるのが一般的だ。争いが多い魔界において、肉体と魂を休ませる空間であるのだが、魔王レベルになるとそれは一つの都市程の広さを持ち、特性を100%引き出すなどの恩恵を享受出来るのだ。勿論エナジーの回復もある。故に―

「それって…」
「絶体絶命ってやつですねー …一緒に川を渡りましょうー」
涙目とヤンデレ目が背後からKを見つめる。
「それでも、奴を倒す算段は”あるんでしょう?”」
 落ち着いた口調で話すKに勝算があると感じたアッシュが問うと、
「ええ、”このメンツ”ならほぼ間違えなく」
 やっと聞いてくれた!といった表情でKは不敵に微笑んだ。

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[60]召喚術士K


=61.起死回生の策

「ほぉ?この状況下で笑うか?さてさて!これでも笑えるかぁぁ!」
 ヘルダンが吠えた!そして暴風は大暴風となる。

「リュネット ”解放”を許可します。”伝達”に必要なラウンドを稼いで下さい」
「了解です。マスター」
 Kが防御魔法を解くと同時に、リュネットが眼鏡を外した。
「魔眼《フロアイボール》!!”防御結界”」
 Kに師事しマナの元で召喚術士として修行をしたリュネットが独自に得たものが二つあった。一つは外気エナジーを常時取り込めるようになってから”肉体”が変化をした事。無理矢理繋ぎ止めていた”同胞”の肉体の拒絶が減ったのである。そしてもう一つが《眼》のレベルアップ。本来なら肉体に繋いだ時の特性しか持ち得ないのに、リュネットの成長に合わせて新たな術式を得られるようになったのである。
 そして強力な魔眼を持つフロアイボールの特異術式である”絶対防御”が発動した!しかもそれは、
「ぐっ 小癪な…」
 自分達を囲うのでは無く、”ヘルダンを囲った”のだ。暴風が自らを傷つけるほど狭い結界と悟ったヘルダンが”外側へ”魔力波のベクトルを切り替えてそれを破るまで三ラウンドといったところだろう。

「さて!業務伝達をしましょうか!」
 Kが両の手を広げると、”マジックミサイル”が発射された。その数七本。それはヘルダンで無く、その場に居合わせた仲間達に向かっていく。

「え!」
「ぬおっ 川を渡るのは冗談で…」
 リオやルリカだけでなく、レーヴァやリジルも驚愕していた。しかしそれは一瞬だけ―
 Kの思惑を悟った面々はその着弾を受け入れた。

”シュン!”
 マジックミサイルが各人の額を撃ち抜くと同時に、打倒ヘルダンのKの作戦が一瞬にして行き渡った。マジックミサイル型思念伝達。災厄戦時での組織戦でも活躍したKの術式である。元は使役魔物との意思疎通のための技術だったが、臨機応変さと組織力が同時に求められる戦争においてもそれは重宝された。

「参ります!」
 Kが突進しそれを合図に各人が役割を執行するために展開するのと、ヘルダンがリュネットの防御を破壊するのはほぼ同時だった。

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