【ド・レイン小説】『魔導公と禁忌の魔獣』



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[1]召喚術士K


=0.ルブル=

 魔族と異文化交流が出来る希有なSALON『ド・レイン』は、辺境都市ルブルの郊外にある。そしてルブルという都市は、聖王国パルナの南東に位置している。かつては大陸間での争いが絶えなかったが、ここ100年は”人間同士”の戦争はなかった。
 理由は二つ。一つは魔族の侵攻が各国で多発し、人間同士が団結する必要があった事。もう一つは、大陸中央に存在するパルナが中立国として栄えていた事。特筆すべきは、パルナ国境に領地を持つ四大公達の存在である。その政治力と軍事力が隣国への抑止力となっているのだ。

 四大公とは北の精霊公、東の銀竜公、南の魔導公、西の聖騎公を指す。特に『ド・レイン』開設より40年前の”魔族戦争”において四大公の名は隣国に大きな影響力を持つことになる。

 魔族戦争とは、大陸の諸国の要所に"魔王"クラスの魔族が同時に侵略を開始した有史以来の大規模戦争の事である。北の国には”呪海”の魔王が、西の国には”鎖縛”の魔王が、東の国には”狐魔”の魔王が、南の国には”腐殺”の魔王が、そしてパルナの首都近辺にはそれらを統べていたらしい”天妖”の魔王がそれぞれの軍団を率いて現れた。各国とも混乱を極めた。強力な魔族に対抗出来る武具も人材も少なかったからである。

 しかし人間は魔族よりも統率力や戦術に長け、果敢な抵抗を見せた。戦争という極限化では魔法や魔武具の技術も上がるのだろう。それらを使いこなす希有な人間も現れ、彼らは”英雄”や"勇者”と呼ばれ、彼らが先頭に立って戦う姿は、それだけで人々を鼓舞し、戦況を持ち直させたのである。

 そして決定的な転機が聖王国パルナで起こった。隣国からの干渉が直ちにない状況となったため、その守備に最低限の兵力を残し、四大公達はそれ以外の最大戦力を王都へ迫る”天妖”の魔王に向けたのである。戦いは熾烈を極めたが、主に四大公達の活躍によって"天妖”は討伐された。
 その後四大公は、国王の命で隣国へ援軍として派遣された。魔族との戦いを経て個々のレベルアップを果たし、何より"魔族との戦い方”を熟知した四大公の軍勢は、隣国の魔王討伐へ多大なる貢献をしたのである。その結果、四大公は隣国にとって恩人となり、そしてその強さを知らしめる事になったのである。

《参考資料 パルナ百年史(四大公の章)》

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[2]召喚術士K


=1.舞い降りた厄災=

「おい。明るいうちに帰るぞ」
「ああ、最近は魔物が多いからなぁ…。そういえばギルドの方はどうなったんだ?」
「通常の依頼として”冒険者"達に提示はしてくれるそうだが、それ以上の対応は無理だとさ」
 ルブルの郊外に『オンス』という亜人達の村がある。フォクシー族というが、コボルトとは違ってほぼ人間の姿だ。耳や尻尾があり、身体能力も人間より高く、鼻もきくため、狩猟を得意とし、男達は隣接する森林地帯を狩り場としていた。その狩り場に異変が起こった。魔物を散見するようになったのである。いや元々魔物もいる森ではある。だが"異質”だったのだ。

「俺が考えても変だと思うぜ? ゴブリンやコボルトがゾンビや骸骨と仲良く歩くかよ?」
「また何処かで魔王とかが出てきたんじゃないかって、前の戦争を知っている年寄り達が心配してたからな。それでギルドや辺境隊に依頼に行ってるのに!」
 村にはまだ被害はなかったが、奇妙な魔物の群れの出現と行動が"何かしらの意味”を持つとしたら…。それを危惧した村長がギルドや辺境隊に報告に行ったのだが、まともに取り合って貰えなかった。男達は今後の事を夕飯でも食べながら話そうかと家路を急いだ。しかし…。

”ドゴォン!”
 爆煙が上がる。男達が狩りから帰ってきてすぐに”厄災”が舞い降りた。

「なんだ!?こいつら!!」
「なんで魔物がこんなに!?助けてくれぇ!!」
”火球”魔法とおぼしき爆発の後に雪崩れ込んできたのは魔物の軍勢だった。ゴブリンやオーク、コボルト等の亜人種が中心であったが、大型の猛獣や、スケルトンやゾンビといったアンデッドもいた。狩りの帰り道に男達が懸念していた"魔物の群れ”、明らかに自然発生した軍団ではなかった。身体能力が通常の人間より高い亜人達であるが、統率された魔物達には為す術がなかった。

=1時間後=
 村の広場に村人の死体が積み上げられ、そして生き残った村人はゴブリン兵によって包囲されていた。

「思ったよりは上出来でしたね。流石は僕の使役魔物達です。」
 闇夜を模したような黒衣を翻し、術士らしき男が呟く。

《報告します。村人の数名が逃走しました。追撃致しますか?ギギギ》
 悪魔を模した彫像が話しかけた。恐らくは魔法生物の類いであろう。思念波による報告を黒衣の男は一笑に伏した。

「捨て置いて良いと思いますが、当初の目的通りに、西へは”死人兵”を派遣しておきなさい。さて…と」
 男は魔法生物に指示を出すと、ゴブリン兵の包囲を解き、村人達の前に歩み寄る。

「私たちをどうするつもりだ?」
 尋ねたのはオンスの村長だった。

「ああ、そうでしたね。処遇をまだ話していませんでした。」
 黒衣の男は、この場にはそぐわない爽やかな笑みを浮かべ宣言する。

「貴方たちには、僕の実験に協力して頂きます。光栄に思って下さいね?あの”災厄”と二つ名の魔王を排除し、国王に”十二聖王騎将”と爵位を賜ったこのカムア・ロー 召喚術士Kの役に立つのですから」

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[3]召喚術士K


=2.ド・レインの日常=

”暗がりの森”ルブル郊外にあるこの森は昼間でも薄暗く、魔素量が多い土地柄のためか魔物も多く生息していた。そんなおおよそ人が入り込みたくないであろうところに、その館はあった。

「暇ですねー」
 館の元ダンスホールを改装して造られたSALONのメインホール、そのカウンター席に座り足をぶらぶらとさせている黒服の少女が顎をカウンターに乗せながらぼやいた。

「暇って? ルリカは仕事じゃないの?」
 カウンター内で拭き掃除をしていた銀髪の少女があきれ顔で応える。

「仕事はちゃんと!…部下達に割り振ってますから!」
「ルリカさ… 本当に首になっちゃうぜ?」
 薄い紫と灰色の髪を結わいたバーテンダーが酒を補充しながらたしなめる。

「な!ティアたんまで!」
「…たんって言うな…」
 素早い反論をする黒服姿のルリカを ”ガシッ!”と頭を掴んで睨み付けるティア。

「うぐぐっ 大丈夫ですよ!目が利く部下に見晴らせているんですから!誓っても良いです。お客以外は誰も入ってこられません!絶対!!」

 ここはサキュバスSALON『ド・レイン』。魔族との異文化交流をするためのサロンである。現在上客が特別室で”異文化交流”をしている以外に客はなかった。そして…

『うわあああ!!』
 ルリカの宣言の直後に、客とは思えない叫び声が玄関から聞こえてきた。

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[4]召喚術士K


=3.来訪者=

「ええっと、君は?」
 メインホールの扉を開けて飛び込んできたのは、まだ幼い亜人の男の子だった。男の子は怯えた目で間近に控えている魔法生物を凝視していた。

「ああ、これはガー君…ガーゴイル君といって、この館のボディーガードみたいなものだから。怖くないよ。ああ、これを…」
 銀髪の少女は、少年をボックス席に座らせて、魔界の薬草園で採れた果汁で作ったジュースを手渡した。ガーゴイル君と呼ばれた魔法生物は、悪魔の姿を基調とした意匠のため、何も知らなければ結構怖いのかもしれない。

「リオさん、これは…あれです。部下がお客と間違っただけで…」
「ルリカは静かにしていろ」
 秒殺で宣言を覆させられたルリカをティアが制する。少年は手渡されたジュースを一口飲むと、目の色を変えて一気に飲み干した。

「ふふ 美味しかった?これはボクが育てた花果実で作ったんだよ?」
 リオが微笑みかける。

「ありがとう…」
 赤面しながら少年がやっと口を開いた。

「良かった。でも…君、ボロボロだね? 途中で魔物にでも出会ったのかな?」
 リオの問いかけに、少年は再び俯いてしまった。この”暗がりの森”は魔物が多く出るため、この館に辿り着けるのは名だたる冒険者かあるいは…。

「”館に招かれた者”ってボク達は言うんだけどね。来るべくして来たっていうのかな」
 普通の商人や村人などの戦闘と縁のない客が迷い込む事もある。その多くは自分達との”相性”が良い場合であったが。目の前の少年は客とは思えない。ではなぜ…とリオは考えた。

「君は…なぜここに来たの?」
 俯く少年の肩を優しく撫で、そして優しく尋ねた。少年の肩が震えている。

「あの… あのぅ!」
 少年は泣いていた。震える声でリオの目を見つめ返す。

「助けて下さい!!」
 それは心からの… ”叫び”だった。

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[5]召喚術士K


=4.旅立ちのリオ=

 少年が絞り出すような声で話したのは、魔物に襲われた村の惨状だった。5歳年上の兄と村を脱出し、追ってくる魔物を撒くために危険な”暗がりの森”に入ったところで兄ともはぐれてしまった。

「そんな事が…」
 少年とその村を襲った悲劇にショックを受けるリオ。

「でも、それなら警備隊とかギルドへかな…」
 最も一般的な解決案である。でも…

「だめ…なんです。」
少年が握り混んだ拳を震わせた。

「少し前から村の近くで魔物を見かけるからって… 村の長がギルドに連絡したんですけど… 法外な報酬を要求されたって言われて…」
それはかつての何倍もの額であり、とても支払えるものではなかった。
「辺境聖教導団に連絡をしたら、断られたって…」
こらえきれずに大粒の涙を流す少年。

「そんな… 確かに今は大規模な襲撃への対応だから額も大きいかもだけど、その前からって…」
リオも合点がいかなかった。よくギルドの仕事をしているマスターに聞けば何か分かるかも知れないと思ったが、生憎マスターは長期の仕事に出ている。

「聖教導団も… ちょっと信頼置けないしね…」
国家方針の転換から生まれた国教の色を濃くした部隊であり、魔族との異文化交流を主体としているサロンも監視下であったため、アプローチには細心の注意がいる。

「…やっぱり、村の現状がわからないと…かなぁ?」
リオが助けを乞うように、カウンター席を見ると

「わたしは嫌ですよー」
頼んだドリンクをグビグビ飲み干してから、ルリカはそっぽを向いた。

「悪いな。リオ。俺も外せないから」
ティアも忙しそうに夜の部へ向けての準備をしている。

「ですよね… 今館にいるのは… リリーちゃんにアウルムさんか」
リリーに戦闘力は皆無。(『です!』という可愛いリリーの幻影が浮かぶリオ)アウルムは魔術師としての才や魔素量は自分以上だけど…。

(核撃主体でコントロールがって言ってたからなぁ…)
由緒ある魔族の血統のアウルムは、その中でも異端なくらいの潜在能力を持っているようだったが、彼女もまた成長途上であった。特別室にいる赤髪と緑髪の大先輩の姿も浮かんだが…

(…やめておこう… この子も”食べられてしまう”かもしれない…)
サキュバスの要素が色濃い先輩達は”大食らい”であるため、僅かなリスクがリオの頭をかすめる。

「わかりました。ボクが行きますよ。偵察だけですから」
少年を少し待たせ、自室で旅支度をするリオ。マスターより賜った”エルダー・ゲイザリオン”という専用の杖をギュッと握りしめる。

(なんか他人事って思えないんだよね)
少年の村は、森を抜ければ最短で2時間程度。日が暮れるまでには着ける。むしろ偵察なら暗くなってからの方が良いかもしれない。その状況を第三者を通じて聖教導団とギルドに送る。そうすれば…。リオにとって、現状における最適解であった。

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[6]召喚術士K


=5.ケリー=

「そういえば、君の名前は?」
"暗がりの森”の中、共に歩く少年に微笑みながら問う。

「ケリー…」
「そっか。ケリーだね。ボクはリオ。宜しくね」
(女の子みたいな名前だな)恥ずかしがっている少年に微笑みながら、歩みを進める。

「ケリーの村は…こっちか」
森を抜けるまではルブルへの道と一緒なのは幸いだった。何しろ迷いやすい森なのだ。"暗がりの森”が魔性と言われる由縁かもしれない。

”ガサガサ!”
突然、多数の気配が生じた。
「誰?」
ゲイザリオンを構えてリオが鋭く問う。

『ケケケ いたぜ 賭けは俺の勝ちだな』
『ちぇっ 腸を逃したか』
『いや、もう一人いる… おれそっちがいい…』
現れたのは、盗賊団風… 死臭漂う”死人”の兵士だった。

(!! ボク…こういうの苦手なんだよぉ…)死臭に鼻を押さえるリオ。しかも数が多い。(8人? 部隊で行動しているというの?)危険とはいえ、村への偵察だけだと思っていた自分の甘さを後悔した。敵は追っ手を出していたのか?

「舐めないでよね!ボクだって!」
ゲイザリオンを使って、”聖結界”を張る。既に聖石を充填しているため、敵が不死者であればその効力は絶大である。

「聖石・流水破!」
そして全方位に水系の魔法を放出する。聖石の力を宿した水は、聖水のごとく不死者の兵士を薙ぎ払った!

『ぐげぇ』
『なんだ!?こいつ…神官なのか!?』
『きょ 距離を取れ!いずれにしても術士の類いだ。射貫けば良い!』
ゾンビなどのアンデッドと違い、ほんの少しの理性と、割と多めに知性を残しているのが”不死者”のいやらしいところである。すぐさま距離を取り、弓に装備を切り替えると続けざまにリオ達を射撃してきた。

「う… あ アサルトモード!」
ゲイザリオンを銃形態に変形させて応戦するリオ。しかし、歴戦の兵士達は木に隠れ、リオの死角から射撃してくる。

”ガキッ”
矢にかなり強い魔力が付与されているのか、普通なら貫けない聖結界に矢が突き刺さっていく。このまま撃ち込まれたら、結界が維持できなくなってしまう。

(どうすれば… どうすれば…)
兵士達が距離を詰めてくる。死角から矢だけでなく剣も使って結界を崩しにかかられる。

(壊れた瞬間に、移動魔法で館に戻るしか… でも一緒は無理だから、まずはこの子を…)
リオの決意とほぼ同時だった。

”ドゴォ!”
分厚い重低音が轟いた。リオの目の前の兵士が1人飛ばされた。

『げぇっ』
そのヒキガエルを轢いたような…という形容がぴったりな声は、頭蓋骨が陥没したために起こったものであると直ちにリオ達は理解した。美しく長い脚が目の前にニュッと伸びていたからである。

「この私が来たからには、もう安心ですよ!リオちゃん!」
「私達だろう?アイシャ。俺の打撃の方が速かったんだからな?」
SALONのキャストにして、踊りと料理の達人アイシャと、その親衛隊長…いや有望な武闘家レアニウスだった。

「ありがとう。アイシャさん。でも…何故ここに?」
「同伴出勤です!」
ビシッとポーズを決めるアイシャ。

(いや、アイシャさんは館住みでは?同伴って…)
目をぱちくりしているリオの考えを察したのか、すぐさま補足が続く

「アフター&同伴です!!」
(ああ、なるほど 一泊してきたと…)

”ガシッ””ドゴォ””バキッ!”
そのやり取りの合間にも、攻め寄せてくる不死者の兵士をレアニウスが流水のような華麗な動きで仕留めている。

「関節を砕いてからの、頭部破壊が基本だ」
たまに振り返りレクチャーをするレアニウス。彼にとっては"模範武闘”のようなものなのかもしれない。

「フッ 淫聖衣(エロス)を纏うまでもないようね。」
敵の残りが2名になった時、アイシャが飛んだ。いや”舞った”

「炎舞 紅鞭犀崩!」
アイシャが炎の帯を纏い、それが紅の軌跡を描く。兵士の攻撃を華麗にくぐり抜けた時、同時に兵士の合間を抜けた帯が兵士に巻き付くと、延焼し且つ裁断された!

「放っておくと匂いますからね。火葬が一番です!」
ビシッと決めるアイシャ。

「いや、火事になるからな。アイシャ」
「うわあ 水!水!」
燃えている兵士の遺体に土をかけて火を消そうとするレアニウス。水魔法で延焼を阻止するリオ。

「ところで、リオちゃん。その子は?」
不死者の兵士を撃退し、火も落ち着いたところでアイシャが問うた。

「ああ、実は…」
経緯を話すリオ。

「そうだったの。行ってあげたいのだけど…」
アイシャが天を仰ぐ。

「ああ、大丈夫。慎重に行くから。魔法で気配も消すし…」
突然の複数の敵に慌てて対応を間違えた。初めから敵がいる体でいれば…。自らも強大な敵を持つリオは、いつもなら対処できる相手のはずだった。

「いや、リオさん。そういう意味じゃないよ。アイシャも誤解されるような言い方をするからな。俺もそうだけど、行きたくないわけではないんだ。行く必要がないんだよ。ほら」
レアニウスがリオの背後の木を指さす。するとそこから…。

「どうせなら、そのまま黙っていて欲しかったですよー」
「それに関しては同意だな」
頭上からルリカが、木陰からティアが姿を現した。

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[7]召喚術士K


=6.持つべきものは=

「なんで… 2人とも…?」
「いやあー 実はですねー」
ルリカのところには、密偵時代の元上司ナカサノバから調査依頼が来ていた。航空偵察を得意としている部下に調べさせたところ、ケリーの村だけでなく、近隣の村や町全てに"襲撃”があった事がわかった。SALONでサボっているように見えていたルリカは、実のところ館防衛の部下と、強行精査する部下の振り分けに頭を使っていたのだった。(もっとも本業とは別の、アルバイトの範疇ではあるが…)

「で、どうやら"統率者”がいるのが、その少年の村のようなんです」
なので、リオと少年が徒歩で村を目指す間に、自分はガリルという飛行特性のある部下と空から一気に行こうとしたところ、リオの魔力反応を認めて駆け付けたのだった。

「俺はまぁ… せめて森を出るまでと思ってさ」
面倒見の良いティアは、自分の夜の仕事までに戻れる範囲だからな、森を出るまでだからな、と気がつけば森を抜けるこの場所まで来ていたという。

”ガバッ”
リオは口下手な友人の2人を抱きしめた。

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[8]召喚術士K


=7.引率者=

「しかし… 普通と言えば普通ですねー なぜここなのでしょうかね」
日が沈む前に、ケリーの村に着いたリオ達。村の中には魔物(主にゴブリンなどの亜人種)が闊歩しており、潜入ははばかられた。

「夜の闇に紛れようかと思ったけど、アイツらの方が目が利くよね」
「拉致って吐かせようにも… 下っ端は情報知らないだろうしなぁ…」
ケリーの話で、敵が組織だっているのはわかっていたが、それにしては無防備なのだ。そこにルリカの疑問である。

「部下の話だと、他の街や村もやられているんですよ。拠点にするなら街の方が強固ですし、川が近い村もあるし… わたしならここは選ばないです」
「館からは一番近いから助かったけどね」
「何か村に伝わる伝説とか宝とか、あるのか?」
お宝!と目を輝かすルリカを取り押さえるティア。

「いえ… そんなのないです。村の名産はヨシ種とマツ種という牛を育てているくらいで…」
お肉!と目を輝かすルリカを取り押さえるティア。

「どうしましょう? この状態をメモリーして聖教導団とギルドに送ろうかと考えていたんですけど」
「それで良いんじゃないか?ルリカだって、依頼されたのは調査なんだろう?」
「ええ、わたしはそれでー 別にバトりたいわけじゃないですからねー 早く帰ってリオさんとティアたんと… うぇへへ」
「…たんって言うな…」
ルリカを羽交い締めにするティア。

「あのぅ… だめなんです あいつが…」
ケリーがリオの服を引っ張った。

「あいつ? ああ、統率者か。何かあるの?」
「兄ちゃんが言ってたんです。あいつが皆を…実験体にするって… だから…」
「実験…体?」
亜人を?一体何の実験をしようと?不死者の兵士が思い返された。統率者は死霊術士(ネクロマンサー)という事か?いや、ゴブリンやコボルトも多い。魔物術士である可能性が高いけど…。

「お兄さんは、あいつについて、何か言ってなかった?」
「えっと…」
記憶をまさぐるケリー。

「ああ!言ってました!なんか…12なんとかって… えっと…そうです!あいつの名前は!!」

「カムア・ロー!召喚術士Kだって!」

…ケリー以外の3人の時が止まった…

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[9]召喚術士K


=8.戸惑い=

「いやあ マスターもついに犯罪者ですかねー」
止まった時が動き出したのは、ルリカの一声だった。

「そんなはずないだろう。Kは今ダンジョン攻略中のはずだぜ」
「うん マスターがこんな事するはずないです。でも、そうなると”統率者”がなんでマスターの名前を騙るのかですけど」
リオ達の会話を怪訝そうな表情で伺うケリー。

「あの…皆さんはあいつの知り合いなんですか?」
「知り合いというか… ボク達はマスターと契約してるんだよね。ルリカは就労契約だけど」
「な!わたしとマスターは熱い肉体の契りを!」
「ルリカは黙ってな…」
慣れた手つきでルリカを抱き黙らせるティア。一歩…二歩とリオ達と距離を取るケリー。

「信じて貰うしかないけど、ボク達のマスターは断じてこんな事をする人じゃないんだ。」
「無理ですよ。リオさん。この状態じゃ疑心暗鬼になります。こうなると、気は進みませんが…」
ヒョイッとティアの腕から抜け出すルリカ。

「統率者とやらを捕縛して、ケリーさんの目の前で口を割って貰うしかないですねー」
”白”と”黒”の色違いの一対のナイフを供え、腰に小太刀を携える元密偵は、目を細めて村の中央部の建物を睨み付けていた。

「わかりました… 皆さんを… いえ皆さんは信じられます。あいつから村の人を…助けて下さい」
「ありがとう。わかってくれて…」
「リオさんが… 皆さんがいなかったら、僕はもう死んでいますから…」
ケリーの望みが改めてリオ達に託された。

=9.鳩ぽっぽ作戦=

「で、どうするんだ? 俺は喧嘩は得意だが、こういう戦術は苦手だぜ?」
「ふふふー それはわたしにお任せを!」
チャキッと眼鏡を着用するルリカ。

「敵は軍隊で言えば小隊規模ですが、そのほとんどはまとまりのないゴブリンとかです。アンデッドなんて単純な労働しか出来ません。そこで…」
空中で待機しているガリル(鳩のような部下)に陽動を行わせ、その隙に中央の建物に突入する作戦であった。

「名付けて”鳩ぽっぽ作戦”ですー」
自信ありげにAAAの胸を張る。

「まんまだね。ルリカ」
「まぁ、大きな家と言っても、村長の家みたいだし… 引きずり出して終わりか」
「ええ、とっとと終わらせて、帰って3人で… へへへ…」
”ガシッ”くっついてくるルリカを引き離すティア。

「では、推して参りましょうー!」
クルッと意味の無い一回転をしてみせ、ルリカが号令を発した。

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[10]召喚術士K


=10.”引率者”K=

”ドゴォン!”

爆音再び。今度はガリルによる”音は大きいが破壊力はない”陽動用の破裂音である。

『なんだ?敵襲か!』
『ガアガガア!!』
『こっちだ!こっちにいるぞぉ!』
色んな亜人語が飛び交う。ルリカの指摘通りにまとまりのない亜人の部隊が方々に分散していった。上空のガリルは気配を消し、隠密かつ迅速に役割を果たしていた。

「わたしって天才ですねー これはあとでご褒美が… へへへへ」
リオの隠密魔法で気配を消して、村長邸に突入する3人。

「どかーん!」
発声しながらドアを蹴り破るいつもの光景。ルリカに続いて突入するリオとティア、そしてケリー。

「な… なんです?ここ!」
「おい。これって…」
目の前に広がるのは、貴族の館のダンスホール。まるでSALON『ド・レイン』のような。

「違います。村長さんちはこんなじゃ…」
ケリーも目をパチクリとしている。

「まずい。これ…転送されて…」
振り返るのと、扉の閉まる音が響くのは同時だった。

”バタン!”

「おや?お客様ですか?これは出迎えなくてはなりませんね?」
聞き覚えのある声がする。

「ふむ… サキュバスが二匹と人間が二人ですか? 奇妙な組み合わせですね?もしかして食事場所としてここに迷い込んだのでしょうか?」
SALONと同じような間取り。ダンスホール正面の階段に黒衣の男が姿を現した。

「そんな…」
「…マスター…」
「…。」
目を見開く3人の前に現れたのは、召喚術士Kだった。

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[11]召喚術士K


=11.実験体=

「ほぉ、なるほどなるほど。これは上々です」
消沈するリオ達を眺め、黒衣の男が嬉しそうな声を上げる。

「僕の可愛い魔物達が、主人たる僕の匂いを辿ってここまで来たと言うわけですね。ねぇリオ?スキャンティア?そして…餌と誤解した一人はルリカでしたか。…残りは…村人の生き残りと」
嬉しそうに笑いながら一歩ずつ階段を降りるK

「笑えませんね… その冗談」
神速とも言える速さでルリカがKに迫る!

”ガキィィィ!”

「ルリカ!」
Kの首に手がかかる寸前で見えない壁に阻まれ、跳ね返されたルリカをティアがキャッチする。

「契約魔物と違って、人間は向かってくるんだ。油断するな」
Kの傍らには血の気のない男が立っている。

「お前は…エルゼ!」
ルリカが吐き捨てた。

「そう”死霊術士(ネクロマンサー)のエルゼ。僕と同じ一二聖王騎将の一人。僕は魔物の、彼は死人の担当をしています。偉大なる実験のためにね」
「カムアよ。どうするのだ?計画が佳境に入ろうとしている時に面倒事はごめんなのだがな」
手配書で見たままの姿のエルゼがKを窘める。

「”ネクロマンサー”のエルゼさん。あの”メスガキ”は元気ですかね?わたし今度合ったら泣かすって決めてたんですがねー」
二人の会話にルリカが割って入る。いつもは止めに入るティアは唇を噛みしめてKを凝視したままだった。

「どの死人の事を言っているかは知らんが、おまえ達の決め事など私には関係ない。カムアよ。戦闘に耐えそうなのが3人なら丁度良い。出来上がった実験体の実践演習に使おう」
「僕の可愛い魔物を“アレ”の餌食にすると?」
「かまわんだろう?魔物など、また召喚すれば良いではないか」
「フフフ… 偉大な実験には犠牲がつきもの…ですか 仕方ありませんね。リオ?スキャンティア?そしてルリカ!君達には実験に付き合って貰います。そうですねぇ…。生き残ったら、可愛がってあげますから、せいぜい頑張りなさい」
耳を覆いたくなるKの言葉。リオとティアの意識がその拒絶に傾いていた時、鋭い声が走った。

「飛んで!ティア!リオ!」
唯一Kとエルゼを注視していたルリカの一声がなかったら、その一瞬で終わっていたかも知れない。

”ドガガガガ!!”
Kの放った”大火球”の呪文が3人の間で炸裂した!それぞれが飛び退き、パッシブで展開していた魔法障壁で難を逃れたが、火球でホールの床が抜け自然落下に任せる事となった。

「さて、僕は三階の召喚部屋で待ちましょう。何人たどり着けるでしょうかね?」
「なんだかんだと楽しんでいませんか?”私”は…、君と君の主の実験が上手くいきさえすればいいんですからね。済んだら呼んで下さい」
一人称と口調が変わったエルゼはそう言うと煙のように消えた。

「ふん… おまえ如きに僕や主の何が分かるというのだ。…まぁ良い。利用しているのはこちらも同じだ。より質の高い素材を主に送れるならな」
そう吐き捨てるように言うと、Kは黒衣を翻した。

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[12]召喚術士K


=12.PHANTOM FACE=

「いたたた 全く館内で火球とは良識を疑いますよー」
SALONで火球以上の損害を出してきた張本人=ルリカが尻をさすりながらぼやいた。落ちたのは地下室の一室らしいが、そのスケールは先程のダンスホール並にある。

「また転移ですか。やれやれ、遊んでいるとしか思えませんが」
周囲を見渡すと、扉が一つある。その扉が”ギィィィ”という軋みをあげながら開くと、異形の魔物が姿を現した。

「うげ… まさかこれが実験体とやらですか? お約束通りに戦えと?」
それは一見すると岩ゴーレムだった。禍々しい悪魔の意匠…。しかしよく見ると…

『がぁぁ…』『あああっ…』『ヒィィィィィィ』『………』
無数の顔が浮かび上がっていた。

「ガー君と同じようなコンセプトのようですが、ガー君と違ってブサ面ですねー。とっとと砕いてティアたんとリオさんを助けに行くとしましょうか!」
”黒”と”白”のドレインナイフを抜くや否や、加速し一気に距離を詰めるルリカ!

”キィィィン!”
「げっ 固っっっ」
振り回される腕をかいくぐり、2撃!3撃!と刃を振るも尽く弾かれてしまう。

「あまりチャージはないですけど、”黒”を研ぎ澄まして… うわっっ」
奥の手でもあるエナジーを吸わせた”黒”の一撃を首筋に入れようとした時だった。浮かび上がる顔の一つが火炎を吐いた!

「うわっちちちち これは…なんとっ」
一旦距離を取るルリカ。その着地ポイントに鞭のような触手が襲いかかった。

「げぇ… これも口から?」
「アア コンナコトモ デキルゾ?」
「しゃべ… あ…」
ルリカの体を呪詛で出来ているような黒い闇の鎖が巻き付いた。これは魔物の腹にある口から囁きと共に生成されているものであった。

「オレ… おれ… 俺ぇ… 俺の名はNO.24 ファントム・フェイスぅぅ」
「こいつ… 知性が…」
呪詛の鎖の締め付けに顔を歪めるルリカを嬉しそうに眺める魔物は、更に3本の触手を生やし、呪詛を周囲に展開すると、絶望を言葉に変えた。

「おまえもぉぉ〜 俺の体にぃ〜 埋め込んでやるぜぇぇぇ」

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[13]召喚術士K


=13.POWER ARM=

「で、あんたの名前は? あるんだったら聞いてやるよ」
「…NO.8 パワー・アームだ。」
ティアの目の前にはオーガー級のボディに左右3本ずつの腕を生やした異形の戦士がいた。それぞれに短めの刃物を持っている。

「ルリカとリオがいない。転移って事か…。なぁ、その扉から外に出られるのか?」
「ああ 出られる。主からは勝者の一人が上がれると聞いている」
フルヘルムを付けているため表情は分からないが、鋭い眼光をティアに浴びせながらパワー・アームは抑揚のない声で応えた。

「条件づきか。本当かどうか試す時間ももったいないからな。悪いけど行かせて貰うぜ!」
言い放つと同時にティアが駆けた。迎撃するパワーの大きく長い腕の攻撃をくぐり抜け、必殺の拳を…いや”掌打”を腹に向けて叩き込む!

「よしっ!入った!この俺の白魚のような手を拳で壊すわけいかないからな!」
常人ならはらわたをメチャクチャにして一週間は嘔吐いて過ごす事になるだろうティアの掌打である…が。

「その程度か?」
「!?」
動じずに繰り出される上段の腕の攻撃を間一髪飛び退いて躱すティア。

「ちっ 厄介だな。やりたくはないが…リオとルリカが気にかかる。やるか…」
ティアの体から魔素が溢れだした。そして…

”コォォォォ”
息吹と同時にティアの体が、筋肉が膨れ上がっていき…。

「じゃあ仕切り直しだ」
身長は2m、翼と角も生えたティアの姿は、目の前の敵を殲滅する悪魔の戦士のようであった。

「来い…」
パワーが6本の腕をティアに向け、構える。

「…」
無言で床を蹴り上げるようにして加速をするティア。増大した筋力を使っての跳躍!しかし…

”ガッ! ガガガッ”
パワーの下段の腕が鞭のようにしなり、そしてうねって壁を作った。

「くっ」
ティアの拳がそれを突き破る! が…

「ぐあっ」
パワーの中段の拳が重力波でティアの体を押さえ込み、上段の腕が振り下ろされる。その必殺の一撃を間一髪で躱したものの、ティアの突進は見事なまでに封じられてしまっていた。

「その程度か? 今度は魔法でも使うか? それとも更に肉体を強化するか?」
=無駄だがな=という言葉と同時に、更に4本の腕が背中から伸びた。

「魔法封じと真空波の術式を放つ腕だ。さぁ… おまえは”どの腕で殺されたいかね?”」
フルヘルムで見えないが、その目は獲物を弄ぶ蛇のように細く… そして笑っていた。

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[14]召喚術士K


=14.BLACK WING=

「リオさん!大丈夫ですか?」
リオとケリーは一緒のホールに落ちていた。リオが呆然としていたのは、落ちた衝撃ではなかった。

「ああ 大丈夫だよ。ええっと…」
ボクはケリーの村に来て、そしてルリカ達と統率者がいる村長の家に入って…

=そこでマスターに会ったんだ…=

「違う… あれはマスターじゃない。マスターがあんな事を言うはずがないんだ…」
しかし姿も感じる魔力も、Kそのものだった。

”ギィィィィ”
扉が開き。漆黒の鎧を纏った騎士が入ってきても、リオはへたりこんだまま動けなかった。

「やれやれ、我が輩は外れを引いたようだね? 他の部屋からは賑やかな音が聞こえてくるのに、こちらは泣き声かね」
黒騎士はランスを構えると、一応の作法に則り宣言を始めた。

「我が輩はNO.4 漆黒の騎士 ブラック・ウイングである! 主の真の魔物にして最強の騎士である! 紛い物の小娘よ。我がランスの露と消えよ!」

「リオさん!リオさん!立って!逃げなきゃ…」
ケリーが何か言っている。
(ああ、そうだね。ボクがしっかりしなきゃ…)

そしてブラック・ウイングのランスの切っ先がリオの頭に真っ直ぐに突き出された!

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