【ド・レイン小説】『魔導公と禁忌の魔獣』





サキュバスSALON『ド・レイン』の小説版です。
(※エロ要素はありません<(_ _)>)

(別スレで、背景となる設定や こぼれ話も掲載します)

召喚術士K

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[1]召喚術士K


=0.ルブル=

 魔族と異文化交流が出来る希有なSALON『ド・レイン』は、辺境都市ルブルの郊外にある。そしてルブルという都市は、聖王国パルナの南東に位置している。かつては大陸間での争いが絶えなかったが、ここ100年は”人間同士”の戦争はなかった。
 理由は二つ。一つは魔族の侵攻が各国で多発し、人間同士が団結する必要があった事。もう一つは、大陸中央に存在するパルナが中立国として栄えていた事。特筆すべきは、パルナ国境に領地を持つ四大公達の存在である。その政治力と軍事力が隣国への抑止力となっているのだ。

 四大公とは北の精霊公、東の銀竜公、南の魔導公、西の聖騎公を指す。特に『ド・レイン』開設より40年前の”魔族戦争”において四大公の名は隣国に大きな影響力を持つことになる。

 魔族戦争とは、大陸の諸国の要所に"魔王"クラスの魔族が同時に侵略を開始した有史以来の大規模戦争の事である。北の国には”呪海”の魔王が、西の国には”鎖縛”の魔王が、東の国には”狐魔”の魔王が、南の国には”腐殺”の魔王が、そしてパルナの首都近辺にはそれらを統べていたらしい”天妖”の魔王がそれぞれの軍団を率いて現れた。各国とも混乱を極めた。強力な魔族に対抗出来る武具も人材も少なかったからである。

 しかし人間は魔族よりも統率力や戦術に長け、果敢な抵抗を見せた。戦争という極限化では魔法や魔武具の技術も上がるのだろう。それらを使いこなす希有な人間も現れ、彼らは”英雄”や"勇者”と呼ばれ、彼らが先頭に立って戦う姿は、それだけで人々を鼓舞し、戦況を持ち直させたのである。

 そして決定的な転機が聖王国パルナで起こった。隣国からの干渉が直ちにない状況となったため、その守備に最低限の兵力を残し、四大公達はそれ以外の最大戦力を王都へ迫る”天妖”の魔王に向けたのである。戦いは熾烈を極めたが、主に四大公達の活躍によって"天妖”は討伐された。
 その後四大公は、国王の命で隣国へ援軍として派遣された。魔族との戦いを経て個々のレベルアップを果たし、何より"魔族との戦い方”を熟知した四大公の軍勢は、隣国の魔王討伐へ多大なる貢献をしたのである。その結果、四大公は隣国にとって恩人となり、そしてその強さを知らしめる事になったのである。

《参考資料 パルナ百年史(四大公の章)》

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[2]召喚術士K


=1.舞い降りた厄災=

「おい。明るいうちに帰るぞ」
「ああ、最近は魔物が多いからなぁ…。そういえばギルドの方はどうなったんだ?」
「通常の依頼として”冒険者"達に提示はしてくれるそうだが、それ以上の対応は無理だとさ」
 ルブルの郊外に『オンス』という亜人達の村がある。フォクシー族というが、コボルトとは違ってほぼ人間の姿だ。耳や尻尾があり、身体能力も人間より高く、鼻もきくため、狩猟を得意とし、男達は隣接する森林地帯を狩り場としていた。その狩り場に異変が起こった。魔物を散見するようになったのである。いや元々魔物もいる森ではある。だが"異質”だったのだ。

「俺が考えても変だと思うぜ? ゴブリンやコボルトがゾンビや骸骨と仲良く歩くかよ?」
「また何処かで魔王とかが出てきたんじゃないかって、前の戦争を知っている年寄り達が心配してたからな。それでギルドや辺境隊に依頼に行ってるのに!」
 村にはまだ被害はなかったが、奇妙な魔物の群れの出現と行動が"何かしらの意味”を持つとしたら…。それを危惧した村長がギルドや辺境隊に報告に行ったのだが、まともに取り合って貰えなかった。男達は今後の事を夕飯でも食べながら話そうかと家路を急いだ。しかし…。

”ドゴォン!”
 爆煙が上がる。男達が狩りから帰ってきてすぐに”厄災”が舞い降りた。

「なんだ!?こいつら!!」
「なんで魔物がこんなに!?助けてくれぇ!!」
”火球”魔法とおぼしき爆発の後に雪崩れ込んできたのは魔物の軍勢だった。ゴブリンやオーク、コボルト等の亜人種が中心であったが、大型の猛獣や、スケルトンやゾンビといったアンデッドもいた。狩りの帰り道に男達が懸念していた"魔物の群れ”、明らかに自然発生した軍団ではなかった。身体能力が通常の人間より高い亜人達であるが、統率された魔物達には為す術がなかった。

=1時間後=
 村の広場に村人の死体が積み上げられ、そして生き残った村人はゴブリン兵によって包囲されていた。

「思ったよりは上出来でしたね。流石は僕の使役魔物達です。」
 闇夜を模したような黒衣を翻し、術士らしき男が呟く。

《報告します。村人の数名が逃走しました。追撃致しますか?ギギギ》
 悪魔を模した彫像が話しかけた。恐らくは魔法生物の類いであろう。思念波による報告を黒衣の男は一笑に伏した。

「捨て置いて良いと思いますが、当初の目的通りに、西へは”死人兵”を派遣しておきなさい。さて…と」
 男は魔法生物に指示を出すと、ゴブリン兵の包囲を解き、村人達の前に歩み寄る。

「私たちをどうするつもりだ?」
 尋ねたのはオンスの村長だった。

「ああ、そうでしたね。処遇をまだ話していませんでした。」
 黒衣の男は、この場にはそぐわない爽やかな笑みを浮かべ宣言する。

「貴方たちには、僕の実験に協力して頂きます。光栄に思って下さいね?あの”災厄”と二つ名の魔王を排除し、国王に”十二聖王騎将”と爵位を賜ったこのカムア・ロー 召喚術士Kの役に立つのですから」

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[3]召喚術士K


=2.ド・レインの日常=

”暗がりの森”ルブル郊外にあるこの森は昼間でも薄暗く、魔素量が多い土地柄のためか魔物も多く生息していた。そんなおおよそ人が入り込みたくないであろうところに、その館はあった。

「暇ですねー」
 館の元ダンスホールを改装して造られたSALONのメインホール、そのカウンター席に座り足をぶらぶらとさせている黒服の少女が顎をカウンターに乗せながらぼやいた。

「暇って? ルリカは仕事じゃないの?」
 カウンター内で拭き掃除をしていた銀髪の少女があきれ顔で応える。

「仕事はちゃんと!…部下達に割り振ってますから!」
「ルリカさ… 本当に首になっちゃうぜ?」
 薄い紫と灰色の髪を結わいたバーテンダーが酒を補充しながらたしなめる。

「な!ティアたんまで!」
「…たんって言うな…」
 素早い反論をする黒服姿のルリカを ”ガシッ!”と頭を掴んで睨み付けるティア。

「うぐぐっ 大丈夫ですよ!目が利く部下に見晴らせているんですから!誓っても良いです。お客以外は誰も入ってこられません!絶対!!」

 ここはサキュバスSALON『ド・レイン』。魔族との異文化交流をするためのサロンである。現在上客が特別室で”異文化交流”をしている以外に客はなかった。そして…

『うわあああ!!』
 ルリカの宣言の直後に、客とは思えない叫び声が玄関から聞こえてきた。

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[4]召喚術士K


=3.来訪者=

「ええっと、君は?」
 メインホールの扉を開けて飛び込んできたのは、まだ幼い亜人の男の子だった。男の子は怯えた目で間近に控えている魔法生物を凝視していた。

「ああ、これはガー君…ガーゴイル君といって、この館のボディーガードみたいなものだから。怖くないよ。ああ、これを…」
 銀髪の少女は、少年をボックス席に座らせて、魔界の薬草園で採れた果汁で作ったジュースを手渡した。ガーゴイル君と呼ばれた魔法生物は、悪魔の姿を基調とした意匠のため、何も知らなければ結構怖いのかもしれない。

「リオさん、これは…あれです。部下がお客と間違っただけで…」
「ルリカは静かにしていろ」
 秒殺で宣言を覆させられたルリカをティアが制する。少年は手渡されたジュースを一口飲むと、目の色を変えて一気に飲み干した。

「ふふ 美味しかった?これはボクが育てた花果実で作ったんだよ?」
 リオが微笑みかける。

「ありがとう…」
 赤面しながら少年がやっと口を開いた。

「良かった。でも…君、ボロボロだね? 途中で魔物にでも出会ったのかな?」
 リオの問いかけに、少年は再び俯いてしまった。この”暗がりの森”は魔物が多く出るため、この館に辿り着けるのは名だたる冒険者かあるいは…。

「”館に招かれた者”ってボク達は言うんだけどね。来るべくして来たっていうのかな」
 普通の商人や村人などの戦闘と縁のない客が迷い込む事もある。その多くは自分達との”相性”が良い場合であったが。目の前の少年は客とは思えない。ではなぜ…とリオは考えた。

「君は…なぜここに来たの?」
 俯く少年の肩を優しく撫で、そして優しく尋ねた。少年の肩が震えている。

「あの… あのぅ!」
 少年は泣いていた。震える声でリオの目を見つめ返す。

「助けて下さい!!」
 それは心からの… ”叫び”だった。

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[5]召喚術士K


=4.旅立ちのリオ=

 少年が絞り出すような声で話したのは、魔物に襲われた村の惨状だった。5歳年上の兄と村を脱出し、追ってくる魔物を撒くために危険な”暗がりの森”に入ったところで兄ともはぐれてしまった。

「そんな事が…」
 少年とその村を襲った悲劇にショックを受けるリオ。

「でも、それなら警備隊とかギルドへかな…」
 最も一般的な解決案である。でも…

「だめ…なんです。」
少年が握り混んだ拳を震わせた。

「少し前から村の近くで魔物を見かけるからって… 村の長がギルドに連絡したんですけど… 法外な報酬を要求されたって言われて…」
それはかつての何倍もの額であり、とても支払えるものではなかった。
「辺境聖教導団に連絡をしたら、断られたって…」
こらえきれずに大粒の涙を流す少年。

「そんな… 確かに今は大規模な襲撃への対応だから額も大きいかもだけど、その前からって…」
リオも合点がいかなかった。よくギルドの仕事をしているマスターに聞けば何か分かるかも知れないと思ったが、生憎マスターは長期の仕事に出ている。

「聖教導団も… ちょっと信頼置けないしね…」
国家方針の転換から生まれた国教の色を濃くした部隊であり、魔族との異文化交流を主体としているサロンも監視下であったため、アプローチには細心の注意がいる。

「…やっぱり、村の現状がわからないと…かなぁ?」
リオが助けを乞うように、カウンター席を見ると

「わたしは嫌ですよー」
頼んだドリンクをグビグビ飲み干してから、ルリカはそっぽを向いた。

「悪いな。リオ。俺も外せないから」
ティアも忙しそうに夜の部へ向けての準備をしている。

「ですよね… 今館にいるのは… リリーちゃんにアウルムさんか」
リリーに戦闘力は皆無。(『です!』という可愛いリリーの幻影が浮かぶリオ)アウルムは魔術師としての才や魔素量は自分以上だけど…。

(核撃主体でコントロールがって言ってたからなぁ…)
由緒ある魔族の血統のアウルムは、その中でも異端なくらいの潜在能力を持っているようだったが、彼女もまた成長途上であった。特別室にいる赤髪と緑髪の大先輩の姿も浮かんだが…

(…やめておこう… この子も”食べられてしまう”かもしれない…)
サキュバスの要素が色濃い先輩達は”大食らい”であるため、僅かなリスクがリオの頭をかすめる。

「わかりました。ボクが行きますよ。偵察だけですから」
少年を少し待たせ、自室で旅支度をするリオ。マスターより賜った”エルダー・ゲイザリオン”という専用の杖をギュッと握りしめる。

(なんか他人事って思えないんだよね)
少年の村は、森を抜ければ最短で2時間程度。日が暮れるまでには着ける。むしろ偵察なら暗くなってからの方が良いかもしれない。その状況を第三者を通じて聖教導団とギルドに送る。そうすれば…。リオにとって、現状における最適解であった。

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[6]召喚術士K


=5.ケリー=

「そういえば、君の名前は?」
"暗がりの森”の中、共に歩く少年に微笑みながら問う。

「ケリー…」
「そっか。ケリーだね。ボクはリオ。宜しくね」
(女の子みたいな名前だな)恥ずかしがっている少年に微笑みながら、歩みを進める。

「ケリーの村は…こっちか」
森を抜けるまではルブルへの道と一緒なのは幸いだった。何しろ迷いやすい森なのだ。"暗がりの森”が魔性と言われる由縁かもしれない。

”ガサガサ!”
突然、多数の気配が生じた。
「誰?」
ゲイザリオンを構えてリオが鋭く問う。

『ケケケ いたぜ 賭けは俺の勝ちだな』
『ちぇっ 腸を逃したか』
『いや、もう一人いる… おれそっちがいい…』
現れたのは、盗賊団風… 死臭漂う”死人”の兵士だった。

(!! ボク…こういうの苦手なんだよぉ…)死臭に鼻を押さえるリオ。しかも数が多い。(8人? 部隊で行動しているというの?)危険とはいえ、村への偵察だけだと思っていた自分の甘さを後悔した。敵は追っ手を出していたのか?

「舐めないでよね!ボクだって!」
ゲイザリオンを使って、”聖結界”を張る。既に聖石を充填しているため、敵が不死者であればその効力は絶大である。

「聖石・流水破!」
そして全方位に水系の魔法を放出する。聖石の力を宿した水は、聖水のごとく不死者の兵士を薙ぎ払った!

『ぐげぇ』
『なんだ!?こいつ…神官なのか!?』
『きょ 距離を取れ!いずれにしても術士の類いだ。射貫けば良い!』
ゾンビなどのアンデッドと違い、ほんの少しの理性と、割と多めに知性を残しているのが”不死者”のいやらしいところである。すぐさま距離を取り、弓に装備を切り替えると続けざまにリオ達を射撃してきた。

「う… あ アサルトモード!」
ゲイザリオンを銃形態に変形させて応戦するリオ。しかし、歴戦の兵士達は木に隠れ、リオの死角から射撃してくる。

”ガキッ”
矢にかなり強い魔力が付与されているのか、普通なら貫けない聖結界に矢が突き刺さっていく。このまま撃ち込まれたら、結界が維持できなくなってしまう。

(どうすれば… どうすれば…)
兵士達が距離を詰めてくる。死角から矢だけでなく剣も使って結界を崩しにかかられる。

(壊れた瞬間に、移動魔法で館に戻るしか… でも一緒は無理だから、まずはこの子を…)
リオの決意とほぼ同時だった。

”ドゴォ!”
分厚い重低音が轟いた。リオの目の前の兵士が1人飛ばされた。

『げぇっ』
そのヒキガエルを轢いたような…という形容がぴったりな声は、頭蓋骨が陥没したために起こったものであると直ちにリオ達は理解した。美しく長い脚が目の前にニュッと伸びていたからである。

「この私が来たからには、もう安心ですよ!リオちゃん!」
「私達だろう?アイシャ。俺の打撃の方が速かったんだからな?」
SALONのキャストにして、踊りと料理の達人アイシャと、その親衛隊長…いや有望な武闘家レアニウスだった。

「ありがとう。アイシャさん。でも…何故ここに?」
「同伴出勤です!」
ビシッとポーズを決めるアイシャ。

(いや、アイシャさんは館住みでは?同伴って…)
目をぱちくりしているリオの考えを察したのか、すぐさま補足が続く

「アフター&同伴です!!」
(ああ、なるほど 一泊してきたと…)

”ガシッ””ドゴォ””バキッ!”
そのやり取りの合間にも、攻め寄せてくる不死者の兵士をレアニウスが流水のような華麗な動きで仕留めている。

「関節を砕いてからの、頭部破壊が基本だ」
たまに振り返りレクチャーをするレアニウス。彼にとっては"模範武闘”のようなものなのかもしれない。

「フッ 淫聖衣(エロス)を纏うまでもないようね。」
敵の残りが2名になった時、アイシャが飛んだ。いや”舞った”

「炎舞 紅鞭犀崩!」
アイシャが炎の帯を纏い、それが紅の軌跡を描く。兵士の攻撃を華麗にくぐり抜けた時、同時に兵士の合間を抜けた帯が兵士に巻き付くと、延焼し且つ裁断された!

「放っておくと匂いますからね。火葬が一番です!」
ビシッと決めるアイシャ。

「いや、火事になるからな。アイシャ」
「うわあ 水!水!」
燃えている兵士の遺体に土をかけて火を消そうとするレアニウス。水魔法で延焼を阻止するリオ。

「ところで、リオちゃん。その子は?」
不死者の兵士を撃退し、火も落ち着いたところでアイシャが問うた。

「ああ、実は…」
経緯を話すリオ。

「そうだったの。行ってあげたいのだけど…」
アイシャが天を仰ぐ。

「ああ、大丈夫。慎重に行くから。魔法で気配も消すし…」
突然の複数の敵に慌てて対応を間違えた。初めから敵がいる体でいれば…。自らも強大な敵を持つリオは、いつもなら対処できる相手のはずだった。

「いや、リオさん。そういう意味じゃないよ。アイシャも誤解されるような言い方をするからな。俺もそうだけど、行きたくないわけではないんだ。行く必要がないんだよ。ほら」
レアニウスがリオの背後の木を指さす。するとそこから…。

「どうせなら、そのまま黙っていて欲しかったですよー」
「それに関しては同意だな」
頭上からルリカが、木陰からティアが姿を現した。

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[7]召喚術士K


=6.持つべきものは=

「なんで… 2人とも…?」
「いやあー 実はですねー」
ルリカのところには、密偵時代の元上司ナカサノバから調査依頼が来ていた。航空偵察を得意としている部下に調べさせたところ、ケリーの村だけでなく、近隣の村や町全てに"襲撃”があった事がわかった。SALONでサボっているように見えていたルリカは、実のところ館防衛の部下と、強行精査する部下の振り分けに頭を使っていたのだった。(もっとも本業とは別の、アルバイトの範疇ではあるが…)

「で、どうやら"統率者”がいるのが、その少年の村のようなんです」
なので、リオと少年が徒歩で村を目指す間に、自分はガリルという飛行特性のある部下と空から一気に行こうとしたところ、リオの魔力反応を認めて駆け付けたのだった。

「俺はまぁ… せめて森を出るまでと思ってさ」
面倒見の良いティアは、自分の夜の仕事までに戻れる範囲だからな、森を出るまでだからな、と気がつけば森を抜けるこの場所まで来ていたという。

”ガバッ”
リオは口下手な友人の2人を抱きしめた。

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[8]召喚術士K


=7.引率者=

「しかし… 普通と言えば普通ですねー なぜここなのでしょうかね」
日が沈む前に、ケリーの村に着いたリオ達。村の中には魔物(主にゴブリンなどの亜人種)が闊歩しており、潜入ははばかられた。

「夜の闇に紛れようかと思ったけど、アイツらの方が目が利くよね」
「拉致って吐かせようにも… 下っ端は情報知らないだろうしなぁ…」
ケリーの話で、敵が組織だっているのはわかっていたが、それにしては無防備なのだ。そこにルリカの疑問である。

「部下の話だと、他の街や村もやられているんですよ。拠点にするなら街の方が強固ですし、川が近い村もあるし… わたしならここは選ばないです」
「館からは一番近いから助かったけどね」
「何か村に伝わる伝説とか宝とか、あるのか?」
お宝!と目を輝かすルリカを取り押さえるティア。

「いえ… そんなのないです。村の名産はヨシ種とマツ種という牛を育てているくらいで…」
お肉!と目を輝かすルリカを取り押さえるティア。

「どうしましょう? この状態をメモリーして聖教導団とギルドに送ろうかと考えていたんですけど」
「それで良いんじゃないか?ルリカだって、依頼されたのは調査なんだろう?」
「ええ、わたしはそれでー 別にバトりたいわけじゃないですからねー 早く帰ってリオさんとティアたんと… うぇへへ」
「…たんって言うな…」
ルリカを羽交い締めにするティア。

「あのぅ… だめなんです あいつが…」
ケリーがリオの服を引っ張った。

「あいつ? ああ、統率者か。何かあるの?」
「兄ちゃんが言ってたんです。あいつが皆を…実験体にするって… だから…」
「実験…体?」
亜人を?一体何の実験をしようと?不死者の兵士が思い返された。統率者は死霊術士(ネクロマンサー)という事か?いや、ゴブリンやコボルトも多い。魔物術士である可能性が高いけど…。

「お兄さんは、あいつについて、何か言ってなかった?」
「えっと…」
記憶をまさぐるケリー。

「ああ!言ってました!なんか…12なんとかって… えっと…そうです!あいつの名前は!!」

「カムア・ロー!召喚術士Kだって!」

…ケリー以外の3人の時が止まった…

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[9]召喚術士K


=8.戸惑い=

「いやあ マスターもついに犯罪者ですかねー」
止まった時が動き出したのは、ルリカの一声だった。

「そんなはずないだろう。Kは今ダンジョン攻略中のはずだぜ」
「うん マスターがこんな事するはずないです。でも、そうなると”統率者”がなんでマスターの名前を騙るのかですけど」
リオ達の会話を怪訝そうな表情で伺うケリー。

「あの…皆さんはあいつの知り合いなんですか?」
「知り合いというか… ボク達はマスターと契約してるんだよね。ルリカは就労契約だけど」
「な!わたしとマスターは熱い肉体の契りを!」
「ルリカは黙ってな…」
慣れた手つきでルリカを抱き黙らせるティア。一歩…二歩とリオ達と距離を取るケリー。

「信じて貰うしかないけど、ボク達のマスターは断じてこんな事をする人じゃないんだ。」
「無理ですよ。リオさん。この状態じゃ疑心暗鬼になります。こうなると、気は進みませんが…」
ヒョイッとティアの腕から抜け出すルリカ。

「統率者とやらを捕縛して、ケリーさんの目の前で口を割って貰うしかないですねー」
”白”と”黒”の色違いの一対のナイフを供え、腰に小太刀を携える元密偵は、目を細めて村の中央部の建物を睨み付けていた。

「わかりました… 皆さんを… いえ皆さんは信じられます。あいつから村の人を…助けて下さい」
「ありがとう。わかってくれて…」
「リオさんが… 皆さんがいなかったら、僕はもう死んでいますから…」
ケリーの望みが改めてリオ達に託された。

=9.鳩ぽっぽ作戦=

「で、どうするんだ? 俺は喧嘩は得意だが、こういう戦術は苦手だぜ?」
「ふふふー それはわたしにお任せを!」
チャキッと眼鏡を着用するルリカ。

「敵は軍隊で言えば小隊規模ですが、そのほとんどはまとまりのないゴブリンとかです。アンデッドなんて単純な労働しか出来ません。そこで…」
空中で待機しているガリル(鳩のような部下)に陽動を行わせ、その隙に中央の建物に突入する作戦であった。

「名付けて”鳩ぽっぽ作戦”ですー」
自信ありげにAAAの胸を張る。

「まんまだね。ルリカ」
「まぁ、大きな家と言っても、村長の家みたいだし… 引きずり出して終わりか」
「ええ、とっとと終わらせて、帰って3人で… へへへ…」
”ガシッ”くっついてくるルリカを引き離すティア。

「では、推して参りましょうー!」
クルッと意味の無い一回転をしてみせ、ルリカが号令を発した。

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[10]召喚術士K


=10.”引率者”K=

”ドゴォン!”

爆音再び。今度はガリルによる”音は大きいが破壊力はない”陽動用の破裂音である。

『なんだ?敵襲か!』
『ガアガガア!!』
『こっちだ!こっちにいるぞぉ!』
色んな亜人語が飛び交う。ルリカの指摘通りにまとまりのない亜人の部隊が方々に分散していった。上空のガリルは気配を消し、隠密かつ迅速に役割を果たしていた。

「わたしって天才ですねー これはあとでご褒美が… へへへへ」
リオの隠密魔法で気配を消して、村長邸に突入する3人。

「どかーん!」
発声しながらドアを蹴り破るいつもの光景。ルリカに続いて突入するリオとティア、そしてケリー。

「な… なんです?ここ!」
「おい。これって…」
目の前に広がるのは、貴族の館のダンスホール。まるでSALON『ド・レイン』のような。

「違います。村長さんちはこんなじゃ…」
ケリーも目をパチクリとしている。

「まずい。これ…転送されて…」
振り返るのと、扉の閉まる音が響くのは同時だった。

”バタン!”

「おや?お客様ですか?これは出迎えなくてはなりませんね?」
聞き覚えのある声がする。

「ふむ… サキュバスが二匹と人間が二人ですか? 奇妙な組み合わせですね?もしかして食事場所としてここに迷い込んだのでしょうか?」
SALONと同じような間取り。ダンスホール正面の階段に黒衣の男が姿を現した。

「そんな…」
「…マスター…」
「…。」
目を見開く3人の前に現れたのは、召喚術士Kだった。

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[11]召喚術士K


=11.実験体=

「ほぉ、なるほどなるほど。これは上々です」
消沈するリオ達を眺め、黒衣の男が嬉しそうな声を上げる。

「僕の可愛い魔物達が、主人たる僕の匂いを辿ってここまで来たと言うわけですね。ねぇリオ?スキャンティア?そして…餌と誤解した一人はルリカでしたか。…残りは…村人の生き残りと」
嬉しそうに笑いながら一歩ずつ階段を降りるK

「笑えませんね… その冗談」
神速とも言える速さでルリカがKに迫る!

”ガキィィィ!”

「ルリカ!」
Kの首に手がかかる寸前で見えない壁に阻まれ、跳ね返されたルリカをティアがキャッチする。

「契約魔物と違って、人間は向かってくるんだ。油断するな」
Kの傍らには血の気のない男が立っている。

「お前は…エルゼ!」
ルリカが吐き捨てた。

「そう”死霊術士(ネクロマンサー)のエルゼ。僕と同じ一二聖王騎将の一人。僕は魔物の、彼は死人の担当をしています。偉大なる実験のためにね」
「カムアよ。どうするのだ?計画が佳境に入ろうとしている時に面倒事はごめんなのだがな」
手配書で見たままの姿のエルゼがKを窘める。

「”ネクロマンサー”のエルゼさん。あの”メスガキ”は元気ですかね?わたし今度合ったら泣かすって決めてたんですがねー」
二人の会話にルリカが割って入る。いつもは止めに入るティアは唇を噛みしめてKを凝視したままだった。

「どの死人の事を言っているかは知らんが、おまえ達の決め事など私には関係ない。カムアよ。戦闘に耐えそうなのが3人なら丁度良い。出来上がった実験体の実践演習に使おう」
「僕の可愛い魔物を“アレ”の餌食にすると?」
「かまわんだろう?魔物など、また召喚すれば良いではないか」
「フフフ… 偉大な実験には犠牲がつきもの…ですか 仕方ありませんね。リオ?スキャンティア?そしてルリカ!君達には実験に付き合って貰います。そうですねぇ…。生き残ったら、可愛がってあげますから、せいぜい頑張りなさい」
耳を覆いたくなるKの言葉。リオとティアの意識がその拒絶に傾いていた時、鋭い声が走った。

「飛んで!ティア!リオ!」
唯一Kとエルゼを注視していたルリカの一声がなかったら、その一瞬で終わっていたかも知れない。

”ドガガガガ!!”
Kの放った”大火球”の呪文が3人の間で炸裂した!それぞれが飛び退き、パッシブで展開していた魔法障壁で難を逃れたが、火球でホールの床が抜け自然落下に任せる事となった。

「さて、僕は三階の召喚部屋で待ちましょう。何人たどり着けるでしょうかね?」
「なんだかんだと楽しんでいませんか?”私”は…、君と君の主の実験が上手くいきさえすればいいんですからね。済んだら呼んで下さい」
一人称と口調が変わったエルゼはそう言うと煙のように消えた。

「ふん… おまえ如きに僕や主の何が分かるというのだ。…まぁ良い。利用しているのはこちらも同じだ。より質の高い素材を主に送れるならな」
そう吐き捨てるように言うと、Kは黒衣を翻した。

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[12]召喚術士K


=12.PHANTOM FACE=

「いたたた 全く館内で火球とは良識を疑いますよー」
SALONで火球以上の損害を出してきた張本人=ルリカが尻をさすりながらぼやいた。落ちたのは地下室の一室らしいが、そのスケールは先程のダンスホール並にある。

「また転移ですか。やれやれ、遊んでいるとしか思えませんが」
周囲を見渡すと、扉が一つある。その扉が”ギィィィ”という軋みをあげながら開くと、異形の魔物が姿を現した。

「うげ… まさかこれが実験体とやらですか? お約束通りに戦えと?」
それは一見すると岩ゴーレムだった。禍々しい悪魔の意匠…。しかしよく見ると…

『がぁぁ…』『あああっ…』『ヒィィィィィィ』『………』
無数の顔が浮かび上がっていた。

「ガー君と同じようなコンセプトのようですが、ガー君と違ってブサ面ですねー。とっとと砕いてティアたんとリオさんを助けに行くとしましょうか!」
”黒”と”白”のドレインナイフを抜くや否や、加速し一気に距離を詰めるルリカ!

”キィィィン!”
「げっ 固っっっ」
振り回される腕をかいくぐり、2撃!3撃!と刃を振るも尽く弾かれてしまう。

「あまりチャージはないですけど、”黒”を研ぎ澄まして… うわっっ」
奥の手でもあるエナジーを吸わせた”黒”の一撃を首筋に入れようとした時だった。浮かび上がる顔の一つが火炎を吐いた!

「うわっちちちち これは…なんとっ」
一旦距離を取るルリカ。その着地ポイントに鞭のような触手が襲いかかった。

「げぇ… これも口から?」
「アア コンナコトモ デキルゾ?」
「しゃべ… あ…」
ルリカの体を呪詛で出来ているような黒い闇の鎖が巻き付いた。これは魔物の腹にある口から囁きと共に生成されているものであった。

「オレ… おれ… 俺ぇ… 俺の名はNO.24 ファントム・フェイスぅぅ」
「こいつ… 知性が…」
呪詛の鎖の締め付けに顔を歪めるルリカを嬉しそうに眺める魔物は、更に3本の触手を生やし、呪詛を周囲に展開すると、絶望を言葉に変えた。

「おまえもぉぉ〜 俺の体にぃ〜 埋め込んでやるぜぇぇぇ」

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[13]召喚術士K


=13.POWER ARM=

「で、あんたの名前は? あるんだったら聞いてやるよ」
「…NO.8 パワー・アームだ。」
ティアの目の前にはオーガー級のボディに左右3本ずつの腕を生やした異形の戦士がいた。それぞれに短めの刃物を持っている。

「ルリカとリオがいない。転移って事か…。なぁ、その扉から外に出られるのか?」
「ああ 出られる。主からは勝者の一人が上がれると聞いている」
フルヘルムを付けているため表情は分からないが、鋭い眼光をティアに浴びせながらパワー・アームは抑揚のない声で応えた。

「条件づきか。本当かどうか試す時間ももったいないからな。悪いけど行かせて貰うぜ!」
言い放つと同時にティアが駆けた。迎撃するパワーの大きく長い腕の攻撃をくぐり抜け、必殺の拳を…いや”掌打”を腹に向けて叩き込む!

「よしっ!入った!この俺の白魚のような手を拳で壊すわけいかないからな!」
常人ならはらわたをメチャクチャにして一週間は嘔吐いて過ごす事になるだろうティアの掌打である…が。

「その程度か?」
「!?」
動じずに繰り出される上段の腕の攻撃を間一髪飛び退いて躱すティア。

「ちっ 厄介だな。やりたくはないが…リオとルリカが気にかかる。やるか…」
ティアの体から魔素が溢れだした。そして…

”コォォォォ”
息吹と同時にティアの体が、筋肉が膨れ上がっていき…。

「じゃあ仕切り直しだ」
身長は2m、翼と角も生えたティアの姿は、目の前の敵を殲滅する悪魔の戦士のようであった。

「来い…」
パワーが6本の腕をティアに向け、構える。

「…」
無言で床を蹴り上げるようにして加速をするティア。増大した筋力を使っての跳躍!しかし…

”ガッ! ガガガッ”
パワーの下段の腕が鞭のようにしなり、そしてうねって壁を作った。

「くっ」
ティアの拳がそれを突き破る! が…

「ぐあっ」
パワーの中段の拳が重力波でティアの体を押さえ込み、上段の腕が振り下ろされる。その必殺の一撃を間一髪で躱したものの、ティアの突進は見事なまでに封じられてしまっていた。

「その程度か? 今度は魔法でも使うか? それとも更に肉体を強化するか?」
=無駄だがな=という言葉と同時に、更に4本の腕が背中から伸びた。

「魔法封じと真空波の術式を放つ腕だ。さぁ… おまえは”どの腕で殺されたいかね?”」
フルヘルムで見えないが、その目は獲物を弄ぶ蛇のように細く… そして笑っていた。

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[14]召喚術士K


=14.BLACK WING=

「リオさん!大丈夫ですか?」
リオとケリーは一緒のホールに落ちていた。リオが呆然としていたのは、落ちた衝撃ではなかった。

「ああ 大丈夫だよ。ええっと…」
ボクはケリーの村に来て、そしてルリカ達と統率者がいる村長の家に入って…

=そこでマスターに会ったんだ…=

「違う… あれはマスターじゃない。マスターがあんな事を言うはずがないんだ…」
しかし姿も感じる魔力も、Kそのものだった。

”ギィィィィ”
扉が開き。漆黒の鎧を纏った騎士が入ってきても、リオはへたりこんだまま動けなかった。

「やれやれ、我が輩は外れを引いたようだね? 他の部屋からは賑やかな音が聞こえてくるのに、こちらは泣き声かね」
黒騎士はランスを構えると、一応の作法に則り宣言を始めた。

「我が輩はNO.4 漆黒の騎士 ブラック・ウイングである! 主の真の魔物にして最強の騎士である! 紛い物の小娘よ。我がランスの露と消えよ!」

「リオさん!リオさん!立って!逃げなきゃ…」
ケリーが何か言っている。
(ああ、そうだね。ボクがしっかりしなきゃ…)

そしてブラック・ウイングのランスの切っ先がリオの頭に真っ直ぐに突き出された!

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[15]召喚術士K


=15.PIGEON vs HAWK=

村長宅上空…

「こんなもんで良いかな?」
ガリルという”鳩”が任務を果たしつつあった。正確には”鳩の群れ”である。ガリルは自身でも変化魔法で鳩になるが、その魔力を鳩に変えて使役する事も出来る。故に今回の作戦においては"群れ”を用いての陽動を引き受けていた。

「良いわけないな! この空でいい気になるのは…な!」
(上を取られた!?) 
飛行できる敵がいないと油断したガリルが悪いのである。

”ドカッ!ドガガッ!!”
空中の水分を集積させた塊による範囲攻撃がガリルの群れを襲った。ダメージを受けた魔力鳩は消失し、残った鳩達が距離を離すも相手は高速で飛行しつつ”水塊”を展開してくる。

「俺はNO.13 ホーク・アイだ。鳩の分際で勝てると思うなよ?」
鷹(ホーク)というよりはグリフォンをベースにした実験体がそこにいた。ガリルより筋力も羽も…何もかもが桁違いの力強さである。ガリル絶体絶命であった。

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[16]召喚術士K


=16.MURAMURA=

呪詛の鎖に縛られるルリカ。迫り来るファントム・フェイス。その禍々しい腕がルリカの首にかかる!

”キィィィィィン!”
突如ルリカの頭上に魔法陣が展開した!

「ルリちゃん!」
現れた金髪の女神は、その流れるような動き呪詛の鎖を断ち、落下するルリカを抱きかかえると、異形の魔物と距離を取った。

「あ なんで?? 貴女がここに???」
「召喚術は送還術!可愛いルリちゃんのピンチに……」
ためて…
「私は来たぁ!」
”ビシッ!”とポーズを決めているのは、勿論”女神のごとき衣装で決めている”アイシャだった。

「ありがとうございます。アイシャさん。でも…あいつ激やばですよー。わたしのナイフも通らなかった…」
消沈しているルリカに不敵に微笑むアイシャ。

「大丈夫よ。ルリちゃん。ルリちゃんには隠された力が眠っているから!」
「わ わたしに? 隠された力が? いや…いくらなんでもそんなに都合良く…」
「いいから! おいで!」
言葉と行動が合わないのでは? そうツッコむところだろう。しかし、女神の衣装で両手を広げて呼ばれるルリカには、アイシャの95Hカップの谷間しか目に入らなかった。

「ごろにゃー♪」
目の前の異形の敵どころか、Kの事も、リオやティアの事も、この瞬間は消し飛び、アイシャの谷間でルリカの脳は100%を占めていた。

「よしよし♪ ぎゅううう〜」
「んんんんらあああああああああ だめぇぇぇ 濡れちゃう!アイシャさんこれはあああ!!」
「だーめ♪ もっともっとよ! ぎゅぎゅぎゅうう〜♪♪」
「アイシャさんの指がわたしの割れ目を?ふにゃあああああああああああああ!!」
ホールにルリカの絶叫が轟いた。その時だった!

”キィィィィィィィィィィィィン!!!”
ルリカが背負っていた刀が目映い光を放った!!

【説明しよう!】【ルリカの欲望が臨界値を超えた時!妖刀ムラムラの封印が解け、恐るべき力を発揮するのだ!】

”ぱっ!”
アイシャが手を離すと、桃源郷の先に行き着いたルリカは、妖刀のオーラを纏い、鋭い眼光でファントム・フェイスを射貫いていた。

「ケリーさんの村を襲撃し、たくさんの人を苦しめ、あまつさえ!わたしの貴重な休みを不意にした罪… 許せん!!」
ルリカのオーラに呼応するように”白”と”黒”のドレインナイフが宙に浮き、妖刀ムラムラは二本の小太刀に姿を変え、オーラそのものを巨大な刀身としていた。

「必殺!! ルリカイザーぁぁぁストラァァァッシュっっっ!!!」
「ぐ… ぐ… ぐわあああああああああああああ!!!」
白と黒のドレインナイフがファントム・フェイスの腕と呪詛を切り刻み、無防備になったボディにオーラのロードを疾走したルリカがすれ違いざまに巨大な刀身を振り下ろす!

「成敗っ!」
決めのポーズと同時に、ファントム・フェイスは両断され、何故か爆発をし四散した。

「おおっ これは凄い!ルリちゃん良かった! 今度私にも貸して〜」
「ええ、なんかムラムラしないと出来ないっぽいですけど アイシャさんとなら… うぇへへへ」
「さ!それより悪党退治でしょう?行きましょう!今度こそわたしの淫聖衣(エロス)の出番ね!」
「そういえば… アイシャさんどうやってここに? ますにゃーの召喚陣ですか?」
「ううん。違うわよ。”あの人”の召喚陣。結構”様に”なってたわ」
「あの人?」
「ふふふ。こういうのは自分で見た方が良いわよ。サプライズはいつでも突然だから」
「それは楽しみですけどー」
(マスターではない? マナさんか?? まぁ良いか。まずは…ティアたんか、リオさんか、助けないと)ルリカは気持ちを切り替え、二人は扉を抜けた。

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[17]召喚術士K


=17.NIGHTMARE=

「その程度か?」
宣言通り、魔力での攪乱も通用せず、拳を痛める事を承知での乱打も弾かれた。

「万事休すかよ…」
破けたポケットに手を入れると、蒼い宝石が一つ。

「なんだこりゃ?いつの間に… うわっっ」
パワー・アームの一撃!四つん這いになって躱したティアは、思わず宝石を落とした。魔力が籠もったラピスラズリを。

”もわぁん!”
「全く君は… デリカシーが欠如していると思ってはいたが、この僕をこんな無粋なステージにあげる気か? ティア」
派手なスモッグと共に蒼を基調とした衣装のサキュバスが現れた!そして芝居がかった言い回し、辛辣な言葉をまるで呪文のように淀みなく言い放つ。

「なんでおまえが… ナイトメア!」
「何でもなにも… 僕はこのラピスラズリで…」
ティアを驚かすために、SALONで顔を合わせた時にティアのポケットに仕掛けておいたのだった。そして…

(寝てしまった…とは言えないムマ)
メアが一瞬目をそらしたのを、ティアは見逃さなかった。

「寝てたな…」
「ムマ… 違う。僕は手品として… ハッ!?」
”ガキィィ!”パワーアームの突進をかろうじて躱す二人。

「なんだ…それは? 仲間か?新しい武器か?魔法なら効かぬとわかっているだろう?いずれにしても悪あがきだが…良いぞ?見せてみても」
相変わらずの余裕。フルヘルムであっても笑っているのがわかる。

「な… 僕が武器に見えるのか? 宣言しても良い!僕はその辺のゴブリンより弱い!一瞬で霞となって消える事が出来る!」
凄く弱気な事を凄く強気に言い放つメア。そしてティアに蒼い宝石のような瞳を向ける。

(ん?ティア…その傷は…。そうか、こいつにやられたのか。)
自分には関係のない事だ。スキャンティアがどうなったって。ティアの手が血で滲んでいる? 痛いのだろうか…。ナイトメアの中に何かが渦巻いていた。

「だけどね!客が望めばステージに立つのがマジシャンだ。このナイトメアの悪夢のステージを観たいというなら見せなくてはならない!」
ティアにウインク。そして一転しパワーアームと向き合うナイトメア。

=それがステージに立つと言う事だろう?=

言い放つと同時に、ナイトメアの体が霧散した!パワー・アームの周りに煌めく霧が立ちこめる!

「これは… なんだ? 消えないぞ!?」
魔法の霧ならば”アンチマジック”で消えるはず… なのにこの霧は… 何故存在できるのだ??

「やあ、君はパワー・アームと言うんだね?僕はナイトメア。マジシャンさ。どうだい?驚いたかい?」
霧の中にデフォルメされたナイトメアが何人も現れる。ロリナイトメア…子供向けに考えた演出。実際のところ、この霧も無数のロリメアも全てナイトメア本体。元々不定形のナイトメアが体を張っているに過ぎなかった。しかし魔法の産物と思ってしまえば見抜けない。マジシャンズセレクト(幻想)である。

「くそ…どこだ!どこにいる! あが…!?」
今までになく慌てるパワー・アーム。その視界が光を失った!

「ふふふ 真っ暗だね? どうだい? 僕の”マジック”は?」
ティアは見た。パワー・アームの背後に現れたナイトメアが”ただフルヘルムの視界を遮っているだけ”なのを。ただの目隠しである事を。マジック=魔法…この先入観もナイトメアが仕掛ける幻想なのだ。

「ぐわああああああ!!!」
自分に魔法が通じるはずがない!なのに!…混乱したパワー・アームが全ての腕を全方向に突き上げた!

「くっ…」
そのうちの一本がナイトメアを貫く…。

「ざまあみろっ これで…」
「ふっ 急かすなよ。フィニッシュはこれからなのに…」
腹を貫かれながらも、腕を大きく振って”笑顔”を観客へ向けるメア。あくまで営業スマイルだ。だって彼女は…”笑えない”のだから。しかしSALONに来て、Kやティア達と出会って、深い闇のような彼女の心にも何かが芽吹いたのかもしれない。だからステージの度に問いかけるのだ。自分自身に。観客に。心の中で。

=今、僕は笑えているかい?=

「!?」
パワー・アームの眼前には自身に迫ってくる”ロリメア”がいた。いや…それは…

「すげえマジックだったぜ。流石はナイトメアだ!」
肉体変化でロリメア化したティアだった!そしてパワー・アームとのゼロ距離で肉体を”戦闘特化”させると、必殺の一撃を放った!

「グランド・インパクト・”NIGHTMARE”!!」

”どがあああああっっっ!”
魔力を一点に集中させ気合いも込めたティア最強の打突で、強靱な肉体を誇ったパワー・アームのボディは爆散した。同時にナイトメアの霧も力を失うように消えていった…。

「ナイトメア… おまえの死は無駄にしないぜ…」
形見であるラピスラズリを拾い上げ、ほろりと涙を流すティア。

「勝手に殺さないでくれ。それと… センスがないと思っていたが、なんだ!今の技の名前は!さりげなく僕の名前まで入れて!」
落ちていたラピスラズリから、頭をひょいと出しているミニミニナイトメアが烈火のごとくティアに文句を言う。

「良いじゃないか。それにしてもおまえは凄いな。そんなところが可愛くもある♪そうだ!チューしてやろうな♪」
「ムマ… やめてくれ… 僕は君が嫌いだ…ムマ」
赤面するナイトメア。その小さい頭を撫でると、ティアは扉へと進んでいった。

「しかし… あれだな。仕方なかったとはいえ、あの姿はルリカには見せられないな…」
「…ああ、ロリ化か… それについては同意する。見られたら何と言われるか…考えただけでも恐ろしい」
ルリカのスイッチ押すべからず!で同意した二人が階段を上がっていくのを見つめる目があった…。

『わたしは見た… ロリティアたん… ロリメアたん…』
助けに来たものの既にクライマックスだったために入り損ね、何故か天井に張り付いていたルリカだった…。

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[18]召喚術士K


=18.見えないものにこそ=

”キィィィィィィィィィィィィン!!!”
間一髪、リオが張った”聖結界”がブラック・ウイングのランスの一撃を弾いた。

「ほう、足掻くか。我がランスを止めたのは見事である。だが、いつまで持つかな?」

”ガッ!ガガッ!ガガッ!!”
ランスの連続攻撃!しかしリオの聖結界は、通常のランスであれば完全に防ぎきる事が出来る。更には正面からの単調な突きの繰り返し。リオは隙を見て攻撃に転じる事にした。

「残念だけど、君の攻撃は効かないよ。諦めてくれないかなぁ?」
あえて余裕を見せる。これで諦める事はないにしても、次の一手に繋がればと。

「諦める?最強の騎士である我が輩が?…そうか主へ捧げる生け贄の少女は、この攻撃ではご不満だというのだな?ではご希望通り、我輩の真骨頂!”絶望”と”恐怖”の世界へと案内しよう」
ブラック・ウイングが両手を大きく挙げると、マントが翻った。いや、マントではない。それは漆黒の蝙蝠の羽だった。ヘルムより伸びている禍々しい角と合わせると、その姿は高潔な騎士というより“恐怖”を振りまく悪魔のように見える。

=その姿を見た瞬間に、光は失われた=
完全な暗闇がリオを、ケリーを覆っていた。
”ガッ! ガッ! ガガ! ガッ!”
同時に全方位から衝撃音が響き渡る!どうやっているのかわからないが、先程のランスと同程度の攻撃を、ほぼ同時に全方位から浴びせられているらしい。結界のダメージも杖を通してある程度はわかるにしても視認出来ない状況。もし少しでも結界が破られる箇所があったら?それは即座に自身かケリーの死に繋がるのだ。

「うっ はぁ… はぁ… あっ ううっ」
衝撃音が聞こえる度に、心臓の鼓動が早くなる。それはケリーも同じらしく、その小さな手が震えながらリオの服をギュッと掴んでいる。

「さぁ! サァ! SAA! さあさぁ!」
今度はブラック・ウイングの声が全方位から聞こえてくる。

(だめ… これ以上は…)
リオにはこの状況を打破する攻撃手段がなかった。いや…あったにしても思考できなくなっていた。

「さぁて!チェックメイトといこうかね!」
ブラック・ウイングの大声がホールに反響した!

「マスター!!」
リオの悲鳴があがった。その時だった。

「どーーーーーーーん なのー!!」
「ぐわああっ」
その場にそぐわないかけ声が響くと、鈍い音に続いてブラック・ウイングの悲鳴が上がった。光がリオとケリーに戻る。

「あ… 君は… リアルス!」
「なのー」
赤い目そして赤髪のサイドポニテの少女がそこにいた。服装はと言えば…これもこの場にはそぐわないであろうワンピース。最近厳しい修行の末に上級クラスのマッサージを会得したリアルスだった。

「間に合って良かったのー 早速だけどリオさんは、さっさと上の階に進むのー」
リアルスはリオの腕を取ると、グイグイ引っ張って扉の方へ歩いて行く。

「いや… あの… リアルスはどうやってここに来たの?それにボク…えっとマスターが…」
突然の出来事に思考が追いつかないリオ。

「あ そうか!リアルスはマスターの送還術で来たんでしょう?やっぱりあいつは偽物で…」
「ん?違うのー リアは”あの人”の送還術で来たのー 一日10人までなのー」
「え 違うの? じゃあ…マナさん?」
「それは会ってみてのお楽しみなのー そして避けるのー」

”ドガッ!”
リアルスがリオとケリーを掴んで飛んだ。彼女たちがいたところに数本のランスが突き刺さった。

「不意打ちとは卑怯な… 成敗してくれるわ!!」
そこには、首と腕をにょろ〜と伸ばし、それをブンブンと振って憤るブラック・ウイングがいた。

(ああ これが全方位からの攻撃の真相か…)
分かってしまえば、とてもシンプルであった。

「ここはリアにお任せなのー ゆっくり10数えているうちに終わるのー そして追いつくのー だからリオさんは早く行くのー」
リオとケリーをぼぉ〜んと放る。

「うわあ〜」
二人は扉の前に落下。尻餅をつく。

「リオさん? 目に見えるものだけが全てじゃないのー 見えないものにこそ真実があるって… どこかの偉い人が言っていた気がするのー」
「気がするんだ… うん!ありがとう!リア!ボク…行くね!」
「はいなのー♪」

=そしてこれはリオが扉を開けて進み、約束通り10数えるまでの話=

「では行くのー」
リアルスが陸上選手のようにヨーイ!ドン!をスタンバる!(1〜)

「バカめ!我が”絶望の空間”で朽ちるがいいわ!」
ブラック・ウイングが再び闇を作り出す!(2〜)

「「「「「「「「「わっっ!」」」」」」」」 「なのー」
リアルスのハウリング!(咆哮)魔力が籠もったそれは、このホール内の全てのものに衝撃波となって襲いかかった!!(3〜)

「ぎりゃいえりうえっっっ」
ブラック・ウイングの鼓膜が破れ…いや体のあちこちから出血をしていた。暗闇の中で蝙蝠のように音の反射と魔力反応で相手の位置を掴んでいたブラック・ウイングは、そのセンサーの全てを失った。(4〜)

「そこなのー」
悲鳴で位置を特定したリアルスの手刀がブラック・ウイングの腹部を貫いた!(5〜)

「がっ ぐわああ…」
思わず闇の結界を解いてしまったブラック・ウイング!(6〜)

「おのれぇぇ!!」
その長い腕を鞭のようにしならせてリアルスを打とうと…(7〜)

「な… いない?? どこだぁ??」
リアルスを見失う…。(8〜)

「ここなのー でっ ちょんぎるの〜♪」
リアルスは上にいた!ブラック・ウイングの頭部を倒立の状態で掴むと…

=ちょんぎった!=(9〜)

「多分1カウント余ったの〜」(10〜)
余った10カウント目でクルッと廻ると、リオの後を追いかけていった。

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[19]召喚術士K


=19.マナの弟子=

「あれ?ここ…館の一階に戻ったんだ…」
扉を出てすぐの階段を登っていると、いつの間にか突入した時のメインホールに戻っていた。

「リオさーん ごろにゃ〜♪」
「ハロハロ〜♪」
「ルリカ!無事だったんだね?良かった… あれ?アイシャさんも?」
不意にルリカが飛びついてきた。そのすぐ後ろには天使の如きアイシャがいる。

「よぉ♪ リオも無事で何よりだ」
「ムマムマ…」
「ティア!それと…えっと…ナイトメアさん…だよね?」
服がボロボロになっているティアと、その手に乗せられたラピスラズリからはミニミニサイズと化しているナイトメアが眠そうに顔を出していた。

「そしてリアなのー」
「わっ 本当に10数えるくらいで戻ってきたんだね?凄いな…リアは」
感嘆の声を上げるリオ。そして…

「これで全員揃いましたね。そしてお久しぶりです。リオさん」
凜とした声が上からした。驚き見上げるリオ。そこにいたのは…。黒い和装に銀色の大鎌を持ち、その瞳術の脅威を抑える眼鏡をかけ、リオに向かって微笑みかけるサキュバス…。

「あ 貴女は… リュネットさん!!」
今はKの曾祖母マナに弟子入りしている銀髪の淫魔が、静かに舞い降りた。

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[20]召喚術士K


=20.九尾の妖姫=

=その頃、村の上空では=

「た… 助かりましたです。その…姫様♪」
「鳩よ。ちょっと待っておれ? ほれ? 鷹は狐より…なんだったかのぉ?」
金色の毛色の尻尾をふさふさと振りながら、稀代の妖女がホーク・アイのなれの果てに話しかける。

「あ… が… ああ…」
遭遇してすぐに姫に無礼を働いたこの実験体は、管狐の波状攻撃で自慢の羽を食い破られ、姫の”第一の尾”で貫かれ、今もなおエナジーを搾られていた。

「まぁ、もう出涸らしじゃな… 美味しゅうもない…」
ホーク・アイだったものをポイッと捨てると、艶姫はガリルの頭を撫でる。

「ああ〜 姫様〜」
艶姫の淫気に当てられたガリルは目がハートである。無論これはガリルの魔力鳩の一つである。本体はここにはいない。しかしホークアイに魔力鳩を消失させられ次なる一手を悩んでいた際、舞い降りた麗しき九尾の姫に魅了されたガリルは、鷹の始末を全て姫に委ねる事にした。

「鳩は美味しいのかのぉ? いや…それよりも…汚れ仕事をした妾にきっと主殿はご褒美を下さるじゃろう♪ いや…勝手に尻尾を使ってしまった事を咎められて… お仕置きをして頂けるかもしれぬの?楽しみじゃ♪」
リュネットと共に館へ遊びに来た艶姫は、自らの眷属と共にケリーの村へと来ていた。そして魔物の軍団を眷属達のディナーとしていたのだった…。

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[21]召喚術士K


=21.ルリカの決意=

「そうかぁ… 艶姫さんも来てくれてたんだ」
「ええ、彼女とは東の国で度々会っていました。SALONに顔を出そうとやって来た矢先の事件でした」
「そうだ!その…マスターが…」
俯き気味になるリオを優しく抱きしめるリュネット

「リオさんもわかっているのでしょう? ここにマスターはいません」
「でも… 気配とか魔力の感じ…全てがマスターで…」
「それは… きっと複合催眠の類いです。私も使えますが…。」
瞳術、魔法による幻覚、薬品… 様々な手段を重ね合わせて、より完璧な催眠を化す方法…。高等なものになると、最早見分けが付かないどころか、対象者にとっては本物よりも強い暗示を与えるという。

「でも…なんでマスターになりすますの? …メリットってある?」
Kが聞いていたら泣くぞ?リオ? こういう冗談も言えるように回復したという事だろうが。

「時を同じくして… 召喚術士Kが近隣の村や町を襲っているという噂が立っていました。あまりにも早いですね? かつての”伯爵事件”の事もありますから、ギルドや教導団も動き出したそうです。」
「!? マスターを陥れようと? マスター…」
リオの頭を優しく撫でるリュネット。

「大丈夫ですよ。…皆さんも聞いて下さい。マスターは今、各方面に正式にご自身の無実を発信し、丁度”異文化交流にいらしていた”ムーアさんや、ご自身を監視に来ていた密偵関係の方(誰だ?)などに手を回したそうです」
「この短期間に… あの人、無駄に凄い時あるよね…」
だから泣くって、リオ? そのくらい回復した証なのだろうが…。

「そして、ご自身は… その黒幕のところに乗り込まれました…。なので代行として私がこちらに来た次第です」
「え… 大丈夫なの?それ…」
「いえ… あまり大丈夫ではないかと。心配ですので、私たちも急がないとなりません」
少し険しい顔になるリュネット。

「でも、それってここじゃないの?」
「ここにいるのは実行犯です。恐らくは元凶が最も信頼する者…。マスターは元凶の名を明かして下さいませんでした…。あの方の事だから、きっとお考えがあるのだと思いますが…」
「要するにー、ここにいるボスをボコって話させれば良いって事ですよねー 楽勝♪」
「ルリカは単純で良いよな。俺は気が進まない… かといってこのままじゃKが…か、くそっ」
勿論、戦闘は避けられないだろう。となると…見分けがつかない以上、Kとしか思えない相手をたたきのめす事になるのだ。

「おや?ティアたんは愛しいますにゃーのそっくりさんは殴れないですかねー? (にやにや)」
「…たんって言うなっ」
”めきめきめき!”(いつもより締め付けが強く…強く…)
「あ たん!ギブギブ!」

=大丈夫ですよ。ティアたん。誰だってマスターそっくりをボコりたくなんてないですよ。だから…私がやるんです=

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[22]召喚術士K


=22.既視感=

「しかし… ここって僕たちの館のまんまだね?」
「それは恐らく、館の趣旨が近いからかと思います」
ダンスホールにある階段を上り、トラップを警戒しつつ二階の廊下を進む。SALONと同じなら三階へ続く階段はもうすぐであった。

「あの館も魔素量の多い森の中心部に建てられていて… 魔物や魔族を召喚して使役するのに最適な土地に、更にその力を集めやすくなっているそうですので」
そこに館を建てたのが、Dと呼ばれる伯爵であった。公式な記録では、カムアの祖父カミナであるとされている。

「おっ 三階への階段発見です。さぁて、いっちょぶちかましましょうかねー」
それは館の作りと全く同じであった。ルリカが先陣を切ってドアを蹴破ろうとする。

「ねぇ、ケリー?」
「はい…なんですか?リオさん」
「んーっとね… 上手くは言えないんだけど…」
健気に付いてきているケリーの顔を覗き込むリオ。

「何かさ。言いたい事があったら、なんでも言ってね。それで…言いたくなかったら、何も言わないでいいから…さ?」
「え…」
リオの言葉にケリーは一瞬目を反らし、改めて見つめ返した。

「んー ボクもね、色々あったんだ。マスターに召喚されて、SALONのサキュバスなのにドレインにあまり興味なくてさ。そんなボクにマスターは自分の薬草園をやってくれって言ってくれて…」
「リオさん…」
「そんなマスターをボクはもっと厄介な事に巻き込んでたりする…」
=ボクがケリーに感じる既視感は、恐らくこれだ…=

「マスターはボクに、言いたかったら何でも言えって言うんだ。言いたくなければ言わなくて良いって。だからさ…」
=ケリーもボクに…ボク達に、言いたい事があったら何でも言って良いんだよ?=

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[23]召喚術士K


=23.幻術の脅威=

「はい!どーん!」
扉を蹴破りー!SALONに酷似しているためか、いつものように扉を蹴り開けるルリカ。

「おや?どうやら実験体は一つ残らずやられてしまいましたか?僕の契約魔物達は思いのほか、戦闘面でも優秀のようですねぇ」
ルリカに続いて入ってくる面々をにこやかに迎えるK。

「本当だ… マスターそっくり…」
「わかっていても… 見分けがつかないとはな…」
「匂いも同じなのー」
初めて統率者=Kを見るアイシャとリアルスも驚きの声をあげる。ティアは、見分けが付かない事へのショックが大きいらしい。

「これはなんて高度な… 高レベルの幻術士であっても、ここまでは出来ないと思います。貴方…本当に人間ですか?」
あのリュネットでさえ驚きを禁じ得なかった。

「まぁまぁ皆さん。幻術がどーとかはこの際どうでも良いですよー。肝心なのは…おまえがマスターの偽物だという事ですよー!!」
ビシッとKを指さすルリカ。

「ほぉ?ルリカ?僕が偽物だと?」
「ふっ… とりあえずボコれば正体を現すでしょうからねー」
指をボキボキ鳴らすルリカ。統率者=Kに飛びかかろうと間合いを詰める。

「ふふふ… はははは! それで? 僕が偽物だと知ってどうだっていうんだ?」
「へっ… 認めるんですか?あっさりと」
指のならし損。

「別に、バレたところで問題はないからな。だってそうだろう?既にKの信頼は地に落ちているし、実験に必要な素材も充分に集まった。優秀なキマイラ(合成魔獣)も何体かは作れたしな。ああ、おまえ達にぶつけた失敗作とは別格なやつだぞ?」
「あれが…失敗作?」
「それはそうだ。それでも倒されるとは思わなかったがな。おそらくは中級魔族相手でも対応出来る想定だった。誇って良いぞ?おまえ達の実力はそれ以上なのだからな」
「で… その中級魔族以上のわたし達にボコられるのも問題ないと?」
「いや… ちょっと違うな。わかっていないなら教えてやらないといけないか? おまえ達はな、僕に危害を与えられないんだよ」
統率者=K いや偽のKはこれ以上面白い事はないといった笑みを浮かべて宣言した。

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[24]召喚術士K


=24.原理より大切なもの=

「使役魔物との契約原理というやつだ。使役魔物は主に危害を加える事は出来ないのさ。凶悪な魔獣を従えていたとして… うっかり噛まれて死んじゃいましたってなったら笑えないだろう?だから心理的にも肉体的にも、自身を襲わせない呪詛にも似た縛りをかける…これが契約の根本なのさ。そしてこれは魂レベルでかけられている」
動けないでいるリオ達のすぐ前を、満足そうな笑みを浮かべながら講義を続ける偽K。ルリカも自身はともかく、リオ達の身に関わる事かもと様子を見ている。

「ほら?ティア?僕は偽物だ。わかったとして…殴れるかい?」
拳を固めながらも動けないで居るティア。唇を噛みしめ、偽Kを睨み付けるのがやっとだった。

「頭で偽物とわかっても、魂が僕を本物と認識してしまっていれば… このペナルティは発動するのさ。僕の術はおまえ達の魂を縛っているのだからね?さて…ペナルティはなんだったかな?通常は死!なのだが… 応えてくれるかな?リオ?」
「…契約原理の話は聞いてない。でも…マスターに何かあったら、魔界の深いところに飛ばされるって聞いた事はある…」
「ほぉ それはお優しい事だな。死なせないのか?…いや、どの魔界かにもよるが…深いところの生存率は極めて低い。なるほど、自身を傷つけた場合は復讐に死より恐ろしい体験をさせるという事か!それはそれは♪」
愉快そうに笑う偽K。

「違う!マスターはそんな事、考えない!魔界の深いところって言うのは…」
リオの頬を涙が伝わっていく… 悔しい… こんな奴にマスターの何がわかるっていうんだ!

「はいはいリオたん、泣かないで下さいよー 私だったら契約関係ないですからねー ぶちのめしてやりますよー!!」
リオの頭を撫で、ルリカがぐいって前に出た!サキュバスが動けない今、契約と無関係の自分だけが戦えるのだから!

だが…

「いや… ルリカもダメだよ?」
リオが慌ててルリカの首を掴んだ。

「ぐえっ え… なんで??」
「だって… 前にドレイン中毒が過ぎるって… マスターに契約させられてたじゃん… あれってボク達と同じ契約だったよ?」
「なんですと!」
一歩下がるルリカ。色々あってやさぐれていた時、SALONにはまって散財し、ドレインされまくって消滅直前までいった彼女をKは契約で守ったのだった。

「な… なんだそれ… ククク… ハッハハハハ! それって面白すぎるだろう? 人間なのに魔物と同じ契約を結ばされたって? ハハハハハハ 笑い死んでしまうよ。これは参った。Kというのは…本当に”ろくでなし”だったんだな。人間に…魔物の契約…ひひひひひっ」
おおよそこの場にそぐわない爆笑、そして引き笑い。

”ぐいっ!”
そんな偽Kの胸ぐらを掴む者がいた。ルリカだった…。

「そんなに可笑しいですかね?」
「おいおい。おまえ…ひひひ…殴るのか?僕を?死んじゃうぜ? いや魔界の深いところに落ちるんだったか? 良いぜ!やってみ…」

”ゴスっ!!”
「ぐげぇぇえ!!」
ルリカの拳が偽Kの腹に入った!!

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[25]召喚術士K


=25.Kの契約=

「あれ?わたし生きてる?…って飛ばされてない?おお!いえーい!」
のたうち回り、嘔吐いている偽Kを眺めながら、自身の無事を歓喜するルリカ。

「え? なんで無事なの?」
「ええ。それは当然でしょう…」
リオの問いにリュネットが微笑みながら答えた。

「だってマスターは… 私達にそのような契約を施していませんから…」

「そうだったっけ? 飛ばされるとか… うーん」
リオが失念するくらいKの契約は仲間としての通常契約のみだった。サロンを始めるに当たってKが施したのは、ドレイン抑制とお客のエナジー量やレベル量の減弱から警告を発する術と、契約違反を把握するための術のみ。飛ばされるのはKの絶命と同時に館ごとであり、館そのものと紐付けられていた。それらも国の方針転換にあわせて、更に簡略化されている。

「ぐげ…なんて事をするんだ… このガキは…」
「美少女の腹パンはご褒美!ムマ」
ルリカを睨み付ける偽Kに、ティアの持つラピスラズリからひょっこり顔を出したナイトメアが呟く。

「それに…なんでだ? サキュバスや凶悪な魔物を…縛り無しで契約だと?ありえない…。なんで生きていられる?死ぬだろう?他の魔物だって…何かの拍子に…。なんでだ????」
腹を押さえながら偽Kが絶叫する。

「確かに…」
「よく干からびてないか?特にミナやマリエルに吸われた時とか…」
「この前はアルソッ君にかじられてましたよー」
「よくエリクサー飲んでるのだー」
「なんだかんだ死なないのよね」
話に花が咲く。

「とにかくっ ボク達とマスターとの絆は、おまえなんかにはわからないものなんだ!!」
「…リオリオ…そういう事はわたしの腹パンより前に言わないと説得力が…」
ボケとツッコミの逆転現象。

「ふざけるな… 縛りなしだなんて… 自身はともかくSALONはどうなんだ?安全と言えるのか?おまえらが羽目を外したら死人が出るんだぞ?」
立ち上がり、リオ達と距離をとる偽K。ルリカにツッコまれないように先手を取るリオ。

「もちろんさ。ボク達はマスターの信頼を裏切らないんだ。確かに自由だけど、楽しく異文化交流のためのSALONを運営してるんだ!ボク達のSALONはあんぜ…」
『あらリオちゃん♪魔の部屋はなかなか楽しいわよぉ♪』『リオさんは白?じゃあ私は黒にしておこうかしら♪』リオの頭に赤髪と緑髪の”大食らい”の大先輩の素敵な笑顔が浮かび上がって…

「ボク達のSALONは… ”けっこう”安全だよ!!」
「リオたん… 肝心なところが、あいまいですよー」
ボケとツッコミの逆転現象。

「さて♪クライマックスですかねー♪もうちょっとボコってから、黒幕を吐かせましょう!もしキマイラでしたっけ?呼ぼうとしたら…」
にこにこ笑いながら、スチャッとドレインナイフを再装備した。

「サク♪ ですがねー」
「くそ… おまえ達なんかに…」
既に偽Kの顔には余裕はなく、逆にルリカはといえば…それはそれは楽しそうに微笑んでいた。この状況での下手な抵抗は、偽Kに死をもたらす可能性を上げるだけであろう。

「待って… 下さい…」
リオの背後から飛び出したケリーが、ルリカの腕を掴んだ。

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[26]召喚術士K


=26.KELLY=

「おや?ケリーさん。どうしたんです?こいつはケリーさんの村をメチャクチャにした張本人ですよ?」
「わかって…います。彼は許されない事をしました。償わなければいけない…。でも…命は取らないであげて下さい…」
命乞い… 懇願だった。

「クッ!」
ケリーに気を取られたルリカの一瞬の隙に、偽Kは後方に飛び、自らのロッドを地面に叩きつけた。

”もわん!”
ロッドに付いてた魔法石が割れ、中から鎧を纏ったローパータイプの触手生物が現れた!

「ギョギギ!」
触手生物は素早く触手を展開させ、その一本でルリカを強襲し、もう一本でケリーを捕縛する。どうやら、主たる偽Kの思考を投影するタイプのようだ。

「これで… 時間稼ぎにはなるな。動くなよ?もしおまえ達が縁もゆかりもない亜人の命なんていらないって思うなら別だがな」
「くっ わたしとした事が…。 それにしても随分とあっさり落ちぶれるもんですねー 人質なんて」
「五月蠅い。どうせおまえ達はここから出られん。僕が撤収してしまえば、それでお終いなんだよ!」
言い放つと魔法陣を展開する。送還用のものらしい。

「行かせねぇよ」
魔法陣の淵をティアが踏みつける。魔法陣の光が消えたのは、ティアの足底に魔力が込められていたからだ。

「どけ!淫魔!こいつを…殺すぞ!」
「う…ああ…」
触手がケリーを締め上げる。

「くそ…」
ティアが足を除けた。魔法陣が再び光を取り戻す。

「やめなよ。もう…さ。その子を死なせて後悔するのは、ボク達だけじゃないと思うよ?きっと…貴方の方が後悔する」
「あ? なんで僕が亜人の子を殺す事くらいで後悔するんだ?」
「だって…その子は…」
リオは偽Kをじっと見据えた。

「貴方の大切な人… 縁者なのだから」
「うう…」
リオの言葉がケリーに届いたのか、ケリーの意識が遠のく事で変化が解けたのか… ケリーの服装や亜人様の特徴が消えていった…。

「おまえは… そんな… ケリィ…なのか…」
偽Kは目を見開いて、触手に締め付けられ意識を落としつつある少年に語りかけた。

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[27]召喚術士K


=27.リオが感じていたもの=

「エリ…ファス… もう止めて… そんな事をしても兄さんは…兄様は喜ばないよ…」
「くっ」
触手生物がケリーの体を偽Kのところに持って行き、その束縛を解いた。すぐさま治癒魔法をかける偽K。

「なんでこんなところにまで… なんで亜人の姿で…」
既に偽Kに戦意はなく、ただ腕の中の少年の容態だけを気にしていた。

「なんかあっけないですねー まぁ…あとで泣かしますけどねー」
「わかったから、とりあえずナイフをしまえよ。ルリカ」
ティアに促されてルリカは戦闘状態を解除した。

「それにしても、よくわかりましたねー リオさん」
「え? ああ… ちょっとずつ引っかかる事もあったし… 偽マスターの情報を小出しにするとかね。あとは…勘…かな?」
「勘ですか? ふむ… そうですねー 勘ですね!」
何故か納得するルリカ。それはルリカも感じていた事だったかも知れない。

=だって… 偽マスターを見た時のケリーの目には、恨みでも恐れでもない、深い悲しみがあったのだもの…=

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[28]召喚術士K


=28. レイエン家=

「僕の本名はケリィ・レイエンと言います。」
幸いケリィにダメージはほぼ無く、偽K=エリファスに支えられて立ち上がると、リオ達に向かい頭を下げた。

「レイエンって何処かで聞いたような…」
「まさか あのレイエン家か!」
諸国を渡り歩いてきたアイシャと、人間社会に溶け込んで生活をしてきたティアにはピンとくる家名と同じ姓である。たまたま?いや、エルファスの実力とケリィの見事な擬態を考えたら、その家筋の者達である事は明白だった。

「レイエン家… 四大公(マグナート)のひとつ。魔導公と呼ばれる建国からの名家ですね?」
「その名家の人がマスターに何の恨みがあるんでしょうかねー?」
リュネットが家名を確認したのは、知識の披露ではなかった。Kが乗り込んだ先が魔導公として名高い名門のレイエン家となると、事は一刻を争うのだ。

「僕の私怨だ…」
エルファスが力なく話す。

「あの”災厄の魔王討伐戦”において、初期の強襲を防ぎ、多大な犠牲を出しながらも領民を国家を守ったのは紛れもない四大公達だった。聖騎公・精霊公・銀竜公、そして我が主の魔導公。なのにだ… 戦後喝采を浴び、国王の覚えが良かったのは一二聖王騎将などとふざけた称号を得た者達だった…」
エルファスが拳を握りしめる。

「七賢者と呼ばれる”8人”だって、諸侯の子息や親衛隊の一兵士に過ぎない。個人芸で目立ったに過ぎないくせに…。今では王都で厚遇されている…。特にお前らのマスターやエルゼ、魔竜使いの女や人形を使う錬金術士など… 戦後何をした?野に下ったり好きな研究だけしたり… 挙げ句の果てには淫魔のサロンだと?戦後の民への救済だって、やっていたのは四大公なんだぞ…」
「ご高説はごもっともですがねー、その四大公の縁者のあなたが、領民に魔物をけしかけたのはどう言い訳するんですかね?」
「そうだよ…しかも実験体だなんて…。貴方の主が貴方の言うとおりの人だったら… 逆に悲しむんじゃないの? ケリィのように…」
ルリカの当たり前の指摘、そしてリオの言葉にエルファスは反論しようとしたが、ケリィの悲しい眼差しを見て、一旦言葉を止めた。

「わかっている。でも、止まれないんだ…。主に目的を遂げさせて差し上げるためには…」
「ああ もうそれ以上話さないで良いですよ。エルファス」
声を絞り出しているエルファスを制したのは、リオ達ではなかった。

「やっとお出ましですか? エルゼ…っぽい人!」
振り向きざまにナイフを投げるルリカ。そのナイフをわざと体で受け、それをポケットから出したハンカチでくるんでから引き抜いて見せたのは、礼服のような黒衣の男だった。

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[29]召喚術士K


=29.エルファスとフリッツ=

「せっかく君の怨みを晴らす手伝いをしてあげていたのに、これくらいで根をあげるとは… 君にはがっかりですよ。」
「フリッツ… 君には感謝している。しかしケリィが来てしまった以上、ここでの仕事は終わりだ。それに… もう目的は完遂していると言っても良い… ほどなく主は事を成し遂げるだろうからな…」
エルファスがフリッツに向かい、ケリィを後ろに隠したのは、フリッツという男がレイエン家の威光など視野にも入れないという事だろう。

「おお!そうですか?ついに”あれ”が完成するという事ですね?それは結構♪では…」
フリッツが持っていたロッドを地面にたたきつけた。杖の宝玉が割れ、中から巨体のグレーターデーモンが現れた。

「…これも実験体…いや…グレーターデーモンをベースにした”キマイラ”!?」
それは異形の悪魔だった。体に無数の顔が浮かび、背中からは蝙蝠状の羽だけでなく蛇のような触手を生やし、その皮膚はより硬質化しているように見える。そして、そのあふれ出てくる魔素のオーラが先程の実験体の比ではなかった。

「ああ、そうだ?そこの小さいの。何故私がエルゼでないと分かりましたか?私の催眠は魂レベルで効くはずですが?」
「はぁ… 初歩的な事ですよ。エルゼは既におまえより上に行ってます。それを知らなかったんでしょう。それにメスガキ(サナの事)を知らないというのも全然頂けませんねー」
フリッツが擬態したエルゼはネクロマンサー時代のもの、ルリカはノーライフキング化したエルゼを知っていた。そしてサナというマリオネット師の事も。

「なるほど。私より新しいエルゼの情報を知っていたと。それでは仕方ありませんね」
フリッツが微笑む。エルゼがこんなに爽やかに微笑む事もないだろうとルリカは思う。

「こんな奴の相手をしている暇なんてないな。早くKのところに行こうぜ!」
構えつつティアが撤退を提案する。

「ああ それなら無理ですよ。まだエルファスが言ってませんでしたか?ここはね…」
フリッツが手を振ると、グレーターデーモン・キマイラが無数の火球を作って放出した。それはリオ達を狙ったのではなく、四方の壁に炸裂した。壁は爆散し、そこから見えた風景は異質だった。人の世の何処にもなさそうな木々、そして黒い空。フリッツが不敵に笑う。

=ここはね…魔界なんですよ=

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[30]召喚術士K


=30.謀=

「リュネットさん 送還陣で転送は?」
「出来るんですが… 今日はあと4人しか」
これが人間界で既知の場所であれば転送魔法の使い手は離脱可能である。だが未知の場所、しかも魔界からとなるとそう簡単にはいかない。安全に人間界へ行くための座標を探すだけでもかなりの時間を有してしまう。現時点でKの居場所へ最短で行く方法は、Kと契約をしていて且つ送還術を使えるリュネットの術のみだった。

「まだ修行中の身で… 特定送還は1日10人以内でないとならないのです」
申し訳なさそうにリュネットが話す。

「くっ 人選する余裕が…」
目の前にGDキマイラが迫ってくる。控えているフリッツも得体が知れない。

「散るのが常套ですが、魔界の森林地帯で散けるのは危険… ここで戦うしかありませんが、時間をかけているとマスターが危険です」
「マスターって、あれで結構強いんだけど…。それでも危険です?」
直前に魔石将(ジュエルズ)の攻撃の要たる”トパーズ”のショハムを撃破したKの手腕を知っているリオが防御結界を張りつつリュネットに聞いた。

「ええ… マスターの秘書をさせて頂く関係で災厄戦も学んだのですが… レイエン家の現当主とその弟君は”伯爵位”の魔爵を倒しておられます」
魔王に準ずる魔爵は、爵位による序列があるわけだが、爵位が一つ上がるとクラスアップに相当する強さを得る。魔王に及ばないまでも、魔爵に成り立ての男爵位と比べた場合、伯爵位の強さは倍加では済まず、少なくとも乗倍は上の強さを持った存在なのだ。それを倒したとなると…。

「それだけではないですよ?今の奴らは… 忌々しいレイエンの子達は、更なる強さを手に入れています。そして… それを拒む存在を決して許しはしないでしょうね〜」
会話に割り込んできたフリッツが最悪な状況を補足してきた。

「更に言いますとね。今頃は貴女達の居住区も小隊規模の実験体が襲われているんですよ。忌々しい召喚術士をかつての戦友の手で屠る計画だったわけですが、心優しい私はその使い魔達も主と同じところに送ってやろうと思いましてね。そして…」
自らの優勢に気をよくしたのか、今度はエルファスとケリィの方にその歪んだ笑い顔を向けるフリッツ。

「エルファス、君はよく踊ってくれました。いや、この言い方は誤解を招きますね? ”召喚術士への復讐”と”君の主の悲願のため”にというのは本当ですよ? ただ私にはもっと大事な目的があったというだけです。そのために君は思いのままに邁進して貰いました。そしてケリィ。ウロチョロと嗅ぎ回っている犬のような君を召喚術士の元へと誘導したのも、そうすれば奴の戦力の分断や奴自身の油断を誘えるかと思っての事でしたが、いやあ!思っていた以上ですよ!奴は単独でレイエンの元へ。そして戦力分断もここまで出来れば上出来でしょう。いやあ、持つべきものは主に一途な友人と家族思い・領民思いの主君様ですねぇ〜」
一気にまくし立てるフリッツ。エルファスの主への想い、そして領民を思うケリィの動きさえ、この男は計算し利用したというのか…。

「ルリカ!館は…大丈夫かな?黒服さん達も近隣の村に偵察に行ってるんでしょう?そこにあんな奴らが小隊規模って…」
小隊規模が実際何人なのかは不明だったが、国の軍隊から類推した場合、30人前後の実験体が館に向かったことになる。

「大丈夫ですよ… わたし達が相手にしたような実験体ではないと思います。あれは出来たてって言ってましたからねー。恐らくは森で出会った"不死者”に強力な魔武具を与えて程度の部隊ですよ。それだったら…」
館にはダネルやクローザといった黒服団の最大戦力を残してきたし、白服もいる。Kの戦闘用魔物のアルソッ君やセコムンといった規格外の戦力もいる。

「無傷の方に給料三ヶ月分賭けても良いですよー。リオさん!」
「ルリカ… それって賭に負けるフラグのやつでは?」
ルリカの戦力分析に安心しつつも、不吉な予感も走るリオだったが、その予感が当たってしまっていたのは少し先の話である。

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