【ド・レイン小説】『魔導公と禁忌の魔獣』



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[15]召喚術士K


=15.PIGEON vs HAWK=

村長宅上空…

「こんなもんで良いかな?」
ガリルという”鳩”が任務を果たしつつあった。正確には”鳩の群れ”である。ガリルは自身でも変化魔法で鳩になるが、その魔力を鳩に変えて使役する事も出来る。故に今回の作戦においては"群れ”を用いての陽動を引き受けていた。

「良いわけないな! この空でいい気になるのは…な!」
(上を取られた!?) 
飛行できる敵がいないと油断したガリルが悪いのである。

”ドカッ!ドガガッ!!”
空中の水分を集積させた塊による範囲攻撃がガリルの群れを襲った。ダメージを受けた魔力鳩は消失し、残った鳩達が距離を離すも相手は高速で飛行しつつ”水塊”を展開してくる。

「俺はNO.13 ホーク・アイだ。鳩の分際で勝てると思うなよ?」
鷹(ホーク)というよりはグリフォンをベースにした実験体がそこにいた。ガリルより筋力も羽も…何もかもが桁違いの力強さである。ガリル絶体絶命であった。

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[16]召喚術士K


=16.MURAMURA=

呪詛の鎖に縛られるルリカ。迫り来るファントム・フェイス。その禍々しい腕がルリカの首にかかる!

”キィィィィィン!”
突如ルリカの頭上に魔法陣が展開した!

「ルリちゃん!」
現れた金髪の女神は、その流れるような動き呪詛の鎖を断ち、落下するルリカを抱きかかえると、異形の魔物と距離を取った。

「あ なんで?? 貴女がここに???」
「召喚術は送還術!可愛いルリちゃんのピンチに……」
ためて…
「私は来たぁ!」
”ビシッ!”とポーズを決めているのは、勿論”女神のごとき衣装で決めている”アイシャだった。

「ありがとうございます。アイシャさん。でも…あいつ激やばですよー。わたしのナイフも通らなかった…」
消沈しているルリカに不敵に微笑むアイシャ。

「大丈夫よ。ルリちゃん。ルリちゃんには隠された力が眠っているから!」
「わ わたしに? 隠された力が? いや…いくらなんでもそんなに都合良く…」
「いいから! おいで!」
言葉と行動が合わないのでは? そうツッコむところだろう。しかし、女神の衣装で両手を広げて呼ばれるルリカには、アイシャの95Hカップの谷間しか目に入らなかった。

「ごろにゃー♪」
目の前の異形の敵どころか、Kの事も、リオやティアの事も、この瞬間は消し飛び、アイシャの谷間でルリカの脳は100%を占めていた。

「よしよし♪ ぎゅううう〜」
「んんんんらあああああああああ だめぇぇぇ 濡れちゃう!アイシャさんこれはあああ!!」
「だーめ♪ もっともっとよ! ぎゅぎゅぎゅうう〜♪♪」
「アイシャさんの指がわたしの割れ目を?ふにゃあああああああああああああ!!」
ホールにルリカの絶叫が轟いた。その時だった!

”キィィィィィィィィィィィィン!!!”
ルリカが背負っていた刀が目映い光を放った!!

【説明しよう!】【ルリカの欲望が臨界値を超えた時!妖刀ムラムラの封印が解け、恐るべき力を発揮するのだ!】

”ぱっ!”
アイシャが手を離すと、桃源郷の先に行き着いたルリカは、妖刀のオーラを纏い、鋭い眼光でファントム・フェイスを射貫いていた。

「ケリーさんの村を襲撃し、たくさんの人を苦しめ、あまつさえ!わたしの貴重な休みを不意にした罪… 許せん!!」
ルリカのオーラに呼応するように”白”と”黒”のドレインナイフが宙に浮き、妖刀ムラムラは二本の小太刀に姿を変え、オーラそのものを巨大な刀身としていた。

「必殺!! ルリカイザーぁぁぁストラァァァッシュっっっ!!!」
「ぐ… ぐ… ぐわあああああああああああああ!!!」
白と黒のドレインナイフがファントム・フェイスの腕と呪詛を切り刻み、無防備になったボディにオーラのロードを疾走したルリカがすれ違いざまに巨大な刀身を振り下ろす!

「成敗っ!」
決めのポーズと同時に、ファントム・フェイスは両断され、何故か爆発をし四散した。

「おおっ これは凄い!ルリちゃん良かった! 今度私にも貸して〜」
「ええ、なんかムラムラしないと出来ないっぽいですけど アイシャさんとなら… うぇへへへ」
「さ!それより悪党退治でしょう?行きましょう!今度こそわたしの淫聖衣(エロス)の出番ね!」
「そういえば… アイシャさんどうやってここに? ますにゃーの召喚陣ですか?」
「ううん。違うわよ。”あの人”の召喚陣。結構”様に”なってたわ」
「あの人?」
「ふふふ。こういうのは自分で見た方が良いわよ。サプライズはいつでも突然だから」
「それは楽しみですけどー」
(マスターではない? マナさんか?? まぁ良いか。まずは…ティアたんか、リオさんか、助けないと)ルリカは気持ちを切り替え、二人は扉を抜けた。

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[17]召喚術士K


=17.NIGHTMARE=

「その程度か?」
宣言通り、魔力での攪乱も通用せず、拳を痛める事を承知での乱打も弾かれた。

「万事休すかよ…」
破けたポケットに手を入れると、蒼い宝石が一つ。

「なんだこりゃ?いつの間に… うわっっ」
パワー・アームの一撃!四つん這いになって躱したティアは、思わず宝石を落とした。魔力が籠もったラピスラズリを。

”もわぁん!”
「全く君は… デリカシーが欠如していると思ってはいたが、この僕をこんな無粋なステージにあげる気か? ティア」
派手なスモッグと共に蒼を基調とした衣装のサキュバスが現れた!そして芝居がかった言い回し、辛辣な言葉をまるで呪文のように淀みなく言い放つ。

「なんでおまえが… ナイトメア!」
「何でもなにも… 僕はこのラピスラズリで…」
ティアを驚かすために、SALONで顔を合わせた時にティアのポケットに仕掛けておいたのだった。そして…

(寝てしまった…とは言えないムマ)
メアが一瞬目をそらしたのを、ティアは見逃さなかった。

「寝てたな…」
「ムマ… 違う。僕は手品として… ハッ!?」
”ガキィィ!”パワーアームの突進をかろうじて躱す二人。

「なんだ…それは? 仲間か?新しい武器か?魔法なら効かぬとわかっているだろう?いずれにしても悪あがきだが…良いぞ?見せてみても」
相変わらずの余裕。フルヘルムであっても笑っているのがわかる。

「な… 僕が武器に見えるのか? 宣言しても良い!僕はその辺のゴブリンより弱い!一瞬で霞となって消える事が出来る!」
凄く弱気な事を凄く強気に言い放つメア。そしてティアに蒼い宝石のような瞳を向ける。

(ん?ティア…その傷は…。そうか、こいつにやられたのか。)
自分には関係のない事だ。スキャンティアがどうなったって。ティアの手が血で滲んでいる? 痛いのだろうか…。ナイトメアの中に何かが渦巻いていた。

「だけどね!客が望めばステージに立つのがマジシャンだ。このナイトメアの悪夢のステージを観たいというなら見せなくてはならない!」
ティアにウインク。そして一転しパワーアームと向き合うナイトメア。

=それがステージに立つと言う事だろう?=

言い放つと同時に、ナイトメアの体が霧散した!パワー・アームの周りに煌めく霧が立ちこめる!

「これは… なんだ? 消えないぞ!?」
魔法の霧ならば”アンチマジック”で消えるはず… なのにこの霧は… 何故存在できるのだ??

「やあ、君はパワー・アームと言うんだね?僕はナイトメア。マジシャンさ。どうだい?驚いたかい?」
霧の中にデフォルメされたナイトメアが何人も現れる。ロリナイトメア…子供向けに考えた演出。実際のところ、この霧も無数のロリメアも全てナイトメア本体。元々不定形のナイトメアが体を張っているに過ぎなかった。しかし魔法の産物と思ってしまえば見抜けない。マジシャンズセレクト(幻想)である。

「くそ…どこだ!どこにいる! あが…!?」
今までになく慌てるパワー・アーム。その視界が光を失った!

「ふふふ 真っ暗だね? どうだい? 僕の”マジック”は?」
ティアは見た。パワー・アームの背後に現れたナイトメアが”ただフルヘルムの視界を遮っているだけ”なのを。ただの目隠しである事を。マジック=魔法…この先入観もナイトメアが仕掛ける幻想なのだ。

「ぐわああああああ!!!」
自分に魔法が通じるはずがない!なのに!…混乱したパワー・アームが全ての腕を全方向に突き上げた!

「くっ…」
そのうちの一本がナイトメアを貫く…。

「ざまあみろっ これで…」
「ふっ 急かすなよ。フィニッシュはこれからなのに…」
腹を貫かれながらも、腕を大きく振って”笑顔”を観客へ向けるメア。あくまで営業スマイルだ。だって彼女は…”笑えない”のだから。しかしSALONに来て、Kやティア達と出会って、深い闇のような彼女の心にも何かが芽吹いたのかもしれない。だからステージの度に問いかけるのだ。自分自身に。観客に。心の中で。

=今、僕は笑えているかい?=

「!?」
パワー・アームの眼前には自身に迫ってくる”ロリメア”がいた。いや…それは…

「すげえマジックだったぜ。流石はナイトメアだ!」
肉体変化でロリメア化したティアだった!そしてパワー・アームとのゼロ距離で肉体を”戦闘特化”させると、必殺の一撃を放った!

「グランド・インパクト・”NIGHTMARE”!!」

”どがあああああっっっ!”
魔力を一点に集中させ気合いも込めたティア最強の打突で、強靱な肉体を誇ったパワー・アームのボディは爆散した。同時にナイトメアの霧も力を失うように消えていった…。

「ナイトメア… おまえの死は無駄にしないぜ…」
形見であるラピスラズリを拾い上げ、ほろりと涙を流すティア。

「勝手に殺さないでくれ。それと… センスがないと思っていたが、なんだ!今の技の名前は!さりげなく僕の名前まで入れて!」
落ちていたラピスラズリから、頭をひょいと出しているミニミニナイトメアが烈火のごとくティアに文句を言う。

「良いじゃないか。それにしてもおまえは凄いな。そんなところが可愛くもある♪そうだ!チューしてやろうな♪」
「ムマ… やめてくれ… 僕は君が嫌いだ…ムマ」
赤面するナイトメア。その小さい頭を撫でると、ティアは扉へと進んでいった。

「しかし… あれだな。仕方なかったとはいえ、あの姿はルリカには見せられないな…」
「…ああ、ロリ化か… それについては同意する。見られたら何と言われるか…考えただけでも恐ろしい」
ルリカのスイッチ押すべからず!で同意した二人が階段を上がっていくのを見つめる目があった…。

『わたしは見た… ロリティアたん… ロリメアたん…』
助けに来たものの既にクライマックスだったために入り損ね、何故か天井に張り付いていたルリカだった…。

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[18]召喚術士K


=18.見えないものにこそ=

”キィィィィィィィィィィィィン!!!”
間一髪、リオが張った”聖結界”がブラック・ウイングのランスの一撃を弾いた。

「ほう、足掻くか。我がランスを止めたのは見事である。だが、いつまで持つかな?」

”ガッ!ガガッ!ガガッ!!”
ランスの連続攻撃!しかしリオの聖結界は、通常のランスであれば完全に防ぎきる事が出来る。更には正面からの単調な突きの繰り返し。リオは隙を見て攻撃に転じる事にした。

「残念だけど、君の攻撃は効かないよ。諦めてくれないかなぁ?」
あえて余裕を見せる。これで諦める事はないにしても、次の一手に繋がればと。

「諦める?最強の騎士である我が輩が?…そうか主へ捧げる生け贄の少女は、この攻撃ではご不満だというのだな?ではご希望通り、我輩の真骨頂!”絶望”と”恐怖”の世界へと案内しよう」
ブラック・ウイングが両手を大きく挙げると、マントが翻った。いや、マントではない。それは漆黒の蝙蝠の羽だった。ヘルムより伸びている禍々しい角と合わせると、その姿は高潔な騎士というより“恐怖”を振りまく悪魔のように見える。

=その姿を見た瞬間に、光は失われた=
完全な暗闇がリオを、ケリーを覆っていた。
”ガッ! ガッ! ガガ! ガッ!”
同時に全方位から衝撃音が響き渡る!どうやっているのかわからないが、先程のランスと同程度の攻撃を、ほぼ同時に全方位から浴びせられているらしい。結界のダメージも杖を通してある程度はわかるにしても視認出来ない状況。もし少しでも結界が破られる箇所があったら?それは即座に自身かケリーの死に繋がるのだ。

「うっ はぁ… はぁ… あっ ううっ」
衝撃音が聞こえる度に、心臓の鼓動が早くなる。それはケリーも同じらしく、その小さな手が震えながらリオの服をギュッと掴んでいる。

「さぁ! サァ! SAA! さあさぁ!」
今度はブラック・ウイングの声が全方位から聞こえてくる。

(だめ… これ以上は…)
リオにはこの状況を打破する攻撃手段がなかった。いや…あったにしても思考できなくなっていた。

「さぁて!チェックメイトといこうかね!」
ブラック・ウイングの大声がホールに反響した!

「マスター!!」
リオの悲鳴があがった。その時だった。

「どーーーーーーーん なのー!!」
「ぐわああっ」
その場にそぐわないかけ声が響くと、鈍い音に続いてブラック・ウイングの悲鳴が上がった。光がリオとケリーに戻る。

「あ… 君は… リアルス!」
「なのー」
赤い目そして赤髪のサイドポニテの少女がそこにいた。服装はと言えば…これもこの場にはそぐわないであろうワンピース。最近厳しい修行の末に上級クラスのマッサージを会得したリアルスだった。

「間に合って良かったのー 早速だけどリオさんは、さっさと上の階に進むのー」
リアルスはリオの腕を取ると、グイグイ引っ張って扉の方へ歩いて行く。

「いや… あの… リアルスはどうやってここに来たの?それにボク…えっとマスターが…」
突然の出来事に思考が追いつかないリオ。

「あ そうか!リアルスはマスターの送還術で来たんでしょう?やっぱりあいつは偽物で…」
「ん?違うのー リアは”あの人”の送還術で来たのー 一日10人までなのー」
「え 違うの? じゃあ…マナさん?」
「それは会ってみてのお楽しみなのー そして避けるのー」

”ドガッ!”
リアルスがリオとケリーを掴んで飛んだ。彼女たちがいたところに数本のランスが突き刺さった。

「不意打ちとは卑怯な… 成敗してくれるわ!!」
そこには、首と腕をにょろ〜と伸ばし、それをブンブンと振って憤るブラック・ウイングがいた。

(ああ これが全方位からの攻撃の真相か…)
分かってしまえば、とてもシンプルであった。

「ここはリアにお任せなのー ゆっくり10数えているうちに終わるのー そして追いつくのー だからリオさんは早く行くのー」
リオとケリーをぼぉ〜んと放る。

「うわあ〜」
二人は扉の前に落下。尻餅をつく。

「リオさん? 目に見えるものだけが全てじゃないのー 見えないものにこそ真実があるって… どこかの偉い人が言っていた気がするのー」
「気がするんだ… うん!ありがとう!リア!ボク…行くね!」
「はいなのー♪」

=そしてこれはリオが扉を開けて進み、約束通り10数えるまでの話=

「では行くのー」
リアルスが陸上選手のようにヨーイ!ドン!をスタンバる!(1〜)

「バカめ!我が”絶望の空間”で朽ちるがいいわ!」
ブラック・ウイングが再び闇を作り出す!(2〜)

「「「「「「「「「わっっ!」」」」」」」」 「なのー」
リアルスのハウリング!(咆哮)魔力が籠もったそれは、このホール内の全てのものに衝撃波となって襲いかかった!!(3〜)

「ぎりゃいえりうえっっっ」
ブラック・ウイングの鼓膜が破れ…いや体のあちこちから出血をしていた。暗闇の中で蝙蝠のように音の反射と魔力反応で相手の位置を掴んでいたブラック・ウイングは、そのセンサーの全てを失った。(4〜)

「そこなのー」
悲鳴で位置を特定したリアルスの手刀がブラック・ウイングの腹部を貫いた!(5〜)

「がっ ぐわああ…」
思わず闇の結界を解いてしまったブラック・ウイング!(6〜)

「おのれぇぇ!!」
その長い腕を鞭のようにしならせてリアルスを打とうと…(7〜)

「な… いない?? どこだぁ??」
リアルスを見失う…。(8〜)

「ここなのー でっ ちょんぎるの〜♪」
リアルスは上にいた!ブラック・ウイングの頭部を倒立の状態で掴むと…

=ちょんぎった!=(9〜)

「多分1カウント余ったの〜」(10〜)
余った10カウント目でクルッと廻ると、リオの後を追いかけていった。

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[19]召喚術士K


=19.マナの弟子=

「あれ?ここ…館の一階に戻ったんだ…」
扉を出てすぐの階段を登っていると、いつの間にか突入した時のメインホールに戻っていた。

「リオさーん ごろにゃ〜♪」
「ハロハロ〜♪」
「ルリカ!無事だったんだね?良かった… あれ?アイシャさんも?」
不意にルリカが飛びついてきた。そのすぐ後ろには天使の如きアイシャがいる。

「よぉ♪ リオも無事で何よりだ」
「ムマムマ…」
「ティア!それと…えっと…ナイトメアさん…だよね?」
服がボロボロになっているティアと、その手に乗せられたラピスラズリからはミニミニサイズと化しているナイトメアが眠そうに顔を出していた。

「そしてリアなのー」
「わっ 本当に10数えるくらいで戻ってきたんだね?凄いな…リアは」
感嘆の声を上げるリオ。そして…

「これで全員揃いましたね。そしてお久しぶりです。リオさん」
凜とした声が上からした。驚き見上げるリオ。そこにいたのは…。黒い和装に銀色の大鎌を持ち、その瞳術の脅威を抑える眼鏡をかけ、リオに向かって微笑みかけるサキュバス…。

「あ 貴女は… リュネットさん!!」
今はKの曾祖母マナに弟子入りしている銀髪の淫魔が、静かに舞い降りた。

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[20]召喚術士K


=20.九尾の妖姫=

=その頃、村の上空では=

「た… 助かりましたです。その…姫様♪」
「鳩よ。ちょっと待っておれ? ほれ? 鷹は狐より…なんだったかのぉ?」
金色の毛色の尻尾をふさふさと振りながら、稀代の妖女がホーク・アイのなれの果てに話しかける。

「あ… が… ああ…」
遭遇してすぐに姫に無礼を働いたこの実験体は、管狐の波状攻撃で自慢の羽を食い破られ、姫の”第一の尾”で貫かれ、今もなおエナジーを搾られていた。

「まぁ、もう出涸らしじゃな… 美味しゅうもない…」
ホーク・アイだったものをポイッと捨てると、艶姫はガリルの頭を撫でる。

「ああ〜 姫様〜」
艶姫の淫気に当てられたガリルは目がハートである。無論これはガリルの魔力鳩の一つである。本体はここにはいない。しかしホークアイに魔力鳩を消失させられ次なる一手を悩んでいた際、舞い降りた麗しき九尾の姫に魅了されたガリルは、鷹の始末を全て姫に委ねる事にした。

「鳩は美味しいのかのぉ? いや…それよりも…汚れ仕事をした妾にきっと主殿はご褒美を下さるじゃろう♪ いや…勝手に尻尾を使ってしまった事を咎められて… お仕置きをして頂けるかもしれぬの?楽しみじゃ♪」
リュネットと共に館へ遊びに来た艶姫は、自らの眷属と共にケリーの村へと来ていた。そして魔物の軍団を眷属達のディナーとしていたのだった…。

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[21]召喚術士K


=21.ルリカの決意=

「そうかぁ… 艶姫さんも来てくれてたんだ」
「ええ、彼女とは東の国で度々会っていました。SALONに顔を出そうとやって来た矢先の事件でした」
「そうだ!その…マスターが…」
俯き気味になるリオを優しく抱きしめるリュネット

「リオさんもわかっているのでしょう? ここにマスターはいません」
「でも… 気配とか魔力の感じ…全てがマスターで…」
「それは… きっと複合催眠の類いです。私も使えますが…。」
瞳術、魔法による幻覚、薬品… 様々な手段を重ね合わせて、より完璧な催眠を化す方法…。高等なものになると、最早見分けが付かないどころか、対象者にとっては本物よりも強い暗示を与えるという。

「でも…なんでマスターになりすますの? …メリットってある?」
Kが聞いていたら泣くぞ?リオ? こういう冗談も言えるように回復したという事だろうが。

「時を同じくして… 召喚術士Kが近隣の村や町を襲っているという噂が立っていました。あまりにも早いですね? かつての”伯爵事件”の事もありますから、ギルドや教導団も動き出したそうです。」
「!? マスターを陥れようと? マスター…」
リオの頭を優しく撫でるリュネット。

「大丈夫ですよ。…皆さんも聞いて下さい。マスターは今、各方面に正式にご自身の無実を発信し、丁度”異文化交流にいらしていた”ムーアさんや、ご自身を監視に来ていた密偵関係の方(誰だ?)などに手を回したそうです」
「この短期間に… あの人、無駄に凄い時あるよね…」
だから泣くって、リオ? そのくらい回復した証なのだろうが…。

「そして、ご自身は… その黒幕のところに乗り込まれました…。なので代行として私がこちらに来た次第です」
「え… 大丈夫なの?それ…」
「いえ… あまり大丈夫ではないかと。心配ですので、私たちも急がないとなりません」
少し険しい顔になるリュネット。

「でも、それってここじゃないの?」
「ここにいるのは実行犯です。恐らくは元凶が最も信頼する者…。マスターは元凶の名を明かして下さいませんでした…。あの方の事だから、きっとお考えがあるのだと思いますが…」
「要するにー、ここにいるボスをボコって話させれば良いって事ですよねー 楽勝♪」
「ルリカは単純で良いよな。俺は気が進まない… かといってこのままじゃKが…か、くそっ」
勿論、戦闘は避けられないだろう。となると…見分けがつかない以上、Kとしか思えない相手をたたきのめす事になるのだ。

「おや?ティアたんは愛しいますにゃーのそっくりさんは殴れないですかねー? (にやにや)」
「…たんって言うなっ」
”めきめきめき!”(いつもより締め付けが強く…強く…)
「あ たん!ギブギブ!」

=大丈夫ですよ。ティアたん。誰だってマスターそっくりをボコりたくなんてないですよ。だから…私がやるんです=

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[22]召喚術士K


=22.既視感=

「しかし… ここって僕たちの館のまんまだね?」
「それは恐らく、館の趣旨が近いからかと思います」
ダンスホールにある階段を上り、トラップを警戒しつつ二階の廊下を進む。SALONと同じなら三階へ続く階段はもうすぐであった。

「あの館も魔素量の多い森の中心部に建てられていて… 魔物や魔族を召喚して使役するのに最適な土地に、更にその力を集めやすくなっているそうですので」
そこに館を建てたのが、Dと呼ばれる伯爵であった。公式な記録では、カムアの祖父カミナであるとされている。

「おっ 三階への階段発見です。さぁて、いっちょぶちかましましょうかねー」
それは館の作りと全く同じであった。ルリカが先陣を切ってドアを蹴破ろうとする。

「ねぇ、ケリー?」
「はい…なんですか?リオさん」
「んーっとね… 上手くは言えないんだけど…」
健気に付いてきているケリーの顔を覗き込むリオ。

「何かさ。言いたい事があったら、なんでも言ってね。それで…言いたくなかったら、何も言わないでいいから…さ?」
「え…」
リオの言葉にケリーは一瞬目を反らし、改めて見つめ返した。

「んー ボクもね、色々あったんだ。マスターに召喚されて、SALONのサキュバスなのにドレインにあまり興味なくてさ。そんなボクにマスターは自分の薬草園をやってくれって言ってくれて…」
「リオさん…」
「そんなマスターをボクはもっと厄介な事に巻き込んでたりする…」
=ボクがケリーに感じる既視感は、恐らくこれだ…=

「マスターはボクに、言いたかったら何でも言えって言うんだ。言いたくなければ言わなくて良いって。だからさ…」
=ケリーもボクに…ボク達に、言いたい事があったら何でも言って良いんだよ?=

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[23]召喚術士K


=23.幻術の脅威=

「はい!どーん!」
扉を蹴破りー!SALONに酷似しているためか、いつものように扉を蹴り開けるルリカ。

「おや?どうやら実験体は一つ残らずやられてしまいましたか?僕の契約魔物達は思いのほか、戦闘面でも優秀のようですねぇ」
ルリカに続いて入ってくる面々をにこやかに迎えるK。

「本当だ… マスターそっくり…」
「わかっていても… 見分けがつかないとはな…」
「匂いも同じなのー」
初めて統率者=Kを見るアイシャとリアルスも驚きの声をあげる。ティアは、見分けが付かない事へのショックが大きいらしい。

「これはなんて高度な… 高レベルの幻術士であっても、ここまでは出来ないと思います。貴方…本当に人間ですか?」
あのリュネットでさえ驚きを禁じ得なかった。

「まぁまぁ皆さん。幻術がどーとかはこの際どうでも良いですよー。肝心なのは…おまえがマスターの偽物だという事ですよー!!」
ビシッとKを指さすルリカ。

「ほぉ?ルリカ?僕が偽物だと?」
「ふっ… とりあえずボコれば正体を現すでしょうからねー」
指をボキボキ鳴らすルリカ。統率者=Kに飛びかかろうと間合いを詰める。

「ふふふ… はははは! それで? 僕が偽物だと知ってどうだっていうんだ?」
「へっ… 認めるんですか?あっさりと」
指のならし損。

「別に、バレたところで問題はないからな。だってそうだろう?既にKの信頼は地に落ちているし、実験に必要な素材も充分に集まった。優秀なキマイラ(合成魔獣)も何体かは作れたしな。ああ、おまえ達にぶつけた失敗作とは別格なやつだぞ?」
「あれが…失敗作?」
「それはそうだ。それでも倒されるとは思わなかったがな。おそらくは中級魔族相手でも対応出来る想定だった。誇って良いぞ?おまえ達の実力はそれ以上なのだからな」
「で… その中級魔族以上のわたし達にボコられるのも問題ないと?」
「いや… ちょっと違うな。わかっていないなら教えてやらないといけないか? おまえ達はな、僕に危害を与えられないんだよ」
統率者=K いや偽のKはこれ以上面白い事はないといった笑みを浮かべて宣言した。

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[24]召喚術士K


=24.原理より大切なもの=

「使役魔物との契約原理というやつだ。使役魔物は主に危害を加える事は出来ないのさ。凶悪な魔獣を従えていたとして… うっかり噛まれて死んじゃいましたってなったら笑えないだろう?だから心理的にも肉体的にも、自身を襲わせない呪詛にも似た縛りをかける…これが契約の根本なのさ。そしてこれは魂レベルでかけられている」
動けないでいるリオ達のすぐ前を、満足そうな笑みを浮かべながら講義を続ける偽K。ルリカも自身はともかく、リオ達の身に関わる事かもと様子を見ている。

「ほら?ティア?僕は偽物だ。わかったとして…殴れるかい?」
拳を固めながらも動けないで居るティア。唇を噛みしめ、偽Kを睨み付けるのがやっとだった。

「頭で偽物とわかっても、魂が僕を本物と認識してしまっていれば… このペナルティは発動するのさ。僕の術はおまえ達の魂を縛っているのだからね?さて…ペナルティはなんだったかな?通常は死!なのだが… 応えてくれるかな?リオ?」
「…契約原理の話は聞いてない。でも…マスターに何かあったら、魔界の深いところに飛ばされるって聞いた事はある…」
「ほぉ それはお優しい事だな。死なせないのか?…いや、どの魔界かにもよるが…深いところの生存率は極めて低い。なるほど、自身を傷つけた場合は復讐に死より恐ろしい体験をさせるという事か!それはそれは♪」
愉快そうに笑う偽K。

「違う!マスターはそんな事、考えない!魔界の深いところって言うのは…」
リオの頬を涙が伝わっていく… 悔しい… こんな奴にマスターの何がわかるっていうんだ!

「はいはいリオたん、泣かないで下さいよー 私だったら契約関係ないですからねー ぶちのめしてやりますよー!!」
リオの頭を撫で、ルリカがぐいって前に出た!サキュバスが動けない今、契約と無関係の自分だけが戦えるのだから!

だが…

「いや… ルリカもダメだよ?」
リオが慌ててルリカの首を掴んだ。

「ぐえっ え… なんで??」
「だって… 前にドレイン中毒が過ぎるって… マスターに契約させられてたじゃん… あれってボク達と同じ契約だったよ?」
「なんですと!」
一歩下がるルリカ。色々あってやさぐれていた時、SALONにはまって散財し、ドレインされまくって消滅直前までいった彼女をKは契約で守ったのだった。

「な… なんだそれ… ククク… ハッハハハハ! それって面白すぎるだろう? 人間なのに魔物と同じ契約を結ばされたって? ハハハハハハ 笑い死んでしまうよ。これは参った。Kというのは…本当に”ろくでなし”だったんだな。人間に…魔物の契約…ひひひひひっ」
おおよそこの場にそぐわない爆笑、そして引き笑い。

”ぐいっ!”
そんな偽Kの胸ぐらを掴む者がいた。ルリカだった…。

「そんなに可笑しいですかね?」
「おいおい。おまえ…ひひひ…殴るのか?僕を?死んじゃうぜ? いや魔界の深いところに落ちるんだったか? 良いぜ!やってみ…」

”ゴスっ!!”
「ぐげぇぇえ!!」
ルリカの拳が偽Kの腹に入った!!

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[25]召喚術士K


=25.Kの契約=

「あれ?わたし生きてる?…って飛ばされてない?おお!いえーい!」
のたうち回り、嘔吐いている偽Kを眺めながら、自身の無事を歓喜するルリカ。

「え? なんで無事なの?」
「ええ。それは当然でしょう…」
リオの問いにリュネットが微笑みながら答えた。

「だってマスターは… 私達にそのような契約を施していませんから…」

「そうだったっけ? 飛ばされるとか… うーん」
リオが失念するくらいKの契約は仲間としての通常契約のみだった。サロンを始めるに当たってKが施したのは、ドレイン抑制とお客のエナジー量やレベル量の減弱から警告を発する術と、契約違反を把握するための術のみ。飛ばされるのはKの絶命と同時に館ごとであり、館そのものと紐付けられていた。それらも国の方針転換にあわせて、更に簡略化されている。

「ぐげ…なんて事をするんだ… このガキは…」
「美少女の腹パンはご褒美!ムマ」
ルリカを睨み付ける偽Kに、ティアの持つラピスラズリからひょっこり顔を出したナイトメアが呟く。

「それに…なんでだ? サキュバスや凶悪な魔物を…縛り無しで契約だと?ありえない…。なんで生きていられる?死ぬだろう?他の魔物だって…何かの拍子に…。なんでだ????」
腹を押さえながら偽Kが絶叫する。

「確かに…」
「よく干からびてないか?特にミナやマリエルに吸われた時とか…」
「この前はアルソッ君にかじられてましたよー」
「よくエリクサー飲んでるのだー」
「なんだかんだ死なないのよね」
話に花が咲く。

「とにかくっ ボク達とマスターとの絆は、おまえなんかにはわからないものなんだ!!」
「…リオリオ…そういう事はわたしの腹パンより前に言わないと説得力が…」
ボケとツッコミの逆転現象。

「ふざけるな… 縛りなしだなんて… 自身はともかくSALONはどうなんだ?安全と言えるのか?おまえらが羽目を外したら死人が出るんだぞ?」
立ち上がり、リオ達と距離をとる偽K。ルリカにツッコまれないように先手を取るリオ。

「もちろんさ。ボク達はマスターの信頼を裏切らないんだ。確かに自由だけど、楽しく異文化交流のためのSALONを運営してるんだ!ボク達のSALONはあんぜ…」
『あらリオちゃん♪魔の部屋はなかなか楽しいわよぉ♪』『リオさんは白?じゃあ私は黒にしておこうかしら♪』リオの頭に赤髪と緑髪の”大食らい”の大先輩の素敵な笑顔が浮かび上がって…

「ボク達のSALONは… ”けっこう”安全だよ!!」
「リオたん… 肝心なところが、あいまいですよー」
ボケとツッコミの逆転現象。

「さて♪クライマックスですかねー♪もうちょっとボコってから、黒幕を吐かせましょう!もしキマイラでしたっけ?呼ぼうとしたら…」
にこにこ笑いながら、スチャッとドレインナイフを再装備した。

「サク♪ ですがねー」
「くそ… おまえ達なんかに…」
既に偽Kの顔には余裕はなく、逆にルリカはといえば…それはそれは楽しそうに微笑んでいた。この状況での下手な抵抗は、偽Kに死をもたらす可能性を上げるだけであろう。

「待って… 下さい…」
リオの背後から飛び出したケリーが、ルリカの腕を掴んだ。

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[26]召喚術士K


=26.KELLY=

「おや?ケリーさん。どうしたんです?こいつはケリーさんの村をメチャクチャにした張本人ですよ?」
「わかって…います。彼は許されない事をしました。償わなければいけない…。でも…命は取らないであげて下さい…」
命乞い… 懇願だった。

「クッ!」
ケリーに気を取られたルリカの一瞬の隙に、偽Kは後方に飛び、自らのロッドを地面に叩きつけた。

”もわん!”
ロッドに付いてた魔法石が割れ、中から鎧を纏ったローパータイプの触手生物が現れた!

「ギョギギ!」
触手生物は素早く触手を展開させ、その一本でルリカを強襲し、もう一本でケリーを捕縛する。どうやら、主たる偽Kの思考を投影するタイプのようだ。

「これで… 時間稼ぎにはなるな。動くなよ?もしおまえ達が縁もゆかりもない亜人の命なんていらないって思うなら別だがな」
「くっ わたしとした事が…。 それにしても随分とあっさり落ちぶれるもんですねー 人質なんて」
「五月蠅い。どうせおまえ達はここから出られん。僕が撤収してしまえば、それでお終いなんだよ!」
言い放つと魔法陣を展開する。送還用のものらしい。

「行かせねぇよ」
魔法陣の淵をティアが踏みつける。魔法陣の光が消えたのは、ティアの足底に魔力が込められていたからだ。

「どけ!淫魔!こいつを…殺すぞ!」
「う…ああ…」
触手がケリーを締め上げる。

「くそ…」
ティアが足を除けた。魔法陣が再び光を取り戻す。

「やめなよ。もう…さ。その子を死なせて後悔するのは、ボク達だけじゃないと思うよ?きっと…貴方の方が後悔する」
「あ? なんで僕が亜人の子を殺す事くらいで後悔するんだ?」
「だって…その子は…」
リオは偽Kをじっと見据えた。

「貴方の大切な人… 縁者なのだから」
「うう…」
リオの言葉がケリーに届いたのか、ケリーの意識が遠のく事で変化が解けたのか… ケリーの服装や亜人様の特徴が消えていった…。

「おまえは… そんな… ケリィ…なのか…」
偽Kは目を見開いて、触手に締め付けられ意識を落としつつある少年に語りかけた。

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[27]召喚術士K


=27.リオが感じていたもの=

「エリ…ファス… もう止めて… そんな事をしても兄さんは…兄様は喜ばないよ…」
「くっ」
触手生物がケリーの体を偽Kのところに持って行き、その束縛を解いた。すぐさま治癒魔法をかける偽K。

「なんでこんなところにまで… なんで亜人の姿で…」
既に偽Kに戦意はなく、ただ腕の中の少年の容態だけを気にしていた。

「なんかあっけないですねー まぁ…あとで泣かしますけどねー」
「わかったから、とりあえずナイフをしまえよ。ルリカ」
ティアに促されてルリカは戦闘状態を解除した。

「それにしても、よくわかりましたねー リオさん」
「え? ああ… ちょっとずつ引っかかる事もあったし… 偽マスターの情報を小出しにするとかね。あとは…勘…かな?」
「勘ですか? ふむ… そうですねー 勘ですね!」
何故か納得するルリカ。それはルリカも感じていた事だったかも知れない。

=だって… 偽マスターを見た時のケリーの目には、恨みでも恐れでもない、深い悲しみがあったのだもの…=

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[28]召喚術士K


=28. レイエン家=

「僕の本名はケリィ・レイエンと言います。」
幸いケリィにダメージはほぼ無く、偽K=エリファスに支えられて立ち上がると、リオ達に向かい頭を下げた。

「レイエンって何処かで聞いたような…」
「まさか あのレイエン家か!」
諸国を渡り歩いてきたアイシャと、人間社会に溶け込んで生活をしてきたティアにはピンとくる家名と同じ姓である。たまたま?いや、エルファスの実力とケリィの見事な擬態を考えたら、その家筋の者達である事は明白だった。

「レイエン家… 四大公(マグナート)のひとつ。魔導公と呼ばれる建国からの名家ですね?」
「その名家の人がマスターに何の恨みがあるんでしょうかねー?」
リュネットが家名を確認したのは、知識の披露ではなかった。Kが乗り込んだ先が魔導公として名高い名門のレイエン家となると、事は一刻を争うのだ。

「僕の私怨だ…」
エルファスが力なく話す。

「あの”災厄の魔王討伐戦”において、初期の強襲を防ぎ、多大な犠牲を出しながらも領民を国家を守ったのは紛れもない四大公達だった。聖騎公・精霊公・銀竜公、そして我が主の魔導公。なのにだ… 戦後喝采を浴び、国王の覚えが良かったのは一二聖王騎将などとふざけた称号を得た者達だった…」
エルファスが拳を握りしめる。

「七賢者と呼ばれる”8人”だって、諸侯の子息や親衛隊の一兵士に過ぎない。個人芸で目立ったに過ぎないくせに…。今では王都で厚遇されている…。特にお前らのマスターやエルゼ、魔竜使いの女や人形を使う錬金術士など… 戦後何をした?野に下ったり好きな研究だけしたり… 挙げ句の果てには淫魔のサロンだと?戦後の民への救済だって、やっていたのは四大公なんだぞ…」
「ご高説はごもっともですがねー、その四大公の縁者のあなたが、領民に魔物をけしかけたのはどう言い訳するんですかね?」
「そうだよ…しかも実験体だなんて…。貴方の主が貴方の言うとおりの人だったら… 逆に悲しむんじゃないの? ケリィのように…」
ルリカの当たり前の指摘、そしてリオの言葉にエルファスは反論しようとしたが、ケリィの悲しい眼差しを見て、一旦言葉を止めた。

「わかっている。でも、止まれないんだ…。主に目的を遂げさせて差し上げるためには…」
「ああ もうそれ以上話さないで良いですよ。エルファス」
声を絞り出しているエルファスを制したのは、リオ達ではなかった。

「やっとお出ましですか? エルゼ…っぽい人!」
振り向きざまにナイフを投げるルリカ。そのナイフをわざと体で受け、それをポケットから出したハンカチでくるんでから引き抜いて見せたのは、礼服のような黒衣の男だった。

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[29]召喚術士K


=29.エルファスとフリッツ=

「せっかく君の怨みを晴らす手伝いをしてあげていたのに、これくらいで根をあげるとは… 君にはがっかりですよ。」
「フリッツ… 君には感謝している。しかしケリィが来てしまった以上、ここでの仕事は終わりだ。それに… もう目的は完遂していると言っても良い… ほどなく主は事を成し遂げるだろうからな…」
エルファスがフリッツに向かい、ケリィを後ろに隠したのは、フリッツという男がレイエン家の威光など視野にも入れないという事だろう。

「おお!そうですか?ついに”あれ”が完成するという事ですね?それは結構♪では…」
フリッツが持っていたロッドを地面にたたきつけた。杖の宝玉が割れ、中から巨体のグレーターデーモンが現れた。

「…これも実験体…いや…グレーターデーモンをベースにした”キマイラ”!?」
それは異形の悪魔だった。体に無数の顔が浮かび、背中からは蝙蝠状の羽だけでなく蛇のような触手を生やし、その皮膚はより硬質化しているように見える。そして、そのあふれ出てくる魔素のオーラが先程の実験体の比ではなかった。

「ああ、そうだ?そこの小さいの。何故私がエルゼでないと分かりましたか?私の催眠は魂レベルで効くはずですが?」
「はぁ… 初歩的な事ですよ。エルゼは既におまえより上に行ってます。それを知らなかったんでしょう。それにメスガキ(サナの事)を知らないというのも全然頂けませんねー」
フリッツが擬態したエルゼはネクロマンサー時代のもの、ルリカはノーライフキング化したエルゼを知っていた。そしてサナというマリオネット師の事も。

「なるほど。私より新しいエルゼの情報を知っていたと。それでは仕方ありませんね」
フリッツが微笑む。エルゼがこんなに爽やかに微笑む事もないだろうとルリカは思う。

「こんな奴の相手をしている暇なんてないな。早くKのところに行こうぜ!」
構えつつティアが撤退を提案する。

「ああ それなら無理ですよ。まだエルファスが言ってませんでしたか?ここはね…」
フリッツが手を振ると、グレーターデーモン・キマイラが無数の火球を作って放出した。それはリオ達を狙ったのではなく、四方の壁に炸裂した。壁は爆散し、そこから見えた風景は異質だった。人の世の何処にもなさそうな木々、そして黒い空。フリッツが不敵に笑う。

=ここはね…魔界なんですよ=

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[30]召喚術士K


=30.謀=

「リュネットさん 送還陣で転送は?」
「出来るんですが… 今日はあと4人しか」
これが人間界で既知の場所であれば転送魔法の使い手は離脱可能である。だが未知の場所、しかも魔界からとなるとそう簡単にはいかない。安全に人間界へ行くための座標を探すだけでもかなりの時間を有してしまう。現時点でKの居場所へ最短で行く方法は、Kと契約をしていて且つ送還術を使えるリュネットの術のみだった。

「まだ修行中の身で… 特定送還は1日10人以内でないとならないのです」
申し訳なさそうにリュネットが話す。

「くっ 人選する余裕が…」
目の前にGDキマイラが迫ってくる。控えているフリッツも得体が知れない。

「散るのが常套ですが、魔界の森林地帯で散けるのは危険… ここで戦うしかありませんが、時間をかけているとマスターが危険です」
「マスターって、あれで結構強いんだけど…。それでも危険です?」
直前に魔石将(ジュエルズ)の攻撃の要たる”トパーズ”のショハムを撃破したKの手腕を知っているリオが防御結界を張りつつリュネットに聞いた。

「ええ… マスターの秘書をさせて頂く関係で災厄戦も学んだのですが… レイエン家の現当主とその弟君は”伯爵位”の魔爵を倒しておられます」
魔王に準ずる魔爵は、爵位による序列があるわけだが、爵位が一つ上がるとクラスアップに相当する強さを得る。魔王に及ばないまでも、魔爵に成り立ての男爵位と比べた場合、伯爵位の強さは倍加では済まず、少なくとも乗倍は上の強さを持った存在なのだ。それを倒したとなると…。

「それだけではないですよ?今の奴らは… 忌々しいレイエンの子達は、更なる強さを手に入れています。そして… それを拒む存在を決して許しはしないでしょうね〜」
会話に割り込んできたフリッツが最悪な状況を補足してきた。

「更に言いますとね。今頃は貴女達の居住区も小隊規模の実験体が襲われているんですよ。忌々しい召喚術士をかつての戦友の手で屠る計画だったわけですが、心優しい私はその使い魔達も主と同じところに送ってやろうと思いましてね。そして…」
自らの優勢に気をよくしたのか、今度はエルファスとケリィの方にその歪んだ笑い顔を向けるフリッツ。

「エルファス、君はよく踊ってくれました。いや、この言い方は誤解を招きますね? ”召喚術士への復讐”と”君の主の悲願のため”にというのは本当ですよ? ただ私にはもっと大事な目的があったというだけです。そのために君は思いのままに邁進して貰いました。そしてケリィ。ウロチョロと嗅ぎ回っている犬のような君を召喚術士の元へと誘導したのも、そうすれば奴の戦力の分断や奴自身の油断を誘えるかと思っての事でしたが、いやあ!思っていた以上ですよ!奴は単独でレイエンの元へ。そして戦力分断もここまで出来れば上出来でしょう。いやあ、持つべきものは主に一途な友人と家族思い・領民思いの主君様ですねぇ〜」
一気にまくし立てるフリッツ。エルファスの主への想い、そして領民を思うケリィの動きさえ、この男は計算し利用したというのか…。

「ルリカ!館は…大丈夫かな?黒服さん達も近隣の村に偵察に行ってるんでしょう?そこにあんな奴らが小隊規模って…」
小隊規模が実際何人なのかは不明だったが、国の軍隊から類推した場合、30人前後の実験体が館に向かったことになる。

「大丈夫ですよ… わたし達が相手にしたような実験体ではないと思います。あれは出来たてって言ってましたからねー。恐らくは森で出会った"不死者”に強力な魔武具を与えて程度の部隊ですよ。それだったら…」
館にはダネルやクローザといった黒服団の最大戦力を残してきたし、白服もいる。Kの戦闘用魔物のアルソッ君やセコムンといった規格外の戦力もいる。

「無傷の方に給料三ヶ月分賭けても良いですよー。リオさん!」
「ルリカ… それって賭に負けるフラグのやつでは?」
ルリカの戦力分析に安心しつつも、不吉な予感も走るリオだったが、その予感が当たってしまっていたのは少し先の話である。

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[31]召喚術士K


=31.異変=

「では完成体のキマイラの脅威をエルファス共々体感して頂きましょう!」
フリッツの歓喜の声と共にGDキマイラが吠える!

「フリッツ!おまえ…」
迫り来るGDキマイラからケリィを庇いながらエルファスがフリッツに”大火球”を放つも…

”パァン!”
フリッツは腕の一振りで、その火球を消し飛ばした。

「残念ですが、君と私では役者のレベルが違うんですよ。分かっていませんか?君に邁進して貰うために催眠を施していた事に。明らかに私の方が格上でしょう?」
睨み付けるエルファスを一笑し、フリッツはGDキマイラに更なる攻撃を指示した。

「さて私も急ぎますので… まとめて始末してやりなさい!」
”キュイィィィィィン!”
指示を受けたGDキマイラが全ての腕に”大火球”を凌駕する特大の火球を発生させた!それをロックオンしたリオ達全員に向けて放とうとした時だった。

「ガ…ガギィィィ…」
動きが止まった。いや…何かに止められていた。

「完成体の…なんだったかしら?」
「キマイラだ。前に教えた事があるだろう?」
この場にそぐわない少女の声。そして聞く者の生気を凍えさせる男の声がした。

「お お おまえは…」
「あら? あなた…随分と酷い有様ね?でも勘違いしないでね?別に貴女たちを助けるつもりなんてないのよ。わたしには。」
GDキマイラによって砕かれた柱の陰から現れたのは、かつて単独で館へ潜入しルリカを翻弄した少女の姿のマリオネット師サナと、フリッツが模倣した災厄戦の英雄の一人にしてネクロマンサー…いや、その次のステップへと進んだ本物のエルゼだった。

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[32]召喚術士K


=32.エルゼの課題=

「それにしても大した外殻ね。サイコロステーキにしようと思って巻き付けた私の操り糸=斬糸=に耐えるだなんて」
「だから言っただろう。相手の得意分野に付き合うな…とね」
どうやらサナは得意の人形操りの糸でGDキマイラを拘束しているらしい。それもかなり強引に。

「おや!おやおやおやおや!これはこれは!本物のエルゼに会えるとは!私はついているのか?いや!ついている!今日は最良の日だ!」
偽エルゼ=フリッツが悦に入った声を上げた。

「あら?先生?お知り合いでしたか?」
「…いや…記憶にはないがね…」
面白そうに笑うサナ、そして嫌そうな顔をするエルゼ。

「ええ、覚えてはおられないでしょう。お会いした時、私は”影”でしたからね。良いんですよ。とにかく今日は良い事づくしで興奮を禁じ得ません!まもなく”主”の目的が達せられる!私が手を下すまでもなくね。だったら…私はご褒美として”貴方を貰っても良いですよねぇぇ?”」
最後は絶叫だった!そのフリッツからとてつもない魔素が放出されていく!!

「な… なんだこれは!? 人間じゃねぇ…」
ティアが驚くのも無理はない。それは魔素の性質だった。禍々しいほどの”邪悪”なオーラ。

「げっ なんですかーこれは!? 腐ってる???」
一番フリッツよりにいたルリカが飛び退けた。フリッツの魔素オーラが突き抜けた空間の床が腐り落ちたのだ。岩で出来た材質はそのままであったが、残っていた壁や木製の残骸が尽く腐敗していた。そればかりではない。それらはスライム状に姿を変えルリカ達へと迫ってきているのだ。

「”腐敗”か… なるほど。概ね事態を理解した。私にとっては”災厄”な日だがね…」
”ふわっ”とエルゼが宙に浮く。そしてフリッツに向けて魔法陣の術式を発動する。

「サナ。課題だ。私が帰ってくるまでに、その”出来損ない”を始末しておくように」
言うやエルゼの姿が忽然と消えた。そしてフリッツも。

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[33]召喚術士K


=33.マリオネット講座=

「はぁーい。”そんな課題”で良いのなら、喜んで。…それに、カムアの事が気にかかりますからね」
エルゼがいた空間に退屈そうな返事をするとサナはGDキマイラの締め付けを強めつつ、ルリカ達の方に小首をかしげるような仕草で視線を向ける。

「それにしても貴女たち… ”こんなの”に苦戦をしていてカムアの役に立てているのかしら?」
侮蔑の視線だった。

「な!そっちだって苦戦してるじゃないですかー! 聞きましたよー 斬れなかったって! わたしは切り裂きましたからねー アイシャさんとの愛のコラボ技で!えへへ…」
啖呵の最中にアイシャのHカップを思い出しにやけるルリカ。

「実験体…だったかしら?見ていたわ。相変わらずの力押しだったわねぇ…あなたは。先生の課題の意味を教えてあげるわ…。はぁ…」
ため息をつきつつ、完全にGDキマイラに背を向けるサナ。

「肉体が融合していても、魂はそう簡単にはいかない。合成魔物(キマイラ)の作成が難しいと言われる所以よ。まぁ…どんなに上手に体を繕ったところで?その中身は綻びだらけってわけなのよ?」
サナの講釈。その合間にも…。

”ギ… ギギギギ… ギイイイイイイイイイイ!!”
GDキマイラの亀裂が広がり、そして…

「マリオネットの操り糸の応用編。その”綻び”に糸を忍ばせて、潜らせて、そして裁てば?」

”パァァァァァァァァァァァン!”
GDキマイラの体が四散した!

「ほら♪ この通り♪ サナのマリオネット講座でした♪」
開いた右手を大きく振って胸に戻し、頭を垂れる。

「あの固い奴を…解体ショーですか」
流石に言葉を失うルリカ。驚きつつもサナの挙動を見逃さないように見つめていた。

「ああ 大丈夫よ? 今日は貴女たちに何もしないから。」
GDキマイラをサイコロステーキにしたサナが、その肉片の1つに腰掛けて退屈そうに足をばたつかせた。

「それより… はやくカムアのところへ行かなくて良いのかしら?」
「…わたしたちを行かせると?」
「…だって私は…」
一瞬言葉が詰まる。

=まだ会えないから…=

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[34]召喚術士K


=34.魔鎧”デビルプレート”=

「ここは…まさか…」
エルゼの放った魔法陣によって”飛ばされた”フリッツが見たのは、懐かしい風景だった。

「ああ そうだ。死界… あの世… 幽世… まぁ生と死の狭間だな」
エルゼが興味なさそうに言う。

「おお 本物のエルゼと死界に来られるとはな!やはり人生最良の日と言える!」
「人生か… おまえは人間ではないだろう?」
驚喜するフリッツにエルゼはぶっきらぼうに言い放った。

「ほぉ わかるのか? 流石だ…」
「わかるもなにも…だな。あの”腐敗”に見覚えがあった。おまえは災厄の魔王討伐の時の… あの”魔爵”の執事だった男だ。そもそも”影”というのはおまえ達(魔族)の執事や使用人を示す隠語だろうがね?」
災厄の魔王戦。不意を打たれて苦戦をしたのは人間界での攻防だった。エルファスも語った”四大公”(マグナート)達の奮戦で戦局が変わるも、魔王の本拠地のある魔界では敵の領土内であり地の利のない討伐軍は再苦戦を強いられる。中でも”魔爵”クラスの抵抗は大きかった。

「私が魔界で使役した不死の軍団の最大の難局が”腐敗”を操る伯爵位の魔爵であったからな。同じ死を操るというが…。”不死”の”負の生命”を尊ぶ私と、尽くを”腐敗”させ”土に還すだけ”のおまえ達とは肌が合わないと感じたものだ」
やや遠い目をしながらエルゼが回想する。

「おお!おおお!そこまで覚えていてくれているとは!私はこの日を待ち焦がれていたのだ!どんなに腐らせても抗うおまえの”不死者”達!その姿は美しかった。私がおまえに辿り着く前に…」
狂喜の表情が一瞬憎悪へと変わった。

「あの忌々しい”魔導公”のせがれ共が… そして”召喚術士K”が… ”我が主”を倒しさえしなければな!」
フリッツの体が変貌していく…。美しい蝙蝠の翼、体にある無数の顔、6本の腕…。そして禍々しい”鎧”を纏っていた。

「なるほど、実験体とは… おまえの”肉片”を利用したというわけか」
「ご名答だ。そうでなければ、合成魔物(キマイラ)は簡単ではないよ。体が強くても”魂”が持たんからな。そして…」
フリッツの纏っている鎧が変貌していく。それは増殖するようにフリッツの体を覆っていき、瞬く間にフルプレート状へとなった。

「魔鎧”デビルプレート”という。ある方より賜ったものだ。まだ未完成品だが…見ろ!」
”バッ”と抜き打ちに出した手のひらから魔素の塊が放たれると、その着弾点が凄まじい炎に包まれた。

「どうだ?まだ未完らしいが…おまえとの楽しい時間のためには丁度良いとさえ感じるよ。…さぁ…エルゼ。選んでくれ…”腐って死ぬか” ”焼き焦げて死ぬか” …どちらであっても美しい情景だろうなぁぁ〜。残念な事に2つは見られんのだ。どちらが…良いかなぁぁぁ??」
完全なる狂気。右手から”腐敗”を地面越しに放ち、左手から”火炎の渦”を宙へ放ちつつフリッツがエルゼに迫った!

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[35]召喚術士K


=35.死鬼炎=

「時間に余裕があれば、サナに講義を受けさせたい案件だな」
迫り来る”腐敗”と”炎渦”を冷ややかに見つめながらエルゼが呟く。

「まず”腐敗”だが…」
エルゼは手のひらを地に着けると

「死鬼炎…」
無詠唱状態で、短く術式を放った。

”ごおぉぉぉぉ!”
黒い炎が地面を伝わり、腐敗の波とぶつかると、その尽くを延焼至らしめる。

「なに… ばかな…」
フリッツの笑いが止まった。本来なら魔法の炎さえ駆逐する腐敗アメーバの波があっさりと打ち勝つはずなのだ。

「何故ここにおまえを連れてきたと思っているのだね?ここ死界には腐敗のベースとなる微生物もおらんし魔素もない。腐敗の術はその2つがふんだんになければ効力はほぼないのだよ。ここにあるのは死気のみ。それを操る私の”死鬼炎”がおまえのそれに勝るのは自明だと思うのだがね?」
「くっ!!」
腐敗が通じぬとわかり”両手”を使っての”大火炎渦”に切り替えるフリッツ。

「魔鎧の魔素も合わせての”魔炎渦”だ!焼き焦げる姿を見せろ!エルゼぇぇぇ!!」
フリッツが両腕を振り下ろす!魔炎の渦がまるで雪崩のようにエルゼに襲いかかった。

「は…はは…ははははははは!そうだ!燃えろ!その焼き焦げる姿を俺に見せろ!エルゼ!!!…え… える… な  なぜだ… なぜ?????????」

=なぜ燃えんのだ!?=
荒れ狂う炎の海の中にエルゼは静かに佇んでいた。

「さて… 特別授業だ。フリッツ。私が無事な理由を答えなさい」
”パン!”エルゼが腕を振るうと、エルゼの周りの炎だけが消えた!いや…違う。エルゼは燃えていた。ただそれがフリッツの魔炎ではなかった。

「”死鬼炎”か…」
「ふむ。よく出来たね。だが…サナだったら少なくとも腐敗を食い尽くす死鬼の炎を見た時点で…いや、この死界の特性に気がついた時点で答えているだろうがね…」
死者があの世に旅立つ世界。一部の霊属性や死の属性を持つ魔族が住まう世界である”死界”そこには人間界や魔界とは違い、死気と呼ばれるエナジー源しかなかった。魔界と通じ、強力な魔素を持つ魔族は空気のようにしか感じないエナジー。ありふれたものとしか捕らえていないフリッツに対して、エルゼはそれを術式のレベルにまで昇華していたのだ。

「”死鬼炎:魂爆”」
エルゼが言い放つと同時に、死鬼炎が魔炎を食い尽くし、そしてフリッツの本体を包む。

「この死気の炎は”魂を焼く性質”を持っている。わかるね?”どんな鎧を着ていようと、意味をなさない”という事を」
「焼き焦げるのはぁぁ 俺だったのかぁぁぁぁ!!」
”ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ”
死界に似つかわない閃光と共にフリッツは宣言のまま爆散した。

「この死界はおまえにとっては自らの領土(テリトリー)なのだろうがね。私にとっては骨休めに遊びに来る避暑地のようなところなのだよ」
既に原型のないフリッツだったものにそう言うと、エルゼは帰還用の魔法陣を展開させた。

「残るは…」
フリッツが災厄戦時の魔爵の影であった事から想定される最悪な事態を思うエルゼ。フリッツの元主は”倒されたはず”だ。しかし魔爵以上の魔族は魂まで死滅させるのが難しい事も周知であった。

「もし”死んでいないのなら…”」
そして”魔鎧”という魔武具の出所。未完と言いながら魔素0の死界であの魔素量を放出できるとなると…。

「カミナの孫なら”解”に行き着いているだろうかね?」
思案しつつ魔法陣に入る。

「…そうか!それなら期待が出来る。そうとなれば”援軍”を早めに送るべきだろうな」
エルゼ自身が”解”に辿り着いたのか、エルゼは青白い顔のままクスクスと楽しそうに笑った。何かしらの結論を出したエルゼは元の仮面のような無表情に戻り、サナの元へと送還術を発動させるのだった。

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[36]召喚術士K


=36.選抜メンバー=

「会えないって…」
SALONへ二度潜入して来たこの少女はKとどのような関係なのか…。ルリカはその潜入を二度防ぎ、職務としてKに報告している。リオも知り合いなのかと聞いた事があったが、その返事はNOだった。

「白黒付けたいところですがねー マスターがピンチとなると尋問している場合でもないですね。リュネットさん、人選をしましょう。4人でしたか?行けるの」
「ええ、座標の特定もありますので私も参ります。なので3人を選ぶ事になります」
簡潔にリュネットが話す。

「だったら… 防御魔法のリオさんと無傷でお強いアイシャさん、そして…」
ルリカが戦力分析をしていく。当然最後に名前を連ねるのは…

「リアですかねー」
「え… ルリカ行かないんだ?」
てっきりルリカ自身の名前をいうと思っていたリオは目を丸くしてルリカに問うていた。

「ええ 私よりリアの方が強いですからねー マスターのためにも最強戦力を送らないとって」
「ルリカ…」
きっと悔しいのだろうな…とリオは思った。サナの強襲の時だって一番体を張ってボク達とマスターを助けてくれた。そのルリカが自身で選別を辞退するのはきっと…。

「んー リアはルリカが行くべきだと思うのー」
「へっ」
リアルスの挙手しての突然の発言に半音高い声で反応してしまったのは逆指名されたルリカだった。

「だってこの人(エルファス)を腹パンしたのはルリカなのー 私たちの誰よりも判断が速かったのー」
「いや、それはそうですが…」
「今回はそういうのが大切なのー。あとアイシャさんの代わりにケリィが行くべきだと思うのー ケリィだったらお兄さん達を止めれるかも知れないのー」
「どうしたんですか?リア。凄くまともな事を言って… ぎゃっ」
リアルスの戦力分析にいたずらにツッコんだルリカの脳天に”軽く”かかとを落としたリアルスは、アイシャの方に向き直り笑顔で見つめた。

「そうね。リアちゃんの言うとおりだと思う。あ〜あ、また”淫聖衣”(エロス)が出せないのね〜」
SALONの演出家たるアイシャには、この最終局面の画が浮かんでいた。それは理にかない、そして美しくあり。

「決まったなら、さっさと行きなさい。全く…偽のカムアも見抜けなかった貴女たちに任せないとならないなんて…」
自身が行けない事の不満をブツブツと漏らすサナ。

「メスガキ… 帰って来たら泣かす!」
「出来るのかしら? あなたに。 今度はあなたをサイコロステーキにしてあげるわよ?」
ルリカとサナが一触即発の雰囲気になった時だった。

「時は一刻を争うのだがね?まったく…カムアの乱心かとここに駆け付け、偽のカムアを見て呆然としていたのは、君も同じだったと思うのだがね?」
冷ややかで抑揚のない声…フリッツを撃破して帰還したエルゼだった。

「!! せ…先生っ それは… だって…」
「へぇぇぇ〜 呆然としてたんですね〜〜」
「やめておけルリカ…。誰も得をしないぞ…。早くKのところ行かないとだろうが…」
リオ達とほぼ同じ反応をしていた事を暴露され赤面しながらエルゼに抗議するサナ。その首取ったと責めに回るルリカをティアは羽交い締めにして、既に展開を終えたリュネットの送還陣に放り込んだ。

「では!参ります!」
リュネットが印を結び、発動呪文を詠唱する。送還陣から光が溢れだし、それはリュネットを中心に陣にいるリオ・ケリィ・ルリカを包み込んでいく。

「マスター 今行くからね…」
Kに貰った”エルダー・ゲイザリオン”を握りしめるリオ。リオの心は”この杖… なんかネーミングがなぁ…”と思うくらいには回復しているようだった。

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[37]召喚術士K


=37.”暗がりの森”の迎撃=

 =同時刻 ”暗がりの森”ド・レインより100フィート付近=

「何体いるの〜? もう給料分以上働いたと思うんだけどな〜」
「だーちゃん さっき大型で素早いのが一体抜けちゃったけど、どうしよう?」
「え〜 そうだったっけ〜」
ルリカの予想通り、強力な魔具で武装した"不死者”を中心とした30人の軍勢がSALONへ迫ってくるのを感知した黒服団"防衛担当”は、その被害が館へ届かないように待ち伏せ攻撃を行っていた。

「クローザとかいるし〜 ガー君も門番してたし〜 大丈夫じゃない?一体くらい」
「そうですね。もし誰か怪我でもしたら減給ものですけどね?」
「だとしても〜 減給はルリカちゃん隊長だよ〜 わたしは何時でも満額支給だから〜」
「わぁ…そうなんだ」
そんな朗らかな会話の最中にも、数体の"不死者”がダネルの闇に喰われていた。

「空白地帯はあるけど〜 そんなところで"出くわしちゃう”運の悪い子なんて〜いないよ〜♪」
更に1体の"不死者”を捕らえながらダネルが眠たげにマウザーに笑いかける。そう!黒服団は館から離れたところで良い仕事をしており、減ったとはいえ最強ともいえる守りの精鋭が館にいる。危険なのは”その間の地帯のみ!”そこでたまたま襲撃者と出会ってしまうような不運なんてあろうはずが…。

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[38]召喚術士K


=38.LILY=

「あ 目があってしまいました!」
「…おまえ…召喚術士Kの魔物だな?」
ダネル達の待ち伏せをたった1人突破し、自信満々に館を破壊しに来たフリッツ襲撃小隊最強の… ”トロール"ベースの実験体であり、”不死者”と”ローパー”の特性を併せ持った…

「NO.44 ジェノサイド・フットだ… 爆ぜさせてやるぞ…」
「むむむ… これはピンチです!リリー大ピンチです!!」
そう… たまたまアウルムに作って貰ったお弁当を持って森をお散歩していたリリーが、たまたまこの最恐の実験体と出会ってしまっていたのだった…。

「行くぞ!…ん…??」
”NOTHING!”ジェノサイド・フットが攻撃態勢に入った時には既にそこにリリーの姿はなかった。

”テテテテテテテッッッ!!”
凄まじい速さで館へと逃げるリリー。

「逃走か… 相手が俺でなければ成功していただろう…な!」
「あ!」
ジェノの最後の発声はリリーの眼前からした。慌ててブレーキをかけるリリー。

「この人… リリーより速いです!」
「当たり前だ!観念し… あ??」
”NOTHING!”再びリリーの姿がない。ジェノの眼前には箒にぶら下がって飛ぶリリーの姿が!

「”キーリン!”一緒に逃げるのです!館まで行けば… あ!」
魔導箒の"キーリン”はリリーが生長させているため”速さ”が半端ない。なのに…

「ビッグ ジェノサイドぉぉ!!」
更なる高速移動でリリーを追い抜いたジェノが反転してリリーに巨大な腕を振り下ろしてきた!!躱す”キーリン”!当たっていればミンチにされているであろう一撃を回避するも、その反動でリリーは吹っ飛んでしまった。

「いたたた… お尻を打ちました!脚も…。これでは走れません…」
「ではまず一匹!」
動けないリリー!迫り来るジェノサイド・フット!

「助けて… マスター!!」
Kから貰った宝玉を握りしめてリリーが叫ぶ。そこに無慈悲に振り下ろされるジェノの豪腕!

”ガキッ!!”
「ぐわっっ」
野太い悲鳴が一つ。それは…ジェノのものだった。

「おいおいおいおい!うちのリリーに何してくれてんだ!ぶっ潰すぞ!このでか物が!!」
「わんわん!! ガルルルルルゥ!!」
カウンター気味にジェノの顎を蹴り上げるゴブリンと、鳩尾に正拳を撃ち込むコボルトがそこにいた!

「ああ!ジャッキー君!ポッチー君!!」
そう!Kの戦闘用魔物の上昇志向のゴブリン”ジャッキー”とコボルト界きっての格闘家であるポッチーであった。リリーが握って祈った玉は”召喚玉”であったのだ。

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[39]召喚術士K


=39.UNLUCKY=

「おお 久しぶりだな。サキュバスのメス!助けに来てやったぜ!!」
「くぅぅぅぅん!」
相変わらずの毒舌であるが、リリーから目線を外して赤面をしているジャッキー。

「助かったのです。お礼にクッキーをあげます」
ポシェットからクッキーを出そうとするリリー。

「あ… さっきので砕けてしまいました…。」
割れたクッキーを見て涙目のリリー。

「いや…良いんだよ。気持ちだけでよ… 泣くなよ…」
「くぅん…」
リリーの涙にアタフタするジャッキーとポッチー。気まずくなるやジェノの方に向き直り。

「てめぇ… よくもリリー… ……のクッキーを!!」
「ジャッキー君、クッキー好きなのですね!」
よくもリリーを!…と言えなかったジャッキー君。それをクッキー好きと解釈した食いしん坊のリリー。可愛い照れ隠しと可愛い勘違いのコラボであった。

「なんだ… ゴブリンとコボルトか… ふがいないな俺も… こんな小物達に一撃を貰うとはな!」
怒りのオーラがみなぎるジェノ。トロールであった彼は亜人・巨人族であり、神話の時代の神の眷属の末裔とも言われていた。それが小鬼や犬系の亜人に不意を突かれたのだ。これは屈辱なのである。

”ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!”
ジェノの突進!その巨躯の移動の際の空気の震えと、腕を振り下ろす衝撃の振動が耳障りな共鳴音を奏でるとジャッキー達がいたところに大きな穴が出来た!

「お前みたいな勘違い野郎を何人も倒してきたんだぜ?俺たちはよ!」
飛んで躱し際に”コイン”を投げるジャッキー。

「なんのつもり… ぐっっっ」
ジェノの目前でコインが… ”増殖”した!何枚…いや何千枚?何万枚だろうか、コインの渦がジェノを包み込む!

「邪魔だ!」
ジェノが腕を振るっても、当たったコインが吹き飛ぶだけで絶対量は変わらない。そればかりか…

「ぐう 小賢しい!!!」
コインから炎が吹き出ていた。一枚一枚から小さな炎の息吹が。だが何万枚となると…。ジェノの体が炎に包まれる。

「こ これは… 綺麗なのです!」
リリーが感嘆の声を上げる。それは炎がコインの輝きで反射されて出来た光の柱のようであったのだ。

「紹介するぜ?俺たちの仲間… グリーピングコイン(這い回るコイン)のアンラッキーちゃんだ!」
なんと!コインは魔物であった。

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[40]召喚術士K


=40.JACKIE&POTIー=

「この程度の炎で俺を殺れると思うなよっ 小鬼どもがぁぁぁ!!」
咆哮と同時にジェノの魔素オーラが増大していく!そして全方向位に向けて”衝撃波”が放たれた。それは技や術といったスキルではなく、ただ荒々しいだけの”放出”であったが、実験体として魔族の細胞も埋め込まれているジェノのそれは”火球”の炸裂に近いし破壊力を持っていた。

「ちっ 流石にアンラッキーちゃんだけじゃ無理だったか」
リリーを抱き上げて反転し、自らを衝撃波からの盾にするジャッキー。そのジャッキーをかばう盾となるポッチー。着地するとジャッキーはリリーを”アンラッキー”の上に下ろした。

「アンラッキーちゃん。リリーをこのまま館まで連れて行ってやれ」
「わん!」
決意を新たにジェノに向き直る2人。

「ジャッキー君!ポッチー君!」
そんな2人をリリーは抱きしめた。

「リリー、お菓子を作って待っています!必ず無事に…」
”ちゅ♪””ちゅ♪”感謝と祝福のキス。そしてリリーはアンラッキーのコインのカーペットで滑るように館へと去って行った。(おお!これは凄いのです!)感嘆の声が遠ざかっていく…。

「ポッチー…」
「わぅん…」
腕を回すジャッキー! 尻尾をぶんぶんと振るポッチー!

「これでやらなきゃ…男じゃねぇだろっ!!」
「わん!」

=一瞬だった=

ジェノがトドメのために衝撃波を放とうとした刹那。2人の姿が忽然と消えた。高速移動を得意とし、そのための動体視力を誇るジェノの目にも映らなかった2人。気がついたのは首の後ろの熱さと、直後に感じた胸の空虚さだった。

「影殺…」
「わん…(”ただの正拳”と呼んでいる至高の打突拳)」
”影”の特性を持つジャッキーは短距離であれば影から影へと移動が出来るのだ。そしてジェノの背後に現れたジャッキーはその頸椎を黒い小刀で切断し、高速移動時に一瞬だけ景色に同化出来るポッチーは神速の打突を繰り出し、”紅爪”でジェノの胸を貫いたのだった。

「馬鹿な…衝撃波をよけたと?」
倒れながらジェノが呻く。

「ばーか。避けてねぇよ。喰らうつもりで行ったんだ」
消えゆくジェノの視界に傷だらけの小鬼と犬が映った。

「…なるほど… 見事だ…」
死を迎える瞬間、ジェノは自分を倒した2人が、自分の命を終わらせるにふさわしい戦士だったと気がついた。(いつからだ… 俺はいつから相手を見た目で判断するようになったのだ…)これはジェノが薄れゆく意識の中で最後に思考した事だった。彼もまたトロール族の戦士だったのだ。

「やったな!ポッチー…しかし…痛ててて。結構キタな…」
「わぅぅん! ”ペロペロ”」
ジャッキーの傷を舐めて治すポッチー。ポッチーの舐め舐めにはヒーリング効果があるのだ!

「くすぐってぇよ… はははは  あ!?」
視線を感じて振り返ると、そこには館へ帰ったはずのリリーが”ジーッ”と見つめていた。

「ジャッキー君とポッチー君は…」
”ぽんっ”と手を打つリリー。

「リリー、誰にも言わないのです!」
「いや… おまえ… なんか勘違いしてるだろう?」
「2人は仲良しなのですね?」
「…それはそうだけどよ…」
「大丈夫です!リリーは口が堅いのです!」
「やっぱり勘違いしてるな!おい!こら!」
顔を真っ赤にして怒るジャッキーと”困った顔”らしいポッチーを再び抱きしめるリリー。

「わかっているのです。2人は…いえアンラッキーちゃんも!リリーの素敵なお友達なのです!」
時同じく、ダネル達黒服団が不死者の小隊を撃滅していた。これにてフリッツが送り込んだ手勢は全て壊滅したのである。

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[41]召喚術士K


=41.非公式訪問=

ルブルより東… 東の大国との交易で栄える商業都市を中心としたエリアが”魔導公”レイエン領である。その居城には幾重もの魔法防御が施されているが、これは”災厄”の魔王の襲来時の反省からであった。

=リュネット達がリオ達に追いついた頃=

レイエン城の大広間に漆黒の衣を纏った術士が舞い降りた。簡易移動用の魔方陣からである。東の国の墨で書かれたそれは、通常の魔力検知に引っかからない。効力も弱いため活用には術者の力量が求められるが、その秘匿性は抜群であった。

「これは… カムア殿か? 久しいな。災厄戦以来であったか?」
「突然の… それも非公式での訪問とご無礼をお許し頂きたい。レイエン公… レーヴァ様」
大広間には当主レーヴァ・レイエンがただ1人でいた。レーヴァはまだ20代半ばであったが、眼光は偽りを射貫く程に鋭く、その佇まいは領主のそれにふさわしかった。非公式に、さらに勝手に作った魔方陣からの来訪などは許されなくて当然であり、無礼打ちをされても文句も言えない行為だったが、この若き領主はカムアの姿を認めるや笑顔でそれを許した。

「しかし…いつの間にこのようなものを?」
「三月ほど前です。これも本日の非公式訪問の理由と同じなのですが…」
「カムア殿も部下も咎めんから、方法を教えて貰いたいな。災厄戦以降、万全を期していたのに…こうもあっさりと突破されるとな」
セキュリティ担当の部下も不問にするという。カムアもレーヴァのあまりにも清々しい対応に正直に応える事にした。

「魔方陣に用いたのは墨。退魔師の技です。そして、設置したのは完全な人力…といえば宜しいかと」
三月前、”ある事件”の関係者としてレイエンの名前に当たったKが、黒服になる前のやさぐれルリカに元密偵の実直を見込んで魔方陣設置を依頼したのである。相手は魔法防御に長けた名家。しかしルリカは完全な人力で依頼を成し遂げていたのだった。(フフフ お子様には言えないような手を使いましたよー)

「ははは。そうか。魔王が入れなくとも、普通の人間が入り込めると?これは一本取られたな」
「恐れ入ります…」
「ふむ。再会の挨拶はこのくらいにして、本日の訪問の目的を聞いた方が良いな。カムア殿」
柔らかい物腰でレーヴァが話を本題へと戻したのは、Kが悲しげに視線を落としていたからだった。災厄戦時の共闘でKの人となりを知っており、戦後もその使役魔物達の安全な保護のために奔走している事も知っていたレーヴァは、Kが余程の覚悟での非公式訪問しに来た事を理解していたのだ。そしてその目的も…。

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[42]召喚術士K


=42.導かれる解=

「三月より少し前より、こちらの領土内での領民の失踪及びギルドメンバーの失踪事件がございました。こちらはご周知かと思いますが…」
「ああ、知っている。すぐに調査隊を組織したからな。"通路”が出来つつあったと報告があった」
”通路”とは魔界へと繋がる出入り口の事である。人間界と魔界は別の空間として存在しているが、その位置関係は複雑であり、たまに接点のようなものが出来る事がある。それが互いに行き来が出来る通路と化す事があるのだ。

「ええ。公式には、その通路から迷い出た魔物による事件として処理されました。ただ同時に数件の通路が出来るという現象は稀なのです。そして場所です」
「場所?」
「はい。"通路”は全て亜人達の居住区やトロル等の特殊な種族の生息地、そして神獣や霊獣が祀られている土地に出来ていました。これらの場所の共通項は、それらが知る知らずに関わらず、その起源の魔界や神界と繋がりが強い事にあります。すなわち…」
「”通路”が作りやすい場所という事か…」
今度はレーヴァが視線を落とした。

「そして調査結果が出た後、探索に長けた者に継続的にそれらの場所を調べさせたところ、神獣や霊獣、それに準ずるクラスの魔物が襲撃されていた事がわかったのです。命までは取られませんでしたが、体の一部が欠損する程の怪我をしているものもおりました」
「…何者かが、それらを奪うために襲ったという事だな…」
レーヴァの声に先程の覇気はなく、悲しげにKの発言の解を答えていく。

「可能性は二つ。一つは入手難度の高いアイテムとしての収集。こちらには貿易が盛んな商業都市がありますからね。しかし、その手のルートに詳しい者に調べて貰いましたが、襲われた霊獣や神獣に通じるものは出てきませんでした。そしてもう一つは、魔導実験です。これは魔素量を感知すれば良いわけですが…」
「なるほど… ”感知できなかったわけか”」
「はい。感知できない可能性は二つ。一つは実験をしていないから。もう一つは…」
「当家のように、強力な”魔導防御”を施しているから…だな」
導かれた解はレーヴァにとっては最悪なものだったようだ。

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[43]召喚術士K


=43.リジルの実験=

「そして本日、同じ場所に魔物の軍団による襲撃がありました。引率者は召喚術士K…僕という事になっています。」
「まさか!カムア殿ではないな。…そうかエルファスか…」
「エルファス殿とは?」
「弟リジル付きの”大魔導”(魔道士の魔法能力と戦士の素養を併せ持つレイエン家の精鋭の呼称)だ。真面目な奴でな。災厄戦時に我が父を守れなかった事をずっと悔いていた。先程の話の調査隊長に志願し、その後の治安維持にも奔走していると聞いていたのだが…」
立ち上がり謁見用の椅子越しに絵画を見上げる。そこには”レイエン家の系譜上で最強“と言われた”レーヴァの祖父の肖像画が飾られていた。

「あいつは戦後に台頭した者達を快く思っていなかったようでな。だからと言って"襲撃犯”に仕立てるといった短絡的な事をするとも思えないのだが…。しかしあいつの目を盗んで襲撃行為は出来ないだろうし、あったのであれば私に報告がないはずもない」
すなわちエルファスの犯行であるという解であった。

「現在、僕の"子"達が現地に行っているようなので、そこはわかり次第、必要な対応をして頂ければと思います。そしてここからが”今、解決しなければならない”案件となります」
ここまでは公式に対応出来る話であった。Kがリュネットにも行き先を言わず、そして非公式で訪問を強行した理由はこの案件にこそあったのだ。

「ああ そうだな。」
Kに向き直り歩み寄るレーヴァ。

「カムア殿。その案件とはリジルの事。弟の"実験”の事であろう?」
「はい…」
一度視線を落とし、そして顔を上げた時、レーヴァの顔はある決意に満ちていた。

「すまぬな。カムア殿。何も言わずに私と仕合ってくれ!」
ゆっくりと抜剣するレーヴァ。Kの前で試合用の構えを取った。

「レーヴァ様は弟想い…いや貴方は家族を領民を想う素晴らしい領主です。僕はそんな貴方が好きですよ。申し訳ありませんが、僕は仕合えません。リジル様に会わないとなりませんので…」
剣を構えるレーヴァの横を通り抜けるK。

「カムア殿!」
レーヴァの剣がカムアに向かう!それは魔術師に対する不意打ちではなかった。Kが”前衛”として体術も使える事を知っての開戦の一撃。

”ガシッ!”
その一撃を受け止めたのはKではなかった。レーヴァがその一撃を大きな構えから繰り出す一瞬に間合いを詰めた”白い服”の男が持っていた銃剣でそれを受けたのだ。

「彼が貴方の相手を務めます…」
振り返らずに言い放ち、そのまま領主の間の奥へと進むK。それを追おうとするレーヴァを対峙した男が押し返して阻止する。

「邪魔をするか… カムア殿の部下よ」
「すみませんね。何があっても"守る”って決めてまして…」
銃剣を構え直す”白服”は”決闘用の構え”をすると、レーヴァを真っ直ぐに見据えた。

「アッシュと言います。いざ尋常に!」
「…良い目だな。"守る”か… 良いだろう!お前を倒してからカムア殿を追うとしよう!」
改めてレーヴァも構える。未だ謎が多い"白服“アッシュと”四大公”魔導公”現当主レーヴァの一戦の幕が切って落とされたのだった。

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[44]召喚術士K


=44.守る理由=

”キンッ” ”パシュッ” ”ガガガ!”
剣と剣がぶつかり合う。躱し際の一閃、アッシュの銃剣術の真髄“刹那の刀身”がレーヴァを襲うも悉くが弾かれる。レーヴァの剣圧はアッシュのそれを上回るも去なされ決定打とならないでいた。

「凄いな。カムア殿は魔物だけでなく、これ程の剣士も配下におられるのか」
世辞ではない心からの感嘆の声。

「恐れ入ります。”魔導公”レーヴァ様との仕合は剣士にとっては誉れですが、主の気持ちを考えると些か興に乗り切れません」
要するにここまで2人とも本気ではないという事だった。本気になればどちらも無事では済まない。

「そうか。では少し話をしよう。アッシュ」
レーヴァが剣を下ろした。

「先程おまえは"守る"と言った。主たるカムア殿を守ると言うのだろうが、大公家を敵に回しても守りたいと言うのか?」
例えギルドで大金を積んだとしても、そんな依頼を受ける者はいないだろう。

「君は我が配下の"大魔導”にも引けを取らない。いや…私であっても全力で戦わねばならないだろう。戦闘狂でもない。…君の守る理由を聞きたいな」
剣を引いた状態だが、レーヴァの視線はアッシュを射貫いている。

(参ったな。ここまで真っ直ぐな人なのか。レーヴァ・レイエン…。)
アッシュも銃剣を下ろす。こういう男の前で"守る”と言ってしまった事を後悔しつつ。

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